絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百十八話 ミッション
マーズ・リッペンバーはラグストリアルとの会話の終了後、直ぐにハリー騎士団の面々を集めた。
「これからミッションに関して、ブリーフィングを行う」
その言葉を聞いて、彼らは驚きを隠せなかった。
「……もしかして、エルフィーとマグラスを救いに行くミッションということですか?」
コルネリアが言ったその言葉に、マーズはうなずく。
「待ち構えていてもなにも変わらない。だったら乗り込んでやろうではないか。やつらの望みが何であるかは未だに不明瞭だが……それでも彼らはれっきとしたハリー騎士団の一員だ。守らないでどうする」
「確かにその通りだ。……だが、それにはリスクもある」
そう言ったのはヴィエンスだった。
ヴィエンスは席から立ち上がると、マーズの目の前に立った。
そしてゆっくりとその顔をマーズの顔へと近づけていく。二人の顔がゆっくりと、あと少しで完全に触れるところまで近づいた。
「……あんた、その『リスク』を考えて話をしているのか?」
ヴィエンスは、その状況でそう言った。
マーズは頷き、「当たり前だ」と言った。
ヴィエンスはそのあと、マーズの瞳を舐めるように見つめた。
「……なるほど、嘘をついていない、しっかりとした眼だ。やはり、リーダーに相応しい」
ヴィエンスはそう言うと、自分の席に戻った。
ほかのメンバーはその間なにもいうことはなく、ただ二人のやり取りを野次馬よろしく見ていただけだったが、マーズはひとつ咳払いすると、彼らの視線が再びマーズに戻った。
「さて、話を戻しましょう。それでは彼らはいったいどこへいるのだろうか? あなたたちは先ずそれを疑問に浮かべるはずです」
「知っているというのですか?」
「ええ、もちろん」
そう言うと、マーズは指を弾いた。
直ぐに彼らが取り囲んでいるテーブルの中心にあるものが浮かび上がった。
それはホログラムだった。ホログラムはあるものを、立体的に再現していた。
「これは……ビル?」
「ええ、それも廃墟となったビルです。三年前にこのビルのテナントが閉鎖されて以降、持ち手がつかないまま三年という月日が流れ、現在は破落戸どものたまり場となっています」
「そんなわかりやすい場所を、敵が使うでしょうか?」
コルネリアの質問は正確かつ的確だった。
そして、それを待っていたと言わんばかりに、マーズは大きく頷いた。
「そのとおり。これに関しては私はきちんと裏をとってきてある。ヴィエンスと今日の昼、ともに行動したときにヴィエンスが尿意を催してな、少し時間が空いていたのだよ。其の時騎士団の一員である特権を使って少しばかり破落戸から話を聞いた」
マーズの話は続く。
「……なんでもそのビルの四階にあるテナントの一つは少し前から人の出入りがあるらしい。それも複数人だ。それを聞いた破落戸がいたらしいが、彼らはその質問に答えなかったという。そうして私は気になって、『赤い翼』の徽章を見せてみた。そしたら」
「見事にそれに反応した、というわけか」
エレンの言葉を聞いて、マーズはそちらを向いて大きく頷いた。
「そう。そのとおり。そうして、私たちは――」
マーズは手を掲げる。
ホログラムはそれに反応して、建物を切り裂くように断面図を見せた。ちょうど、CTスキャンで身体の内部を輪切りにしたように。
四階には通路のほかに大きな空間があった。その空間は内部が明らかになっていないからか、ただの空白となっていた。
その部分が先程マーズが言った『テナント』であるということは、ハリー騎士団の面々は容易に想像出来た。
「作戦はいたってシンプルだ。今晩零時、テナントに乗り込む。私とエレンが先遣隊となり敵陣に侵入し、敵と接触を試みる。その間にほかのメンバーは裏方に回って、侵入してくれ。私たちができる限り、敵をひきつける」
「私たちは囮……というわけか。しっくりこないが、やるしかないな」
「エレン、こういう役割になったことはないのかもしれないけれど、よろしく頼むわね」
マーズが右手を差し出す。
普通、こういったとき相手も右手を差し伸べて握手するのだが、エレンはそれを受け流した。
「勘違いしないで欲しい。私はハリー騎士団には入ったが、君たちと仲良くするつもりなぞ毛頭ない。ただ強い存在と戦うことができるここを選んだだけだ」
それを聞いてマーズは一瞬俯いたが、直ぐに顔をあげた。
「……そうね、ならば、この任務が終わったら私と戦いましょう。模擬戦ということにはなってしまうけれど、それでどうかしら? それで手を打ってくれない?」
「お前は強い、のか?」
「自分で言うのもなんだけれど『女神』と名が知れ渡っているわ。私を憧れて起動従士になる人も多いのよ」
それを聞いて、エレンは「ふうん」と言った。それに関してはあまり気にしていないようだ。
ただ、強いか強くないか。
彼女にとってはそれがパラメータとなっていたのだ。
「……それじゃあ、強いんだな」
「ええ、もちろん」
マーズのその言葉に、エレンは小さく頷いた。
「解った。それじゃあ、これが終わったら戦おう。それまではやる気が出ないが、この作戦を終わらせよう」
「どうやら話し合いは終わったようだな。……俺たちはどこへ向かうんだ?」
ヴィエンスはホログラムとして出ているその廃墟となったビルを指差して、言った。
マーズは指をホログラムに翳すと、ゆっくりとホログラムの廃墟は消えていった。
そして、少し遅れて、今度は立体視された地図が姿を現した。
「ここ」
赤くマーキングされた場所を指差す。
「ここか」
マーズの言葉をヴィエンスがリフレインする。
赤くマーキングされた場所から王城までは一レヌル(一レヌル=一メートルである)の距離がある。
「……これ一レヌルいくつに設定されているんですか?」
コルネリアはマーズに訊ねた。
「一レヌル五百レヌル。だから五百レヌル圏内にこの廃墟が存在する、ということ」
その言葉を聞いて、ハリー騎士団は行動を開始した。
◇◇◇
首都にあるとある廃墟。
その廃墟は破落戸たちが屯していた。ここは元々巨大な食品会社が参入していたが、資産運営がうまくいかずに破綻し、ビルを引き払った。そのため、今は誰も使っておらず、その場所に家を持たない破落戸たちが住むようになったのだ。
その四階は、その破落戸たちが出す雰囲気とはまた違う雰囲気を醸し出していた。
「……ここか」
そこにマーズとエレンがやってきていた。
エレンとマーズは騎士団の格好ではなく、普段の格好であった。
マーズは赤と黒の格子状になったネルシャツにジーンズを履いた格好、エレンはフリルつきの白いスカートにワイシャツといった風貌で、特にエレンの風貌はまるでお嬢様のような優雅なオーラすら放っていた。
「エレン……あんた私服だととんでもなく可愛いのね……」
「何か言ったかしら?」
どうやらエレンに『可愛い』というのはタブーらしい。
そう考えるとマーズは口を噤んだ。
「さて……それじゃあ、入るわよ。きっとここが敵のアジトのはず。準備はいい?」
「いつになったら入るのかしら。私はもう我慢できないのだけれど」
「……解ったわ」
マーズはエレンに押されながら、ドアをノックした。
ノックの返事はなかったが、彼女たちは扉を開けた。
「これからミッションに関して、ブリーフィングを行う」
その言葉を聞いて、彼らは驚きを隠せなかった。
「……もしかして、エルフィーとマグラスを救いに行くミッションということですか?」
コルネリアが言ったその言葉に、マーズはうなずく。
「待ち構えていてもなにも変わらない。だったら乗り込んでやろうではないか。やつらの望みが何であるかは未だに不明瞭だが……それでも彼らはれっきとしたハリー騎士団の一員だ。守らないでどうする」
「確かにその通りだ。……だが、それにはリスクもある」
そう言ったのはヴィエンスだった。
ヴィエンスは席から立ち上がると、マーズの目の前に立った。
そしてゆっくりとその顔をマーズの顔へと近づけていく。二人の顔がゆっくりと、あと少しで完全に触れるところまで近づいた。
「……あんた、その『リスク』を考えて話をしているのか?」
ヴィエンスは、その状況でそう言った。
マーズは頷き、「当たり前だ」と言った。
ヴィエンスはそのあと、マーズの瞳を舐めるように見つめた。
「……なるほど、嘘をついていない、しっかりとした眼だ。やはり、リーダーに相応しい」
ヴィエンスはそう言うと、自分の席に戻った。
ほかのメンバーはその間なにもいうことはなく、ただ二人のやり取りを野次馬よろしく見ていただけだったが、マーズはひとつ咳払いすると、彼らの視線が再びマーズに戻った。
「さて、話を戻しましょう。それでは彼らはいったいどこへいるのだろうか? あなたたちは先ずそれを疑問に浮かべるはずです」
「知っているというのですか?」
「ええ、もちろん」
そう言うと、マーズは指を弾いた。
直ぐに彼らが取り囲んでいるテーブルの中心にあるものが浮かび上がった。
それはホログラムだった。ホログラムはあるものを、立体的に再現していた。
「これは……ビル?」
「ええ、それも廃墟となったビルです。三年前にこのビルのテナントが閉鎖されて以降、持ち手がつかないまま三年という月日が流れ、現在は破落戸どものたまり場となっています」
「そんなわかりやすい場所を、敵が使うでしょうか?」
コルネリアの質問は正確かつ的確だった。
そして、それを待っていたと言わんばかりに、マーズは大きく頷いた。
「そのとおり。これに関しては私はきちんと裏をとってきてある。ヴィエンスと今日の昼、ともに行動したときにヴィエンスが尿意を催してな、少し時間が空いていたのだよ。其の時騎士団の一員である特権を使って少しばかり破落戸から話を聞いた」
マーズの話は続く。
「……なんでもそのビルの四階にあるテナントの一つは少し前から人の出入りがあるらしい。それも複数人だ。それを聞いた破落戸がいたらしいが、彼らはその質問に答えなかったという。そうして私は気になって、『赤い翼』の徽章を見せてみた。そしたら」
「見事にそれに反応した、というわけか」
エレンの言葉を聞いて、マーズはそちらを向いて大きく頷いた。
「そう。そのとおり。そうして、私たちは――」
マーズは手を掲げる。
ホログラムはそれに反応して、建物を切り裂くように断面図を見せた。ちょうど、CTスキャンで身体の内部を輪切りにしたように。
四階には通路のほかに大きな空間があった。その空間は内部が明らかになっていないからか、ただの空白となっていた。
その部分が先程マーズが言った『テナント』であるということは、ハリー騎士団の面々は容易に想像出来た。
「作戦はいたってシンプルだ。今晩零時、テナントに乗り込む。私とエレンが先遣隊となり敵陣に侵入し、敵と接触を試みる。その間にほかのメンバーは裏方に回って、侵入してくれ。私たちができる限り、敵をひきつける」
「私たちは囮……というわけか。しっくりこないが、やるしかないな」
「エレン、こういう役割になったことはないのかもしれないけれど、よろしく頼むわね」
マーズが右手を差し出す。
普通、こういったとき相手も右手を差し伸べて握手するのだが、エレンはそれを受け流した。
「勘違いしないで欲しい。私はハリー騎士団には入ったが、君たちと仲良くするつもりなぞ毛頭ない。ただ強い存在と戦うことができるここを選んだだけだ」
それを聞いてマーズは一瞬俯いたが、直ぐに顔をあげた。
「……そうね、ならば、この任務が終わったら私と戦いましょう。模擬戦ということにはなってしまうけれど、それでどうかしら? それで手を打ってくれない?」
「お前は強い、のか?」
「自分で言うのもなんだけれど『女神』と名が知れ渡っているわ。私を憧れて起動従士になる人も多いのよ」
それを聞いて、エレンは「ふうん」と言った。それに関してはあまり気にしていないようだ。
ただ、強いか強くないか。
彼女にとってはそれがパラメータとなっていたのだ。
「……それじゃあ、強いんだな」
「ええ、もちろん」
マーズのその言葉に、エレンは小さく頷いた。
「解った。それじゃあ、これが終わったら戦おう。それまではやる気が出ないが、この作戦を終わらせよう」
「どうやら話し合いは終わったようだな。……俺たちはどこへ向かうんだ?」
ヴィエンスはホログラムとして出ているその廃墟となったビルを指差して、言った。
マーズは指をホログラムに翳すと、ゆっくりとホログラムの廃墟は消えていった。
そして、少し遅れて、今度は立体視された地図が姿を現した。
「ここ」
赤くマーキングされた場所を指差す。
「ここか」
マーズの言葉をヴィエンスがリフレインする。
赤くマーキングされた場所から王城までは一レヌル(一レヌル=一メートルである)の距離がある。
「……これ一レヌルいくつに設定されているんですか?」
コルネリアはマーズに訊ねた。
「一レヌル五百レヌル。だから五百レヌル圏内にこの廃墟が存在する、ということ」
その言葉を聞いて、ハリー騎士団は行動を開始した。
◇◇◇
首都にあるとある廃墟。
その廃墟は破落戸たちが屯していた。ここは元々巨大な食品会社が参入していたが、資産運営がうまくいかずに破綻し、ビルを引き払った。そのため、今は誰も使っておらず、その場所に家を持たない破落戸たちが住むようになったのだ。
その四階は、その破落戸たちが出す雰囲気とはまた違う雰囲気を醸し出していた。
「……ここか」
そこにマーズとエレンがやってきていた。
エレンとマーズは騎士団の格好ではなく、普段の格好であった。
マーズは赤と黒の格子状になったネルシャツにジーンズを履いた格好、エレンはフリルつきの白いスカートにワイシャツといった風貌で、特にエレンの風貌はまるでお嬢様のような優雅なオーラすら放っていた。
「エレン……あんた私服だととんでもなく可愛いのね……」
「何か言ったかしら?」
どうやらエレンに『可愛い』というのはタブーらしい。
そう考えるとマーズは口を噤んだ。
「さて……それじゃあ、入るわよ。きっとここが敵のアジトのはず。準備はいい?」
「いつになったら入るのかしら。私はもう我慢できないのだけれど」
「……解ったわ」
マーズはエレンに押されながら、ドアをノックした。
ノックの返事はなかったが、彼女たちは扉を開けた。
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