ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

16-133.これが例の品物です

 
「これが例の品物です」

 奥の間から戻ってきたシャロームは脇に抱えた木箱をゴトリとテーブルにおいた。黒檀の様な色合いの木で出来た長方形の箱だ。両手で抱える程の大きさがある。不思議なことにその箱には蓋も、引き出しも見当たらない。一体、どうやって開けるのか。訝るヒロを余所に、エルテが左手を伸ばし、小さく何かの呪文を唱えた。

 エルテの左手の甲にオレンジ色のハート型が浮かび上がる。パキリと箱が鳴った。

「魔法の鍵ですよ。この箱は魔法封止されているそうでしてね。エルテにしか開けられないようになっているんです」

 シャロームはそう説明した後、箱の上部を持ってそっと持ち上げる。シャロームが持った部分がちょうど蓋となっていたようだ。中から古惚けた羊皮紙が二巻き、姿を見せた。シャロームは、蓋を脇に置くと、慎重な手付きで羊皮紙を取り出した。テーブルに広げて見せる。

 テーブルの四分の一程の面積を埋めた羊皮紙には、奇妙な文様が描かれていた。正方形の羊皮紙の四隅の上二つと中央部から下に向かって模様がある。元は石板に刻んでいたからなのだろうか、線の一本一本が直線ばかりで曲線が殆どない。ヒロには甲骨文字か何かのような角張った印象を受けた。

「文字が書かれた石板というから、裏表にびっしりと書いてあるものだと思っていたんだが、全然違うな。スカスカじゃないか」
「その通りです。あと裏にも少し……」

 エルテがシャロームを見やる。その言葉を待っていたかのように、シャロームが羊皮紙を裏返す。裏面は、中央部分が同じ文字で埋められていた。表面と違って、端っこには何も記されていない。

「右下辺に私達が読める古語で『フォーの神殿』と書かれているのが、ラクシス家に代々伝えられてきた石板の写しです。もう一枚が後にフォーの迷宮で見つかった石板の写し。おそらく『フォーの神殿』の部分は、後の時代に付け加えられたものだと思いますわ。フォーの迷宮は、昔、神殿として使われていた時期があると伝えられていますから」

 エルテは綺麗な指で、羊皮紙を指し示しながら説明する。ヒロが羊皮紙の右下隅に目を落とすと、確かに小さく文字が書かれている。勿論ヒロにはそれは読めなかったが、他の文字とは明らかに字体が違う。こちらは曲線を主体とした流れるような形をしている。

 ――!

 もう一度さっきの面を見せてくれと言って、シャロームにひっくり返させる。しげしげと羊皮紙を見つめたヒロはある事に気づいた。どちらが表面なのか分からなかったが、最初にみた上辺角に刻まれている方の文字が、すぱっと斜めに切り取られたかのようになっている。文字が書かれているのは、角を頂点として、石板の一辺の五分の一くらいを長さとする正三角形の部分だけだ。元々、文字が刻まれていたのが、後で削り取られたのだろうか。
 

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