ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
16-136.俺とパーティを組んでくれないか
(そうだった……)
どんな仕事であれ、片手間で出来る程甘くはない。元の世界でいくつもの仕事を転々とした経験から、ヒロにもそれは分かっていた。分かっていた筈だった。いつの間に忘れてしまっただろう。いや、そうじゃない。きっと心の奥に燻っていたこの世界の住人ではないのだから、という気持ちがそうさせたのだ。まるで夢の世界の中にいるような、どこか部外者だという気持ちが、逃げ腰にさせていたのだ。
今はこれが現実だ。自分が生きている世界なのだ。この異世界でこうして生きてこられたのは偶然ではない。リムやソラリスと出逢い、協力してくれているからこそだ。自分を取り巻く状況は当たり前のことでは決してないのだ。ヒロは自分の心に残っていた甘さを自覚した。
であればこそ、今自分が出来る事に全力でぶつからなければならない。自分一人で生きている訳ではないのだ。そんな当たり前の事実を目にして、ヒロは迷いを振り払った。
「……そうだよ。君のいう通りだ。俺の考えが甘かった。いつまでも、こんな気持ちでやっていける訳がない。いや、やっていい筈がない。俺は本気で冒険者になるよ。生活基盤云々は、本当の冒険者になれてから考えればいいことだ」
ヒロの頭に、モルディアスの所で異形の魔物を倒した後、ソラリスとリムに仲間になってくれと頼んだ時の光景がよみがえっていた。あの時、二人は快く承諾してくれたが、自分が甘い気持ちのまま、安易に頼んだのは間違いだったのではないのか。二人にお願いすべき時は、本気で冒険者になると決めた今なのではないか。ヒロはそんな自分の気持ちに素直に従った。
「ソラリス、リム。改めてお願いさせて欲しい。俺とパーティを組んでくれないか」
ヒロは頭を下げた。
「へへっ。その言葉を待ってたぜ、ヒロ。お前は一級の冒険者になれるタマだ。あたいはお前のパーティに入るよ。よろしくな。ヒロ」
ソラリスの明るい声にヒロはほっとした。自分を見捨てないでいてくれた。ソラリスは、自分の生半可な気持ちをとっくに見透かしていたのだろうか。そうだと分かっていて尚、行動を共にしてくれていたのだろうか。ヒロはソラリスの懐の広さに感謝した。
ヒロの脇に座る精霊の回答も同じだった。
「何を言ってるんですか。私は初めてお会いした時から、ヒロ様の仲間ですよ」
リムは折り紙の手を止めずに答える。何を今更といわんばかりだ。リムの指先で、石板を写した羊皮紙が折られていく。いつしかそれはハートの形になっていた。
「出来ました」
リムはハートに折った写しをひっくり返し、テーブルの真ん中に置いた。
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