運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

驪珠は、見たこともない世界に戸惑っています。

ざわざわと周囲の声が響く。

「な、なんなんだい?この不細工な顔!!」
「そうだよそうだよ。この髪も、奥さまはふわふわの柔らかそうなのに、なんだい、この気持ち悪い色は」
「しかも、服装もひどいもんだ。春をひさいで移動してきたのかねぇ?でも、こんな不細工、買う方も買う方だよ」
「奥さまが拾ってきたのかねぇ……本当にあんな目に遭ったと言うのに……本当に奥さまらしい」
「それにしても景資かげすけ坊やも……中条の旦那様も奥さまも悲しみは尽きないねぇ……」
「お可哀想に……あんな可愛い坊やをうちらは失い、こんなのをこの部屋に迎えたのかい?」

驪珠りしゅは、イライラする。
そして、

「うるっさいわよ!!不細工不細工と!!その不細工はどこにいるのよ!!捨ててくればいいじゃない!!」

起き上がり叫ぶが、周囲の失笑を買う。

「あははは……!!自分の姿がわかんないのかねぇ?自分のことを捨ててこいなんて」
「あぁ、おかしい!!」
「なんですってぇ!!このあたしのどこが不細工よ!!」
「黙れ!!朝から騒々しい!!」

驪珠は頭を叩かれ、押さえる。

「早朝からわめくでないわ!!黒なら目立たずよいものを、金ぴか下品なからすが!!」
「な、なんですって!!私を!!」

食って掛かろうとした驪珠に、

「あんた、お止めよ。この方はね!!」
「このかたでもどのかたでも知るか!!ばばぁってだけでしょ!!」

その言葉に、周囲が凍え、顔をあげた驪珠は般若はんにゃを見た。

「……なんじゃと?その方、この妾に向かって何と申した」
「お、お止めよ!!このかたは……」
「うるさいわよ!!このばばぁ!!どうせ、若作りの化粧ベタベタしてるんでしょうが!!」
「お前にいわれとうはないわ!!」

当主、神五郎の母、あずさはにっこりと微笑む。

「そなたのように、しみや根性の悪さを隠さずとも、私の美貌は光輝いておるわ!!この無礼者めが!!」

手をひらめかせ、すさまじく良い音が響く。
驪珠は吹っ飛び、床に倒れるが、起き上がるとすでに、髪の毛を踏まれている。

「まずは、礼儀作法から覚えるがよい。出来ずば、本日の食事は抜き。そして、この者達と共に一日働いてもらう。この汚い髪は要らぬな。お前は今日から、たえとよぼう。しかし……妾も、このような品のない女に、『ばばぁ』と罵られるとはの……」

梓に掴まれた髪を、肩の辺りですっぱりと切り落とされる。
そして、落ちた髪を、

「これは、ごみじゃ、妙、掃除を。そなたが掃除を終えぬと、皆が仕事にならん!!」
「あ、あたしは汚してないっ!!」
「命令を聞けと申した!!言い訳など聞きとうはないわ!!」

パーン!!

響き渡る。

「な、何をするのよ!!お、お父様にも殴られたことはないんだから!!」
「ほぉ……で、お前のような愚か者が育ったか。妙」
「私は妙じゃない!!驪珠!!」
「……おほほほほほ……!!」

梓は、扇を広げ、笑う。

「驪珠……金ぴか下品なからすが、黒龍の宝玉とな?その黒龍……父親の馬鹿さ加減がようわかったわ。おほほほほ……これは笑える。じゃぁ、お前は烏丸からすまると呼ぼう。烏丸。掃除を丁寧にな?出来てなければ、再び参るぞ。では、ゆき参るぞ?」
「はい!!おばあちゃま」
「ばばぁじゃないの!!」

ポロっとこぼした一言に、梓から張り手、雪からは蹴りを頂く。

「孫におばあさまと言われても良いが、関わりのない人間にばばぁと呼ばれるのは腹が立つの。ではの」

立ち去る二人に、周囲は頭を下げ、

「本当に、本当にやめてくれないかい?大奥様は、ここでは有名な美貌の持ち主であり、あの気性で戦場に立たれるんだよ!!」
「そうだよそうだよ!!梓様には二人の息子と二人の娘がいらして、一番上のお嬢様は……」
「おはよう!!皆。あらぁ……バサバサじゃない。色も変だし……この子の名前は?」
「おはようございます。橘樹たちばなお嬢様。お体は?」

庭から回ってやって来たその女性は、ぎょっとするほど大きなお腹をしている。

「で、デブ……!!」
「何か失礼な言葉が聞こえたような気がしたけれど?」

持っていたなぎなたの刃先を烏丸に突きつける。

「ふ、太って……いらっしゃるんじゃないんですか?」
「あら、言えるじゃないの。でもね?行儀がなってないわ!!主の姉に対して、その物言いは何!?お辞儀もできないの!?」

刃先が怖く、慌てて何とか見られるように頭を下げる。

「よろしい。それと、私のことは、橘樹様と呼びなさい!!そして、このお腹はもうすぐ臨月!!わかったかしら?」
「わかりました……」
「かしこまりましたでしょう!!皆!!迷惑かと思うけれど、この小娘を最低限見られるようにしておやり。神五郎しんごろうや旦那様と父上はともかく、重綱しげつなは馬鹿だから、近づけないようにするわ」
「かしこまりました。ですが、旦那様も大丈夫ではございませんか?」

その言葉の苦笑する。

「ダメダメ。神五郎は可愛い嫁と娘がいないと動かないのよ。今日も3人でお隣に行くのよ……と言いながら、何をしているの!!お前は!!」

逃げ出そうとした烏丸を追いかける。
そして、

「みな!!食事に、仕事を始めなさい!!仕事ができないと困るでしょう?私がこの小娘……」
「烏丸と、大奥様が!!」
「そうなの。じゃぁ、金ぴか下品なカラスを捕まえてくるわ!!」

楽しげに、なぎなたを持ったまま走り出す臨月前の橘樹を見送ったあと、周囲はため息をつく。

「橘樹様も面白がられるから……」
「まぁ良いけれど」
「それよりも食事よ食事」

女性たちは髪の毛を捨てると、食事をとるのだった。

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