ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
13-105.そこまでです
――ザザッ。
黒衣の不可触が藪草を踏みつける。消火しようとしているのだろう。だが、黒衣の不可触の消火活動は少し遅かった。すでにバリアの中は煙で一杯だ。
黒衣の不可触を覆う円柱型の煙が、よろよろとさまよう。もうすぐだ。
――パキン。
軽い金属音と共に、黒衣の不可触に纏わりついていた煙が広がり拡散していく。バリアを解除した証拠だ。
ヒロは低い体勢からダッシュして、一気に黒衣の不可触に向かった。
黒衣の不可触はバリアを解除すると同時に数歩引いて、煙から脱出する。左右に首を振ってヒロの位置を確認しようとしたが、見つけられない。
――ザザザザッ。
藪草をかき分ける音。黒衣の不可触が音のする方を見やったが、拡散していく煙の中、音の主を捉えることはできない。気が付いた時には、ヒロが数歩の距離まで迫っていた。
「でぇぇえい!」
ヒロが低い体勢から脇に構えた木の棒を一気に逆袈裟にすりあげる。ソラリスに教わった「抜き」の剣技だ。ソラリスのそれと比べると剣速も遅く、太刀筋も甘い。およそダメージを与える程のものではなかったが、牽制にはなった。
ヒロは黒衣の不可触の向かって左脇腹を狙ったが、踏み込みが甘く届かない。それでも、懸命に伸ばした棒の先端が黒衣の不可触の仮面を僅かに捉えた。
――カツン。
乾いた音を立てて、黒衣の不可触の白い仮面が弾け飛んだ。ヒロの攻撃を避けようと体勢を崩した黒衣の不可触はそのまま後ろに倒れる。
――貰った!
返す刀で黒衣の不可触に一撃を加えようとしたヒロの手がぴたりと止まる。
仮面の下には、端正な顔立ちの若い女の顔があった。見覚えのある白いサークレットに深い紺色の髪。仮面に劣らぬ真っ白な素肌。切れ長の青い瞳。薄ピンクに染まる紅を引いていない唇。間違いない。
「エルテ!?」
黒衣の不可触の正体は、冒険者ギルドで自分を代理人として雇わないかと持ちかけてきた若い女、エルテだった。
「動くな!」
動揺する心を押さえつけながら、ヒロは、ぴたりとエルテの喉元に木の棒を突きつけた。少しでも変な動きをすると容赦しない。ヒロの目がそう語っていた。
起き上がろうとしたエルテは、動きを止め、観念したかのように目を瞑る。
「お見事! そこまでです」
ヒロを制止する声があった。
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