運命(さだめ)の迷宮
家族の再会に切なく悲しく苦しい思いが胸に重くのし掛かります。
「旦那さま‼旦那さま‼……なんで、ようやく……」
心臓は無事だろうとのことだが、肺か他の器官を傷つけた可能性があると言う神五郎は救急車に乗せられ運ばれていく。
妻である采明は涙を浮かべ、そして小さくなって、遼の影に隠れている実明を見る。
「実明ね?ごめんなさいね。お母さんを許してね?」
「……ま、ママ?」
「えぇそうよ。ごめんなさいね。ずっと側にいられなくて……でも、旦那さま……パパのお仕事が終わって戻ってきたの。実明と一緒に住みたいって、そう思って……それなのに……」
涙をぬぐう。
「パパが、元気になるように……実明、ママと一緒にお願いしてくれる?」
「うん‼」
遼に抱き上げられ、采明の隣に座った実明は、父親の手を取って、
「大きい‼パパのお手手大きいね‼」
「大きいでしょう?この手で、国の平和を祈ってお仕事をしてきたの。意地悪をする人を怒ったり、お国の主の人も怒ってね?悪いことしたらダメ‼って……」
「しゅごーい‼パパ格好いい‼」
「でしょう?」
と、薄く目が開かれ、なにかを探すそぶりをする。
「旦那さま。大丈夫ですよ」
「パパ!」
その声に、視線を動かした神五郎は、微笑み、瞳から涙が伝う。
「さ、ねあきが……無事で良かった」
「神五郎?そのままあの世には行かないから。一応、肺は逸れたけど内臓を損傷してるから、手術と入院。今、口をおおっているのは、一応酸素吸入……怪我をして息苦しいのを楽にするようにしているから外さない。いいね?」
「あ、あぁ、遼……元気そうで何より。本当にありがとう。実明を守ってくれて……」
「実明は私の甥だよ。ついこの間結婚して君が義兄さん、采明さんは義姉さん。そう呼ぼうか?」
「そ、それは、十分だ。せっかく友人として……知り合えたのに、堅苦しい。神五郎でも、実綱でも、構わない」
細い声で告げると、実明が、
「パパのお名前、しゃねちゅな?おんなじ『しゃね』?しゅごーい‼パパと一緒‼」
と目を輝かせる。
その愛らしい姿を目を細め、告げる。
「実明は、パパの実綱の一文字とママの采明の一文字をとったお名前だよ。パパとママの子供って言う意味だよ」
「ほんと?わぁーい!じゃぁね?じゃぁね?……ママ、あやめちゃんでしょう?『あ』が一緒?」
キョトンとする実明に3人はプッと吹き出す。
「な、何で笑うの?へんなことゆった?」
「いや、采明の『あ』もそうだよ。でもね。大きくなったら解ると思うけれど、ママの名前の文字が、実明と一緒だよ?実明のお姉ちゃんも『明子』と言って、同じ『あき』だね」
「お姉ちゃん‼お姉ちゃん何処?」
キョロキョロする実明に、采明は微笑む。
「明子お姉ちゃんは、咲夜お姉ちゃんと同じで、お嫁さんになるの。お嫁さんとしてのお勉強のために、向こうのおうちに行ってしまったのよ。実明に、『大好き』って伝えてねって言っていたわ」
「そうなの?しゃねあき、お兄ちゃんもお姉ちゃんもいないから、嬉しかったのに……」
「明子お姉ちゃんも、そう思っていたわ。それに実明と同じ名前が嬉しいって」
「……あ、お姉ちゃんもあきちゃんだ‼」
「でしょう?」
喜ぶ息子を抱き締める。
「もうずっと一緒よ?実明」
「うん‼」
車が止まり、後ろが開けられる。
「おい、はる‼無事か‼」
「うるさい、儁乂‼怪我をしたのは、実綱だ。……頼む」
救急隊員に運ばれていくのを息子を抱き上げて追いかけようとした采明に、
「采明さん。君も怪我はしていないと思うけれど、一応人間ドックに入って貰う」
「あ、あの……実明は……」
母親にしがみつく甥を見下ろし、
「じゃぁ、実明このおじちゃんと遊んで……」
「いやぁぁ‼」
ふぎゃぁぁんと泣き出す。
「やっぱりダメか。儁乂……つくづくお前は子供に嫌われるな」
「うるさい‼おーい、実明。おいちゃんと遊ばねぇ?」
「いやぁぁ‼パパとママといるぅぅ‼」
首を振る実明に、
「じゃぁ、実明。先生の言うことを聞いて、ママといるんだよ?」
「……いいの?」
グシャグシャの顔を拭い、微笑む。
「良いよ。その代わり、先生や看護師さんの言うことを良く聞いてね?」
「うん‼」
着替えをし、幾つかチェックをしていくが、レントゲンをとる前に、遼のチェックが入る。
「ちょっと待って!采明さん。妊娠していない?」
「えっ……?えと、良く……」
「微熱があるのと、少し変化がある。レントゲンはあと。先に女性産科医の診察を」
案内され、幾つか質問を受け、検査と診断を受けると、
「……おめでとうございます。妊娠……この様子ですと8週目ですね」
「えっ‼あ、あの、最初の実明の時もそんなにつわりは酷くなくて……」
「これからですよ?頑張ってくださいね」
ニッコリと笑われる。
実明は、
「ママ?赤ちゃん?あきちゃん?百合ちゃん?」
「あら、素敵なお名前ね。お兄ちゃん。お腹の赤ちゃんはとてもうれしいと思うわ」
「……わぁい‼お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
大喜びの実明の声に、采明も微笑み、
「パパもビックリね?パパは大丈夫かしら?」
看護師に案内されたのは、何故か、病室ではなく、病院の横にある大きなお屋敷。
「しゅごーい‼ママ、今ね?おじーちゃんろしゅんでるおうちは大きいけど、このおうちもしゅごーい‼」
「私もビックリだわ、大丈夫かしら?」
案内されていくと、遼と談笑している初老の夫婦。
采明は驚き、
「え、遠藤先生‼奥様‼お、お久しぶりです」
深々と頭を下げる采明の真似をして、
「おちちゃきぶいでしゅ」
と頭を下げた実明は、朝、二人と朝御飯を食べているのだが、その愛らしい姿に二人は微笑む。
「本当に素敵な奥様になられたのね。采明ちゃん……采明さんの方がいいかしら?でも、咲夜ちゃんは咲夜ちゃんなのよ?本当に、この遼が頬を緩ませて微笑んでいるんだから」
「実明もママと一緒で嬉しいだろう?」
「うん‼たもちゅお爺ちゃん。よーこおばあちゃん。あんね、あんね?ママのお腹にちゃねあきのおとーとかいもーとがいゆの‼」
「まぁ‼それはおめでとう‼実明ちゃんお兄ちゃんね?」
「これは嬉しいことだ。ご主人の実綱君の手術も成功したよ」
保の言葉に両手で口を覆う。
「良かった……あのっ‼こ、後遺症などは……」
「ないない。健康で屈強な青年だ。銃弾を摘出しただけで、あとは、一応外からも確認したが大丈夫だったよ。ついでにあとの検査もするけれど、経過は順調だろう」
「そうでしたか……良かった……」
涙ぐむ母をみて、実明もぎゅっと足にしがみつく。
「だいじょぶよ。ママ。ちゃねあきいゆよ」
「そうね。実明がいるものね」
「采明ちゃん。一応、実綱君のことだが、首相が手を回して、首相の隠し子と言うことで戸籍を作ったそうだよ。本当は家が遼以外の息子を、首相に進呈して、実綱君を息子にすると申し出たのだけれどね」
からからと笑う保に葉子は、
「そうなのよ。なのに、あの男、熊斗ちゃんが家出したでしょう?芙蓉さんが落ち込んで、見ていられないのですって。それに芙蓉さんとの3男と4男があれだから、もう首相も降りるっていっているそうなのよ」
「そうなんですか?!」
「ご長男の子脩さんは会社の方を継がれているし、次男の子楓さんは芸術肌の方だから、そちらの道に進まれているし、お子さんで優秀なお子さんと言えば月季さんだけれど、あの方も、音楽方面に。お孫さんの彰さんも同じ。これで変わっていくのかもしれないわね……」
「良い意味に変化して行くことを望みます……。旦那さまのように、真面目な人が苦しんだり、悩んだりしない世の中に……」
采明は呟く。
「そうね。そうなると良いわね。それが、私たちが未来を生きる子供たちに残せるものなのだから、幸福に満ちた時を望みたいわ……」
葉子の呟きに、采明の裾を引っ張った実明が、
「ママ、おみじゅ」
「あ、あぁ、喉が乾いたのね。あの……」
「実明、おいで。お爺ちゃんが飲ませてあげよう。ジュースが良いかな?それとも……」
「んーとね……おれんじじゅーちゅ‼」
「采明ちゃんもこちらにお座りなさいな。旦那さまは後で目が覚める頃に会いに行ってあげましょうね」
両親と、義理の姉と甥の姿にホッとする遼である。
この時が続けば良いと、願うのだった。 
心臓は無事だろうとのことだが、肺か他の器官を傷つけた可能性があると言う神五郎は救急車に乗せられ運ばれていく。
妻である采明は涙を浮かべ、そして小さくなって、遼の影に隠れている実明を見る。
「実明ね?ごめんなさいね。お母さんを許してね?」
「……ま、ママ?」
「えぇそうよ。ごめんなさいね。ずっと側にいられなくて……でも、旦那さま……パパのお仕事が終わって戻ってきたの。実明と一緒に住みたいって、そう思って……それなのに……」
涙をぬぐう。
「パパが、元気になるように……実明、ママと一緒にお願いしてくれる?」
「うん‼」
遼に抱き上げられ、采明の隣に座った実明は、父親の手を取って、
「大きい‼パパのお手手大きいね‼」
「大きいでしょう?この手で、国の平和を祈ってお仕事をしてきたの。意地悪をする人を怒ったり、お国の主の人も怒ってね?悪いことしたらダメ‼って……」
「しゅごーい‼パパ格好いい‼」
「でしょう?」
と、薄く目が開かれ、なにかを探すそぶりをする。
「旦那さま。大丈夫ですよ」
「パパ!」
その声に、視線を動かした神五郎は、微笑み、瞳から涙が伝う。
「さ、ねあきが……無事で良かった」
「神五郎?そのままあの世には行かないから。一応、肺は逸れたけど内臓を損傷してるから、手術と入院。今、口をおおっているのは、一応酸素吸入……怪我をして息苦しいのを楽にするようにしているから外さない。いいね?」
「あ、あぁ、遼……元気そうで何より。本当にありがとう。実明を守ってくれて……」
「実明は私の甥だよ。ついこの間結婚して君が義兄さん、采明さんは義姉さん。そう呼ぼうか?」
「そ、それは、十分だ。せっかく友人として……知り合えたのに、堅苦しい。神五郎でも、実綱でも、構わない」
細い声で告げると、実明が、
「パパのお名前、しゃねちゅな?おんなじ『しゃね』?しゅごーい‼パパと一緒‼」
と目を輝かせる。
その愛らしい姿を目を細め、告げる。
「実明は、パパの実綱の一文字とママの采明の一文字をとったお名前だよ。パパとママの子供って言う意味だよ」
「ほんと?わぁーい!じゃぁね?じゃぁね?……ママ、あやめちゃんでしょう?『あ』が一緒?」
キョトンとする実明に3人はプッと吹き出す。
「な、何で笑うの?へんなことゆった?」
「いや、采明の『あ』もそうだよ。でもね。大きくなったら解ると思うけれど、ママの名前の文字が、実明と一緒だよ?実明のお姉ちゃんも『明子』と言って、同じ『あき』だね」
「お姉ちゃん‼お姉ちゃん何処?」
キョロキョロする実明に、采明は微笑む。
「明子お姉ちゃんは、咲夜お姉ちゃんと同じで、お嫁さんになるの。お嫁さんとしてのお勉強のために、向こうのおうちに行ってしまったのよ。実明に、『大好き』って伝えてねって言っていたわ」
「そうなの?しゃねあき、お兄ちゃんもお姉ちゃんもいないから、嬉しかったのに……」
「明子お姉ちゃんも、そう思っていたわ。それに実明と同じ名前が嬉しいって」
「……あ、お姉ちゃんもあきちゃんだ‼」
「でしょう?」
喜ぶ息子を抱き締める。
「もうずっと一緒よ?実明」
「うん‼」
車が止まり、後ろが開けられる。
「おい、はる‼無事か‼」
「うるさい、儁乂‼怪我をしたのは、実綱だ。……頼む」
救急隊員に運ばれていくのを息子を抱き上げて追いかけようとした采明に、
「采明さん。君も怪我はしていないと思うけれど、一応人間ドックに入って貰う」
「あ、あの……実明は……」
母親にしがみつく甥を見下ろし、
「じゃぁ、実明このおじちゃんと遊んで……」
「いやぁぁ‼」
ふぎゃぁぁんと泣き出す。
「やっぱりダメか。儁乂……つくづくお前は子供に嫌われるな」
「うるさい‼おーい、実明。おいちゃんと遊ばねぇ?」
「いやぁぁ‼パパとママといるぅぅ‼」
首を振る実明に、
「じゃぁ、実明。先生の言うことを聞いて、ママといるんだよ?」
「……いいの?」
グシャグシャの顔を拭い、微笑む。
「良いよ。その代わり、先生や看護師さんの言うことを良く聞いてね?」
「うん‼」
着替えをし、幾つかチェックをしていくが、レントゲンをとる前に、遼のチェックが入る。
「ちょっと待って!采明さん。妊娠していない?」
「えっ……?えと、良く……」
「微熱があるのと、少し変化がある。レントゲンはあと。先に女性産科医の診察を」
案内され、幾つか質問を受け、検査と診断を受けると、
「……おめでとうございます。妊娠……この様子ですと8週目ですね」
「えっ‼あ、あの、最初の実明の時もそんなにつわりは酷くなくて……」
「これからですよ?頑張ってくださいね」
ニッコリと笑われる。
実明は、
「ママ?赤ちゃん?あきちゃん?百合ちゃん?」
「あら、素敵なお名前ね。お兄ちゃん。お腹の赤ちゃんはとてもうれしいと思うわ」
「……わぁい‼お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
大喜びの実明の声に、采明も微笑み、
「パパもビックリね?パパは大丈夫かしら?」
看護師に案内されたのは、何故か、病室ではなく、病院の横にある大きなお屋敷。
「しゅごーい‼ママ、今ね?おじーちゃんろしゅんでるおうちは大きいけど、このおうちもしゅごーい‼」
「私もビックリだわ、大丈夫かしら?」
案内されていくと、遼と談笑している初老の夫婦。
采明は驚き、
「え、遠藤先生‼奥様‼お、お久しぶりです」
深々と頭を下げる采明の真似をして、
「おちちゃきぶいでしゅ」
と頭を下げた実明は、朝、二人と朝御飯を食べているのだが、その愛らしい姿に二人は微笑む。
「本当に素敵な奥様になられたのね。采明ちゃん……采明さんの方がいいかしら?でも、咲夜ちゃんは咲夜ちゃんなのよ?本当に、この遼が頬を緩ませて微笑んでいるんだから」
「実明もママと一緒で嬉しいだろう?」
「うん‼たもちゅお爺ちゃん。よーこおばあちゃん。あんね、あんね?ママのお腹にちゃねあきのおとーとかいもーとがいゆの‼」
「まぁ‼それはおめでとう‼実明ちゃんお兄ちゃんね?」
「これは嬉しいことだ。ご主人の実綱君の手術も成功したよ」
保の言葉に両手で口を覆う。
「良かった……あのっ‼こ、後遺症などは……」
「ないない。健康で屈強な青年だ。銃弾を摘出しただけで、あとは、一応外からも確認したが大丈夫だったよ。ついでにあとの検査もするけれど、経過は順調だろう」
「そうでしたか……良かった……」
涙ぐむ母をみて、実明もぎゅっと足にしがみつく。
「だいじょぶよ。ママ。ちゃねあきいゆよ」
「そうね。実明がいるものね」
「采明ちゃん。一応、実綱君のことだが、首相が手を回して、首相の隠し子と言うことで戸籍を作ったそうだよ。本当は家が遼以外の息子を、首相に進呈して、実綱君を息子にすると申し出たのだけれどね」
からからと笑う保に葉子は、
「そうなのよ。なのに、あの男、熊斗ちゃんが家出したでしょう?芙蓉さんが落ち込んで、見ていられないのですって。それに芙蓉さんとの3男と4男があれだから、もう首相も降りるっていっているそうなのよ」
「そうなんですか?!」
「ご長男の子脩さんは会社の方を継がれているし、次男の子楓さんは芸術肌の方だから、そちらの道に進まれているし、お子さんで優秀なお子さんと言えば月季さんだけれど、あの方も、音楽方面に。お孫さんの彰さんも同じ。これで変わっていくのかもしれないわね……」
「良い意味に変化して行くことを望みます……。旦那さまのように、真面目な人が苦しんだり、悩んだりしない世の中に……」
采明は呟く。
「そうね。そうなると良いわね。それが、私たちが未来を生きる子供たちに残せるものなのだから、幸福に満ちた時を望みたいわ……」
葉子の呟きに、采明の裾を引っ張った実明が、
「ママ、おみじゅ」
「あ、あぁ、喉が乾いたのね。あの……」
「実明、おいで。お爺ちゃんが飲ませてあげよう。ジュースが良いかな?それとも……」
「んーとね……おれんじじゅーちゅ‼」
「采明ちゃんもこちらにお座りなさいな。旦那さまは後で目が覚める頃に会いに行ってあげましょうね」
両親と、義理の姉と甥の姿にホッとする遼である。
この時が続けば良いと、願うのだった。 
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