ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
18-158.君は元々神官になりたかったのだろう?
「あの魔法は青の珠といって、回りのマナを集めて凝縮する魔法ですわ」
エルテの答えは、ロンボクの説明の通りだった。
「シャローム商会で言っていた、君が幼い頃大司教から教わったという……」
「そうです」
「そうか。少し、確認させてくれ。マナを集める魔法という事だけど、それは体内マナであっても集めてしまうのか?」
「はい」
「体内マナが無くなれば死ぬと聞いている。ということは、例えば、誰かの体内マナを吸い取り尽くしてしまえば、その相手を殺すことも出来るということかい?」
「……青の珠は周囲のマナを吸収しますけれど集めたマナを解放して、魔法発動に使うことが出来ます。そうすることで通常では不可能とされる究極魔法をも発動する事が出来るようになります。歴代の大司教様達が死者を甦らせるなどの奇跡を起こし得たのは、この青の珠を使ったからですわ」
そこまで言って、エルテは目を伏せた。
「けれど、ヒロさんの仰るとおりこの魔法は諸刃の剣。治癒に使えば人々を救う奇跡の魔法になりますけれど、攻撃に使えば全てを死に至らしめる悪魔の魔法となります。ですから秘奥義なのです」
エルテは空を見上げ、満天の星空に語り掛けるようにいった。
「大司教様はこう仰いました。『この魔法は使い方を間違えれば自分の身を滅ぼすものとなる。貴方が復讐心からではなく、真にラクシス家を再興する資格があるかどうかは、この魔法を正しく使えるかどうかに掛かっている』、と。大司教様は、私にこの魔法を教えた後、私が間違った方向にいかないかどうかずっと見守って下さったのです」
エルテの頬に涙がつたっていた。もし、エルテが魔法の力に溺れ、その力を思うがままに振り回していたとしたら、一体どうなっていただろうか。きっと、危険人物として討伐対象になっていたに違いない。そうならなかったのは、彼女自身の自制心の強さとそれを育んだ神官教育の賜あっての事だ。
「エルテ、君はラクシス家を再興した後、どうするんだい? 君は元々神官になりたかったのだろう?」
ヒロはエルテがシャローム商会で自分に語ってくれた身の上話を思い出しながら問いかけた。父の汚名をそそぎ、ラクシス家を再興する。それはいつも困難な道を選んできた彼女の選択だ。それをどうこうすることはできない。それはヒロ自身も十分承知していた。しかし、彼女にとって、自分の本当の気持を押し殺したまま、この先を生きていくのがいいのだろうか。そんな疑問がヒロの頭に浮かんでいた。
冒険の便宜を図る為、神官服を身に纏ったエルテだが、その姿は本職の神官の如き威厳を備えていた。エルテは貴族よりも、神官の方がずっと相応しく見える。貴族に列せられ、政争明け暮れる世界に踏み入ってしまうくらいならば、神官として生きた方が幸せのように思えた。
エルテは答えなかった。ヒロもそれ以上何も言わなかった。ただ天空の蓮月が優しい七色の光を二人に投げかけていた。
 
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