比翼の鳥
第１１話：お勉強 （良い子の国語編）
まず真っ先に必要なことは、会話力の強化だと俺は考えた。もう少し突っ込めば、語彙の増加だ。
今までは、俺が質問を密にする事でなんとか意思疎通を図って来たが、これでは非効率だ。
それに、感情と言葉と言うのは切っても切れない関係にあると俺は思っている。スムーズに言葉を紡ぐことは、素直に感情を表す事につながるのだ。それはそうだ…言葉と言うのは、自分の気持ちを相手に伝える為にあるのだから…。
「と、いう訳で、ルナには色々な言葉を覚えて貰おうと思う。」
俺はそう宣言する。ルナは、「んむ」と言う感じで大きく頷いた。
「そこで、まずは…質問の仕方を教えたい。ちなみに、質問と言うのは俺に聞きたい事がある時にする事ね？」
ルナは「おおー」と言う感じで目を見開いて、興奮している。
「こう、手を上げて。俺を呼ぶこと。丁寧に呼ぶなら、『先生、質問です！』と言うのが良いね。」
何事も形からと、少し形式ぶって教えてみた。ちなみに、ルナはノリノリである。
「んで、その後に、分からない事や物を指して、『それは何ですか？』と聞いてくれ。」
ちなみに、この機会に、「こそあど言葉」についても軽く教えておいた。
一応おさらいだが、こそあど言葉とは、『これ・それ・あれ・どれ？』を概略化したものだ。
基本的にルナは指を差して聞くことが多そうなので、真っ先に距離と言葉の概念を教えた。
指でさしている物が、俺の目の前にある物なのか遠くにある物なのか、切り分けをさせるためだ。
「んじゃ、何か質問はありますか？ルナさん。」
そう、少しおちゃらけて質問を投げかける。
すると、ルナは天に向かって斜め４５度にビシィ！と右手を掲げて…って、その角度だとハィール！って感じですよ？まぁ、良いけど。
「ツバサ。質問…ある。」
顔はいたって真剣だが…。
流石に、流暢に質問するのは、ルナには難易度が高いらしい。
「はい、ルナさん。何でしょう？」
俺がそう切り返すと、「んー」と考え込むルナ。
質問考えてなかったんかい！！
しばらくすると、ルナはこれだ！と言う顔をして、俺の靴を指さした。
「これ…何？」
そう言われて、俺は改めてルナが靴を履いていない事に気が付いた。
おう…裸足でこの森の中を歩き回っていたのか…。どういう足の裏をしているのだろうか…。
まだまだ、ルナは謎に満ちているのだった。
それはからのルナは水を得た魚の様に、目につくありとあらゆる物を質問の対象としてきた。
もちろん俺も、ただ質問されるだけでなく、教えた物を確認する意味で、「あれは何だっけ？」と逆に質問し返す事で、聞かれた言葉の確認を行ったりしつつ、色々な言葉をルナに教えていった。
一通り、質問のやり取りをして満足したのか、ルナはまたリンゴ(仮)を倒木からもいできて、もふもふと食べ始めた。
俺も質問攻めにあって、少し喉が渇いた感じがしたので、一つのリンゴ(仮)にがぶりつく。
うむ、このみずみずしさと新鮮な甘みは癖になる。
既に日は天頂に差し掛かっている。そろそろ正午だな。
そして、折り重なるように大地に横たわるリンゴ(仮)の木を見て、何とか利用できないかと考える。
まず、リンゴ(仮)の実だが、これはルナの魔法を使えば冷凍保存できるのではないかと思っている。洞窟にあった水場にでも水張って放り込んで、凍結させればよいのだ。
いっぺんに洞窟住居に運ぶことは無理だと思うが、何回かに分ければかなりの数は回収できるだろう。
次に倒木だが、これは乾燥させて薪に出来ないかと考えている。今は暖かいかもしれないが、暖を取りたくなった時に、薪が無いのは致命的だろう。見た感じ、今までルナは火を魔法で出していないし、苦手なのかもしれない。
後は…、切株があるなら、もしかしたら活性化してあげれば芽が出るかもしれないな。
新芽の部分を接ぎ木しても良いかもしれない。時間はあるから、色々試してみるのが良いだろう。
そう、方針を固めると、ルナに説明する。
いくら無自覚とはいえ、この惨状を作ってしまった本人からすれば心苦しいのは変わらないだろう。
少しでもこの惨状を生かす事が出来るなら、ルナの罪悪感を和らげるにも一役買えるだろう。
まず、倒木から実をもいで回った。と言っても、森の生き物たちも食べるかもしれないので、３分の１位は残しておいた。
次に、実をもいだ倒木を日のよく当たる場所に並べて積んでいった。てっとり早く乾燥できればと思ったのだ。
ちなみに、運ぶのは最初、俺が死にそうになりながらやった。なんとか動かせる程の微妙な重さだったのが憎らしい。駄目なら諦めもつくのに…。ニートに肉体労働は鬼門過ぎる…。
と思ったら、ルナが風を起こして援護してくれた。ある程度転がしてやればよいだけになったので格段に楽になった。
やはり魔法は便利すぎる…。是非使えるようになりたい。
しかし、こんな広場の真っただ中に倒木を置いたら、雨が降ったらびしょ濡れだろうがその時はその時だ…。素人がやる事だから手探りで行くしかない。
もいだ実は、俺のＹシャツをくくって袋状にしたものに詰めて背負って運んだ。
他にも自分の身長ほどもある大きな葉っぱがあったので、ルナと端を持ち寄って袋代わりに実を入れて運んだ。これが中々の安定感で、多くの実を一度に運ぶことが出来た。結局、３往復程したが、予定した全ての実を洞窟住居に運んだ。
運んだ実の半分ほどは、ルナに氷漬けにしてもらった。
ちょうど湖の辺の近くに、氷室になりそうな部分を見付けたので、そこを仮の冷蔵室とした。
氷がさっくり溶けなければ良いのだが…最初の内はちょくちょく見に行かないとだめだな。
後、切株と化した木には、ルナにヒールとおぼしき治療魔法をかけて貰った。（以下、ヒールと呼ぶことにした）
魔力の様な物が枯渇するんじゃないかと聞いたが、幾らかけても問題は無いと言われた。
魔力に相当するものは無いんだろうか？それともルナが規格外なのだろうか…？要調査だな。
切株の蘇生がてら、切株にそのままヒールしたものと、接ぎ木してヒールしたものの２つを用意した。どっちの方が効率的に成長するか見てみたかったのだ。
更に、洞窟住居の近くの比較的日当たりの良い場所に生えている木に、リンゴ(仮)の木の新芽部分を接ぎ木してみた。ルナにもヒールをかけて貰ったが、どうなることやら？
仮に芽が順調に成長して実を付ければ、実を取りに行く時間が短縮できるかもしれない。
まぁ、そこまでの量の実が生るかは微妙だが。
慌ただしく動いているうちに、だんだんと日が傾いて来た。ああ、今日も１日が終わる。
この世界の夕暮れも、元の世界と同じく、俺に哀愁を感じさせた。
しばらくの間、俺は郷愁に浸っていたが、がぶりを振るとルナに声をかける。
「もうすぐ夕暮れ時だな。幸いやりたい事もひと段落したし、今日はこの辺りで良いだろう。ルナ！帰ろう！」
接ぎ木した木にヒールをしたり、質問するものを探したりして、ちょこちょこ動いていたルナだったが、俺の声を聞いて寄って来た。そして、無言で手を「んっ」と差し出す。
どうやらこのお姫様、今日一日動き回っているうちに、手をつなぐことがいたく気に入ったらしい。
俺は苦笑しつつ、その小さな手を優しく握ると「んふー」と言う感じで、ルナが笑顔になる。
小さな手から伝わるその暖かさを、俺は守りたいと思いつつ家路へとつくのだった。
今までは、俺が質問を密にする事でなんとか意思疎通を図って来たが、これでは非効率だ。
それに、感情と言葉と言うのは切っても切れない関係にあると俺は思っている。スムーズに言葉を紡ぐことは、素直に感情を表す事につながるのだ。それはそうだ…言葉と言うのは、自分の気持ちを相手に伝える為にあるのだから…。
「と、いう訳で、ルナには色々な言葉を覚えて貰おうと思う。」
俺はそう宣言する。ルナは、「んむ」と言う感じで大きく頷いた。
「そこで、まずは…質問の仕方を教えたい。ちなみに、質問と言うのは俺に聞きたい事がある時にする事ね？」
ルナは「おおー」と言う感じで目を見開いて、興奮している。
「こう、手を上げて。俺を呼ぶこと。丁寧に呼ぶなら、『先生、質問です！』と言うのが良いね。」
何事も形からと、少し形式ぶって教えてみた。ちなみに、ルナはノリノリである。
「んで、その後に、分からない事や物を指して、『それは何ですか？』と聞いてくれ。」
ちなみに、この機会に、「こそあど言葉」についても軽く教えておいた。
一応おさらいだが、こそあど言葉とは、『これ・それ・あれ・どれ？』を概略化したものだ。
基本的にルナは指を差して聞くことが多そうなので、真っ先に距離と言葉の概念を教えた。
指でさしている物が、俺の目の前にある物なのか遠くにある物なのか、切り分けをさせるためだ。
「んじゃ、何か質問はありますか？ルナさん。」
そう、少しおちゃらけて質問を投げかける。
すると、ルナは天に向かって斜め４５度にビシィ！と右手を掲げて…って、その角度だとハィール！って感じですよ？まぁ、良いけど。
「ツバサ。質問…ある。」
顔はいたって真剣だが…。
流石に、流暢に質問するのは、ルナには難易度が高いらしい。
「はい、ルナさん。何でしょう？」
俺がそう切り返すと、「んー」と考え込むルナ。
質問考えてなかったんかい！！
しばらくすると、ルナはこれだ！と言う顔をして、俺の靴を指さした。
「これ…何？」
そう言われて、俺は改めてルナが靴を履いていない事に気が付いた。
おう…裸足でこの森の中を歩き回っていたのか…。どういう足の裏をしているのだろうか…。
まだまだ、ルナは謎に満ちているのだった。
それはからのルナは水を得た魚の様に、目につくありとあらゆる物を質問の対象としてきた。
もちろん俺も、ただ質問されるだけでなく、教えた物を確認する意味で、「あれは何だっけ？」と逆に質問し返す事で、聞かれた言葉の確認を行ったりしつつ、色々な言葉をルナに教えていった。
一通り、質問のやり取りをして満足したのか、ルナはまたリンゴ(仮)を倒木からもいできて、もふもふと食べ始めた。
俺も質問攻めにあって、少し喉が渇いた感じがしたので、一つのリンゴ(仮)にがぶりつく。
うむ、このみずみずしさと新鮮な甘みは癖になる。
既に日は天頂に差し掛かっている。そろそろ正午だな。
そして、折り重なるように大地に横たわるリンゴ(仮)の木を見て、何とか利用できないかと考える。
まず、リンゴ(仮)の実だが、これはルナの魔法を使えば冷凍保存できるのではないかと思っている。洞窟にあった水場にでも水張って放り込んで、凍結させればよいのだ。
いっぺんに洞窟住居に運ぶことは無理だと思うが、何回かに分ければかなりの数は回収できるだろう。
次に倒木だが、これは乾燥させて薪に出来ないかと考えている。今は暖かいかもしれないが、暖を取りたくなった時に、薪が無いのは致命的だろう。見た感じ、今までルナは火を魔法で出していないし、苦手なのかもしれない。
後は…、切株があるなら、もしかしたら活性化してあげれば芽が出るかもしれないな。
新芽の部分を接ぎ木しても良いかもしれない。時間はあるから、色々試してみるのが良いだろう。
そう、方針を固めると、ルナに説明する。
いくら無自覚とはいえ、この惨状を作ってしまった本人からすれば心苦しいのは変わらないだろう。
少しでもこの惨状を生かす事が出来るなら、ルナの罪悪感を和らげるにも一役買えるだろう。
まず、倒木から実をもいで回った。と言っても、森の生き物たちも食べるかもしれないので、３分の１位は残しておいた。
次に、実をもいだ倒木を日のよく当たる場所に並べて積んでいった。てっとり早く乾燥できればと思ったのだ。
ちなみに、運ぶのは最初、俺が死にそうになりながらやった。なんとか動かせる程の微妙な重さだったのが憎らしい。駄目なら諦めもつくのに…。ニートに肉体労働は鬼門過ぎる…。
と思ったら、ルナが風を起こして援護してくれた。ある程度転がしてやればよいだけになったので格段に楽になった。
やはり魔法は便利すぎる…。是非使えるようになりたい。
しかし、こんな広場の真っただ中に倒木を置いたら、雨が降ったらびしょ濡れだろうがその時はその時だ…。素人がやる事だから手探りで行くしかない。
もいだ実は、俺のＹシャツをくくって袋状にしたものに詰めて背負って運んだ。
他にも自分の身長ほどもある大きな葉っぱがあったので、ルナと端を持ち寄って袋代わりに実を入れて運んだ。これが中々の安定感で、多くの実を一度に運ぶことが出来た。結局、３往復程したが、予定した全ての実を洞窟住居に運んだ。
運んだ実の半分ほどは、ルナに氷漬けにしてもらった。
ちょうど湖の辺の近くに、氷室になりそうな部分を見付けたので、そこを仮の冷蔵室とした。
氷がさっくり溶けなければ良いのだが…最初の内はちょくちょく見に行かないとだめだな。
後、切株と化した木には、ルナにヒールとおぼしき治療魔法をかけて貰った。（以下、ヒールと呼ぶことにした）
魔力の様な物が枯渇するんじゃないかと聞いたが、幾らかけても問題は無いと言われた。
魔力に相当するものは無いんだろうか？それともルナが規格外なのだろうか…？要調査だな。
切株の蘇生がてら、切株にそのままヒールしたものと、接ぎ木してヒールしたものの２つを用意した。どっちの方が効率的に成長するか見てみたかったのだ。
更に、洞窟住居の近くの比較的日当たりの良い場所に生えている木に、リンゴ(仮)の木の新芽部分を接ぎ木してみた。ルナにもヒールをかけて貰ったが、どうなることやら？
仮に芽が順調に成長して実を付ければ、実を取りに行く時間が短縮できるかもしれない。
まぁ、そこまでの量の実が生るかは微妙だが。
慌ただしく動いているうちに、だんだんと日が傾いて来た。ああ、今日も１日が終わる。
この世界の夕暮れも、元の世界と同じく、俺に哀愁を感じさせた。
しばらくの間、俺は郷愁に浸っていたが、がぶりを振るとルナに声をかける。
「もうすぐ夕暮れ時だな。幸いやりたい事もひと段落したし、今日はこの辺りで良いだろう。ルナ！帰ろう！」
接ぎ木した木にヒールをしたり、質問するものを探したりして、ちょこちょこ動いていたルナだったが、俺の声を聞いて寄って来た。そして、無言で手を「んっ」と差し出す。
どうやらこのお姫様、今日一日動き回っているうちに、手をつなぐことがいたく気に入ったらしい。
俺は苦笑しつつ、その小さな手を優しく握ると「んふー」と言う感じで、ルナが笑顔になる。
小さな手から伝わるその暖かさを、俺は守りたいと思いつつ家路へとつくのだった。
コメント
コメントを書く