ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
7-046.ひとつ頼みがあるんだが
「くそっ」
ヒロは、誰にも聞こえない小声で舌打ちをすると、再び炎の球を作り、第二波、第三波と続けざまに放つ。炎球は次々に石人形に命中しては穴を穿っていく。
「一体、何時になったら終わるんだよ!」
ヒロは思わず叫んだ。本当にこれでいいのか。終わりの見えない対決にヒロは顔をしかめた。
無論、石人形に穴を空けるくらいだから、それなりの威力があることは間違いない。だが、それでも倒す事が出来なければ意味がない。石人形の動きは鈍く、攻撃されても避けることは難しいことではない。だが、ヒロの炎弾を何発もその身に受け、既に半壊と言っていい姿の石人形が自分の目の前で崩壊したらと思うとぞっとする。近づけさせてはいけない。ヒロがソラリスにいつでも逃げられる体勢を取るようにと、彼女達に顔を向けた時、座って様子を見ていたモルディアスがどっこいしょとばかり腰を上げた。
「炎線斬」
モルディアスが唱えると、彼の右手の人差し指から炎が吹き出した。しかしその炎は広がることなく、レーザー光線のように、細く長く真っ直ぐにどんどん伸びていく。その先端が石人形に触れるや否や、指をジグザグに動かした。
モルディアスの指先から伸びた炎のレーザーは指の動きにあわせて石人形を右から左、左から右へと切り刻む。結合が解除された岩は、重力に従って、斬られた線に沿って滑り落ち、バラバラになって崩れ落ちた。
(終わったのか……)
唯の岩の塊と化した石人形を呆然と眺めるヒロに向かって、モルディアスが三角帽子の下から目線を向けた。
「今、お主が使うたのが炎の魔法じゃ。初めてにしては上出来じゃ。じゃが使い方がなっとらんの。無駄が多すぎる」
使い方も何も、そもそも教えていないじゃないか、ぶっつけもいいところだ、とヒロが反論しようとしたのだか、その機先を制するかのようにモルディアスが続けた。
「儂が見せたのも同じ炎魔法じゃ」
モルディアスの説明にヒロはえっという顔をする。
「モル、あんたが使ったのは、炎が剣のようになってた。形が全然違うと思うが」
「同じじゃよ。本人がどうイメージするだけのことよの。お主は炎が球になるイメージを持った。儂は剣にした。それだけの違いじゃ」
「じゃあ……」
ヒロがなおも聞こうとするのをモルディアスは手を上げて制した。
「もうよい。あとは修練を積むだけじゃ。魔法をもっと知りたくば、大学にでもいけばよい。ウオバルにも大学はあるでの」
「……修練は大学でないと出来ないのか?」
「そんなことはない。やる気があれば何処でも出来る。じゃが魔法が制御できない内に街中で使うと大変なことになるの。そんな馬鹿はおらぬが、ここのような杜の中や闘技場で、練習をする者はたんとおる。何事も本人次第じゃ」
モルディアスは面倒臭そうに言った。確かに一人で魔法の練習をする方法もあるが、指南役も居らずに、独学で身につくものなのだろうか。かといって、大学に入学するといってもアテがある訳でもない。先程の冒険者ギルドでのロンボクの説明によると、入学には紹介状と願書を用意しないといけないという。今のヒロにはどちらもないものだ。ならば。
「モル……爺さん。ひとつ頼みがあるんだが」
ヒロは真剣な顔でモルディアスに向き合った。
「何かの」
「俺に魔法の使い方を教えてくれないか。さっきも言ったように、俺の国では魔法というものはない。修練を積めと言われても何をどうすればいいか全然分からない。手取り足取り教えてくれとは言わない。俺が練習するのを見て間違いがあれば指摘してくれるだけでいい。報酬は……」
そこまで言って、ヒロは言葉に詰まった。払える報酬など持っていないことに気づいた。冒険者の仮登録をしたとはいえ、クエストも何もしていないヒロは無一文だ。今、生活できているのはリムが持っていた金貨を借りている御蔭だ。そもそもリムは自分が魔法を使うことに反対しているのだ。リムに魔法を教わるための資金を出してくれとはとても言えない。ヒロはぐっと拳を握りしめた。
「そんなものは要らん」
「は?」
「今のままで十分生活できるでの。この歳になると、金などどうでもよくての。それよりも張りがある方が余程報酬になるかの」
「それなら、俺は何を用意すればいい。どうすれば教えて貰える?」
「そうじゃの」
モルディアスは悪戯っぽく笑った。
「では、お主が此処に来て修練している間、さっきの精霊に儂の世話をして貰おうかの。肩揉みや御酌や色々とな……」
……このエロ爺ぃ。
「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」
ヒロが振り向くと、小屋の小さな窓から顔だけを覗かせたリムが、丸い目を大きく見開いてイヤイヤをしていた。
――念話も良し悪しだな。
ヒロの心の声はリムに届いていた。果たしてリムの嫌々は、モルディアスの相手をすることに対してのものなのか、それとも、魔法を習おうとしている自分に向けられたものなのか。
ヒロは気まずさを誤魔化すかのように頭を掻いた。
 
ヒロは、誰にも聞こえない小声で舌打ちをすると、再び炎の球を作り、第二波、第三波と続けざまに放つ。炎球は次々に石人形に命中しては穴を穿っていく。
「一体、何時になったら終わるんだよ!」
ヒロは思わず叫んだ。本当にこれでいいのか。終わりの見えない対決にヒロは顔をしかめた。
無論、石人形に穴を空けるくらいだから、それなりの威力があることは間違いない。だが、それでも倒す事が出来なければ意味がない。石人形の動きは鈍く、攻撃されても避けることは難しいことではない。だが、ヒロの炎弾を何発もその身に受け、既に半壊と言っていい姿の石人形が自分の目の前で崩壊したらと思うとぞっとする。近づけさせてはいけない。ヒロがソラリスにいつでも逃げられる体勢を取るようにと、彼女達に顔を向けた時、座って様子を見ていたモルディアスがどっこいしょとばかり腰を上げた。
「炎線斬」
モルディアスが唱えると、彼の右手の人差し指から炎が吹き出した。しかしその炎は広がることなく、レーザー光線のように、細く長く真っ直ぐにどんどん伸びていく。その先端が石人形に触れるや否や、指をジグザグに動かした。
モルディアスの指先から伸びた炎のレーザーは指の動きにあわせて石人形を右から左、左から右へと切り刻む。結合が解除された岩は、重力に従って、斬られた線に沿って滑り落ち、バラバラになって崩れ落ちた。
(終わったのか……)
唯の岩の塊と化した石人形を呆然と眺めるヒロに向かって、モルディアスが三角帽子の下から目線を向けた。
「今、お主が使うたのが炎の魔法じゃ。初めてにしては上出来じゃ。じゃが使い方がなっとらんの。無駄が多すぎる」
使い方も何も、そもそも教えていないじゃないか、ぶっつけもいいところだ、とヒロが反論しようとしたのだか、その機先を制するかのようにモルディアスが続けた。
「儂が見せたのも同じ炎魔法じゃ」
モルディアスの説明にヒロはえっという顔をする。
「モル、あんたが使ったのは、炎が剣のようになってた。形が全然違うと思うが」
「同じじゃよ。本人がどうイメージするだけのことよの。お主は炎が球になるイメージを持った。儂は剣にした。それだけの違いじゃ」
「じゃあ……」
ヒロがなおも聞こうとするのをモルディアスは手を上げて制した。
「もうよい。あとは修練を積むだけじゃ。魔法をもっと知りたくば、大学にでもいけばよい。ウオバルにも大学はあるでの」
「……修練は大学でないと出来ないのか?」
「そんなことはない。やる気があれば何処でも出来る。じゃが魔法が制御できない内に街中で使うと大変なことになるの。そんな馬鹿はおらぬが、ここのような杜の中や闘技場で、練習をする者はたんとおる。何事も本人次第じゃ」
モルディアスは面倒臭そうに言った。確かに一人で魔法の練習をする方法もあるが、指南役も居らずに、独学で身につくものなのだろうか。かといって、大学に入学するといってもアテがある訳でもない。先程の冒険者ギルドでのロンボクの説明によると、入学には紹介状と願書を用意しないといけないという。今のヒロにはどちらもないものだ。ならば。
「モル……爺さん。ひとつ頼みがあるんだが」
ヒロは真剣な顔でモルディアスに向き合った。
「何かの」
「俺に魔法の使い方を教えてくれないか。さっきも言ったように、俺の国では魔法というものはない。修練を積めと言われても何をどうすればいいか全然分からない。手取り足取り教えてくれとは言わない。俺が練習するのを見て間違いがあれば指摘してくれるだけでいい。報酬は……」
そこまで言って、ヒロは言葉に詰まった。払える報酬など持っていないことに気づいた。冒険者の仮登録をしたとはいえ、クエストも何もしていないヒロは無一文だ。今、生活できているのはリムが持っていた金貨を借りている御蔭だ。そもそもリムは自分が魔法を使うことに反対しているのだ。リムに魔法を教わるための資金を出してくれとはとても言えない。ヒロはぐっと拳を握りしめた。
「そんなものは要らん」
「は?」
「今のままで十分生活できるでの。この歳になると、金などどうでもよくての。それよりも張りがある方が余程報酬になるかの」
「それなら、俺は何を用意すればいい。どうすれば教えて貰える?」
「そうじゃの」
モルディアスは悪戯っぽく笑った。
「では、お主が此処に来て修練している間、さっきの精霊に儂の世話をして貰おうかの。肩揉みや御酌や色々とな……」
……このエロ爺ぃ。
「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」
ヒロが振り向くと、小屋の小さな窓から顔だけを覗かせたリムが、丸い目を大きく見開いてイヤイヤをしていた。
――念話も良し悪しだな。
ヒロの心の声はリムに届いていた。果たしてリムの嫌々は、モルディアスの相手をすることに対してのものなのか、それとも、魔法を習おうとしている自分に向けられたものなのか。
ヒロは気まずさを誤魔化すかのように頭を掻いた。
 
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