運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

さて、結婚式のブーケはどうなったのでしょうか。

祐司ゆうじは、妹のドレス姿を待つ間に一応待合室にて待機していただいている人たちに挨拶に向かう。

「おめでとう。祐司くん。沙羅さらちゃんが幸せになって、本当によかった」
「そうだね、おめでとう。次は祐司さんの番ね」
「あはは……いえ、私は仕事がありますし、まだまだですよ」
「あら、お見合いだったら紹介してよ?」
「いえ、あぁ、知人が居ましたので失礼します」

厄介ごとになる前に逃走する。
その先には、昨日話をした友人であるモクランとカラン姉妹に、モクランの夫でロウディーン。
そして3人の少女に、3人の幼児。
祐司は丁寧に頭を下げる。

「今回は、妹の結婚式にわざわざ来ていただき、ありがとうございます」
「あぁ、こんにちは。祐司君。沙羅ちゃんも美しい花嫁になるんだねぇ……昔は、家の、ギョクランみたいだったのに」

ロウディーンは娘の頭を撫でる。
モクランに良く似た少女は父親に嬉しそうに笑う。

「本当に。何度か反対はしたのですが、兄が私ですから、頑固で……最後に押しきられました。でも、お腹には赤ん坊もいますし、これからも兄として伯父として妹夫婦とこれから生まれてくる子供たちを見てあげたいです」
「真面目だねぇ……ん?どうしたんだい?ショーン」

母親のカランの前に立つ少年は、祐司を見上げている。
キリッとした眉に、眼差しは……

「お父さんにそっくりだな。本当に優しい良い男だった」
「父上を知っているのですか!!」
「あぁ。伯父さんが13才頃に、父がトウリャンの柔道部の監督になったから、伯父さんも父と一緒にトウリャンに行っていたんだ。本当に明るくてからっとしていて、友人が多くて、良く笑っていたよ。片言しか喋れない伯父さんに言葉を教えてくれたり、時々二人で抜け出して、船で、無人島に遊びにいってなぁ……」

あははは……

楽しげに笑う。

「そうしたら、干潮には……塩が引いたら浮かび上がる島で、遊んでいたら、周囲は沈んでて、船を繋いでいたところから離れてしまったら……『あ、あんな遠く!?俺、あそこまで泳げない!!塩辛いの嫌だ!!』とか言い出して、アホか!!とか言いながら、俺が船まで泳いでいって、近くまで引っ張ってきたら、だんだん陸地がなくなっていて、涙目で、『遅いじゃないか!!祐司のバカ~!!』『泳げ!!島国だろうが!!塩くらいでどうするんだ!!』ってな」

父親の意外な一面に、ビックリする少年の頭を撫でて、

「そして戻って、あいつのじいやたちに説教されたら……髭のおっさんは真面目に説教しようとするのに、その横で、白髪のおっさんが、『海に行ったら最近出没するハンマーシャークを仕留めてこんか~!!もう一回行ってこい!!』で、本気で夜の海に投げ込まれかけて……あははは!!あんなおっさんたちに育てられたらあんな風にまっすぐに育つよなぁと思ったよ。本当に良いやつだった。ショーンはあいつと母上の良いところを一杯貰っていて、幸せだな。今は本当に辛いと思うが、伯父さんでよければ、相談に乗るから、気軽に声をかけてくれるとうれしい」
「ハンマーシャーク……」

ロウディーンもひきつる。

「えぇ。で、一回、出ていくときに見つかって、『コモドドラゴンを取りに行かれるのですか!!5頭ぐらいよろしくお願いいたしますぞ!!』だった……」
「あの方なら言うわ……」

カランはコロコロ笑う。

「おいおい、笑ってる場合じゃないんだよ!!おれを盾にあいつ逃げようとするもんだから、あのおっさんがどかんどかんと超重量ハンマーを振り回して、柔道の宿舎を壊して、俺が怒られたんだぞ!!」

笑い転げる周囲……特にショーンに、祐司は頭を撫でて、

「そうそう。子供は笑うのが一番だ。次の当主であるにしろ、ショーン、お前はまだそのしがらみに縛られることはない。ショーンが先ずするべきことは、勉強よりも、遊びだ!!ほーら行くぞ!!」

肩車をして走り出す。
見たことのない光景に、目を見開きそして笑い始める。

「すごーい!!すごーい!!伯父さん!!景色がビュンビュン!!」
「だろう?遊んでしまえ!!この世界はいたずらや、ひどいことをしなければ子供が一杯遊んで良いところだ。探検をして、噴水に飛び込んで水浸しだって物を壊さなければ良いんだよ♪それが子供の遊びってもんだ!!」

母は言わないが、じいやも言わないが、遊び友達……従兄弟のジュンやギョクランと遊んでいるとその時は言われないが、別れて部屋に戻っている間に、側仕えの人間にねちねちと言われ続けていた。
そのため、本当は今回も目を光らせるその男が嫌でじっとしていたのだ。

「わぁぁ!!伯父さんすごい!!はやーい!!こんなの初めてだ!!」
「だと思った。時々、子明しめいが言っていたんだ。ショーンが悲しそうな顔をしているってな。で、子明はあれでいて勘が鋭いだろう?ショーンと遊んだ後に、あとをつけたらショーンについている……あの男がショーンにねちねちと嫌がらせをしていたんだと怒ってた」
「子明兄ちゃんと知り合いなの!?父上や母上のお友だちなのに!?」
「ん?俺は、昔は柔道とかスポーツを色々していて、今は、外科、整形外科等を担当しているのと、他に怪我をしたスポーツ選手のリハビリや、子明のような選手の筋肉の動かし方、体力の付け方を指導するようにしているんだ。で、明日、今日の結婚式の主役のゆかりと一緒に、春の国に作られる総合病院の専門医になるんだ。ショーンとも時々会えるぞ。楽しみだな」
「あ、会ってくれるの!?」
「当たり前だ。ショーンが嫌なら残念だけど……」
「そんなことないよ!!僕も伯父さん好きだもん!!えっと……祐司先生って呼んだ方がいいの?」
「呼び捨てでも良いぞ!!よーし、上から降りるときはほら、俺の膝を蹴って、逆上がり……で、とんっ!!おぉ、うまいなぁ!!」

誉められ、ショーンは頬を赤くして喜ぶ。

「わぁぁ!!嬉しい!!面白ーい!!」
「だろう?最近の大人は遊びが下手だ。子供と一緒にこうやって走り回ってこそ……」
「おい、こら!!結婚式の前に廊下どころか教会の中走るなよ!!」
「おぉ、紫。なぁ、気になったんだが……ショーン。あれ、何か見えるか?」

示された物に、ショーンは硬直し、祐司にしがみつき、

「こ、小型爆弾!!おんなじの……何回か見た」
「だと」
「なんだってぇぇ!!祐司!!警察!!呼ぶから下がれ!!」
「ショーンを頼む。それと、ショーンの付き人、怪しい。捕まえろとはるかに」

紫に押し付け歩き出す。
すると、

「わぁぁん!!おじちゃんやだよぉぉ!!大ケガするから!!大ケガ嫌だからやめて!!おじちゃん!!」

泣きじゃくるショーンに、

「大丈夫、祐司は強いから。ショーン君だっけ?おじちゃんの弟が元警察官だから、その遼おじちゃんのところにいって、祐司おじちゃんのことをはなそうね?」
「わぁぁん!!おじちゃん、おじちゃぁぁん!!」

紫は、列席者の中でも高貴な少年の、身の安全を優先する。
何かあれば、国家規模の問題に発展する。

「兄さん!!どこでうろうろしているんですか!!主役でしょう!!どうしたんです?」
「遼!!教会に異物がある。このショーン君が見つけた!!今は祐司が確認中だ!!そっちには別の人間を。そしてこの子に付いていたスパイ……」
「わかりました!!じゃぁ、兄さん!!あちらに警視総監がいらっしゃいます!!」
「あぁ、解ってる!!」
「やだぁぁ!!おじちゃん!!祐司おじちゃん!!」

泣きじゃくり暴れる少年を担ぎ、向かうと、総理大臣夫妻に、ロウディーン公主夫妻、そして世界的大財閥にのしあがった光来承彦こうらいしょうげんが、紫の両親のたもつ葉子ようことともに、床に座らせている6人の男女を見下ろしていた。

「……お前たちは……絵莉花えりか!!」
「あらぁ……今日の主役が、子供連れ?ほほほ……私に隠れて隠し子?」
「お前に言われたくない!!お前は私が海外の大学に研究にいっている間に、二人娘を生んで、孤児院に置き去りにしていただろう!!」
「あら?そんなこともあったかしら?」

すると、なつめ晶人あきと冬樹ふゆきが、4才ほどの女の子を間に手を引いて現れる。

「ほら、紫沙ゆさ里羅りら。パパだよ」
「あ、パパ!!」
「パパ!!」

紫は微笑む。

「紫沙、里羅、ママは綺麗だった?」
「うん!!とっても!!」
「里羅も、お嫁ちゃんになるの!!」
「えぇぇ!!パパ、まだ二人をお嫁に出すのは嫌だよ~!!それに、はるおじちゃんは良いけど、そのなつおじちゃんたちのような婿はいりません!!あ、棗。この子はショーン王子。一緒に遊んできて」

棗はひょいっと担ぎ上げ、

「ほーら、皆で遊ぶぞ?向こうにショーン王子の妹たちやお姉さんたちもいたな。ご挨拶にいこう」

と去っていく。
顔色を変える絵莉花に、

「お前のことだから、放置していたあの子たちを利用して、私たちの付きまとうに違いないと、父が引き取った。DNA鑑定済みだが、お前と結婚している間の子だ、私が父。引き取った。文句はあるか?」
「……ムカつくわ!!あの女なんて不幸になればいいのに!!紫も紫よ!!あんたが悪いのよ!!私と結婚したくせに、あの女と長い間一緒にいて!!帰ったら疲れた!!何に疲れてるのよ!!浮気?」

その言葉に紫はあきれ、周囲は失笑する。

「仕事をしている夫と、仕事のサポートをする看護師である沙羅と一緒にいるのが嫌だったら、仕事を続ければよかったんじゃないのか?それに、悪いが、お前は全く料理洗濯掃除、繕い物もせずに外で買い物三昧!!祐司が沙羅を連れてきてくれては、3人で大掃除……何回、お前の買ってきたままで開けてもいない箱や袋を見て二人があきれたと思う!!」
「後で使うつもりだったのよ」
「祐司が勿体ながって、病院の看護師の誕生日にそれぞれプレゼントしてくれたよ。それはそれは喜んでくれた。その分の領収書も、お前の実家に送っている。返して貰えなければ訴えるとね。もう、訴えても良いんだけどね?」

にやっと笑い、

「で、絵莉花。教会に手を加えるように命令したのは、お前?」
「ふんっ。ただの、偽物の爆弾よ!!」

その返事が消え去るほどの大爆発が起き、教会へ向かう庭に面したガラスが砕け降り注ぐ。
SPたちが主たちを守り、そして、手の空いたものが様子を窺いに行く。

「な、な……何?あれ!!」
「お前の言う『偽物の爆弾』……だな。沙羅は……」
「お、お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」

沙羅の悲鳴が聞こえる。

SPたちに抱えられて室内に入るのは祐司。
後ろから傷だらけではあるが、ショーンの怯えていた付き人を締め上げ入ってきたのは遼である。

「SPの皆さん。この人が、持っていた爆破装置を、こちらに……。そして……」
「遠藤先輩!!」
「大丈夫ですか!!」

犯人に猿ぐつわを噛ませ、自殺予防に縛り上げるSPに、

「祐司兄さんは……大丈夫ですか?」
「はい!!」
「それは……良かった……」

遼が倒れ込む。
そして、背中には、突き刺さった材木が見え、遼に近づいてきていた咲夜さくやが悲鳴をあげる。

「遼様……遼様ぁぁ!!」

首相に、警視総監、異国の賓客の集まる結婚式の会場での爆破騒ぎに、大騒ぎになり、捕まったのが現在トウリャン国の国主と言う男に仕えるスパイと、日本のある老舗のご令嬢で、離婚を逆恨みし、前の夫と新妻を殺そうとした女に、結婚時点で、夫に隠れて浮気をしていた相手たちに世界中がどよめいたのだった。

しかも、首相、警視総監、異国の国主たちは擦り傷ですんだが、スパイの爆破を止めようとした新婦の兄と、それを庇おうとした、元警察庁の警部であり新郎の弟がどちらも生死の境をさ迷う大怪我を負ったことに世界は震撼し、トウリャン国は、関わりのない国の一般市民をテロ行為で殺害しようとしたと新聞、テレビ、国際的にも報道されたのだった。

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