運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

マタアイマショウ、マタアイマショウ

景虎かげとら百合ゆり、そして熊斗ゆうとの名前を捨て、中条弥太郎景資なかじょうやたろうかげすけの名前をもらい受けた少年は、ニッコリと笑いつつ、日本国首相の飛行機をかっぱらい、通常羽田の便を、景虎の故郷に進路を合わせた。
ニッコリとそしてなだめすかすというよりも、半分以上強制的に進路まで変更した景資かげすけに、景虎は遠い目をし、百合は面白がった。

いや違うだろう……普通はと口を挟もうとした景虎だが、ニッコリと、

「何か文句はあるのかな?虎?私は、機長に『お願い』しただけだけど?」
「いや、ない」

これ以上言ったら、熊斗の……景資の本性が‼
自分の臣下になると言ったのに、こっちが頭を下げることになる。

「でもさぁ、虎?」
「ん?何だ?」

隣に並ぶ景資と百合を見る。

「……私が、景資ですと、出ていって、あちらの父上は何て言うだろうね。咲夜さくやはあんなに優しくて、可愛いのに、私が景資ですって、卒倒されたらどうしようか?」

ためらいがちに呟いた景資を見て、即答する。

「最初はビックリだろうが、采明あやめ姉上を迎え入れた家と一族が、何も言わぬだろう」
「できが悪いから?」
「はぁ⁉」

景虎だけでなく百合も引く。
何をいっているのだ、この少年は⁉

「咲夜は美少女で端整だろう?私は平凡だし、秀でているところはないし、咲夜を見て私を見たら、嘆くと思うんだよね」

昔っから、兄弟と比較され続けた影響である。

「それに、大兄さんやつぐ兄さんは言わないけどさぁ、私の同母兄、いつも何て言ってくると思う?」
「来るってどういうことだ?」

景資は、ポケットに入れていた携帯を出し、メールを示す。
受け取った景虎は嫌悪感を露にする。

「何だ?これは‼『俺が偉いのを妬むなひがむな羨むな‼』馬鹿か、お前の下の二人の兄って、世界でも馬鹿で有名だろう?一応いいところの学校を卒業したとか、琴棋書画きんきしょがをそれなりに嗜んでいるとか……でも、これって、アホだろう?普通、妬みもひがみも人の心にあるもので、それを打ち消そうと必死に努力する。でも、やっぱりそれは残る。それは誰しも持つ感情だ。それを……これとは、あははは‼お前の兄達ほど愚かで恥ずかしい人間はないな‼」
「本当!あはは~‼何?これ、どこそこの令嬢に、宝石をばらまいたらデートができたって、本人の魅力ゼロじゃない⁉このご令嬢も、宝石目当てでしょ?あら、天香てんこうに目をつけたの?嫌なやつ‼」

舌打ちをした百合だがすぐに、

「景虎、熊斗、これは内緒よ‼お願いね‼理由があるのよ‼」
「知ってるよ。天香さんって、瑠璃るり先生の再来って言われている美人モデルなんだよね。黒い髪が美しくて、メイクもシンプルで、でも、蠱惑こわく的な魅力を持っているって」
「友人なのか?」
「私は、地方の底辺だったけど、天香は、当時から美貌でね。でも、本人は淡々としていたし、逆に取材とか鬱陶しいって思ってた感じ。なのに、私にはとても仲良くしてくれてね?時々文通してたんだけど『鬱陶しい兄弟と関わってしまって大変迷惑しているの。なんとかならないかしら……』ってあったわね」
「あぁ、あの二人の取り合いと言う遊びに巻き込まれているのかもね。じゃぁ、警視総監に言って、かくまってもらうように伝えておこうよ。これ以上、関わったらこっちが嫌だ」

景資の一言に、二人も頷く。
女性は守るものであり、特に美人は可愛がるのだ‼

「と言うことで、虎?本当に大丈夫?礼儀作法を覚え直すことも大切だと思うけれど、咲夜の代理として、認めていただけるだろうか?」
「……咲夜の代理ではなく、熊斗の事を本当の息子として可愛がると思う。藤資ふじすけのじいは」
「そうかなぁ……もう少し本性隠しておいた方がいい?」
「いや、お前自身を見てもらえ。と言うか、熊斗?お前は自分自身が見えてないんだな……と言うよりも、そんな風に自分に自信を持てなくなるまで馬鹿たちに馬鹿にされ苛められ、命令されてきたんだな……私には、熊斗であった頃から、お前は優しくて賢くて、周囲に気を使い、身分の上下など関係なく等しく接し、周囲の人たちも、お前の事を『熊斗さま』ではなく『ゆうちゃん』と親しく話していた。お前は、馬鹿でも愚かでもない‼逆に、私よりもあとから入ってきたくせに、すぐに追い付いて来て、私は必死だったんだぞ?負けるもんか‼絶対に‼って」
「はぁ⁉嘘だぁ‼虎は、初めて会ったときから……」

堂々としていた、自信に満ちていた、そして優しい声で歌っていた。

「私は、最初もう、全く違う世界に驚き、怯えてよく泣き叫んだものだ」
「そうそう。新幹線や、飛行機に怯えてね、特に飛行機を待つ間にVIPルームに案内されて待っていたら、飛行機が飛び立つのにビックリして、『……嫌なのだぁ‼かえるぅぅ‼』って大泣きよ?で、元直げんちょく先生がジュースとかで気をそらせて泣き止んだと思ったら、出発で……もう、ずっと泣き続け‼」
「元直兄は、私が8才の時に『成長したからもう私は必要ありませんし……』とか言うので、また、わぁぁん‼と泣いた。多分、首都圏で、玉樹ぎょくじゅ姉上の出産待ちなのに、命令‼とか言われて、先回りしてるんじゃないかな?」

と、景虎が言うと、

あはは‼

と、景資が笑い出す。

「えぇぇ?景虎もあったの?私も実はね?あったんだ‼あの父上の外交に同行したんだ。大兄さんもしょう兄さんと一緒で。初めてで、緊張していたら、トイレに行くのを忘れて、もうすぐ着陸って言うときに行きたくなって……そうしたら父上や、官僚は渋い顔をしてね?そうしたら、大兄さんがボコッって父上殴って、『熊斗はまだ子供だ‼子供をつれてくるって言うなら、トイレや喉が乾いたとか気を使え‼ついでに、何なら親父……1日トイレ行くなよ‼それと、母さんに、あの件をチクる‼』って言ってくれて、彰兄さんも『父さん‼俺もいってくる‼やっぱり緊張してきちゃった‼』って、手を繋いで行ったんだよ」
「彰兄さんは、本気で私も兄になってほしい‼」
「私も叔父になっちゃうんだけど、彰兄さん大好きなんだ。あんな強くて優しくてカッコいい兄が良かった‼大兄さんたちも自慢だけどね?」
「えぇぇ‼何いってるのよ‼私なんてかわいいお姉ちゃんと、美人の妹の間で、爆発破壊娘よ‼まぁ、本当だけど」

百合の一言に、二人は笑い転げる。

「あははは‼爆発破壊娘‼それはすごいな‼」
「誰が言ったの?破壊要素満載の声は彰兄さんと月季げつき姉さんだけど。特に月季姉さんは性別間違ってない?って言う感じの声だけど?」
「あぁ、熊斗知らなかったかしら?私、4年間、うらら先生に柔道と、儁乂しゅんがい先生にいくつか格闘技習ってたのよ。いくらはるか先生でもずっと咲夜のそばにいられないでしょう?それに、月季に武器は持たせたくなかったもの‼私がるわ‼と思って」
「思ってって、そこで笑わないでよ‼百合‼何で格闘技習ったの?」

景資の言葉に、微笑む。

「お姉ちゃんの所に行こうと思って。お姉ちゃんは本当に優しくて、私の大事なお姉ちゃんなの。お姉ちゃんが本当は寂しがってた、孤独に泣いていたって……」

目を伏せる。

「それなのに、4年前のお姉ちゃんの姿……お姉ちゃんも私が守るって思ったのよ‼」
「もって、他にいるの?」

百合は示す。

「景虎よ。この子抜けててアホだもの」
「な、なんだと‼熊斗の馬鹿兄と一緒に……」
「あら?景虎って言葉のニュアンスって解らないのね?」

百合はクスクス笑う。

「多分熊斗もだと思うけど、馬鹿とアホはちょっと違うわ。馬鹿は知っての通り中国の故事で、ある国の国王よりも権力を持つ大臣だったかしら?その者が、鹿を捕らえてくるの。で、それを献上して『名馬を献上いたします』とやるのよ。誰も、どうみても鹿なのに、権力者がこわくて『よい馬です‼』って言うものだから、当主も『いいものをありがとう』と言ったのよ。そこで『馬鹿』ができたの。アホは、日本の関西系の方言で馬鹿に似た人を馬鹿にする言葉だけれど、話の前後をきっちり聞いていると本当にあざけっているのかからかっているのか解るのよ。昔、景虎と何回か時代劇見たでしょう?景虎は、武器の持ち方、あんな風に振り回せないとか教えてくれたけど、私が言いたかったのは、『アホねぇ?』と言うのは、本当に悪い意味ではなくて、『あなたの考え方は普通じゃ付いていけないわよ、もっと堅苦しいのを取っちゃいなさいよ』って言う意味よ?」
「えぇぇ?そ、そうだったのか?」
「当たり前でしょ?固くなったって、何の良いこともないじゃない。それよりも、肩の力を抜いて気楽に行きなさいってことだったのよ。今までわかんなかったの?それこそアホねぇ」

あきれ返る百合に、悔しがる景虎を見つつ、ケラケラと笑う。

「あははは‼じゃぁ、私もアホだね‼親よりも虎についていくんだもん‼後世に名前が残るよ‼『女好きエロ親父に見切りをつけて、親友と共に旅に出るアホな少年』って」
「あら、アホな少年じゃなくて最高の選択をした名将って言われると思うけど?」
「百合は怪力、破壊要素満点のあずさの前の再来、だな」
「あら。それはありがとう。女も武器はある程度持っていないと、何か起こったら大変でしょ?特に咲夜のお母様のように苦しむ人がいるかもしれないわ‼私は絶対にこの力と能力を、景虎と女性のために使うのよ‼」

言い切った百合に、アナウンスの声が、

『もうすぐ空港に到着いたします。シートベルトを締めてください』

「いよいよだな」
「行きましょう‼」

3人はうなずきあったのだった。

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