宇宙大殺人事件

チョーカー

対話

 すぐさま乗客を起こしにかかる。
 当然ながら、全員を同時というわけにはいかない。
 まずは代表者であるカエサル氏を起こし、状況を報告。
 予想外のアクシデントに混乱している彼に、心中ご察しであるは、こちらとしては、迅速に正気に戻ってもらいたい。
 彼には一杯の水。そして、同量のアルコールを振舞った。
 彼には役割がある。乗客を起こすべき順番を決めて貰いたかったのだ。
 同時に起こして、彼のように混乱するだけなら良いが、錯乱して暴れて貰っては困る。
 だから、できるだけ冷静さを保てる環境づくりが必要なのだ。

 そして、起こした順番とおりに説明が行われていった。
 説明を行うのはトーマスとジェファソンだった。
 本艦の責任者であり、キャプテンである僕は同席しなかった。
 一部では職務放棄と思われる行為かもしれないが、僕は別室にて、乗客の様子をモニター越しに確認していたのだ。
 それぞれ、1人1人が違う反応。
 泣いたり、怒鳴ったり……無反応だったり……

 「さて、どう思う?」と僕は聞いた。
 言葉を投げ掛けた相手はA12だ。僕はA12と2人きりでいた。
 「……私にはわかりません」と彼は答えた。
 「そうか……」とだけ、僕は返した。

 そして、時間は経過した。


 「キャプテン行くのですか?」
 そう僕に声をかけたのはトーマスだった。
 「行く?この艦の中、どこに行って思うんだ?」
 そうやって、おどけて見せるもトーマスの表情は変わらなかった。
 僕は、ため息をついてみせる。
 「勝率は?」と聞かれ、僕は――――
 「0%だ」と素直に答えた。

 「物的証拠って物がない。いや、データ上にある数字の羅列ならあるが、地球に戻ってからじゃないと有効とは言えないだろ」
 「それでも、犯人と対峙する……と?」
 「――――フッ」と僕は思わず鼻で笑ってしまった。
 「対峙じゃないよ。これは……そう、対話だな。業務上の対話に過ぎない」

 それを聞いて、トーマスは何も言わなかった。いや最後に一言だけ――――
 「……御武運を」と時代錯誤的な言葉と共に頭を下げていた。


 そして、僕は犯人と対峙する。
 証拠という武器もない無手の状態で……

 そいつを呼び出した場所は、艦内の一室。
 かつてのクルーが使用していたプライベートルームだったが、今はがらんどうであり、物のない空間がただただ、広がっている。

 「どういったご用件でしょうか?キャプテン」とソイツは言う。
 まず、僕は笑いながら「まずは座りましょうか」と、事前に用意してきたパイプ椅子を差し出す。
 ソイツにとって、旧時代的な椅子が珍しいものだっただろうか?
 彼はじーと見つめていたが、やがては受け取り、見よう見まねで椅子を整え座った。

 「では改めて言う。今回のウキョウ氏殺害事件。僕は君が犯人だと思っている」

 僕は目の前の人物。

 A12に向けて言った。 


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