絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百四十二話 リーダー決定戦(前編)
「すぐに完成する、ってねえ……。あれほどのデスマーチ経験したら普通はもう逃げ出したいって思うもんよ? あんたどんだけワーカーホリックなのよ。過労死でもしたら、大変よ?」
「大変って、それはあなたにとって大変なんじゃないの? あなたが連日シミュレートマシンに乗ることが出来るのはシミュレートセンターのトップにいる私が許可するからであって、私がその地位から外れたらそう簡単に許可は下りないからね」
ばれたか、と言いながらマーズは舌を出す。
いや、ばれたかってどういうことだよ……崇人はそうツッコミを入れながら、メリアに訊ねる。
「そういえば、メリア。どうやらもう準備が出来ているみたいなんだが……あんまりあっちを待たせるわけにもいかないんじゃないか?」
「そんなこと言うけどね、彼女たちは初めてこれに乗るだろ? だから登録しておく必要があるんだ」
そう言って、メリアはワークステーションの画面を確認する。
「おっ、終わったな。よし、それじゃ今から……ちょっと遅くなってしまったが模擬戦を開始する。準備はいいな?」
『はい。大丈夫です』
『……』
元気に答えるシルヴィアと対照的に、ただ頷くだけのファルバート。それは昨日まで見た彼とは違う、さらに落ち着いたものだったが、それだけではない。それ以外にも何か、強いオーラを感じる。これが――『本気』か。崇人はそんなことを感じるのだった。
「それでは――はじめ!」
刹那。
ファルバートの乗るリリーファーと、シルヴィアの乗るリリーファーがそれぞれ仮想空間に放たれ、模擬戦が開始された。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
二人の戦いは、崇人たちが思った以上に平行線をたどっていた。最初はファルバートが猛攻を繰り広げていたのだが、思った以上にシルヴィアが抵抗を続けていたのだ。
だが、抵抗をするだけで倒せるわけではない。もちろん、それなりに頑張る必要だって存在するわけだ。
「……しかしまあ、ここまで拮抗していると面白みもないねえ」
メリアはそう言ってペンをくるくるとまわす。
「あ、そうだ。ねえ、マーズ知ってる? 北の大陸ペステリカ王国が何かまた新しいロストテクノロジーを探すために遺跡とかそういうの発掘するんだって」
「ロストテクノロジーを発掘? くだらない、いつまで昔のことを引っ張っているんだか……」
メリアの言葉をマーズは一蹴する。
「昔……ってどういうことだ? 昔はそれほど科学が発展した世界があった、とでも言いたいのか?」
「タカトはあんまり世界の歴史を知らないかもしれないけど……この世界はかつて、超科学がある科学文明だった。それこそこの世界にある科学技術の大半はその科学文明のロストテクノロジーから成るものだよ。もちろんオリジナルだって存在するが……それでも大半がそうだ」
「ロストテクノロジー……その世界はすごい発展していたってことか」
「そうだよ、一番の例がこれ」
そう言って彼女はスマートフォンを取り出す。
それを見て崇人は首を傾げる。
「……スマートフォン?」
「それもそうだけど、これ」
マーズは待受画面に写っているあるものを指差す。それは、ほかでもないリリーファーだった。
「リリーファーも……なのか?」
「世界最初のリリーファー、アメツチは遺跡から発掘されたものらしいよ。つまり過去の人たちが、どういう理由なのかは知らないけれどアメツチを埋めたってこと。それからもこの世界の昔の姿が、どれほどの世界だったのかが想像つくでしょう?」
リリーファーのような巨大ロボットを作ることのできる世界。
それはどういう世界だったのか。崇人にも想像ができなかった。だって彼がもともといた世界だって巨大ロボットは夢のまた夢と言われる世界だったからだ。寧ろ災害用にコンパクトなそれが求められていた世界。巨大ロボットなんてそれこそアニメーションや漫画、小説の中の話だった。
だが、今崇人はこの巨大ロボットを動かすことができる世界、巨大ロボットが目の前にある世界へとやってきている。別に彼はロボットが極端に好きというわけではないが、男の子ならば一度はそう思い描く夢でもあるだろう。
「ロストテクノロジー……どれくらいの時間が経っているか知らないが、それくらい昔にあった文明がこれほどまでの巨大ロボットを作ることができて、なぜ滅んでしまったんだろうか?」
「世界の科学者の疑問はそこ。今歴史学者がずーっと考えている議題のひとつ。これほどまでのロストテクノロジーを遺した人類はいったいどこへ行ってしまったのか、ということ。滅んだといっても、それはないと思うのよ。だって、そうだとしたら私たちは何者? って話になる。どこからやってきた人間になるのか、解らないでしょう? だから定説として私たちがロストテクノロジーを作り上げた人間の子孫であることを前提条件としているのよ」
「前提条件……ねえ。なんというかその条件がネックだよね。どうしてそういう条件が成り立つのか、って話」
「だってそうじゃないと――」
「俺の読んだSF小説の話なんだが」
ヴィエンスが人差し指を突き出し、言う。
「過去の人類は冷凍保存されてしまって、冷凍保存に漏れた人類は細々と生き残った……なんてことがある。あくまでもその場合だとやっぱり人類としては血筋が続いているのかもしれないが、冷凍保存された側とそれをしていない人間を考えるとあまりにも親等が離れて……親族というよりもはや親戚、いいやもしかしたらそれよりももっと違う扱いになるかもしれない」
「そんなことが可能だと?」
「巨大ロボットを作っちまうほどの科学力だ。それくらいあっても何ら不思議じゃない」
その頃、模擬戦を行っているシルヴィアとファルバートは未だ拮抗状態が続いていた。どちらかが攻撃をしてそれが受け流す、またどちらかが攻撃してそれを受け流す……そんなことを繰り返し続けている。それはただ両方の体力を無碍に失っていくだけであるということを二人共理解していた。
それでも、決定打を導くことが出来ない。倒すことが出来ないのだ。それは二人が同等の実力を持っているからだろうか?
「違う……違う……こんなのじゃないはずだ……」
ファルバートはコックピットで独りごちっていた。しかしそれは誰かに呼びかけている声でもあった。
ファルバートの話は続く。
「おい……なんでここまで拮抗状態にあるんだよ……。僕は、力を手に入れたはずだろう……?」
その声を聞いて、どこからか白いワンピースの少女が姿を現した。
彼女は欠伸をひとつして、
「そりゃ相手が強いかあなたの補正値限界まで引き上げても弱かった。ただそれだけのことじゃないの?」
「もっと、引き上げてくれよ」
「ダメ」
白いワンピースの少女はあっさりとそれを否定した。
踵を返し、彼の操縦席の後ろに座る。
「そんなことしたらあなたが『人間』に戻れなくなってしまう。まあ、今も半分そういうもんなんだけど……。そしたらこれから非常につまらなくなるよ? リーダーの権利は手に入れても人語が喋れないんじゃ、意味ないでしょう?」
即ち、これ以上行うと精神が破綻する可能性がある――少女はそう言っているのだ。
さすがにファルバートもそれを聞いて躊躇った。それはさすがにまずい。そんなことをしてしまえばドーピングが疑われ、彼だけでなくザイデル家全体に泥を塗ることにもなるからだ。
「でも……方法がないわけじゃない」
少女は悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「何だ?」
すぐにファルバートは訊ねた。
「簡単よ。同調を強めるの。リリーファー……今あなたが操縦しているそれは電子的に表現された『0』と『1』の羅列に過ぎない。けれど、同調は強められる。それを利用してリンクするのよ。あなた自身の精神と、リリーファーを。それを行えばより体感的にリリーファーを操縦できるから、少なくともラグは無くなると思うけど」
それを聞いて、彼は考える。
同調。それはまったく考えていなかったことだ。同調して、リリーファーと心を一つにする。彼は考えた。これからどうせ起動従士となって戦場に駆り出されることになるのだ。そういう機能はフル活用していったほうがいい、と。
だから、彼は訊ねた。
「その方法を教えてくれ」
それを聞いた少女は、ファルバートの隣に移動する。ほのかに花の香りがする、それくらいの距離にまで彼女は近づく。
「大変って、それはあなたにとって大変なんじゃないの? あなたが連日シミュレートマシンに乗ることが出来るのはシミュレートセンターのトップにいる私が許可するからであって、私がその地位から外れたらそう簡単に許可は下りないからね」
ばれたか、と言いながらマーズは舌を出す。
いや、ばれたかってどういうことだよ……崇人はそうツッコミを入れながら、メリアに訊ねる。
「そういえば、メリア。どうやらもう準備が出来ているみたいなんだが……あんまりあっちを待たせるわけにもいかないんじゃないか?」
「そんなこと言うけどね、彼女たちは初めてこれに乗るだろ? だから登録しておく必要があるんだ」
そう言って、メリアはワークステーションの画面を確認する。
「おっ、終わったな。よし、それじゃ今から……ちょっと遅くなってしまったが模擬戦を開始する。準備はいいな?」
『はい。大丈夫です』
『……』
元気に答えるシルヴィアと対照的に、ただ頷くだけのファルバート。それは昨日まで見た彼とは違う、さらに落ち着いたものだったが、それだけではない。それ以外にも何か、強いオーラを感じる。これが――『本気』か。崇人はそんなことを感じるのだった。
「それでは――はじめ!」
刹那。
ファルバートの乗るリリーファーと、シルヴィアの乗るリリーファーがそれぞれ仮想空間に放たれ、模擬戦が開始された。
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二人の戦いは、崇人たちが思った以上に平行線をたどっていた。最初はファルバートが猛攻を繰り広げていたのだが、思った以上にシルヴィアが抵抗を続けていたのだ。
だが、抵抗をするだけで倒せるわけではない。もちろん、それなりに頑張る必要だって存在するわけだ。
「……しかしまあ、ここまで拮抗していると面白みもないねえ」
メリアはそう言ってペンをくるくるとまわす。
「あ、そうだ。ねえ、マーズ知ってる? 北の大陸ペステリカ王国が何かまた新しいロストテクノロジーを探すために遺跡とかそういうの発掘するんだって」
「ロストテクノロジーを発掘? くだらない、いつまで昔のことを引っ張っているんだか……」
メリアの言葉をマーズは一蹴する。
「昔……ってどういうことだ? 昔はそれほど科学が発展した世界があった、とでも言いたいのか?」
「タカトはあんまり世界の歴史を知らないかもしれないけど……この世界はかつて、超科学がある科学文明だった。それこそこの世界にある科学技術の大半はその科学文明のロストテクノロジーから成るものだよ。もちろんオリジナルだって存在するが……それでも大半がそうだ」
「ロストテクノロジー……その世界はすごい発展していたってことか」
「そうだよ、一番の例がこれ」
そう言って彼女はスマートフォンを取り出す。
それを見て崇人は首を傾げる。
「……スマートフォン?」
「それもそうだけど、これ」
マーズは待受画面に写っているあるものを指差す。それは、ほかでもないリリーファーだった。
「リリーファーも……なのか?」
「世界最初のリリーファー、アメツチは遺跡から発掘されたものらしいよ。つまり過去の人たちが、どういう理由なのかは知らないけれどアメツチを埋めたってこと。それからもこの世界の昔の姿が、どれほどの世界だったのかが想像つくでしょう?」
リリーファーのような巨大ロボットを作ることのできる世界。
それはどういう世界だったのか。崇人にも想像ができなかった。だって彼がもともといた世界だって巨大ロボットは夢のまた夢と言われる世界だったからだ。寧ろ災害用にコンパクトなそれが求められていた世界。巨大ロボットなんてそれこそアニメーションや漫画、小説の中の話だった。
だが、今崇人はこの巨大ロボットを動かすことができる世界、巨大ロボットが目の前にある世界へとやってきている。別に彼はロボットが極端に好きというわけではないが、男の子ならば一度はそう思い描く夢でもあるだろう。
「ロストテクノロジー……どれくらいの時間が経っているか知らないが、それくらい昔にあった文明がこれほどまでの巨大ロボットを作ることができて、なぜ滅んでしまったんだろうか?」
「世界の科学者の疑問はそこ。今歴史学者がずーっと考えている議題のひとつ。これほどまでのロストテクノロジーを遺した人類はいったいどこへ行ってしまったのか、ということ。滅んだといっても、それはないと思うのよ。だって、そうだとしたら私たちは何者? って話になる。どこからやってきた人間になるのか、解らないでしょう? だから定説として私たちがロストテクノロジーを作り上げた人間の子孫であることを前提条件としているのよ」
「前提条件……ねえ。なんというかその条件がネックだよね。どうしてそういう条件が成り立つのか、って話」
「だってそうじゃないと――」
「俺の読んだSF小説の話なんだが」
ヴィエンスが人差し指を突き出し、言う。
「過去の人類は冷凍保存されてしまって、冷凍保存に漏れた人類は細々と生き残った……なんてことがある。あくまでもその場合だとやっぱり人類としては血筋が続いているのかもしれないが、冷凍保存された側とそれをしていない人間を考えるとあまりにも親等が離れて……親族というよりもはや親戚、いいやもしかしたらそれよりももっと違う扱いになるかもしれない」
「そんなことが可能だと?」
「巨大ロボットを作っちまうほどの科学力だ。それくらいあっても何ら不思議じゃない」
その頃、模擬戦を行っているシルヴィアとファルバートは未だ拮抗状態が続いていた。どちらかが攻撃をしてそれが受け流す、またどちらかが攻撃してそれを受け流す……そんなことを繰り返し続けている。それはただ両方の体力を無碍に失っていくだけであるということを二人共理解していた。
それでも、決定打を導くことが出来ない。倒すことが出来ないのだ。それは二人が同等の実力を持っているからだろうか?
「違う……違う……こんなのじゃないはずだ……」
ファルバートはコックピットで独りごちっていた。しかしそれは誰かに呼びかけている声でもあった。
ファルバートの話は続く。
「おい……なんでここまで拮抗状態にあるんだよ……。僕は、力を手に入れたはずだろう……?」
その声を聞いて、どこからか白いワンピースの少女が姿を現した。
彼女は欠伸をひとつして、
「そりゃ相手が強いかあなたの補正値限界まで引き上げても弱かった。ただそれだけのことじゃないの?」
「もっと、引き上げてくれよ」
「ダメ」
白いワンピースの少女はあっさりとそれを否定した。
踵を返し、彼の操縦席の後ろに座る。
「そんなことしたらあなたが『人間』に戻れなくなってしまう。まあ、今も半分そういうもんなんだけど……。そしたらこれから非常につまらなくなるよ? リーダーの権利は手に入れても人語が喋れないんじゃ、意味ないでしょう?」
即ち、これ以上行うと精神が破綻する可能性がある――少女はそう言っているのだ。
さすがにファルバートもそれを聞いて躊躇った。それはさすがにまずい。そんなことをしてしまえばドーピングが疑われ、彼だけでなくザイデル家全体に泥を塗ることにもなるからだ。
「でも……方法がないわけじゃない」
少女は悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「何だ?」
すぐにファルバートは訊ねた。
「簡単よ。同調を強めるの。リリーファー……今あなたが操縦しているそれは電子的に表現された『0』と『1』の羅列に過ぎない。けれど、同調は強められる。それを利用してリンクするのよ。あなた自身の精神と、リリーファーを。それを行えばより体感的にリリーファーを操縦できるから、少なくともラグは無くなると思うけど」
それを聞いて、彼は考える。
同調。それはまったく考えていなかったことだ。同調して、リリーファーと心を一つにする。彼は考えた。これからどうせ起動従士となって戦場に駆り出されることになるのだ。そういう機能はフル活用していったほうがいい、と。
だから、彼は訊ねた。
「その方法を教えてくれ」
それを聞いた少女は、ファルバートの隣に移動する。ほのかに花の香りがする、それくらいの距離にまで彼女は近づく。
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