ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

16-140.十中八九本物だ

 
「ソラリス、さっきの君の口振りからすると、エルテの地図は本物だと思っていいのかな?」

 ヒロは、先程ソラリスが本気で冒険者になる気があるかと詰め寄ってきたことを指摘した。地図が偽物であれば、そんな態度をとる必要がない。

 あるいは、悪い奴なら、フォーの迷宮は危険だと脅して、ヒロに行かないようにさせてから、後でこっそり自分だけで行ってお宝を独り占めすることを考えたかもしれない。

 だが、ソラリスはそんな人ではない事をヒロは知っていた。彼女ソラリスは、口は悪いが裏表のない性格だ。思ったことはハッキリ言う事はあっても嘘はつかない。出会ってまだ幾日も経っていないが、信頼できる仲間だ。

「そうだな。十中八九本物だ。これを見てみな、ヒロ」

 ソラリスは手にした地図をテーブルに広げて、その一角を示した。ヒロから見て右下隅に、なにやら角張った文字と判子でも押したかの様な赤い印が付いている。

(署名……に、落款?)

 ヒロは反射的に元の世界の掛け軸を思い出した。別に書画に精通している訳ではないが、書には作者の名と落款が押されていることくらいは知っている。エルテの地図に書かれた文字と印はそれによく似ていた。

「この地図を書いた奴の名だ。それと、こっちだ」

 ソラリスが指を滑らせた。彼女の指先が署名の横の赤い印を指し示す。四方八方を流線型に削り取った丸の中に、何かの花弁はなびらを象った模様がある。花弁は五枚あり、寸分の狂いもなく五角形に配置されていた。どこか織田信長の家紋である『織田木瓜』を思わせる絵柄だ。

「これは紋章印といって、書いた奴が自分を証明するための印なんだ。これが押してあるのは原本だけだ。写しには紋章印は押せない決まりになってる。この紋章印がある地図なら間違いないよ。あたいが保証する」
「でも、こんな印くらい、いくらでも偽造できるんじゃないのか? 写しには紋章印を押せない決まりがあるからといって、守らない奴だっているだろう? 偽造印を押してしまえば分からないじゃないか」

 地図に押された紋章印はそれなりに精巧なものに見えたが、腕のよい匠であれば、いくらでも作れそうに思えた。ヒロはギルドから渡された自分の冒険者認識票の文字が自分の彫った筆跡を完璧にトレースしていたことを思い出した。それだけの技術があれば偽造も可能なのではないか。そんな疑問をソラリスにぶつけた。

「紋章印を嗅いでみな」

 口元にニヤリと笑みを浮かべたてソラリスが地図をヒロに手渡した。ヒロはそっと紋章印に鼻を近づける。バニラのような甘い香りの中に、僅かにツンと胡椒のような刺激臭が混ざっていた。
 

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