二次元美少女と恋をしたいっ!←そんなことさせないですよ?

ハタケシロ

第56話 デートという名の拷問前夜

デート前日の夜。
セラフィは自室で悩んでいた。
行くか行かないかではなく、何を着ていくかについて悩んでいた。

「これも……違いますわね。ではこれは……これも違いますわ」

クローゼットに収納されている数々の洋服を取り出しては、自分の身体にあてては全身鏡でその姿を見る。
しかし、思っているような感じにならなく、しっくはっくしていた。

「このわたくしが着ていく服で悩むことがあるなんて」

キッカケはどうであれ自分から誘ってしまった以上はそれ相応の服装で行かなければならないとセラフィは思っていた。
それと同時に、どうしたらようたは自分に興味を示してくれるのかと。

セラフィ自身、自分が服装選びで悩むことなんてないと思っていた。しかし、陽向のせいで、いやおかげで人生で初めて服装選びで悩むことになった。

スタイリストを雇って見立ててもらうという選択肢もあるのだが、それをやってしまうと何故だか敗北感があり、セラフィは自分で決めようと決心した。


「露出が多いめのほうが……いいえ。あのようたがその程度で興味を示すなんてないですわ」

幸か不幸か、セラフィは陽向の趣味嗜好を知ってしまっている。そのせいでたかが服装選びにもこうも手こずってしまっていた。

「しかし、改めてクローゼットを見てみると、ドレスが多いですわ」

金持ちであるセラフィのクローゼットには、パーティに出席するための衣装やドレスといった、theお嬢様の洋服が数多く。
デート向けの服装自体が少なかった。それもあってかなかなかに服装が決まらない。

「こうあの男のために選んでいると思うと、イラッとしますわね」

どうして自分がこんなにも手こずっているのかと思うと、陽向の顔が思い浮かんでしまう。
そして、陽向に言われた「さらさらない」という言葉もまた思い返されてしまう。

セラフィ自身、自分の容姿には自信があった。
同年代の他の女の子よりも少しばかり、いや、かなり大きめの胸。太すぎすほどい肉付きの太ももや二の腕。
外国人の血も入っているおかげでスラリと伸びる脚に、整った目鼻立ち。

事実、陽向たちの通う高校に来るまでは、セラフィの姿を見て興味を示さなかった男子は誰1人として居なかった。
その環境下もあってか、セラフィは自分が美人であると思うようになった。

それなのに、初めて興味を示さなかった男子。
初めて面と向かってさらさらないと言われた男子。
思い出しただけでもセラフィのプライドは傷ついた。

「明日はわたくしに興味を持ってもらいますわよ……!」

メラメラとセラフィの心は燃え上がっていた。

「しかし、本当に決まりませんわ。ネットにならなにか情報が」

検索するくらいなら負けてないと思ったセラフィは、一旦服装選びを中断してパソコンに向かい合う。

「デート……服装……っと。制服デート?」

検索結果をスクロールしていると、気になる文面があった。
曰く、制服デート。
文字のとおり、お互い制服を着て行うデートのことである。
一般的にはお互いが制服を着ることによって成り立つのが制服デートなのだが、あまりそういったことに対して知識のないセラフィはどちらかが着ればいいと思ってしまった。

「明日の集合時間を考えましても、そろそろ寝たほうがいいですわよね」

服装選びにかれこれ二時間近く時間を使ってしまっていたセラフィは、心身ともに疲れていた。
明日の集合時間を考えてもそろそろ寝たほうがいいという判断も妥当なもので、セラフィは明日着ていく服装を制服という結論でまとめた。

「まったく。ようたのせいで余計な時間を使ってしまいましたわ」

他に誰もいない自室で陽向に文句を言った後、明日どうやって陽向に興味を持たせようか考えながら、セラフィは眠りについた。



『いいなー陽向。明日デートなんだろ?セラフィさんと』

「いいわけあるか!何が悲しくて貴重な休日を3次元の女の子に使わなきゃいけねーんだ!」

『ぶれねーなお前えも』

ため息混じりの智和の声が、スピーカーにしているスマホから流れてくる。

デートいや、3次元の女の子とどっか行くという拷問の前日。俺が明日セラフィに拷問されに行くという情報をどっからか得てきた智和から電話がかかってきた。

『でもいいじゃねーか。セラフィさんから誘われたんだろ?これは脈ありなんじゃねーか?』

「なわけねーだろ。つか、誘われたっていうか強制的にだしな。別に要らないっていったあいつの連絡先まで知ってしまった上、さっき明日の集合時間と集合場所が送られてきた」

   【セラフィ・クリスティアーノ】

ごきげんようですわ( ・´ー・`)ようた( ・´ー・`)
明日のことで連絡をしましたのですけど、よろしかったかしら?( ・´ー・`)
明日は、午前10時に駅前にある噴水集合でお願いいたしますわ( ・´ー・`)

……。

顔文字を見る限り俺のことが嫌いだとすぐに分かってしまう内容だ。

『はは。相当嫌われてるなお前』

「な。別に俺があいつに何かしたってわけじゃないのにな」

『いや、前に第二体育館であった出来事とお前がセラフィさんに言った内容を考えると、お前がセラフィさんに嫌われてる理由はすぐ分かっけどな』

「まじで?」

『そこで不思議そうな声を出せるお前はすげー』

別にあの時は、強引に口を抑えて喋らなくしただけなんだけどなー。
あーでも、それがまずかったのかもな。
ヤローに強引に口を抑えられりゃそりゃ嫌われるか。

「つか、智和。あの時はよくも俺を置いて逃げやがったな!」

『だから、悪ぃって言ったろ?あの時はあーするしかなかったんだって。もともと変態の陽向はいいかもしれないが、あそこで俺も一緒にいたとなると、俺まで変態扱いされちまうからな』

「よーし。1発ぶん殴ってやる!ちょっくらうちまで来い!」

『悪ぃ悪ぃって!でも最後はいろいろ助けてやったろ?』

「……まぁな」

セラフィと用具室で2人きりになったのもそうだが、霧咲に連れられて用具室に入った時点で俺は一応授業中だった。
つまりは、授業をサボって抜け出していたということになる。
体育の担当のセンコーに怒られると思っていたが、智和がいろいろやってくれており、結果何事もなかったことのように扱われ、しかも欠席扱いにもならなかった。

智和がいろいろやってくれていなければ皆勤賞を逃すことになっていた。

「それはそれで感謝してる」

『おう。感謝してくれっ!』

「イラッとするなー」

いい友達なんだが、いい友達なんだけど!
若干イラッとするのはなぜだろう?

『ほんと羨ましいぜ美少女とデートできるお前は!』

「なら代わってくれよ」

休日は、撮りためているアニメを見なきゃならーわ。ラノベを読まなきゃならねーわ。スク○ェスをしなきゃいけねーわ。で時間がないんだよなー。
ここで智和が代わってくれるとなるとだいぶ嬉しい。

『代わりたいのも山々。いや、超代わりたいんだけど、明日は先約があるんだ。悪ぃな』

「そうか。じゃ仕方ねーな」

俺と違って友達が多い智和のことだ。
休日は遊びの誘いがたくさんあるのだろう。
べ、べつに羨ましくなんかないんだからねっ!

『んじゃな陽向!陰ながら応援してるぜ!』

「応援とかまじいらねーよ。じゃあな」

智和との通話を終了し、パソコンで巡回していると、スマホの通知音がなった。
見てみると、セラフィでも智和でもなく、桃からだった。

   【篠原桃】

明日暇ですか?暇ですよね?
遊びに行きませんか?
お昼にチョッ○ーのポスターがあるお店に集合でお願いします。
ちなみに霧咲さんも来ますよ!
柏木さんは予定があって来れないですけど。
……。

おい!
いろいろツッコミたいんですけど!?

ふっ。だが、残念だな桃。
明日は先約があるんだよ!
まさか、先約があるからといって断らる日が来ようとは。

「悪いな明日は予定があって遊べないっと」

   【篠原桃】

え?陽向くんに予定?
もう。冗談きついですよ笑

「こいつなかなかに酷くね?!たくっ。いや、まじだから。だから無理っと」

   【篠原桃】

そうですか。
残念です。
また次回遊びましょうね!


ふぅ。桃は聞き分けが良くて助かるぜ。
これが霧咲だとこうは行かないからな。
予定があるとか書くとなぜか、下着の写メを送ってくるからな。
あいつの行動は意味が分からん。



「陽向くん。明日は予定があるみたいです」

「陽向さんに予定!?本当ですか!?」

「本当みたいですよ?」

「珍しいですね」

「ですよね。でもまぁ。アニメ関連だと思うんですけど」

「ですね。陽向さんならそれくらいしか予定がなさそうですもんね。でもかっしーも明日は」

「どうしました?」

「いえ、ちょっと怪しいなーと思っただけです」

「怪しい?」

「あ、いえ。何でもないです!」



部屋にピアノの音が響きわたる。
かの有名なAngel ○eatsのオープニングの曲だ。

「朝か……」

セラフィとのデートという名の拷問の当日は。

「えーと、今の時間は……9時55分?」

10時集合という集合時間の5分前に起き。

「……間に合わねぇな」

遅刻から始まった。

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