絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第七十五話 北方地区Ⅱ

「『アメツチ』……、そんなリリーファーがあったんですか」
「あったのではない。『いた』のだよ。気がつけばそこにアメツチがあった。ラトロが開発したものとなっているが、それは間違いであるという資料もある。ラトロが開発したのではなく、そのリリーファーは発掘されたものなのだと」
「『アメツチ』とは、いったいどういうリリーファーなんです?」
「それが……どのレベルの強さなのか、解らないんだ。解れば苦労しないがな、どの歴史書を見ても変わらない。『其の時、天地あめつちといふ機神がありけり』という内容しか書かれていない。機神がリリーファーだとするならば、それはアメツチという存在だといえる。だが、ラトロによって開発された事実はヴァリエイブルの資料を見た限りでは有り得ない」
「ヴァリエイブルの資料は、本当に歴史的に正しいって言えるんですか?」
「どうなんだかなあ。解らないね。本当かもしれないし、嘘かもしれない。ただ、ヴァリエイブルの資料は、国中にある史料を集め比較参照をした上で作り上げたものだ。決して一つの歴史書のみを見た結果ではない。幾つもの歴史書から作り上げたものなんだ。だから、信頼性は高い」
「しかし……そうだとしても、どことなく信用出来ない」
「まあ、ところどころおかしな点はあるがね……。しかし、ある程度の基準を設けねば、議論は展開出来ないんだよ」
「たしかに」

 ヴィエンスが頷くと、ウェイターが注文をもってやってきた。

「失礼します」

 そう言って、ウェイターはテーブルに皿を置いていく。先ずは取り分けるための皿を二枚、そして大きなパンのようなものを乗せた皿をヴィエンスの前に置く。次いで、カルボナーラの皿をマーズの前に置いた。
 そして、水と水の容器を置いて、小さく頭を下げる。

「それでは、ごゆっくり」

 そう言って、ウェイターは去っていった。

「食べようではないか、冷めてしまわないうちに」

 マーズはそう言ってフォークを取り出し、パスタを一口分巻き取った。それを見てヴィエンスもナイフとフォークを取り出し、『パンツェロッティ』なる謎の食品(店で出されているのだから食べれるに違いないとマーズは豪語しているが、現時点ではパンツェロッティを食べようとは思っていない)をナイフで切ってみる。
 すると中から肉汁が溢れ出してきた。それから少し遅れてトマトソースが溢れ出る。どうやらこのパンツェロッティの中身はトマトソースのようだった。

「トマトソースですね」
「ああ、そうか」
「……自分は食べたくないけど、何だか気になるから注文させたとかそういうわけではないですよね?」
「カルボナーラも美味いぞ」

 そう言ってマーズは話題を逸らそうとするが、ヴィエンスは皿に一口分分けてマーズの傍に差し出す。

「いやいや、食べないぞ私は」
「あれほど『美味い』などと言っておいて、ずるいですよ。この美味しさを味わってくださいよ。どっちにしろ量が多くて食べきれないですし」
「うーん、まあいいか」

 そう言ってマーズは一口それを頬張る。
 すぐに口の中にトマトの香りが広がった。トマトとひき肉のハーモニーが口の中で広がり、それでいてくどくない。まさに完璧だった。

「……美味い」
「でしょう?」
「……待ちなさい。話がずれている。私たちが話していたのはリリーファーについてのことだったのに」

 ヴィエンスとマーズがそれぞれ食事に花を咲かせかけていたが――それを既のところでマーズが話を方向転換させる。

「そうでしたっけ?」
「そうよ! あなたさっきからキャラ崩壊しすぎよ! ちょっとは修正する気持ちで挑んで!」
「修正ってどういうことですか!?」

 思わずヴィエンスは立ち上がりそうになったが、マーズが咳払いするのを聞いて我に返った。
 ヴィエンスは席に座り直し、改めて会話を再開する。

「そういえば、リリーファーって何世代まで存在しているんですか? ちょっと詳しく知らないんですよね」
「そうか。君は知らないのか。……それじゃあ、詳しく見ていくこととしようか」

 そう言ってマーズはフォークを皿の上に置く。

「まず現行で起動しているリリーファーで一番古いのは第二世代、正確には第二.五世代の『アレス』になる。そして、『ヘスティア』は第三世代、『ペルセポネ』は第四世代、『エレザード』も第四世代だったかな。大会でも使用された『ペスパ』は第二世代だ。ああ、君たちの乗る『ニュンパイ』は一応第三世代ということになるかな」
「なるほど。それが一応の最高ってことになりますかね」
「いいや、違う。スラム街でも聞いただろう? ラトロは一年前に第五世代を開発していた、と。あれから一年が経っている。第五世代が出来ていて、量産されていてもおかしくはない。寧ろ、そのタイミングを狙って今回の鎖国に踏み切った可能性すらある」

 マーズはそう言ってニヒルな笑みを浮かべた。まだ彼女は何かを知っているようだったが、今それを聞くのも野暮だ――そう考えたヴィエンスはここで訊ねることはしなかった。


 あとは、彼女たちは食事を、特に何の感想もなく進めただけだった。

「ああ、満腹になったな。……さて、会計をしよう」

 そう言って伝票をマーズが取ろうとしたが、それよりも早くヴィエンスが取った。

「僕が支払っておきますよ。……ほら、一応恋人設定なんでしょう?」
「ん、あ、ああ……。そうだったな」

 一瞬マーズが照れたようにも見えたが、ヴィエンスにはそれが見えなかった。
 そしてヴィエンスは伝票を持ってレジスターへと向かった。
 店を出て、マーズが財布を整理しているヴィエンスの方に近づく。

「いくらぐらいかかった?」
「三千二百ルクスですね。まあ、こういうファッションモールだったら妥当な値段かもしれないですが」
「ああ。そんなもんかー。ならいいだろう。どうせ後で経費で落ちる」

 そんな服装の女子が言う発言ではないことを連発しているマーズを見て、ヴィエンスは小さくため息をついた。

「さて。どうします?」
「どうするかねえ……。やはりこの辺を適当にぶらつくほかないだろうな。まだ明確な情報も見つかってはいない。ほかのチームがどうなっているかは解らないが、彼らにも賭けてみるしかあるまい」
「じゃあ、僕らは適当に散策、ということで?」
「まあ、そういうことだな」

 そして彼らは会話を終了し、再びこのショッピングモールを探索することとした。

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