比翼の鳥

風慎

第9話【翼の章:(取引)男衆 ~ 心の壁】

 ゆさゆさと揺さぶられる感覚で、少しずつ意識が浮上してきたの。
 フワフワとする感覚の中、顔を上げると、見慣れない風景……。
 あ、そっか……ルカール村って言う所に来てるんだった。

 周りを見渡すと、皆でルナの事を微笑みながら見ていたの。
 何だか……こういうのも素敵だなぁって、思ったんだ。
 そんな事を思っていたら、リリーさんが声をかけてきたの。

「ルナ様。お母さんが服を用意したので着てみませんか?」

 服? んー? けど、ルナ……ツバサの服があるから大丈夫だよ?
 けど、リリーさんは「さぁ、どうぞ。」ってルナの手を掴んで、奥の部屋へと向かおうとするの。
 困ってツバサを見たら、笑顔で頷いていたの。
 んー。じゃあ、とりあえず、着るだけ着てみようかな?

 そうして、ルナは、リリーさんに伴われて、奥の部屋に入ったの。
 そこは、普段リリーさんの部屋として使ってるらしくて、可愛い小物や、飾りが部屋の壁にさり気なく飾られていたの。
 あ、あの葉っぱで作られている飾り、綺麗だなぁ。
 こっちは、木の実かな? 紐で結わいて天井から吊るしてある。
 何か意味があるのかな? 何か分からないけど、これも素敵!
 ルナがきょろきょろしていると、レイリさんがやってきて、声をかけてきたの。

「ではルナ様。お着替えを致しましょう。その切れ端……コホン……服を脱いで頂いても宜しいでしょうか?」

 服を脱げばいいの? わかった!
 腰に巻きつけていた元の服はすぐに取れるんだけど……このワイシャツって言うツバサの服は……んしょんしょ……ボタン? って言うのが、外すの難しいんだよね。
 んしょ……よし……取れた! 服脱いだよ? レイリさん。
 あれ? 2人ともどうして固まっているの? リリーさん、なんでお顔が真っ赤なの?
 ルナが不思議に思っていると、2人とも興奮したように、突然叫び始めたの。

「な、なんと言うプロポーションですか!? これがツバサ様を虜に!! 肌もすべすべで……しかも、白くて!!」
「ルナ様、凄い綺麗!! 裸の女性を見て感動するとは思いませんでした!」

 思わず、ルナ、2人の勢いを見て、後ずさっちゃったの。

「白い髪もキラキラ光って……ルナ様、御伽噺に出てくる女神様みたいですよ?」

 リリーさんがウットリしたように、ルナを見つめているの。
 何だろう……顔が真っ赤になっちゃう。
 褒められて嬉しいんだけど……心の奥がうずうずして、恥ずかしいから体もモジモジしちゃって落ち着かないよ。

「フフフ……ルナ様、照れておいでですね? 恥ずかしがる必要はございませんわ? ここは女同士。気兼ねなくその、素晴らしいお姿をお見せください。」

 これが照れ……? 恥ずかしいって気持ちと同じような感じなんだけど、何で裸を見られて恥ずかしいんだろう? 前はそんな事なかったのに……。
 それで、レイリさんもそんな風に言ってくれるんだけど……何だろう?
 その目の奥から凄く怖い感じが、にじみ出て来ている気がするの。

「では、そのお体に触るのは少々心苦しくはあるのですが……お服を身に着けましょうね?」
「ルナ様? 大丈夫でございます。このレイリ。誠心誠意をもって、ルナ様のお体を磨き上げますからね?」

 そう2人とも、手をワキワキとさせながらルナに近寄ってくるの。
 はぅ!? 2人とも何だか怖いの!? やだ! やめて! んにゃーーーー!?


「ルナ様! 似合ってますよ! これで私とお揃いですね!」
「ええ、とっても良くお似合いですよ。仕立て直した甲斐がありましたね。」

 ルナは少し疲れた顔で、2人の言葉を聞いていたの。
 うう……ルナ色んなとこを触られちゃったよ……ツバサにも触らせたことないのに。
 変なところ触られると力が出なくて、2人に抗えなかったの……。
 魔法も使うわけには行かなかったし……。

『……解答いたします。ルナ様が余りにお綺麗なので、2人とも少々羽目を外したご様子です。しかしながらルナ様の純潔は守られておりますので、問題はないと推察されます。』

 コティ……けど、ルナ凄く恥ずかしかったの!!
 くすぐったくて何も出来ないし……。

『……解答いたします。ツバサ様に触られるよりは、遥かにマシな状態です。それに、魔法を使われた場合、暴発した恐れがありますので、今回の対応で宜しかったかと思われます。』

 ツバサ……に? さっきみたいに……? あう!?
 やだ!? 違う……や、やじゃないけど、うううう……。
 何これ!? 変だよ!? ルナ、何だか凄く落ち着かなくて恥ずかしいの!?

 そんな様子のルナを見て、レイリさんは「あらあら?」と、笑いながらルナを見ていたの。
 そして、リリーさんは、いつの間にか姿を消していたの。

「ルナ様、とてもお似合いですよ? あら……けど、御髪が少し乱れておりますわね。直しましょうか。ここにお座り下さいな。」

 ルナは、そんなレイリさんの声に抗う事も無く、ポテッとレイリさんの前に座ったの。
「失礼致します。」と、声をかけて、レイリさんはルナの後ろに回ると、手で優しく髪をすいた後に、櫛ですいてくれたの。

 そんな風にルナの髪をすきながら、レイリさんは優しくルナに声をかけてきたの。

「ルナ様。失礼致しました。ルナ様のお体があまりにも綺麗な為、ちょっとだけ過剰にお体を磨きました。」

「うぅー酷いよ……。ルナ、凄く恥ずかしかったんだから。」

 そんな剥れたルナを見て、レイリさんは笑うと、

「しかし、ルナ様? 幾らお綺麗でも、ちゃんとお手入れをしませんと、肌が痛んでしまいますよ? そうすると、いざと言うと言うときに困ってしまいますよ?」

「いざ? どういう時なの?」

「フフフ……それは勿論、ツバサ様にそのお体を見ていただく時ですよ。」

 そんな風に、静かにレイリさんが言う言葉を、ルナは一瞬理解できなかったの。
 ルナの体を……ツバサが見る? 裸を……?
 ボンと音がしそうな程、ルナの顔が真っ赤になったのが自分でも分かったの。
 ツバサが!? ルナの!? あう!? はう!? そ、そんなの……そんなこと!?
 駄目駄目!? 恥ずかしいよ!! うううう……。

「フフフ……ルナ様はまだ、そこまでは無理ですか。けれど、その日のために、体を磨き上げるのも女性として大切な事ですよ? 勿論、ツバサ様はそんな事は気になさらないでしょうけども。」

 女性らしさ? それはなんだろう?
 女性と男性があるってことはルナにも分かるけど、その違いってそんなに大事なのかな?
 そんな風に考えていたルナに、レイリさんは優しく教えてくれたの。

「ルナ様。女性には女性の持つ魅力……素敵なところですね。それがあります。同じように男性には男性の持つ魅力がございます。勿論、それだけでその方の魅力の全てを語ることは出来ませんが、それを活かすことで、より、ルナ様を素敵に見せることができるのですよ?」

 そうなんだ。ツバサが素敵だと思えるのもそういう魅力があるからなのかな?
 聞いてみたら、レイリさんは少し困ったように、「ツバサ様は……男らしい魅力と言う意味では、ちょっと例外かもしれませんね。」って、微笑んだの。

 むぅ……難しいんだね。けど、レイリさんもリリーさんも、ルナから見てとても素敵に見えるの。
 それは、レイリさんの言う女らしさ? って言うものと関係している気がするんだ。

「ルナも……女らしさ……が分かったら、ツバサはもっとルナの事見てくれるかなぁ?」

「そうですわね。今でもルナ様は十分にお綺麗ですが、もっと綺麗になればツバサ様も目を離すことができなくなるやも知れませんわね。」

「本当!?」

「ええ。同じ女性から見ても、ルナ様はとても美しく可愛らしゅう御座いますわ。女性らしい所作が加われば、無敵でしょう。」

 そう、笑いながら「しかし、ルナ様は本当に、ツバサ様のことがお好きなのですね。」って、楽しそうにルナの髪をすきながら言って来たんだ。

「うん! ルナ、ツバサの事、大好きだよ! 色々、いやな事もあるけど、そんな事、全部吹き飛ばしちゃうくらいに、ツバサのためなら頑張れちゃうもん!」

 そんなルナの言葉を聞いて、レイリさんは少し考えるように「そうで御座いますか……。」って呟いた後、少し固い声で「ルナ様。お願いがございます。」って、言って来たんだ。

「ツバサ様とルナ様のお傍に、私とリリーを置いて頂く事は出来ませんか?」

「んー? ツバサが良いって言えば良いと思うよ? ルナ、2人の事好きだもん!」

「しかし、場合によっては……ルナ様にご心労をおかけする事もあるやも知れませんよ? リリーも女です。私はまだ、幾らでも自分をごまかす事が出来るでしょうが……リリーはまだ幼く、自分の感情をもてあますやも知れません。」

「んー? レイリさんの言う事は良く分からないけど、ルナ、皆で一緒にいられると嬉しいな! ツバサもきっと喜ぶと思うし!」

「……そうですか。分かりました。とりあえず、まずは、ツバサ様ご本人のお気持ちをしっかりと確かめてからに致しましょう。」

「うん! けど、ツバサも多分、皆と一緒に居たいと思ってるよ?」

「フフフ……そうで御座いますわね。ですが、それをより確かな物にするには、もう一歩踏み込む必要が御座いますわ。」

「もう一歩?」

「ええ、そのためにも、ルナ様にもお手伝い頂きたいのですが……宜しゅう御座いますか。」

 そう言うレイリさんの目は……なんだかとっても綺麗で、少し楽しそうに見えたんだ。


 レイリさんからお願いを聞いて、その話をしながらも、レイリさんはルナの髪を結ってくれたみたいだったの。
 いつもより後ろにかかる重さが違って、変な感じ。

「ルナ様。とてもお綺麗ですよ。」

 そんな風に言われて、ルナはやっぱり少し恥ずかしくって……。
 これで、ツバサも少しはルナの事見てくれるようになるかな? 抱きしめてくれるかな?

「では、ルナ様。ツバサ様がお待ちですよ。行きましょうか。」

 そう言ってレイリさんは先に行っちゃったの。
 うう……なんだか、凄く胸がドキドキする……。
 ツバサに見てもらいたいけど……もしも、ツバサがガッカリしちゃったらどうしよう?

 この扉の向こうにはツバサがいる。

 そう思うだけで、なんだか足が止まっちゃったの……。
 なんだろう? ツバサだよ? 怖くないよ? けど、嫌われるかもって思ったら……怖い。
 心がちっちゃくなるみたいに……胸が何かに押さえつけられるように……怖い……怖い? これが恐ろしさ?
 恐怖? この心が? ルナの全てを否定されるような……胸を鷲掴わしづかみにされるような、この感覚が恐怖。

 ルナの中にもあったんだ……皆の心の中にもあるんだ……。
 そんな時に、扉の向こうから皆の声が聞こえたの。
 皆が呼んでいる……。行かなきゃ。行かなきゃ……ツバサに喜んでもらえない!
 ルナは、そうやって自分を励まして……扉の向こうに出て行ったんだ。

 ツバサは直ぐにルナの事を見てくれて……。
 ドキドキしながらツバサの視線を受け止めて……。
 そんなツバサはジッとルナの姿を見ていて……ううぅ……は、恥ずかしいよ!
 どうかな? 変じゃないかな?
 ……うう、ツバサ! 何か言ってくれないと何だか凄く恥ずかしい!
 それとも……変なのかな? ツバサの好みに合わなかったのかな?

「ツバサ、変かな?」

 不安だったからルナ、聞いてみたの。
 こんなにツバサの視線が気になったのは……多分初めてだったの。

「い、いや、御免。ちょっとあまりに綺麗だったから、見惚れちゃったよ。やっぱりルナは着飾るともっと可愛くなるね!本当に良く似合っているよ。リリーも似合っているけど、ルナが着ると、また違う魅力を感じさせるね。」

 本当? 本当に!? 良かった! 嫌じゃなかったんだ!!
 そう分かった瞬間、今まで黒く締め付けるように、粟立つように落ち着かなかったルナの胸の中が、幸せな気分で満たされて……そっかぁ……良かった。
 レイリさんやリリーさんの言う事を聞いて、服を変えてみて良かった!!

 それから、ルナは皆にも褒められて、ツバサの横で撫でられて……幸せな気分だったの。
 その後、寝ることになって……さっきレイリさんに言われた通りに、ツバサと一緒に寝るって、お願いしたの。

 レイリさんは、さっき……こんな事を言って来たんだ。

「ツバサ様のお心を知る上でも、ルナ様や私達の魅力をもっと見せ付ける必要が御座います。ですから、私達とご一緒に寝ていただけるようにお願いして頂きたいのです。」

「んー? けど、ツバサは一緒に寝るのは駄目って……前はそんな事無かったのに……。」

「フフフ……それならそれで、お断りされても、私の方で上手く誘導いたしますわ。ルナ様は私達とツバサ様を一緒の床に誘導して頂ければ結構ですわ。」

「うん!! それなら、ルナ頑張るよ! とりあえずお願いすれば良いんだね!」

「ええ、宜しくお願いいたします。」

「それに……女性は時として、攻めが肝心ですのよ? ツバサ様のような朴念……いえ、少し消極的なお方は、押して押して押しまくって既成事実をこさえてしまった方が御しやすくあるでしょう。」

「むぅ……レイリさんの言う事はわからないけど……ルナも積極的? に行けば良いんだよね?」

「ええ、その通りで御座います。一緒に、ツバサ様をかどわ……おほん……皆を好きになって貰いましょう。」

「うん! 皆で一緒にツバサに好きになって貰えるよう、ルナも頑張るね!!」

 そんなやり取りをレイリさんと交わしていたから、ルナも一生懸命ツバサにお願いしたの。
 けど、ツバサはどうしても駄目って……うう……レイリさんごめんなさい。駄目だったよ。
 そんなルナの目を見てレイリさんは、大丈夫って言うように微笑むと、「ルナ様……こちらへ。」ってルナを隣の部屋へ連れて行ってくれたの。

 その部屋には、もこもこした柔らかいものがずらーって並べてあって、皆で寝れるようになってたの。
 布団って言うんだって! ほえー! 凄いな!

「では、ルナ様はそちらでお休み下さいませ。ツバサ様はルナ様のお隣で寝ていただくことに致しますわ。」

「わーい! ありがとう! レイリさん!!」

「いえいえ。では、上手くツバサ様を誘導したしますので、ルナ様も宜しくお願いいたしますね。」

「うん!」

 その後、ツバサが入ってきて、叫んだの。
 それから、レイリさんとツバサはずっと、言い合いをしてて……。
 ご奉仕? レイリさんが言った言葉で何でかツバサはとても困ったような辛そうな顔をしているの。
 ご奉仕したらツバサ喜んでくれる? そんな苦しそうな顔は、ルナ、見たくないな。
 けど、ルナがご奉仕するって言ったら、ますますツバサは困っちゃったの。

 その後も、突然向こうで寝るって言うからルナが着いていくって言ったら、ツバサはまた苦しそう。
 ルナそんなに邪魔なのかな? ルナがいるからそんな風にツバサは苦しいの?
 その時に、レイリさんがかけた言葉を受けて、ツバサが黙り込んじゃったの。
 何でそんなに私達を拒むの? って。うん、ルナもそう思ってる。だから聞きたい。
 けど、それを聞いたら、ルナは嫌われちゃうんじゃないかって……だから今まで聞けなかったの。
 でも、レイリさんが変わりに聞いてくれた。レイリさんってやっぱり凄い。
 それは、女性らしさ? って言うものをレイリさんが持ってるからなのかな?
 だとしたら、ルナも女性らしさを手に入れたら、もっとレイリさんみたいに強くなれるのかな?
 暫く、皆の考えが交じり合って……沈黙がその場を満たしたの。

 けど……その沈黙をツバサが破ってくれた。
 そして、ツバサの目に何か強く優しい光が宿ったのをルナは感じたんだ。

「すいません…さっきのレイリさんの一言でやっと気づけました。俺、思った以上に余裕が無かったんですね。ですから、どうしても壁を作ってしまって、自分の心に誰も入れないようにしてたみたいです。それは、ルナにもそうなってしまっていたようで…ごめんな、ルナ。」

 その目をルナに向けて……その時、ツバサに見つめられて……一瞬、胸がドクンって跳ねたの。
 これは何だろう? こんな複雑な気持ち……ルナは知らない。
 それでも、ルナは首を振って、ツバサに想いを伝えたんだ。

「ツバサが苦しんでいたのわかっていたから。何かはわからないけど、ルナのせいかもしれなかったから…。」

 ごめんね。ツバサ。ルナ、全然ツバサの事わかってあげられて無いんだ。
 それでもね……ルナはツバサの傍に居たいの。
 もっと頑張るから、ツバサに追いつけるように一杯頑張るから!

 そうしたら、ツバサは突然……ルナを抱きしめてくれたんだ。
 その時、ルナの心が、胸の奥が弾けたように、嬉しさに包まれたの。
 ツバサがちゃんとルナの事抱きしめてくれた!!
 ツバサはルナの事、嫌いじゃなかったんだ!!
 嬉しいな!! ありがとう! ツバサ!!
 ルナ、もっと……頑張るから……もう少し……待って……。

 その時、心の奥から、きんこーんって何か音が響いたの……。

『……報告いたします。比翼システム:ロック解除。オペレーティングを第二段階に移行いたします。』

 コティ? なぁに……ルナ……なんだか眠く……。
 そして、ルナの意識は闇に落ちたの。

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