比翼の鳥
第6話 翼族
それから、皆は、それぞれに意見を出し合い、今後の方針と対策を検討していった。
俺はその様子を見守りつつ、大事な部分にだけ指摘を入れ、問題点を浮き彫りにしていく。
そして、やはりと言うか、糞勇者の隷属への対抗策の部分で議論は煮詰まってしまう。
そこは俺もまだ、具体的な対策を組めていないのだ。
何しろどうやって防いだらよいのやら、皆目見当もつかない。
精神系の魔法なのだろうが……いや、そもそも魔法なのかも不明なのだが、目に見えないものだけに、どう防御魔法を構築して良いか取っ掛かりが掴めないでいるのだ。
そのため、次第と言葉が少なくなり、最終的には、皆、一様に黙ってしまう。
レイリさんが「これは……とりあえず、持ち越しですわね。」と呟いたとき、ルナが少し難しい顔をしながら、勢い良く手を上げた。
おや、珍しい……。そう思って、俺はその挙動を見守る。
ルナは、素早く虚空に文字を走らせ、その言葉を皆に伝える。
《 えっと、多分、何とかなると思うの。 》
「何じゃと!?」「本当ですか!?」
宇迦之さんとレイリさんが身を乗り出して、ルナに詰め寄る。
特にレイリさんは必死だ。
……そりゃそうだろう。
もしまた、隷属されて、あんな状態になったら、今度こそ首を吊りかねない。
それ位に、彼女にとってはトラウマだろう事は想像に難くないわけだ。
鬼気迫る2人の様子にも慌てず、ルナは笑顔のまま静かに頷くと、更に言葉を虚空に紡ぐ。
《 うん! ツバサならきっと何とかしてくれるよ! 》
まさかの無茶振りだった。
いやいや……ルナさんや。流石に、無理!
今の状態では、流石に何か取っ掛かりが無いと、いい返事を出す事はできない。
『成せばなる』と言う素敵な言葉もあるが、無責任に「俺に、任せろ!」と言えるほど、俺は若くない。
「ルナ……流石に、俺でも……。」
と、言いかけた俺をルナは目で制すと、虚空より何か引っ張り出した。
異空間より取り出されたそれを、俺に手渡してきたルナ。
良く分からないまでもそれを受け取り……そして、それを見た俺は思わず呻いた。
「これは……いつの間に?」
《 んと、ツバサが寝ていた時に、狸族の女の子が渡してくれたの。ツバサに渡してあげてって言ってたんだけど……ごめんね、忘れてた! 》
テヘという感じで、ちょろっと舌をだして謝るルナ。
テヘじゃねぇ!? って言うか、それはそれで、可愛いんだけどさ……色々と突っ込みどころが!!
俺は少し混乱しつつも、手の中にある銀色の輪冠をジッと見つめる。
これは、今井さんと糞勇者が頭に着けていた物だ。
今井さんの体を治した際に、ついでに外しておいたのだが……存在自体、今の今まですっかり忘れていた。
そう考えると俺も、ルナの事をとやかく言えないか。
《 その輪っかから、あの嫌な人が使った魔法と同じものを感じるの。ルナじゃ防ぐ方法は分からないけど、ツバサはそれが分かれば多分、大丈夫だよ! 》
そう虚空に書きながら、俺の顔を見て微笑むルナ。
ちょっと調べて見たが、確かに、ルナの言うとおり、大気の魔力を勝手に吸い取り、未知の術式が発動しているのがわかる。
ルナの魔法に対するセンスは俺の比ではない。
そのルナが言う事だ。まず、間違いないと思って良いだろう。
そして、もしこれがあの糞勇者の隷属と同じ系統のものだとすれば……これは相当にえげつない物だと分かる。
狂ってやがる……。
俺は人族の狂気の一端に触れ、背が泡立つのを感じたが、それを必死に、皆に悟らせないように隠す。
そして、平静を装いつつ、皆に声をかけた。
「わかった……。ルナ、ありがとう。これで何とかなるかもしれない。この件は、俺が預かるよ。皆にも手伝ってもらう事もあるかもしれないけど、その時は頼むね。」
そんな俺の言葉に、皆頷いた。
思った以上に、人族の妄執は酷いものだと、この銀冠を見ながら、俺は感じていたのだった。
暫くして、子族と猫族の長老が申し訳無さそうに戸の外より声をかけてきた事で、一旦、なし崩し的に始まったこの話し合いは、解散となった。
ルカール村から来た皆も、ルナに連れられて席を外す。
そんな風に部屋を出て行く皆を横目で確認しつつも、レイリさんと俺は、長老達の話を聞くために、姿勢を正したのだった。
それから、2週間。
毎朝、懐かしくも恥ずかしい、全員での幸せ固めにも、村人達の生暖かい目線にもなれてきた。
初日にはお約束の、「昨夜は、お楽しみでしたね……。」と、何とも言えない表情で長老達に声をかけられた。
つか、遮音も完璧なのに何故知っている!?と驚いてみたり……。
猫族の巫女であるミールさんからは、「毎晩頑張るのにゃ。 特に宇迦之とレイリがツヤツヤなのにゃ。 お前凄いにゃ!」とお褒め頂いた。
「いえ、やましい事は何もしてないんですけどね?」と言っても、信じてもらえなかった。
心ゆくまで、モフモフしているだけなのに……。
まぁ、2人に限らず、リリーも含め、モフモフしている間はとっても艶かしいのは否定しないが。
そんな日々を過ごす中、俺の体調もある程度回復し、何とかゆっくりと歩ける程度に回復した。
これで、やっと動く事ができる。
棚上げにしていた問題も、何とか手をつける事が出来そうだ。
早速、皆と過ごす朝食の時間に、俺は皆に切り出すことにした。
「さて、今日は、皆に頼みたい事があるんだ。」
そんな俺の言葉に、食事の手を止めて、皆、視線を向ける。
ちなみに、今日のご飯はライヤモ草から作った粉をベースにした、お好み焼きのようなものだ。
勿論、お好み焼きのように、目の前で焼くわけには行かないので、既に焼いたものを木の皿に載せて食べている。
具には謎なものが多いのだが、とりあえず、美味いので気にしない事にする。
「折角こうして皆も揃って、俺も動けるようになってきたし……今まで、手の付けられなかった事を進めて行きたいんだ。」
「翼族……の件ですか?」
レイリさんが問いかけてきた言葉に、俺は黙って頷く。
しかし、来て日の浅いルカール村勢は、首をひねっていた。
そりゃそうだな。この事はレイリさんとルナ意外には話していない。
ちなみに、アギトとクウガは鋭い目をこちらに向けるヒビキ隣で、黒い団子と化してお昼寝中である。
首を傾げる皆に分かるように、俺は説明を始める。
俺がファミリアで森を監視するようになったのは、勿論、人族が侵入しているかどうかを確かめる事もあった。
だが、それと同時に、この森の一員である翼族の捜索を行いたかったのである。
レイリさんの話によれば、翼族は12年前の大侵攻の後、姿を消したらしい。
特に他族と対立があったわけではなく、その原因は未だに不明のままのようだ。
そうして、12年間、音沙汰も無く、居場所も知れない状態だった。
正直言ってかなり危険な状態である。
何が危険って……もし、翼族がこちらのあずかり知らない所で勝手に滅亡でもしていたなら大変なことになるからだ。
今のところ、そう言った事は無いようだが。
何故なら、結界が維持されているからである。
それは、翼族の巫女が存命な証拠だ。
もっとも、それが、ギリギリの状態なのか……それとも余裕があるのかは、別の話しであるが……。
今までの獣人族の件を考えれば、そして間接的に得られた情報を見れば、余裕等あるはずもないというのは想像に難くない。
もしかしたら、明日にでも翼族の巫女がお亡くなりになって、結界が消え去るかもしれないのだ。
俺はその状態に危機感を抱いていたのだが、当の獣人達はノンビリとしたものだった。
いや、正確には一部の長達は、どうにかして、翼族の無事を確かめたいと思っていたのだが……何せ、お互いに生きるのが精一杯の状態である。
どこにいるかも分からない翼族の探索に割ける余裕などあるはずもなく、こうして12年と言う月日が経ってしまったのだ。
「と言うことは、見つけたのじゃな? 翼族の居場所を。」
宇迦之さんが真剣な顔で、俺に問いかける。
「ええ。見つけました。」
俺は、それに頷く。
「……が、状況はあまり……いや、かなり……よろしくないようです。」
そう、よろしく無いのだ。そもそもからして数が少ない。
ファミリアからの探知で確認できただけで、8人程度だ。
ほぼ、壊滅しているといって良いだろう。
もしかしたら、分散しているか、狩りにでも出ているのかと、この1週間観察したが、その数は増えるどころか減った。
1人、元々反応が弱かった方だったが、燃え尽きたように反応が消えた。また一人土に返ったと見て良い。
その為、早急にコンタクトを取り、可能であれば支援・保護をしたいところなのだが……。
「問題は、翼族がいる場所なんですよ。」
翼族の住んでいる場所がかなり問題だった。
その場所は、直線距離で言えば、子族の村から、それ程は離れていない。
しかし、行く手段が限られるのだ。
霊峰といっても良いであろう、壁のようにそそり立つ山脈の中腹……そこに翼族の集落はあるのだ。
しかも、その山脈と森との間には、深い渓谷が立ちはだかっている。
飛べでもしないと実質、その渓谷を越えて山脈に入るのは不可能である。
ファミリアの配置は、森を中心に行っていたので、発見が遅れた。
まさか山の中とは……生きていくには圧倒的に向かない場所である。
草木も無いのに、どうやって糧を得ているのだろうか?
色々と疑問は残るものの、とりあえずそういう訳で、早急に翼族に支援だけでもしたいのだ。
翼族の集落への輸送物資とその人員を決めている所だったのだが……そこに皆が来てくれたので編成を変え、なるべく早く向かう事で調整している。
本来なら、レイリさんを外す事ができなかったので、後1週間はかかる予定だったのだ。
正直に言えば、皆がこちらに来てくれて、助かったと言うのが本音ではある。
その旨を説明すると、宇迦之さんを始め、皆、納得したように頷く。
「なるほどのぉ。と言うことは……わらわが行く方が良いかの。」
「そうですわね。宇迦之が行ってくれれば、私が行かなくて済むので、直ぐにでも向かう事ができますわ。」
「そうだね。レイリさんはこの村でのまとめ役をお願いしているから、可能であればそうして欲しい。」
「しかし、どうやって行くのじゃ? 流石に、わらわは空を飛ぶ事はできんぞ?」
冗談半分にそう言いながら、宇迦之さんは微笑む。
それを見ていたルナが、にこやかに手を上げると、虚空に文字を書き始めた。
《 大丈夫だよ! ルナがビビに頼んで連れて行くから! 》
そんな文字を見て、皆納得したように頷く。
ちなみに、ルナには物資の搬送もお願いしている。
異空間に保存しておけば、かなりの量の物資を簡単に運べる。
今回の役割には適任であった。
「ちなみに、宇迦之さん、ルナだけでなく、リリーにも行ってもらおうと思っているんだ。」
「ええ!? わ、私ですか!?」
俺の言葉を受けて、リリーは目を見開いて俺を見つめてきた。
そんなリリーに俺は笑って頷くと、言葉をかける。
「今回は、レイリさんが行けないからその代理でね。それだけじゃなくて、交渉とか調整の場を知っておいて欲しいんだよ。」
リリーは、俺の言葉の真意までは掴めないようだった。
迷ったようにレイリさんを見たリリーは、レイリさんの真剣な目を見て、頷くと俺の方に向き直り、
「わ、私で良ければ、頑張ります!」
と、胸に手を当て、返事をしてくれた。
とりあえず、俺がリリーにかけた期待を、感じ取ってくれたようだ。
「じゃあ、申し訳ないが食事が終わったら、早速動いて欲しい。レイリさん、そちらの件は頼みます。」
「分かりましたわ。ツバサ様、あまりご無理はなさらないで下さいね。」
そんな短いやり取りの後、食事が終わるのを待って、レイリさんは宇迦之さん、ルナ、リリーを伴って部屋を出て行く。
ルカール村の皆がこちらに向かっているのを感知したときから、既にこの話はレイリさんとルナに伝えてあった為、何の支障もなく事は進んだ。
この後は、細かい調整を行い、数日のうちに出立する事となる予定だ。
ラッテさんと数人の獣人も従者として連れて行く予定なので、今は顔合わせをするのだろう。
来て早々、申し訳ないとは思うのだが、俺もある程度動けるようになった今、少しでもできる事を進めておきたい。
何しろ、翼族の事も含め、全てにおいてあまり猶予の無い状況だ。
帰ってきたら埋め合わせをすることで、納得してもらおう。
さて、こっちも話を進めないとな。
俺は、団子になっているティガ親子と此花、咲耶に目を向ける。
「ヒビキ、クウガ、アギト、此花、咲耶。皆にもお願いしたいことがあるんだ。」
俺がそう切り出したとたん、此花と、咲耶が、同時に
「何なりと!」
「何でもやりますわ!」
と、相変わらず綺麗にハモって答える。
ヒビキは一声鳴いて、同意の意を示した。
母の声を聞いたアギトとクウガは、何事か!?と驚いたように顔を上げる。
そして、ヒビキの様子を見て、その視線の先にいる俺を見ると、尻尾を振ってきちんと座った。
うーむ……可愛らしい子達だ。
そんな2頭の可愛らしい姿に、心が温かくなるのを感じる。
いかんいかん……皆が戻る前に、ある程度の情報を掴んでおかないとな。
俺は気を引き締めると、その内容を告げたのだった。
俺はその様子を見守りつつ、大事な部分にだけ指摘を入れ、問題点を浮き彫りにしていく。
そして、やはりと言うか、糞勇者の隷属への対抗策の部分で議論は煮詰まってしまう。
そこは俺もまだ、具体的な対策を組めていないのだ。
何しろどうやって防いだらよいのやら、皆目見当もつかない。
精神系の魔法なのだろうが……いや、そもそも魔法なのかも不明なのだが、目に見えないものだけに、どう防御魔法を構築して良いか取っ掛かりが掴めないでいるのだ。
そのため、次第と言葉が少なくなり、最終的には、皆、一様に黙ってしまう。
レイリさんが「これは……とりあえず、持ち越しですわね。」と呟いたとき、ルナが少し難しい顔をしながら、勢い良く手を上げた。
おや、珍しい……。そう思って、俺はその挙動を見守る。
ルナは、素早く虚空に文字を走らせ、その言葉を皆に伝える。
《 えっと、多分、何とかなると思うの。 》
「何じゃと!?」「本当ですか!?」
宇迦之さんとレイリさんが身を乗り出して、ルナに詰め寄る。
特にレイリさんは必死だ。
……そりゃそうだろう。
もしまた、隷属されて、あんな状態になったら、今度こそ首を吊りかねない。
それ位に、彼女にとってはトラウマだろう事は想像に難くないわけだ。
鬼気迫る2人の様子にも慌てず、ルナは笑顔のまま静かに頷くと、更に言葉を虚空に紡ぐ。
《 うん! ツバサならきっと何とかしてくれるよ! 》
まさかの無茶振りだった。
いやいや……ルナさんや。流石に、無理!
今の状態では、流石に何か取っ掛かりが無いと、いい返事を出す事はできない。
『成せばなる』と言う素敵な言葉もあるが、無責任に「俺に、任せろ!」と言えるほど、俺は若くない。
「ルナ……流石に、俺でも……。」
と、言いかけた俺をルナは目で制すと、虚空より何か引っ張り出した。
異空間より取り出されたそれを、俺に手渡してきたルナ。
良く分からないまでもそれを受け取り……そして、それを見た俺は思わず呻いた。
「これは……いつの間に?」
《 んと、ツバサが寝ていた時に、狸族の女の子が渡してくれたの。ツバサに渡してあげてって言ってたんだけど……ごめんね、忘れてた! 》
テヘという感じで、ちょろっと舌をだして謝るルナ。
テヘじゃねぇ!? って言うか、それはそれで、可愛いんだけどさ……色々と突っ込みどころが!!
俺は少し混乱しつつも、手の中にある銀色の輪冠をジッと見つめる。
これは、今井さんと糞勇者が頭に着けていた物だ。
今井さんの体を治した際に、ついでに外しておいたのだが……存在自体、今の今まですっかり忘れていた。
そう考えると俺も、ルナの事をとやかく言えないか。
《 その輪っかから、あの嫌な人が使った魔法と同じものを感じるの。ルナじゃ防ぐ方法は分からないけど、ツバサはそれが分かれば多分、大丈夫だよ! 》
そう虚空に書きながら、俺の顔を見て微笑むルナ。
ちょっと調べて見たが、確かに、ルナの言うとおり、大気の魔力を勝手に吸い取り、未知の術式が発動しているのがわかる。
ルナの魔法に対するセンスは俺の比ではない。
そのルナが言う事だ。まず、間違いないと思って良いだろう。
そして、もしこれがあの糞勇者の隷属と同じ系統のものだとすれば……これは相当にえげつない物だと分かる。
狂ってやがる……。
俺は人族の狂気の一端に触れ、背が泡立つのを感じたが、それを必死に、皆に悟らせないように隠す。
そして、平静を装いつつ、皆に声をかけた。
「わかった……。ルナ、ありがとう。これで何とかなるかもしれない。この件は、俺が預かるよ。皆にも手伝ってもらう事もあるかもしれないけど、その時は頼むね。」
そんな俺の言葉に、皆頷いた。
思った以上に、人族の妄執は酷いものだと、この銀冠を見ながら、俺は感じていたのだった。
暫くして、子族と猫族の長老が申し訳無さそうに戸の外より声をかけてきた事で、一旦、なし崩し的に始まったこの話し合いは、解散となった。
ルカール村から来た皆も、ルナに連れられて席を外す。
そんな風に部屋を出て行く皆を横目で確認しつつも、レイリさんと俺は、長老達の話を聞くために、姿勢を正したのだった。
それから、2週間。
毎朝、懐かしくも恥ずかしい、全員での幸せ固めにも、村人達の生暖かい目線にもなれてきた。
初日にはお約束の、「昨夜は、お楽しみでしたね……。」と、何とも言えない表情で長老達に声をかけられた。
つか、遮音も完璧なのに何故知っている!?と驚いてみたり……。
猫族の巫女であるミールさんからは、「毎晩頑張るのにゃ。 特に宇迦之とレイリがツヤツヤなのにゃ。 お前凄いにゃ!」とお褒め頂いた。
「いえ、やましい事は何もしてないんですけどね?」と言っても、信じてもらえなかった。
心ゆくまで、モフモフしているだけなのに……。
まぁ、2人に限らず、リリーも含め、モフモフしている間はとっても艶かしいのは否定しないが。
そんな日々を過ごす中、俺の体調もある程度回復し、何とかゆっくりと歩ける程度に回復した。
これで、やっと動く事ができる。
棚上げにしていた問題も、何とか手をつける事が出来そうだ。
早速、皆と過ごす朝食の時間に、俺は皆に切り出すことにした。
「さて、今日は、皆に頼みたい事があるんだ。」
そんな俺の言葉に、食事の手を止めて、皆、視線を向ける。
ちなみに、今日のご飯はライヤモ草から作った粉をベースにした、お好み焼きのようなものだ。
勿論、お好み焼きのように、目の前で焼くわけには行かないので、既に焼いたものを木の皿に載せて食べている。
具には謎なものが多いのだが、とりあえず、美味いので気にしない事にする。
「折角こうして皆も揃って、俺も動けるようになってきたし……今まで、手の付けられなかった事を進めて行きたいんだ。」
「翼族……の件ですか?」
レイリさんが問いかけてきた言葉に、俺は黙って頷く。
しかし、来て日の浅いルカール村勢は、首をひねっていた。
そりゃそうだな。この事はレイリさんとルナ意外には話していない。
ちなみに、アギトとクウガは鋭い目をこちらに向けるヒビキ隣で、黒い団子と化してお昼寝中である。
首を傾げる皆に分かるように、俺は説明を始める。
俺がファミリアで森を監視するようになったのは、勿論、人族が侵入しているかどうかを確かめる事もあった。
だが、それと同時に、この森の一員である翼族の捜索を行いたかったのである。
レイリさんの話によれば、翼族は12年前の大侵攻の後、姿を消したらしい。
特に他族と対立があったわけではなく、その原因は未だに不明のままのようだ。
そうして、12年間、音沙汰も無く、居場所も知れない状態だった。
正直言ってかなり危険な状態である。
何が危険って……もし、翼族がこちらのあずかり知らない所で勝手に滅亡でもしていたなら大変なことになるからだ。
今のところ、そう言った事は無いようだが。
何故なら、結界が維持されているからである。
それは、翼族の巫女が存命な証拠だ。
もっとも、それが、ギリギリの状態なのか……それとも余裕があるのかは、別の話しであるが……。
今までの獣人族の件を考えれば、そして間接的に得られた情報を見れば、余裕等あるはずもないというのは想像に難くない。
もしかしたら、明日にでも翼族の巫女がお亡くなりになって、結界が消え去るかもしれないのだ。
俺はその状態に危機感を抱いていたのだが、当の獣人達はノンビリとしたものだった。
いや、正確には一部の長達は、どうにかして、翼族の無事を確かめたいと思っていたのだが……何せ、お互いに生きるのが精一杯の状態である。
どこにいるかも分からない翼族の探索に割ける余裕などあるはずもなく、こうして12年と言う月日が経ってしまったのだ。
「と言うことは、見つけたのじゃな? 翼族の居場所を。」
宇迦之さんが真剣な顔で、俺に問いかける。
「ええ。見つけました。」
俺は、それに頷く。
「……が、状況はあまり……いや、かなり……よろしくないようです。」
そう、よろしく無いのだ。そもそもからして数が少ない。
ファミリアからの探知で確認できただけで、8人程度だ。
ほぼ、壊滅しているといって良いだろう。
もしかしたら、分散しているか、狩りにでも出ているのかと、この1週間観察したが、その数は増えるどころか減った。
1人、元々反応が弱かった方だったが、燃え尽きたように反応が消えた。また一人土に返ったと見て良い。
その為、早急にコンタクトを取り、可能であれば支援・保護をしたいところなのだが……。
「問題は、翼族がいる場所なんですよ。」
翼族の住んでいる場所がかなり問題だった。
その場所は、直線距離で言えば、子族の村から、それ程は離れていない。
しかし、行く手段が限られるのだ。
霊峰といっても良いであろう、壁のようにそそり立つ山脈の中腹……そこに翼族の集落はあるのだ。
しかも、その山脈と森との間には、深い渓谷が立ちはだかっている。
飛べでもしないと実質、その渓谷を越えて山脈に入るのは不可能である。
ファミリアの配置は、森を中心に行っていたので、発見が遅れた。
まさか山の中とは……生きていくには圧倒的に向かない場所である。
草木も無いのに、どうやって糧を得ているのだろうか?
色々と疑問は残るものの、とりあえずそういう訳で、早急に翼族に支援だけでもしたいのだ。
翼族の集落への輸送物資とその人員を決めている所だったのだが……そこに皆が来てくれたので編成を変え、なるべく早く向かう事で調整している。
本来なら、レイリさんを外す事ができなかったので、後1週間はかかる予定だったのだ。
正直に言えば、皆がこちらに来てくれて、助かったと言うのが本音ではある。
その旨を説明すると、宇迦之さんを始め、皆、納得したように頷く。
「なるほどのぉ。と言うことは……わらわが行く方が良いかの。」
「そうですわね。宇迦之が行ってくれれば、私が行かなくて済むので、直ぐにでも向かう事ができますわ。」
「そうだね。レイリさんはこの村でのまとめ役をお願いしているから、可能であればそうして欲しい。」
「しかし、どうやって行くのじゃ? 流石に、わらわは空を飛ぶ事はできんぞ?」
冗談半分にそう言いながら、宇迦之さんは微笑む。
それを見ていたルナが、にこやかに手を上げると、虚空に文字を書き始めた。
《 大丈夫だよ! ルナがビビに頼んで連れて行くから! 》
そんな文字を見て、皆納得したように頷く。
ちなみに、ルナには物資の搬送もお願いしている。
異空間に保存しておけば、かなりの量の物資を簡単に運べる。
今回の役割には適任であった。
「ちなみに、宇迦之さん、ルナだけでなく、リリーにも行ってもらおうと思っているんだ。」
「ええ!? わ、私ですか!?」
俺の言葉を受けて、リリーは目を見開いて俺を見つめてきた。
そんなリリーに俺は笑って頷くと、言葉をかける。
「今回は、レイリさんが行けないからその代理でね。それだけじゃなくて、交渉とか調整の場を知っておいて欲しいんだよ。」
リリーは、俺の言葉の真意までは掴めないようだった。
迷ったようにレイリさんを見たリリーは、レイリさんの真剣な目を見て、頷くと俺の方に向き直り、
「わ、私で良ければ、頑張ります!」
と、胸に手を当て、返事をしてくれた。
とりあえず、俺がリリーにかけた期待を、感じ取ってくれたようだ。
「じゃあ、申し訳ないが食事が終わったら、早速動いて欲しい。レイリさん、そちらの件は頼みます。」
「分かりましたわ。ツバサ様、あまりご無理はなさらないで下さいね。」
そんな短いやり取りの後、食事が終わるのを待って、レイリさんは宇迦之さん、ルナ、リリーを伴って部屋を出て行く。
ルカール村の皆がこちらに向かっているのを感知したときから、既にこの話はレイリさんとルナに伝えてあった為、何の支障もなく事は進んだ。
この後は、細かい調整を行い、数日のうちに出立する事となる予定だ。
ラッテさんと数人の獣人も従者として連れて行く予定なので、今は顔合わせをするのだろう。
来て早々、申し訳ないとは思うのだが、俺もある程度動けるようになった今、少しでもできる事を進めておきたい。
何しろ、翼族の事も含め、全てにおいてあまり猶予の無い状況だ。
帰ってきたら埋め合わせをすることで、納得してもらおう。
さて、こっちも話を進めないとな。
俺は、団子になっているティガ親子と此花、咲耶に目を向ける。
「ヒビキ、クウガ、アギト、此花、咲耶。皆にもお願いしたいことがあるんだ。」
俺がそう切り出したとたん、此花と、咲耶が、同時に
「何なりと!」
「何でもやりますわ!」
と、相変わらず綺麗にハモって答える。
ヒビキは一声鳴いて、同意の意を示した。
母の声を聞いたアギトとクウガは、何事か!?と驚いたように顔を上げる。
そして、ヒビキの様子を見て、その視線の先にいる俺を見ると、尻尾を振ってきちんと座った。
うーむ……可愛らしい子達だ。
そんな2頭の可愛らしい姿に、心が温かくなるのを感じる。
いかんいかん……皆が戻る前に、ある程度の情報を掴んでおかないとな。
俺は気を引き締めると、その内容を告げたのだった。
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