日常日記

ノベルバユーザー173744

泣き虫は弱虫の始まり

 今日は外科の予約があったので向かう。
 すると、この間から違和感のある腰と足首を診てもらうと、足首はまた捻挫で、腰は足をかばって、痛めていると言われてショック……。
 治療をしてもらい、昨日気絶したこともあり、一日早く心療内科に行くことにした。



 いつも思うのは、病院に向かう時間帯は高校生の通学帰宅に合ってしまう。
 本当に辛い時間帯である。
 昔も自分は学生だったと思うのだが、徒歩通学と趣味が読書だったので図書館に行くか、本屋に行くくらいだった。
 電車で足を開いて、隣にいる相手にLINEをしたり、Instagramに投稿したい場所の話をしている。
 別の席の女の子は参考書を読んでいる。
 その違いに感心すると共に、時間の大切さを知っているのだと思った。



 電車を降りて歩く。
 最近は一気に冷えて、城山や公園の紅葉が美しい。
 黄葉の銀杏並木の下には、雨が降った後でキラキラとはね返る光が綺麗だ。
 でも、足の悪い自分には滑って転ぶ危険は犯せないと、しばらく魅入って道を逸れた。

 堀には好奇心旺盛な兄弟白鳥が泳いでいる。
 人を見るとよってくるのだ。
 でも、攻撃はしない。
 元々この堀生まれで、この街育ち。
 周囲に来るのは自分たちを可愛がってくれる人たちだと理解しているらしい。
 ついでにパンをくれるか、お米をくれるかと並走して泳ぐ。
 一応、公園を管理する職員さんが餌を定期的に与えるのだが、コイにアカミミガメが大量に生息しており、足りないらしい。

 ちなみに、私はパンなどは持ってきていなかったので、白鳥を見ていた。
 職員の人が餌を与え始めた。
 コイがパクパクと口を開ける。
 その間にバタバタと割り込むように、白鳥が餌箱に頭を突っ込んでいた。



 ゆっくりと病院まで向かうと、到着した途端に、髪の毛が雨で濡れたようにぼたぼたと水が滴る。
 雨水ならいいが、汗である。

 心を治す為病院に通うのに、兄嫁にあったらどうしよう。
 あぁ、もう、病院を変えたほうがいいのかも……でも、変えても、勧めてもらった名医のいる病院は、メールを数分おきにかけてきた……別れた友人の家の近所。
 もしくは心療内科ではなく、もっと悪化した場合は精神科に行くことになると、彼女がかかっていた病院ばかり……でも、いつになったら良くなるのか……。

 汗を拭き、受付に行くと、あまり人がいなかった。
 会いたくない相手の兄嫁もいなかった。
 崩れ落ちそうになりながら、何とか受付を済ませ、ヨロヨロと人のいない奥の第二待合室に向かう。
 もし、そこに人がいた場合は、頼んで点滴室で休ませてもらうつもりだった。
 待合室には誰もおらず、ストーンと座り込み、ぐったりと膝に頭を乗せてその耳を両手で押さえた。

 気持ちが悪い……。
 外にいた方がまだマシだった。
 ベッドで休ませて貰おうか……考えつつ、バクバクと心臓が動く音を確認しながら、落ち着け……と祈る。
 頭も痛むが、それ以上に心臓がうるさい。
 あぁ、何でこうなったんだろう……。
 泣きそうになったが、我慢して、診察を待つ。
 名前を呼ばれ、診察室に入ると、いつになく落ち着かない……視線がフラフラし、泣きそうな私に気がついた先生が、

「何かありましたか?」

と聴いてくれた。
 いつもなら忙しいのだが、ひどく落ち着かない、オドオドしている私に何かあったのだと分かったらしい。

「……昨日……兄が、電話をい、妹に……さ、三年以上ぶりにかけて……ちょうど、妹の隣にいた私が、怖くなって、一瞬意識がなくなって……」
「お兄さんと距離を置いていると言っていましたね」
「兄嫁もここに来ていたら、怖くて……今日も汗が噴き出て……」
「定期的に来ている、玻璃さんと違って、お姉さんは不定期ですよ。それに、お姉さんと会わないように、職員にも伝えておきますから、玻璃さんはきちんと薬を飲んで普段通り生活できるようになりましょう」
「はい……最近……眠れなくて……」
「あまり考え込み過ぎないことですよ」

 そう言葉をかけてもらい、診察室を出た。



 薬をもらうともう5時前である。
 家に帰ろうかと思ったが、実家に置いてある中山星香先生や川原泉先生、遠藤淑子先生、ひかわきょうこ先生の初期の文庫版コミックスを約60冊早めに引き取りに行かなければと、覚悟を決めて向かった。

が、誰もいなかった。
 ちなみに、私の部屋以外はほぼ綺麗になっていた。
 でも、文庫はリュックに詰めたが、寺社仏閣関連の本をほとんど引き取れず、唇を噛む。
 ほぼ図鑑である。
 自分の家に置けない。
 それだけで歯がゆい。
 しかし、持って帰れるものを詰めて詰めて準備を終えた時に、

「ただ今〜」

と言うのんきな母の声と、近づいて来る気ぜわしい足音に顔がひきつる。
 必死に受け止めるポーズを作るが、小型犬の癖に、パワフリャーなジャックラッセルのモジャはこちらを押し倒し、ベロチューをかましてくれる。
 今年9歳のおっさん犬は元気である。
 一応血統書付きで、ティアローズと言う名前まで持っているのに、『薔薇の涙』とは似ても似つかない破壊魔神である。
 パタパタと尻尾をはち切れんばかりに振り、突撃を繰り返す。

「どわぁぁ……やめてぇぇ」
「あら、姉ちゃんに遊んでもらって良かったわねぇ」
「か、母さん……ジャガイモと梅干し……おすそ分け。食べきれなくて腐ると勿体無いし……こらぁ!突撃やめーい!」

 落ち着きのないわんこを抱きしめ、

「うほー。もじゃ悪化!お前さんはジャックラッセルじゃないやろ〜?シュナウザーやろ〜?眉毛あるし。髭まで。張飛って呼ぶぞ〜」

と、本人が納得するまで遊ぶ。
 すると、珍しく母が、

「あのねぇ……姉ちゃん」
「うん?なぁに?」

わんこは餌をもらい、食べ始めている。

「お母さん、病院に行ったんやけど……」
「内科?」
「ううん、外科」
「外科?」
「うん、背中と腰が痛くてね、レントゲンを撮ったら、骨が潰れとって……えっと、えっと……何とか間板ヘ……何だっけ?」
「もしかして、椎間板ヘルニア……?」
「そう、それ!」

 自分の病名を覚えてないのか……頭痛薬を飲んで置けばよかったとこめかみを抑える。

 椎間板ヘルニアの症状の1つが坐骨神経痛である。
 つまり、私も椎間板ヘルニアをすでに二十代で発症しているのである。
 親族も何人か発症しているが、私は極端に若かったらしい。
 今は母が、痛い痛いと言いながら娘のいなくなった家で家事をしている。
 可哀想だなと思うのと同時に、まだ時々痛み出す腰とは私も一生付き合うしかないなと思った。



 今日は、疲れたのでいつもなら歩くのだが家の近くまで通る電車で帰った。

 持って帰ったものを片付けていると、ひらっと一枚写真が落ちた。
 今実家にいるやんちゃ坊主ではなく、14年前に老衰で逝った愛犬の写真だった。
 逝った頃は、18歳を超え、眼は白内障で写真に撮ると緑色に映り、元々痩せていた体から筋肉が落ち、淡い茶色の毛並みが銀色になっていた。
 でも、まだ茶色が濃いので、10歳頃の写真だろうか……。
 痩せているのだが食べても太らない子で、足が長かった。
 雑種の子だが、私の今まで見た中で一番美形な子だと思っていた。

 瞳が潤む。
 ぼたぼたとと涙が落ちた。

「会いたい……」

 鼻をすすり、呟く。

「もう、14年も経つのに、ごめんね。星……会いたい。解放してあげたいのに……本当はもっと幸せなところに生まれ変わっていて欲しいのに……卑怯だね……ごめんね……」

 もう解放してあげるべきだと解っていても、依存する自分が情けないと思った。

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