学校一のオタクは死神でした。

ノベルバユーザー203842

第70話 chimera

*第70話 chimera*



「デスサイズ…」

青い炎が手のひらから吹き出し、青い炎に包まれたデスサイズが握られる。それをバトンの様に回し、最後に振り下ろすと、青い炎は掻き消えた。

マーメイドは三股の槍を握り、構える。

そして、互いが意を決した瞬間。
爆風と共にぶつかり合う。

辺りに槍と鎌がぶつかる音が響くが、途轍もないスピードにより音がほとんど重なって聞こえる。
槍と鎌がぶつかる度に水面が波動を生み出し、少しずつ新とマーメイドの足元が凹み、ドーム型の空間を形成していく。
互いの武器を振るう速度は落ちることなく打ち込まれ、より一層、激しさを増していく。

(やっぱり、“神速型”と“神速型”じゃあ簡単には押し切れないよな…)

ガッ!!と新がセイレーンの槍を勢いよく弾き、その隙に人差し指を胸に突っ込み、命へと触れる。

「“chimeraキメラ”」

そう呟いた瞬間、新の命が淡く光る。
それが終わる頃、体制を整えたマーメイドが再び槍を振るう。

ガコッ!!!!!!と鈍い音と共に、マーメイドの槍が砕け、吹き飛ぶ。それと同時に新の姿が消え、マーメイドの体が水面に落ちることなく、何十、何百と、縦横無尽に吹き飛ぶ。
最後にやっと、視覚できる速度で姿を現した新は、一瞬にして溜め込まれた鎌のしなりを利用し、オゾン層付近まで、“く”の字に曲がったマーメイドを打ち上げる。

空に打ち上がり、一瞬マーメイドの体が失速し、一秒と無い時間停止した瞬間、ぶしゃっと血の花が咲く。それが引き金だったかのように、落下してゆく。

落下途中、マーメイドが咆哮し、何十ものgateを開き、大量のクラーケンを召喚する。

クラーケンの落下速度が上がり続け、弾丸ののように新に降り注ぐ。

「“soulソウル eaterイーター”」

新がそう呟いた瞬間、大量の魔法陣が新周辺に出現し、中から青い炎のほむらの悪魔。
たましい喰らい”__“魂喰こんしょく”_が姿を現した。

“魂喰”は、命を喰らう“命喰めいしょく”とは違い、命の造形物、魂の炎を喰らう焔の悪魔で、命喰より食欲が強く、バーサーカーの如く暴れ回る。
以前の新は魂喰を操ることは出来なかったが、今の新であれば十分な操ることが出来るであろう。

「行け」

瞬間、上空のクラーケンの目の間に魂喰が消える様に移動し、クラーケンの肉に“喰らいつく”。クラーケンは暴れ、牙を立てる葵焔の悪魔を引き離そうとするが、圧倒的な力の差で引き離すことが出来ず、魂喰はクラーケンの体に穴を開け、体内に存在する“命の炎”、魂を貪り食う。
グチャグチャと肉を掻き回す音が数秒聞こえた後、クラーケンは静かに消滅し、代わりに魂喰が元いた位置に飛び降りる。

そして、次の獲物クラーケンに狙いをつけると、それをそれぞれが争うように喰らう喰らう喰らう…

あっという間に食い尽くされた。

しかし、セイレーンは未だ遥か上空。
翼を翻し、落下速度を弱めそこに停滞する。

すると、セイレーンは大きく息を吸う。その際、胸部が風船のように膨れ上がる。

※ここで言う胸部は体内に存在する空気袋のようなセイレーンが持つ特殊な機関である。その為、バストサイズは変化はしません。いやらしい事を想像した貴方
、破廉恥極まりない!! by 神

そして、セイレーンが口を開いた瞬間、地が割れるような衝撃波と歌声が響き渡る。
美しい歌声だが、大気が震え、付近の空間自体が揺れるようだった。

その衝撃波は、セイレーンから離れるにつれ拡大、強化され、新へと襲いかかる。

すると、新はセイレーンを“真似”するかのように大きく息を吸い、“瞬間的”に全て咆哮に変えた。
キィイイインッッ!!!!と耳に響くその咆哮は衝撃波となり、セイレーンの歌声を相殺する。
その行動にギョッとするセイレーンが、ふと影の中に入る。セイレーンが上を見上げると、そこには自分の上にだけバチバチと雷をチラつかせる雨雲がそあった。

その瞬間を見計らったかのように、新がパチンッッ!!と手を叩いた。瞬間、雷光が轟く。セイレーンの悲鳴は新や他の神の耳にも届くこと無く、その雷鳴によって全て掻き消された。
たった一発の雷だったとは言え、命中したセイレーンにとっては大打撃であったが、それでもかろうじて飛行するセイレーンは瞬時に再生が始まる。
セイレーンの体が淡く光った後、身体中の傷は瞬時に癒え、再び速度を上げ新へと突進する。

しかし、その突進は途中で妨げられる。腹に突き刺さる、“甲虫”によって。
周りを見渡すとそこには無数の甲虫が飛行し、羽音を立てていた。
煩わしそうに、セイレーンは甲虫を引き抜くと、再び咆哮し甲虫を弾き飛ばす。そして瞬時に速度を上げる。


すると、何処からか角笛の音が聞こえた。


武神流射術ぶしんりゅうしゃじゅつ___ 画竜点睛がりょうてんせい___」


視界の隅が強く光り、セイレーンはその光に呑み込まれる。
爆音と共に、セイレーンの体は無残にも腹から内臓や血を吐き出しながら二手に散る。
二つの体をつなぐのは吐き出された腸1本のみ。
すぐさま再生が始まるが、復活する前に海面に当たれば死は免れないだろう。

なぜなら、セイレーンの魔力はもうほとんど残っていなかったからだ。
大量の化身の召喚に体の再生。今現在、体を繋ぎ合わせることが出来るかも怪しい状態だ。

徐々に落下速度が上がり、焦りが生じる。残り時間は少ない。間に合え、間に合え、とその表情から読み取れるほどであった。

しかし、セイレーンの体はそのまま落下することなく新によって抱き止められる。その頃には、体は繋がりかけていた。
セイレーンは悪足掻きかもしれないが、新の首筋目掛けて牙をむく。ところが、牙はすんなりと新の首筋へ刺さった。それどころか、新はセイレーンの体を引き寄せ、ギュッと抱き締めた。

「ごめん…ごめん…」

呻くように、新がそう呟く。

「あと少しだから、頑張ってくれ…」

新がそう言うと、僅かにセイレーンの口が緩んだ気がした。

「______“coercion analyze”…」

そっとその魔法を口にすると、セイレーンの体が淡く光り、足先から光の粒子へと変わっていく。やがて体はその形を維持できなくなり崩壊する。

「“operationオペレーション”!!」

そう呟くと、新の両手が淡く光る。そして、空を舞う光の粒子へと視線を向けると、その粒子に触れる。すると、粒子に取り付く魔法が砕け破壊される。次々と処置をし全て破壊し、全ての粒子を純物質へと変える。

__operation__即ち手術の事だ。新は視界に映る粒子の魔力を見分け、セイレーン以外の魔法を分子単位で見つけ出し破壊オペする。それを繰り返す事で、セイレーンの体からかけられた魔法を“強制的に解除する”。大掛かりだが、この方法であれば1人でも出来ると新は確信していた。



なぜなら、自分は“命の管理人”なのだから…



全て切除し終えた後、次の魔法をかける。

compulsionコムポーション recoveryリカバリー

光の粒子となったセイレーンの体を再び再生させる。
光の粒子が新の視線の先に集まり渦を巻き再生が始まる。
最初は体の主体となる命の炎__魂__、そこから広がるようにして体が徐々に再生する。
そして、数秒足らずで完全に再生が完了し、ゆっくりと重力が生まれ、新がその体を抱きとめる。
ピクリと指先が動き、瞼が動く。

「…ココは?」

「大丈夫そうだな。」

良かったと、ほっと息をつく。

「?…死神様の顔が目の前にあるです…?」

「ハロー?グッドモーニング?あ、グッドイブニングか?」

「……?」

セイレーンはぺたぺたと新の顔を手のひらで触れる。
すると、少し首を傾げる。

「随分とリアルな夢なのです。匂いも感触も死神様そっくりなのです。」

「いやいやいや、夢じゃないんですが…」

「?」

くてんっと首を傾げたまま、今度は自分の頬へと手を伸ばし、両手で左右の頬を摘み引っ張る。
すると、目を丸くし、「痛いですぅ!?」とすぐさま手を離す。涙目になりながら頬を摩ると、唐突にピクリと固まる。その視線は新の顔へと向けられる。
新の顔に自分の顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐ。そして再び新の顔を触る。少し眉を顰める。最後に新の頬を“舌で舐めた”。
新はゾワっとした感覚にビクッと跳ね上がり瞬時にセイレーンの脳天に拳を叩き込む。

「あ痛っ!?!?」

「何すんじゃボケェ!!」

「本物か確かめようとしたですぅ…う?この味…本当に本当に死神様なのですぅ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

「いや、なんで確かめるための最終手段が味覚なんだよ!?ってか、なんで味で分かるんだよ!?」

「…?死神様の汗は少し寒気がするです。だからたまに、暑い時は気づかれないように舐めているですっ!(ボコッッ!!)あ痛ぁっ!?」

「何が気づかれないように舐めているですっだど阿呆!!ってか俺の汗って舐めると寒気するの!?」

「殺気風味です!!」

「そんな風味いらねぇよ!!」

「味覚だけで肝試し気分ですっ!!」

「素直におばけ屋敷か心霊スポットでも行けよ!!」

「無料ですっ!!」

「確かにそうでごぜえますねぇ!!その代わり俺の何かがごっそり奪われているのですが!?」

「汗のことです?」

「脱水症状かっ!?え?そんなに舐めてんの!?そんな大量に!?」

「違うですよ?死神様の体にタッチして手についた汗を舐めるのです!!」

「oh間接的〜、じゃねぇよ!!ってか暑いなら冷たい飲み物でも飲めばいいだろ!?」

「なかなか手に入らない身分です!!」

「堂々と言うなよ!!素直に頼めばそのくらい作るから!!」

「お金です?」

「それは犯罪だ!!飲み物だよ!!」

「やったですっ!!」

「素直に喜ぶなぁあ!!!!!!」

その夜、無人島周辺に存在する島々で魔物の声が聞こえると警察に通報が相次いだそうだ…。
そして、固くても柔らかくてもなんだかんだ、新は新たであった。



* * *



「どうやら無事終わったようだな。」

「そうみたいでござる。」

カチャリと武神は自分の背丈を超える巨大な“弓”を下ろす。
弓の握りの位置の隣に設置してある装置からカードを引き抜くと、弓はコシューッ!!と煙を吐きながらガチャガチャと形を変え、“バイク型の機体”に変形した。

「それにしても、凝った作りですね…」

「うむ、魔法で再現できるか不安だったが…上手くいってよかったと言ったところかの。威力も申し分ないしの。」

「流石、師匠でござる!!尊敬するでござるっ!!」

「ハッハッハー、そう言う兜も良い時に化身を当てたのぉ。おかげで、狙いやすかったわい。」

「それほどでもないでござるよっ!!」

「いや、上出来だ。よくやった。」

「褒められたでごさる〜!!」

機嫌良さそうに、仮面男はカチャリとベルトを外し、武装を解除した。その様子を見ていた希里、ゼウス、アラクネ、ビン、桜姬の表情はかなりイタイモノを見る目であった。
そんなことには気づかない脱仮面姿の武神は鼻歌まで歌ってしまう勢いの超ご機嫌である。
それを見ている兜も兜で、「凄いでござるっ!!」と尊敬の眼差しを向けるため、武神が余計調子に乗り高笑いする。
まったく、この仮面おっさんのどこを尊敬しているのだろうか…?
まぁ、確かに武神の弓術の腕に驚かされたのは事実だ。刀一筋だと思われた武神がまさか武道系なら全てこなすことが出来ると聞いた時は本当に驚いた。
大剣しか振れない希里からしてみれば、少し羨ましいと思ってしまうほどだった。

とは言え、一件落着したのは良いことだ。素直に喜びたいのだが…

「あー、うぅぅぅ〜〜っっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「………。」

姉上の現状がカオスだった。
視線は、希里の足元…
ただ照れているだけなのだが、こんな状態の桜姬を見たのは初めてである。顔は耳まで真っ赤、恥ずかしさのあまりに両手で表情を隠し、寝転がりながら転がっている…
先程からぐるぐると海岸を転げ回ること島を“約5周”…
服や髪は砂で汚れているが、そんなのお構い無しと言った状況である。

視線を変えて、視界右端の方を見れば…

「お疲れ様ダーリン♡」

「おつはれさはっ♪」

「ありがと☆ハニーもお疲れ☆(よしよし)」

「やったっ!!ダーリンに褒められたぁ♡♡♡」

「くーもっ!くーもっ!」

「はいはい☆そら、よしよし☆☆」

「(むっふーー♪)」

いつの間にか戻ってきた雷人が風吹と空羽の二人とイチャついていた。

「私もまだして欲しいな~(チラッ)」

「も~、ハニーは甘えん坊さんだな〜☆☆(ギュッ)」

「きゃーっ♡♡♡♡」

イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ
キャッキャウフフ…

「………。」←希里

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リア充爆発しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



(鬼がキレた…)←ビン

(僕だって勇気さえあれば、あんなことやこんなことぉお!!!!あぁあ!!羨ましい!!クソっ!!爆発しろぉお!!(ダンダンダンッッ!!←地団駄を踏む音)ぁああああ!!!!!!僕だって好きなんだよ!!“ビビちゃん”が好きなんだよぉお!!!!!!!!!!!!!!なんで毎年毎年勇気が出ないんだ!!この意気地無し!!木偶の坊!!いざ告白しようとしても話題がそれちゃうし!!そらしちゃうし!!だって恥ずかしいしフラれるの怖いんだもん!!でも好きなんだぁ!!大好きなんだ!!!世界一愛しているんだ!!今年こそは!!今年こそは!!!!)

「……………oh..…chaos…」←ビン

「ハッハッハー、みんな元気がいいね〜。」←ゼウス

「私の出番がなかったです…」←アラクネ

「私なんて置いてきぼりだよ…」←邪神

「……あんたらもか。」←ビン

海上も島上もどんちゃん騒ぎ。されど、これこそ神々の日常。
斯くして、セイレーンとの一戦は夜明けと共に終わりを告げたのであった。

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