比翼の鳥
第8話 蜃気楼(8)
まどろみの中、俺は、たゆたう。
フワフワとしながら、ゆらりと流れ、浮き、回り、そして、止まる。
その感覚は、激しい物では無く、優しく俺を包んでいた。
ずっとこのままで居たくなるような、そんな心地良さを伴って、俺を揺らす。
と同時に、またかと、心の片隅でため息を吐いた。
流石に、何度も繰り返せば、俺もいい加減に記憶に残す事が出来る。
そう、これで三度目だ。ん? 何か違和感が残る。はて。
俺は、気を抜けば霞がかる意識に舌打ちし、両手で頬を思いっきり叩いて活を入れると、周囲の状況を確認する。
どこまでも黒く、しかし、どこか安心する世界。
ふと何かの異質な気配を感じ、視線を俺の真下――あくまで感覚的に下ではあるが――へと視線を向けた。
ゆったりと俺の体が回転し、今まで見る事の出来なかった所へと視線が向く。
なんだ? あれは?
俺の遥か下方……そこは、黒いマグマとでも形容するしかない、何かが広がっていた。
粘性のあるであろうそれは、大きくうねり、時折、気泡が割れるかのように、その表面を大きく持ち上げ、爆ぜる。
その姿を見て、俺は何故だか、身を震わせた。
それが蠢く様は、何かとてつもない恐怖と嫌悪感を伴って、俺の心の奥を震わせるのだ。
「……お兄……ん……。」
ふと、天上側から声が降ってきた気がする。
見ると、黒い世界にあって、僅かに光の指す空間があった。
その光景は、まるで暗い部屋の壁にある亀裂から、光が漏れ差す様に、俺には見えた。
「ねぇ……。……兄さ……。お……てよ。」
俺がそんな光景を不思議そうに観察していると、おずおずと言う感じで、更に、控えめに声がかけられていた。
ふむ、良く分からんが、どうやら、また、彼女が呼んでいるようだ。
俺は泳ぐように、浮かび上がるようなイメージで微かな光へと向かう。
近づく度に、彼女の声がはっきりと聞こえるようになった。
それは、今までの時とは違い、明らかに精彩を欠く呼び声だった。
なるほど。不安なんだな。
俺は、遊園地でのやり取りを覚えていた。
それどころか、その前の事も思い出していた。
そう考えると、今までの不自然さに、思いつく。
食堂から落ちた事。
遊園地からの突然、この場所へと移動している事。
彼女が今までしてきた、数々の不振行動。
それらが意味する所は、もう、疑いようが無い訳で。
俺は、先程とは違った気持ちを抱き、再度、周りの様子を伺い、足元に広がる黒い溶岩へと視線を向けた。
そうか。そうすると、これが、俺の……。
一瞬、湧き上がった形容しがたい感情を、俺は首を振って霧散させる。
全く、これじゃ、ディーネちゃんに合わせる顔が無いな。
一瞬、そう思うも、ふと首を傾げる。
急激に霧散する、儚げな誰かの面影。
青いイメージと、海の様な広く暖かい何かが心をさらうも、それは瞬時に、泡の様に消え去った。
ディーネちゃんって、誰だ?
「うぅ……。起きてよ、お兄さぁん……。」
だが、俺が考えにふける前に、大分情けなくなった声が降り注いてきた。
そんな声を聞き、俺は苦笑しつつ、浮上を再開する。
早く起きないと、どうやら、不器用なこの子も泣いてしまいそうだしな。
俺はそう意識する。そう思うだけで、途端に目の前に光が迫る。
そうか。やはりここは……。
そして、光に包まれながら、俺の意識は覚醒へと向かった。
「お兄さぁん……。……やっぱり、私じゃ駄目だったんだ。姉さんの影響を跳ね除けるなんて……うぅ。」
見ると、最初の頃とは打って変わって、何とも情けない表情になった彼女がいた。
何だろうか。こっちのイメージの方がしっくりくる気がする。
ふと、誰かのイメージと目の前の彼女のイメージが重なる。
可愛らしいエプロンドレスを身に纏う少女が尻尾を振りつつ、「ふええぇええ!?」と言う、何とも情けない声を響かせた。
俺はそんなイメージに懐かしさと、良く分からない愛しさを覚えながら、情けない彼女の頭へと手を伸ばし、そっと撫でる。
幻想の先で、金色に輝く髪に鎮座した獣耳が揺れ、その顔が……ふと、目の前の少女へと重なった。
「お、お兄さん……起きたの!?」
その声で、幻の様に獣耳が消え、つややかな黒髪の少女が、半分泣きながら驚いたように声をかけて来た。
なんだ? 今のイメージは……。
そう戸惑いつつも、今の最優先事項は、目の前の彼女の不安を払拭する事だろう。
そう思った俺は再度、優しく彼女の頭を撫でると、はっきりと口にした。
「ああ、おはよう。揚羽。」
その瞬間、揚羽は目を潤ませると、すぐに顔を背けて、ベッドから離れる。
ゆっくりと体を起こし、彼女の様子をそっと伺うと、どうやら、泣いているようだ。
しかし、恥ずかしいのだろう。俺にその姿を見せまいと、必死に耐えているようだった。
まぁ、肩を震わせて、袖で目を拭ったらバレバレなんだが、とりあえず、突っ込まないでおく。
あああ、そんなに思い切り拭ったら目が赤くなるだろうが。
そう思うも、声をかける訳にも行かないので、俺はわざとらしく声を出しながら伸びをすると、「あぁ~良く寝た!」と、少し大げさに、見てないアピールしておいた。
そして、徐に、カーテンを開け、窓から光を呼び込む。
「うん、今日も良い天気になりそうだな。」
窓の外に広がる青い空を見上げながら、3度目の朝が来た事を俺は実感したのだった。
「ねぇねぇ、先輩! 私の名前、もう一度、言って下さいよ!」
「……はぁ……。だから、揚羽だろう? 何なんだ、今日は一体。」
「うふふふふ。」
と言うわけで、絶賛、登校中なのだが、先程から、このやり取りが三度続いている為、流石の春香も、不審げな眼差しを向けずにはいられないようである。
事情を知っている俺としては、良かったなぁと思わなくも無い訳だが、こればっかりは、どうしようもない。
あの後、食事の為に降りたリビングで、母親に、
「あら、揚羽ちゃん。今日もありがとうねぇ。」
とか言われ硬直してみたり、
「揚羽? そんな所で何やってるんだ?」
と、降りて来た春香に名前を呼ばれた事で、受け入れられた実感が、漸く湧いたらしい。
食事中は、なんとも幸せそうな笑顔であったし、それから、今に至るまで、ことある毎に何度もそうやって、確認している訳だ。
俺は、彼女の行動が、初めて褒められた子供のそれと同じようにしか見えないので、微笑ましく見ている。
まぁ、嬉しい時なんてそんなもんだな。
と言うか、そういう風に、素直に喜べるような子で良かったとも思う。それは、本当はとても純粋な心の持ち主だって証だし。
「お兄さん、遅れてますよ。ほら、早くしないと。」
そんな風に、俺が安全圏から生暖かく見守っていると、突然、揚羽が俺の右手を取って、両手で引っ張って来た。
流石の俺も、彼女の突然の行動に驚く。
はて、彼女は男性の事が嫌いだったのではなかっただろうか?
ふと見ると、春香が信じられない物を見たとでも言うように、硬直しながら、こちらを向き、目を見開いていた。
対照的に、そんな固まった彼女の方へ、俺を引っ張る揚羽は、とてもいい笑顔をしている。
それを見て、考える事をやめた。
まぁ、楽しんでいるならそれも良いかな。
そのまま彼女に引きずられる様に早足で移動すると、そんな元凶の彼女は、尚も驚く春香の手を取り、俺と春香の真ん中に当たり前のように納まる。
そんな状況が意味不明過ぎて、背の低い揚羽の頭を超え、春香と俺はお互いに視線を交わすも、次の瞬間、俺は笑ってしまった。
これでは、まるで……仲睦まじい親子の様ではないか。
俺の左には揚羽。その更に先には春香。
この構図は、さしずめ春香が母親役で、俺が父親役。揚羽は子供という事になる。
そう思うも、それを口にすると、お隣の美少女二人から、ご不満が出そうなので、俺は笑いながらも、言葉は飲み込んだ。
そんな風に、尚も声を殺して笑う俺を見て、当の本人たちは、不思議そうに首を傾げていたのだった。
3度目の目覚めが、春の様な緩やかな日差しの様に、暖かかったからだろうか。
あれから、さしたる問題も無く、数週間が経過した。
日常は暖かくも、徐々に激しく過ぎ去るようになった。ふと気づけば、夏もすぐそこまで来ている。
「お兄さん! ゲーセンに行きましょう!」
放課後、帰ろうと校門をくぐった所で、目を輝かせていう揚羽に、半ば拉致られるように、腕を取られ連行された。
彼女も、慣れて来たのだろうか? 以前では想像もつかない程、積極的に俺へとちょっかいをかけてくるようになったのだ。
しかも、以前のような迷う様子も無く、さも当たり前のように、俺を誘う……いや、拉致るのである。
まぁ、恐らく、俺が彼女を受け入れた事が、原因なのだろう。
俺に拒絶されていないという事が、よほど嬉しかったらしい。もしかすると、こういう風に、素の自分を見せられる相手が、今まで居なかった反動なのかもしれないな。
兎に角、俺から言わせれば、ちょっと好き放題にやり過ぎである。ただ、浮かれている時は、そんな事に気が付く筈もないし、俺も疲れはするが、それなりに楽しんでいる。
そんな風に、何だかんだ言いつつ、付き合うから、更に調子に乗っている部分はあるのかもしれないな。
まぁ、それも一時期の事かと思っている俺は、今は彼女の好きな様にやらせてやろうと、見守るつもりで、行動を共にしていた。
見ると春香も柴田も鈴君も、何か申し合わせたように、生暖かい目をしながら、手を振って俺達を見送っている。
この裏切り者めが……と思わなくもないが、実際、揚羽は、彼らを誘わず、俺だけを誘っていた。
その状況から、彼らはある意味、気を利かせているつもりなのだろうが、俺から言わせれば余計なお世話である。
鼻歌でも歌い出しそうな程、テンションの高い揚羽に気が付かれないように、俺はそっと後ろを振り返り、3人に向かって手招きした。
少しはお前らも、付き合え。
口の動きだけでそう伝えるも、3人は示し合わせた様に、素敵な笑顔を浮かべながら、首を振ると、柔らかく手を振り返してきた。
くそぉ……今に覚えてろ!!
そんな俺の心の叫びは、表に出る事無く、空しく消え去ったのだった。
その頃のゲーセンと言えば、格闘ゲームが主流で、ガラの悪いお兄ちゃん達も出入りするような所であると言う認識だったのだが、それが変わろうとしていた時だった。
くしくも、音ゲーと呼ばれる物が、流行り出し、それが店頭に置かれるようになったことで、女性も薄暗い店内に入る事無く楽しめるようになった事が、大きな要因だったのではないかと、俺は思っている。
という訳で、その例に漏れず、彼女のお目当ては、その音ゲーであるらしい。
音ゲー、リズムゲーと呼ばれるこの手のゲームには、いくつかの共通点がある。
まずは、音やリズムを関するだけあって、音が出る。筐体正面に付いた大型のスピーカーから、そりゃもう、公害と言うレベルで音楽が流れるのだ。
それに合わせて、降って来る……もしくは移動して来るマーカーが、決められた場所に来た時に、タイミングよく、対応するキーを押すと、成功である。その時、押したキーによって、様々な音が出る。これが上手く押せると、あたかも自分が音楽に合わせて演奏しているような気分になれるのだ。
成功すると、音楽に合わせて音が出ると同時に、ゲージが溜まり、それが一定量たまった状態で曲を終えれば、ステージクリアーとなる。
ちなみに失敗すれば、音がずれて不快なだけでなく、ゲージも下がる。
そうして、なるべく失敗しない様に、キーを叩いて、可能であれば、カッコよく曲を奏でる。
それが、音ゲーの基本となる訳だが……。
「ぐぬぬぬ! ちょあ! てや! はいよぉー!」
良く分からない奇声を上げつつ、髪を振り乱し、手元のボタンを叩く少女が俺の隣にいる。
そんな彼女の様子が面白いのか何なのか、1曲目だと言うのに、中々に多くのギャラリーが俺らの背中に視線を送っていた。
もうヤダ、逃げたい。
今回、彼女がご所望だったのは、可愛いキャラとポップなデザインが売りの、人気ゲームだった。
ハンマーか何かで叩く方が似合いそうな程、大きなボタンは、全部で9つ。それぞれに色が付き、その色が画面で降って来るキーに対応している。
そんな訳で、降って来る様々な色のキャラクターに合わせて、9つの大きなボタンを、叩く訳だが、揚羽と二人並んでやる場合は、ボタンを分け合う事になる。取りあえず、様子見で俺が7つ、揚羽が2つのボタンを担当した訳だが……。
うん。まぁ、彼女の性格を見ていたら何となくわかっていた事なのだが……お察しの通り、彼女の音楽センスだけでなく、ゲームセンスも含め、全てにおいて壊滅的で、いっそ清々しいほど見事に、BADとMISSを連発していた。
彼女がボタンを押すたびに、凄い勢いでゲージをゴリゴリと削るので、俺がそれを穴埋めする。結果、俺にミスは許されず、何故か一人でやるより難易度が上がると言う、謎な現象が起きていた。
それでも、何とか最終ステージまでは、持ってこれたのだが……流石に最後だけあって、難易度が高い。
うーむ、中々にキツイ。この曲は余り記憶にないから、初見に等しいしな……。
俺は必死に彼女のミスを穴埋めすべく、完璧な演奏を求められていた訳で。結果、左端でMISSとBADが乱舞する横で、GREATが弱々しく踊る。そんな状況なので、俺にも良く分からない使命感と、クリアーに対する執念の様な物が芽生え始めていた。
だがしかし、そんな俺の必死の抵抗も空しく、じりじりとゲージが減っていく訳だが、そんな俺の頑張りなど知る由もない彼女は、とんでもない事をし始めた。
「むぅうう!! こうなったら、連打よ! あたたたたた!!」
下手な鉄砲数、数打ちゃ当たるとでもいうかのように、左のポンコツは自分の2つのボタンを連打し始めた。
その瞬間に、急速に削られるゲージと、左端に乱舞するMISSの表示。
「やめんか。」
既にクリアーを目指し、本気モードに入っていた事もあり、流石にイラッと来た俺は、躊躇なく左手で彼女の顔にアイアンクロ―を決める。何故だか、これが咄嗟に出た。
「あだだあだぁ!? お兄さん、割れる、割れちゃう!?」
画面をチラ見しながら、右手で何とかキーを捌きつつ、俺は悲鳴を上げるポンコツ娘に、モノ申す。
「あのね、連打すると全部MISS扱いなの。頼むから、その白い線の近くで、一回だけ押してくれ。クリアーしたくないの?」
「はい! わか、わかりましたから! お兄さん、放してぇ!」
見ると周囲からどよめきと共に、好奇の視線が注がれるのを感じたが、俺はあえて無視した。
その言葉を受け、俺は手を離すと、変なうめき声を上げる彼女の頭の上に手を置き、ポンポンと軽く叩くように撫でる。
「その2レーンは頼むぞ、相棒。」
そう言い放った俺は、削られたゲージの回復に努める。
曲が終わるまで、あまり時間も無い。間に合うかは、微妙なラインだった。
ふと見ると、揚羽が顔を真っ赤にしながら、呆けた様に俺の背中を見ていた。
ん? 少し強くアイアンクロ―をやりすぎたか? そう思うも、俺の視線に気づくとすぐに首を振り、少し勢い込んで歩いてくると、2つのボタンに手を置く。
チラリと盗み見たその横顔は、本当に真剣そのもので、そんな彼女を見て、俺は首を傾げるも、すぐにゲームへと意識を戻した。
やるからには、クリアーしたい。
これはある意味、ゲーマーとしての意地のような物だ。
その一方で、意識の片隅には、こんな事に必死になっちゃって、馬鹿みたいだと思う自分が居るのも確かだった。
だが、それで良いんだと俺は思っている。
その瞬間、熱中して、頑張って、それで振り返ったら、馬鹿みたいだねって。
それだって、ゲームだろうが何だろうが、立派な思い出だろ? もし、同じ思い出なら、なるべく心を入れた方が、その後の思い入れだって深くなるさ。
チラリと横目で見ると、真剣な揚羽の表情がそこにあった。
そんな彼女を見て俺は思う。願わくば彼女にも、馬鹿だなって言えるような、楽しい思い出として残って欲しい。それはきっと、生きて行く上で大事な力になる筈だから。
そんな馬鹿みたいな事を、つらつらと考えながらも、曲はクライマックスを迎える。
ほぼ完璧にこなしたが、ゲージは、ギリギリ1目盛り分足りない。後1回、成功すれば、クリアーは確定だろうが。
だが、無情にも、俺のレーンにはもう、キーは振って来なかった。
最後の一つ。
それは揚羽のレーンにゆっくりと降りて来ていた。
不安そうな表情で、俺を見上げる揚羽。
そんな彼女を見て、俺は頷くと、彼女の肩越しから覗きこむ様に、筐体の画面を見る。
俺の顔と彼女の顔がほぼ一線に並ぶ。ふわりと甘い匂いがした。
一瞬、息をのむ彼女。そして、何となく耳まで真っ赤になるのが見えたが、今は捨て置く。
こちとら、真剣勝負の真っ最中なのである。
「揚羽、最後は右手のキーだ。タイミングは俺が指示するから合せて。」
そんな俺の真剣な言葉を受けて、彼女も真っ赤になりながら、視線を筐体へと戻した。
何故だか良く分からないが、ピンと張り詰めた雰囲気が、この場を支配する。
まるで周りの雑踏から、この一帯だけ切り離されたようだ。
筐体から流れるポップな音楽が、この時ばかりは場違いにすら感じた。
なんだこの状況? まぁ、楽しいけど。
そんな良く分からない状況を俺は楽しみつつ、それでも半分は真剣に、落ちて来るマーカーを視界に捉えながら、その時を迎える。
「3……2……1……今!」
俺は、静かに、そう指示を出した。
その瞬間、揚羽がキーを押す。
奏でられた音。それは、たった一音だが、バックミュージックにかっちりと合わさる様に鳴り響いた。
そして、画面には、虹色に光るGREATの文字。
視線を寄越せば、ゲージは本当に僅かに一目盛りだけ赤く光っており、ステージクリア条件を満たしていた。
そして、数秒後……画面からは、ステージクリアの声が響く。
思わず俺は心の中で、ガッツポーズをとる。
と、同時に、何故か周りからどよめきと歓声が上がった。
何ごと!?
見ると、何故か周りの皆も我が事のように、喜んでくれていた。
いやいや、まぁ、真剣にはやったけど、周りも引きずられ過ぎだろう。ノリが良いのか何なのか。
俺はなんだか申し訳なくなって、ギャラリーに向かってペコペコとお辞儀をして回る。
そんな俺の横で、揚羽は言葉も無く、ジッと、自分の右手を見つめていたのだった。
フワフワとしながら、ゆらりと流れ、浮き、回り、そして、止まる。
その感覚は、激しい物では無く、優しく俺を包んでいた。
ずっとこのままで居たくなるような、そんな心地良さを伴って、俺を揺らす。
と同時に、またかと、心の片隅でため息を吐いた。
流石に、何度も繰り返せば、俺もいい加減に記憶に残す事が出来る。
そう、これで三度目だ。ん? 何か違和感が残る。はて。
俺は、気を抜けば霞がかる意識に舌打ちし、両手で頬を思いっきり叩いて活を入れると、周囲の状況を確認する。
どこまでも黒く、しかし、どこか安心する世界。
ふと何かの異質な気配を感じ、視線を俺の真下――あくまで感覚的に下ではあるが――へと視線を向けた。
ゆったりと俺の体が回転し、今まで見る事の出来なかった所へと視線が向く。
なんだ? あれは?
俺の遥か下方……そこは、黒いマグマとでも形容するしかない、何かが広がっていた。
粘性のあるであろうそれは、大きくうねり、時折、気泡が割れるかのように、その表面を大きく持ち上げ、爆ぜる。
その姿を見て、俺は何故だか、身を震わせた。
それが蠢く様は、何かとてつもない恐怖と嫌悪感を伴って、俺の心の奥を震わせるのだ。
「……お兄……ん……。」
ふと、天上側から声が降ってきた気がする。
見ると、黒い世界にあって、僅かに光の指す空間があった。
その光景は、まるで暗い部屋の壁にある亀裂から、光が漏れ差す様に、俺には見えた。
「ねぇ……。……兄さ……。お……てよ。」
俺がそんな光景を不思議そうに観察していると、おずおずと言う感じで、更に、控えめに声がかけられていた。
ふむ、良く分からんが、どうやら、また、彼女が呼んでいるようだ。
俺は泳ぐように、浮かび上がるようなイメージで微かな光へと向かう。
近づく度に、彼女の声がはっきりと聞こえるようになった。
それは、今までの時とは違い、明らかに精彩を欠く呼び声だった。
なるほど。不安なんだな。
俺は、遊園地でのやり取りを覚えていた。
それどころか、その前の事も思い出していた。
そう考えると、今までの不自然さに、思いつく。
食堂から落ちた事。
遊園地からの突然、この場所へと移動している事。
彼女が今までしてきた、数々の不振行動。
それらが意味する所は、もう、疑いようが無い訳で。
俺は、先程とは違った気持ちを抱き、再度、周りの様子を伺い、足元に広がる黒い溶岩へと視線を向けた。
そうか。そうすると、これが、俺の……。
一瞬、湧き上がった形容しがたい感情を、俺は首を振って霧散させる。
全く、これじゃ、ディーネちゃんに合わせる顔が無いな。
一瞬、そう思うも、ふと首を傾げる。
急激に霧散する、儚げな誰かの面影。
青いイメージと、海の様な広く暖かい何かが心をさらうも、それは瞬時に、泡の様に消え去った。
ディーネちゃんって、誰だ?
「うぅ……。起きてよ、お兄さぁん……。」
だが、俺が考えにふける前に、大分情けなくなった声が降り注いてきた。
そんな声を聞き、俺は苦笑しつつ、浮上を再開する。
早く起きないと、どうやら、不器用なこの子も泣いてしまいそうだしな。
俺はそう意識する。そう思うだけで、途端に目の前に光が迫る。
そうか。やはりここは……。
そして、光に包まれながら、俺の意識は覚醒へと向かった。
「お兄さぁん……。……やっぱり、私じゃ駄目だったんだ。姉さんの影響を跳ね除けるなんて……うぅ。」
見ると、最初の頃とは打って変わって、何とも情けない表情になった彼女がいた。
何だろうか。こっちのイメージの方がしっくりくる気がする。
ふと、誰かのイメージと目の前の彼女のイメージが重なる。
可愛らしいエプロンドレスを身に纏う少女が尻尾を振りつつ、「ふええぇええ!?」と言う、何とも情けない声を響かせた。
俺はそんなイメージに懐かしさと、良く分からない愛しさを覚えながら、情けない彼女の頭へと手を伸ばし、そっと撫でる。
幻想の先で、金色に輝く髪に鎮座した獣耳が揺れ、その顔が……ふと、目の前の少女へと重なった。
「お、お兄さん……起きたの!?」
その声で、幻の様に獣耳が消え、つややかな黒髪の少女が、半分泣きながら驚いたように声をかけて来た。
なんだ? 今のイメージは……。
そう戸惑いつつも、今の最優先事項は、目の前の彼女の不安を払拭する事だろう。
そう思った俺は再度、優しく彼女の頭を撫でると、はっきりと口にした。
「ああ、おはよう。揚羽。」
その瞬間、揚羽は目を潤ませると、すぐに顔を背けて、ベッドから離れる。
ゆっくりと体を起こし、彼女の様子をそっと伺うと、どうやら、泣いているようだ。
しかし、恥ずかしいのだろう。俺にその姿を見せまいと、必死に耐えているようだった。
まぁ、肩を震わせて、袖で目を拭ったらバレバレなんだが、とりあえず、突っ込まないでおく。
あああ、そんなに思い切り拭ったら目が赤くなるだろうが。
そう思うも、声をかける訳にも行かないので、俺はわざとらしく声を出しながら伸びをすると、「あぁ~良く寝た!」と、少し大げさに、見てないアピールしておいた。
そして、徐に、カーテンを開け、窓から光を呼び込む。
「うん、今日も良い天気になりそうだな。」
窓の外に広がる青い空を見上げながら、3度目の朝が来た事を俺は実感したのだった。
「ねぇねぇ、先輩! 私の名前、もう一度、言って下さいよ!」
「……はぁ……。だから、揚羽だろう? 何なんだ、今日は一体。」
「うふふふふ。」
と言うわけで、絶賛、登校中なのだが、先程から、このやり取りが三度続いている為、流石の春香も、不審げな眼差しを向けずにはいられないようである。
事情を知っている俺としては、良かったなぁと思わなくも無い訳だが、こればっかりは、どうしようもない。
あの後、食事の為に降りたリビングで、母親に、
「あら、揚羽ちゃん。今日もありがとうねぇ。」
とか言われ硬直してみたり、
「揚羽? そんな所で何やってるんだ?」
と、降りて来た春香に名前を呼ばれた事で、受け入れられた実感が、漸く湧いたらしい。
食事中は、なんとも幸せそうな笑顔であったし、それから、今に至るまで、ことある毎に何度もそうやって、確認している訳だ。
俺は、彼女の行動が、初めて褒められた子供のそれと同じようにしか見えないので、微笑ましく見ている。
まぁ、嬉しい時なんてそんなもんだな。
と言うか、そういう風に、素直に喜べるような子で良かったとも思う。それは、本当はとても純粋な心の持ち主だって証だし。
「お兄さん、遅れてますよ。ほら、早くしないと。」
そんな風に、俺が安全圏から生暖かく見守っていると、突然、揚羽が俺の右手を取って、両手で引っ張って来た。
流石の俺も、彼女の突然の行動に驚く。
はて、彼女は男性の事が嫌いだったのではなかっただろうか?
ふと見ると、春香が信じられない物を見たとでも言うように、硬直しながら、こちらを向き、目を見開いていた。
対照的に、そんな固まった彼女の方へ、俺を引っ張る揚羽は、とてもいい笑顔をしている。
それを見て、考える事をやめた。
まぁ、楽しんでいるならそれも良いかな。
そのまま彼女に引きずられる様に早足で移動すると、そんな元凶の彼女は、尚も驚く春香の手を取り、俺と春香の真ん中に当たり前のように納まる。
そんな状況が意味不明過ぎて、背の低い揚羽の頭を超え、春香と俺はお互いに視線を交わすも、次の瞬間、俺は笑ってしまった。
これでは、まるで……仲睦まじい親子の様ではないか。
俺の左には揚羽。その更に先には春香。
この構図は、さしずめ春香が母親役で、俺が父親役。揚羽は子供という事になる。
そう思うも、それを口にすると、お隣の美少女二人から、ご不満が出そうなので、俺は笑いながらも、言葉は飲み込んだ。
そんな風に、尚も声を殺して笑う俺を見て、当の本人たちは、不思議そうに首を傾げていたのだった。
3度目の目覚めが、春の様な緩やかな日差しの様に、暖かかったからだろうか。
あれから、さしたる問題も無く、数週間が経過した。
日常は暖かくも、徐々に激しく過ぎ去るようになった。ふと気づけば、夏もすぐそこまで来ている。
「お兄さん! ゲーセンに行きましょう!」
放課後、帰ろうと校門をくぐった所で、目を輝かせていう揚羽に、半ば拉致られるように、腕を取られ連行された。
彼女も、慣れて来たのだろうか? 以前では想像もつかない程、積極的に俺へとちょっかいをかけてくるようになったのだ。
しかも、以前のような迷う様子も無く、さも当たり前のように、俺を誘う……いや、拉致るのである。
まぁ、恐らく、俺が彼女を受け入れた事が、原因なのだろう。
俺に拒絶されていないという事が、よほど嬉しかったらしい。もしかすると、こういう風に、素の自分を見せられる相手が、今まで居なかった反動なのかもしれないな。
兎に角、俺から言わせれば、ちょっと好き放題にやり過ぎである。ただ、浮かれている時は、そんな事に気が付く筈もないし、俺も疲れはするが、それなりに楽しんでいる。
そんな風に、何だかんだ言いつつ、付き合うから、更に調子に乗っている部分はあるのかもしれないな。
まぁ、それも一時期の事かと思っている俺は、今は彼女の好きな様にやらせてやろうと、見守るつもりで、行動を共にしていた。
見ると春香も柴田も鈴君も、何か申し合わせたように、生暖かい目をしながら、手を振って俺達を見送っている。
この裏切り者めが……と思わなくもないが、実際、揚羽は、彼らを誘わず、俺だけを誘っていた。
その状況から、彼らはある意味、気を利かせているつもりなのだろうが、俺から言わせれば余計なお世話である。
鼻歌でも歌い出しそうな程、テンションの高い揚羽に気が付かれないように、俺はそっと後ろを振り返り、3人に向かって手招きした。
少しはお前らも、付き合え。
口の動きだけでそう伝えるも、3人は示し合わせた様に、素敵な笑顔を浮かべながら、首を振ると、柔らかく手を振り返してきた。
くそぉ……今に覚えてろ!!
そんな俺の心の叫びは、表に出る事無く、空しく消え去ったのだった。
その頃のゲーセンと言えば、格闘ゲームが主流で、ガラの悪いお兄ちゃん達も出入りするような所であると言う認識だったのだが、それが変わろうとしていた時だった。
くしくも、音ゲーと呼ばれる物が、流行り出し、それが店頭に置かれるようになったことで、女性も薄暗い店内に入る事無く楽しめるようになった事が、大きな要因だったのではないかと、俺は思っている。
という訳で、その例に漏れず、彼女のお目当ては、その音ゲーであるらしい。
音ゲー、リズムゲーと呼ばれるこの手のゲームには、いくつかの共通点がある。
まずは、音やリズムを関するだけあって、音が出る。筐体正面に付いた大型のスピーカーから、そりゃもう、公害と言うレベルで音楽が流れるのだ。
それに合わせて、降って来る……もしくは移動して来るマーカーが、決められた場所に来た時に、タイミングよく、対応するキーを押すと、成功である。その時、押したキーによって、様々な音が出る。これが上手く押せると、あたかも自分が音楽に合わせて演奏しているような気分になれるのだ。
成功すると、音楽に合わせて音が出ると同時に、ゲージが溜まり、それが一定量たまった状態で曲を終えれば、ステージクリアーとなる。
ちなみに失敗すれば、音がずれて不快なだけでなく、ゲージも下がる。
そうして、なるべく失敗しない様に、キーを叩いて、可能であれば、カッコよく曲を奏でる。
それが、音ゲーの基本となる訳だが……。
「ぐぬぬぬ! ちょあ! てや! はいよぉー!」
良く分からない奇声を上げつつ、髪を振り乱し、手元のボタンを叩く少女が俺の隣にいる。
そんな彼女の様子が面白いのか何なのか、1曲目だと言うのに、中々に多くのギャラリーが俺らの背中に視線を送っていた。
もうヤダ、逃げたい。
今回、彼女がご所望だったのは、可愛いキャラとポップなデザインが売りの、人気ゲームだった。
ハンマーか何かで叩く方が似合いそうな程、大きなボタンは、全部で9つ。それぞれに色が付き、その色が画面で降って来るキーに対応している。
そんな訳で、降って来る様々な色のキャラクターに合わせて、9つの大きなボタンを、叩く訳だが、揚羽と二人並んでやる場合は、ボタンを分け合う事になる。取りあえず、様子見で俺が7つ、揚羽が2つのボタンを担当した訳だが……。
うん。まぁ、彼女の性格を見ていたら何となくわかっていた事なのだが……お察しの通り、彼女の音楽センスだけでなく、ゲームセンスも含め、全てにおいて壊滅的で、いっそ清々しいほど見事に、BADとMISSを連発していた。
彼女がボタンを押すたびに、凄い勢いでゲージをゴリゴリと削るので、俺がそれを穴埋めする。結果、俺にミスは許されず、何故か一人でやるより難易度が上がると言う、謎な現象が起きていた。
それでも、何とか最終ステージまでは、持ってこれたのだが……流石に最後だけあって、難易度が高い。
うーむ、中々にキツイ。この曲は余り記憶にないから、初見に等しいしな……。
俺は必死に彼女のミスを穴埋めすべく、完璧な演奏を求められていた訳で。結果、左端でMISSとBADが乱舞する横で、GREATが弱々しく踊る。そんな状況なので、俺にも良く分からない使命感と、クリアーに対する執念の様な物が芽生え始めていた。
だがしかし、そんな俺の必死の抵抗も空しく、じりじりとゲージが減っていく訳だが、そんな俺の頑張りなど知る由もない彼女は、とんでもない事をし始めた。
「むぅうう!! こうなったら、連打よ! あたたたたた!!」
下手な鉄砲数、数打ちゃ当たるとでもいうかのように、左のポンコツは自分の2つのボタンを連打し始めた。
その瞬間に、急速に削られるゲージと、左端に乱舞するMISSの表示。
「やめんか。」
既にクリアーを目指し、本気モードに入っていた事もあり、流石にイラッと来た俺は、躊躇なく左手で彼女の顔にアイアンクロ―を決める。何故だか、これが咄嗟に出た。
「あだだあだぁ!? お兄さん、割れる、割れちゃう!?」
画面をチラ見しながら、右手で何とかキーを捌きつつ、俺は悲鳴を上げるポンコツ娘に、モノ申す。
「あのね、連打すると全部MISS扱いなの。頼むから、その白い線の近くで、一回だけ押してくれ。クリアーしたくないの?」
「はい! わか、わかりましたから! お兄さん、放してぇ!」
見ると周囲からどよめきと共に、好奇の視線が注がれるのを感じたが、俺はあえて無視した。
その言葉を受け、俺は手を離すと、変なうめき声を上げる彼女の頭の上に手を置き、ポンポンと軽く叩くように撫でる。
「その2レーンは頼むぞ、相棒。」
そう言い放った俺は、削られたゲージの回復に努める。
曲が終わるまで、あまり時間も無い。間に合うかは、微妙なラインだった。
ふと見ると、揚羽が顔を真っ赤にしながら、呆けた様に俺の背中を見ていた。
ん? 少し強くアイアンクロ―をやりすぎたか? そう思うも、俺の視線に気づくとすぐに首を振り、少し勢い込んで歩いてくると、2つのボタンに手を置く。
チラリと盗み見たその横顔は、本当に真剣そのもので、そんな彼女を見て、俺は首を傾げるも、すぐにゲームへと意識を戻した。
やるからには、クリアーしたい。
これはある意味、ゲーマーとしての意地のような物だ。
その一方で、意識の片隅には、こんな事に必死になっちゃって、馬鹿みたいだと思う自分が居るのも確かだった。
だが、それで良いんだと俺は思っている。
その瞬間、熱中して、頑張って、それで振り返ったら、馬鹿みたいだねって。
それだって、ゲームだろうが何だろうが、立派な思い出だろ? もし、同じ思い出なら、なるべく心を入れた方が、その後の思い入れだって深くなるさ。
チラリと横目で見ると、真剣な揚羽の表情がそこにあった。
そんな彼女を見て俺は思う。願わくば彼女にも、馬鹿だなって言えるような、楽しい思い出として残って欲しい。それはきっと、生きて行く上で大事な力になる筈だから。
そんな馬鹿みたいな事を、つらつらと考えながらも、曲はクライマックスを迎える。
ほぼ完璧にこなしたが、ゲージは、ギリギリ1目盛り分足りない。後1回、成功すれば、クリアーは確定だろうが。
だが、無情にも、俺のレーンにはもう、キーは振って来なかった。
最後の一つ。
それは揚羽のレーンにゆっくりと降りて来ていた。
不安そうな表情で、俺を見上げる揚羽。
そんな彼女を見て、俺は頷くと、彼女の肩越しから覗きこむ様に、筐体の画面を見る。
俺の顔と彼女の顔がほぼ一線に並ぶ。ふわりと甘い匂いがした。
一瞬、息をのむ彼女。そして、何となく耳まで真っ赤になるのが見えたが、今は捨て置く。
こちとら、真剣勝負の真っ最中なのである。
「揚羽、最後は右手のキーだ。タイミングは俺が指示するから合せて。」
そんな俺の真剣な言葉を受けて、彼女も真っ赤になりながら、視線を筐体へと戻した。
何故だか良く分からないが、ピンと張り詰めた雰囲気が、この場を支配する。
まるで周りの雑踏から、この一帯だけ切り離されたようだ。
筐体から流れるポップな音楽が、この時ばかりは場違いにすら感じた。
なんだこの状況? まぁ、楽しいけど。
そんな良く分からない状況を俺は楽しみつつ、それでも半分は真剣に、落ちて来るマーカーを視界に捉えながら、その時を迎える。
「3……2……1……今!」
俺は、静かに、そう指示を出した。
その瞬間、揚羽がキーを押す。
奏でられた音。それは、たった一音だが、バックミュージックにかっちりと合わさる様に鳴り響いた。
そして、画面には、虹色に光るGREATの文字。
視線を寄越せば、ゲージは本当に僅かに一目盛りだけ赤く光っており、ステージクリア条件を満たしていた。
そして、数秒後……画面からは、ステージクリアの声が響く。
思わず俺は心の中で、ガッツポーズをとる。
と、同時に、何故か周りからどよめきと歓声が上がった。
何ごと!?
見ると、何故か周りの皆も我が事のように、喜んでくれていた。
いやいや、まぁ、真剣にはやったけど、周りも引きずられ過ぎだろう。ノリが良いのか何なのか。
俺はなんだか申し訳なくなって、ギャラリーに向かってペコペコとお辞儀をして回る。
そんな俺の横で、揚羽は言葉も無く、ジッと、自分の右手を見つめていたのだった。
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