絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二百九話 騎士団再編


 その頃、ヴァリス城にある会議室にて会議が行われていた。会議の構成メンバーは以下の通りだ。ハリー騎士団副騎士団長マーズ・リッペンバー、メルキオール騎士団騎士団長ヴァルベリー・ロックンアリアー、カスパール騎士団騎士団長リザ・ベリーダとヴァリエイブル連邦王国国王レティア・リグレー、そして元バルタザール騎士団騎士団長フレイヤ・アンダーバード、法王庁から逃げ出してきた元神父アルジャーノン、バックアップ唯一の生き残りレナ・メリーヘルクである。今回ヴァリス王国の騎士団しか集められていないのはその問題がヴァリス王国のみのことだからだ。

「……さて」

 レティアが重々しい口を開けた。
 今彼女たちが話し合っているのは、マーズが崇人に言ったあることであった。
 騎士団再編。
 名前のとおり騎士団を再編する計画である。前回の戦争によって国力が大幅に疲弊してしまった。特にダメージが大きかったのはバルタザール騎士団だ。バルタザール騎士団はリーダーであるフレイヤ以外皆殺しにされてしまった。恐らくフレイヤは専用機を持っていたから、解析に時間がかかったのではないかという科学班の判断であったが、それをレティアは言いたくなかった。彼女は起動従士である以前にひとりの女性だ。聞かせたくない事実だってあることもまたあるだろう。それがその一つであることには、間違いない。

「騎士団再編について、先ずは私から概要について話す必要があるでしょう」

 そう言って、レティアは手元にあるプリントを見た。

「手元にあるプリントを見てください。それを見ていただくと解るんですが、今回の計画では主にハリー騎士団について再編を行う予定です。ハリー騎士団はインフィニティを中心にして造られた新興の騎士団なのですが、この騎士団をバルタザール騎士団が無くなってしまった……補填という言い方は悪いかもしれませんが……そういう形にしたいと考えています」
「それじゃ、今フリーになっている起動従士は全員ハリー騎士団に入る。そういうことでいいのかな?」

 訊ねたのはヴァルベリーだった。その言葉にレティアは頷く。
 それを聞いてリザは呆れ顔で言った。

「それじゃ我々はハリー騎士団の再編プランについての是非を問うだけに集められた……そう考えられるのが自然だ」
「そう思われても仕方がないでしょうね……。私の力では生憎強制的に決めるのは不可能でしょう。それに騎士団長を集めて会議を開くのは法律的にも決められていることですよ」

 その言葉にヴァルベリーは黙ってしまった。レティアはヴァルベリーを言葉で黙らせたなんて思っているかもしれないが、実際は違う。これ以上話をしても意味が無いと思ったから、到底解り合える存在ではないと思ったから、黙っただけに過ぎなかった。
 レティアは視線をヴァルベリーからテーブルに置かれたプリントに戻す。

「……では、話を戻します。先ずはプリントをご覧ください。知っている方もいらっしゃるでしょうが……そこには今回再編対象となっている人間のプロフィールが載っています」

 レティアの言葉を聞いて、マーズたちはそれを見ていった。詳しくそれについて彼女から語る必要も無いが、平々凡々という感じだったのは事実であった。
 マーズはそれら凡てに目を通し、頷いた後に手を挙げた。

「どうかしましたか? 何か違和か疑問でも?」
「疑問……そうだな、まぁ疑問だ。フレイヤとレナは元々は国内に居る起動従士だ。同じ立場に居たからこそ、色んなことが解る。だからこそ彼女たち二人がどの騎士団に入ろうたって、誰も問題ないだろう」

 ただし。彼女は人差し指をピンと立てて言った。

「問題となるのはもうひとり、アルジャーノンと呼ばれる男だ。なんでも、元は法王庁で神父をしていたらしいじゃない。敵国だった場所に居た人間を直ぐに信じろというのも無理な話よ。それに、ほんとうにリリーファーには乗れるんでしょうね?」

 マーズの質問は、別にアルジャーノンを認めたくないからとかそういう理不尽な理由等ではなく、彼のプロフィールを見れば、まぁ大抵の人は浮かべるであろう『疑問』について訊ねているだけに過ぎないのだ。
 アルジャーノンはマーズの話を聞いて頷く。

「発言しても宜しいでしょうか」

 アルジャーノンは手を挙げて、レティアに発言の許可を求めた。レティアはそれを見て微笑んだ。

「許可します、どうぞ」
「ありがとうございます」

 アルジャーノンはレティアに対して一礼。そして質問への解答を始めた。

「先ず第一に、私たち神父は全員聖騎士……リリーファーを乗れるように特訓を積んでいます。此方にもあるかどうか解りませんが、リリーファーの運転免許というものもありまして、それを所有している者は訓練をして基本的なリリーファーの操作が出来るようになった人間のことを指します。……あぁ、もちろん運転免許が手に入っても半年に一回近くのペースで追加訓練があるので、免許はあるけど操縦が出来ない、という人間は居ません」
「……つまり、『私は法王庁にしか適応されないが運転免許は持っている。だからリリーファーの操縦が出来る』……そんな猿でも言える理屈でこの場が通ると思っていたのか?」

 マーズの言葉を聞いて、アルジャーノンは愉悦な笑みを浮かべる。

「それじゃ……操縦してみせましょうか。そうすればあなたは納得するんでしょうか」

 マーズはそれを聞いて、後退りそうになった。アルジャーノンが放つ気迫が、マーズに感じられたからだ。
 その気迫、一端の神父が持つものではない……マーズはそう思った。
 レティアは緊迫になりそうな状況を見て小さく溜め息を吐くと、マーズは訊ねた。

「それで構いませんか、マーズ・リッペンバー。ほかの人も疑問に思っていたことでしょうが、元はあなたが訊ねたこと。あなたがそれで了承していただけるならば、直ぐに機会を設けますが」

 それを聞いてマーズは頷く。

「構いません、別に私はいつだってどうぞ。そうですね……先ずはシミュレートマシンでやらせてみたほうがいいですかね」
「構いませんか、アルジャーノン」

 今度はレティアがアルジャーノンに訊ねた。

「えぇ、構わないですよ」

 アルジャーノンもその言葉に首肯する。これで両者の意見が合致した。

「それでは後日、アルジャーノンにはリリーファーのシミュレートマシンに乗っていただき、その技能をチェックすることとして……残りの二人に関して、そのままハリー騎士団に合流させても宜しいでしょうか」

 レティアのその言葉を聞いて、彼女のそれに賛同するように、会議室に拍手が沸き上がった。


 ◇◇◇


「まさかあなたと同じ騎士団に、今度はあのときの逆の立ち位置になるなんてね」

 会議室から伸びる廊下を、フレイヤとマーズは歩いていた。

「明確には少し違うわね。私は副騎士団長よ」
「でも騎士団の行動を決めているのはあなたなんでしょう? だったらあなたが騎士団長みたいなものなんじゃない?」
「フレイヤ……あんた相変わらず毒舌ね。タカトだってきちんと頑張っているのよ」
「未完成過ぎる」

 フレイヤは唐突に、マーズに言った。
 その言葉の意味を、直ぐに彼女が理解することは出来なかった。
「未完成なのよ、精神も、技術も。そりゃ学校に通っていない年端もいかない少年だから……ってのもあるのかもしれない。でも、彼は不安定よ。いつ『あの時』みたいに崩壊を起こしてもおかしくない。あの時はなんとかなったから良かったけど……二度目はきっとないでしょうね」
「タカトの精神は弱い。それは仕方がない、認めざるをえない事実よ。けど、それだけではいけない。誰かが支えてあげる必要があるの」
「それを私が支える、私がその役目を担う……あなたはそんなことを言いたいの?」
「えぇ、そうよ」

 迷うこと無くマーズは確りと頷いた。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品