どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

4

ぶっとんだ魔王のとんでも告白が終わって俺が直ぐにとった行動がある、それは……。

「こらぁぁっ! シルクっ、何処へ行くと言うのだ! きちんと返事をせぬかっ」
「うるさいっ! あんな、とんでもない状況で返事なんて出来るか!」

逃走だ……俺はあの部屋から飛び出し、颯爽と駆け出した、何で逃げるかって? そりゃあんな状況じゃ誰だって逃げたくなるだろう、だからダダダダッ! と一心不乱に走る! だから心臓がバックバクだ。

「はぁっはぁっはぁっ……くそっ、廊下長すぎだろっ!」

先が見えない……なんだこの廊下! 無駄に長いっ、しかも薄暗い! 俺は体力は並み以外なんだ、はやく出口を見つけないとやばいぞ!
ちらっと後ろを見ると……。

「待たぬかぁー! ぜぃっぜぃっ……」

胸をぶるんぶるんと上下に揺らしながら追ってくる、物凄い足が速いのかと思ったが、違った…あの胸が邪魔してるんだ、これから逃げ切れるかも知れないっ!

「はぁ…はぁ…くそっ……ここ何処だよっ」

出口が分かればの話だけど……取り敢えず、このまま真っ直ぐ進めば曲がり角位あるだろう、取り敢えずそこを曲がろう、そうと決まれば加速だ!

「はっ……はっ……あっ! 曲がり角!」

やっと見付けたぞ! なんだこのレアな感じは! とっ取り敢えず曲がろう、減速しない様にコーナーはきちんと身体を倒すっ! 難なく曲がってそのまま真っ直ぐ進もうとしたら……廊下の脇に棺桶が立っていた。

「うおっ! ビックリした、ただの棺桶か…………ん?」

そのまま通り過ぎた俺は今の奇妙な事に気が付く、何だ今のは? いっ今は無視だ、超気になるけど走り続けなければ……自分の心に言い聞かせ進む、だけど俺は凄い事に気が付いてしまった。

ゴトンッ……ゴトゴトッ!ーー

「あっあの棺桶追ってくるんですけどぉぉぉっ!」

大きく左右に揺らしながら迫り来る棺桶、恐怖以外の何者でもない……え? 何あれっ! ナニアレ!?

「ぐっ……どう言う原理で動いてるんだよっ」

何て事を考えつつ走る! だが、もう体力の限界が近い……ロアでも手一杯だと言うのに何故棺桶に追い掛けられるんだ?

「……嫌になる」

くっそ……もう走れないぞ? すぐ後ろにロアと棺桶がいるのにっ。

「おいっ邪魔じゃ退かぬか!」

ゴトンッガタンッーー
あっ、大丈夫そうだ、あの棺桶が通路塞いでてロアが通れないでいる、しかしあの棺桶……一人でに動くとか怖すぎだろ。

「よし、今なら逃げれる」

今の内に距離を取ろう。


「ふぅ……取り敢えず撒いたか」

でぃでぃと息切れを起こしつつ後ろを振り向けば誰もいない、走り続けてしんどかった……これでゆっくりと出口を探せそうだ、少し気分が落ち着いた、気合を入れて前を向くと……ドンッーーと何かにぶつかる。

「いたっ……ふぁっ!?」

さっきは誰もいなかったそこには、強靭で巨大で弱い俺なんかが出会ったら1秒と経たずに死んでしまう怪物で、物語でよく見掛けるドラゴンがいた、と言うか今変な声出たな…それと同時に「終わった」と脳裏で瞬時にその言葉が思い浮かんだ、そのドラゴンはなんか目付きが鋭いし牙も鋭い……それ見た俺は硬直する、口なんかだらしなくポカーンと開けてる、あぁもう少しましな死にたかったなぁ……口を開けたまま死ぬとかだらしないだろ……うっ、このドラゴン顔近付けて来たぞ…あぁそうか、顔からパックリ食べられるのか……魔王に告白されるし、動く棺桶を見かけるし、最後にはドラゴンに食べられるのか……と言うか、実際にドラゴンなんていたんだな……かなりの衝撃だ。

「ようやく止まってくれましたね……ん? 良く見てみると凄くスカートが似合いそうなお方ですね」

いやぁ……もう本当にびっくりだわ、このドラゴン喋ったよ、凄く大人しい声音だなぁ、厳つい体格でそんな声するなんてな……ははは……はぁ。

「スカートが似合いそうってどう言う意味だよ」
「女装の才能があると言う事です」

どうしよう、普通に話し掛けて来たんだが……と言うか、鼻息強力過ぎだろ、ふんすーって言ってるし俺の髪の毛が、ふぁさーって靡くし……こんな時どんな顔したら良いか分からない。

「あっそうでした、貴方を逃がす訳にはいかないので失礼しますね」

ぐおっと大きな手を上げ俺を掴み取る、突然の事にビビる俺を他所にドラゴンが立ち上がる、するとドンガラガッシャーンーーと轟音を上げ壁と天井を壊す。

「取り敢えずロア様のお部屋に向かいましょうか」

月を背に語るドラゴン、何だか絵になるなぁ……なんて、呑気に思ってる場合じゃない!

「ふっふざけるな! 俺は……」
「えと、シルクさんでしたっけ? 1つ言っておきますね……我々の魔王様は基本人の言う事を聞きませんので諦めて下さい」
「そう簡単に諦められるか!」

くそっ、ドラゴン怖いし、此処結構高いし…後、ちょっと痛い!

「ちょっとヴァームっ、何をしていますの?」

ん? 下の方から声が聞こえる。

「その声はラムですか? 何ってシルクさんを捕まえたんですけど……」

聞こえるけど、このドラゴンの身体が大き過ぎて誰か分からない…この流れで考えたら、人間じゃないのは確かだな。

「また変身してお城を壊しましたわねっ! ロア様にお仕置きされますわよ!」

下にいる奴は、やたらとお嬢様口調だな…。

「まぁ、そうですね……でも大丈夫ですです、こう言うのはパパっと直せますから」
「そう言う問題じゃありませんの!」
「……仕方ないですね、後で直しますよ、さて取り敢えず元に戻りましょうか」

はぁっ、とため息(強風)が俺にあたる、うわっ物凄い風圧……ドラゴンがため息って、何かシュールだ、何て事を思っていたらドラゴンの身体がぴかっと光って見る見る内に小さくなっていく……やがて人間の形へと変化していき最終的に俺はお姫様抱っこされていた。

「……だれ?」

気の抜けた声で語る俺、なんだか知らんが俺を掴んでいたドラゴンが人間になった、しかも凄く綺麗だな……大人しそうな顔立ち、大きな胸を持つ体型……黒メイド服を着たポニーテールの女性、背は俺より高そうだな……あっ、頭には少し捻れた角が2本あるな…ソレに後ろに見えるのは……尻尾? 少し太くて長い黒い尻尾がある。

「申し遅れました、わたくしは魔王ロアに使えるメイドを率いるメイド長のヴァームと申します、一応世界最強を誇るドラゴンのヴァハムートです」
「ごめん……何言ってるかさっぱり分からない」

いやぁ……とんでも無い事が起き始めたら次々と起こるもんだなぁ……なんて日だ!

「そうですか?、まぁ分かり易く言えば私はドラゴンと言う訳です」

ふふっ目を瞑ってニッコリと笑うヴァーム、そうかドラゴンか……この人はドラゴン、そう言う事にしておこう……でだ。

「ちょっちょっと! しかとですの!?」

目の前にいる、この半透明の女性はなんだ? 縦ロールのツインテールで背は俺よりちょっと低い感じでスマートな体格をしている、見るからにツンツンしてそうな表情で、半透明だから良く分からないがドレスっぽいのを着てるのが分かる……月の光を浴びてきらきら光ながら起こる半透明の女性だ。

「あっラムさん申し訳ありません……シルクさん、紹介しますね、彼女はラム、ロア様に使えている人型のスライムです」

いや、普通に説明されてもなぁ…と言うかそろそろ降ろしてくれない? 何だろう、こう言う事ロアの時も時もあった様な気がする……。

「肝心な所が抜けていますわ!」

突然ラムが叫ぶ、どうやら怒ってるみたいだ、俺の方へと近付いてこほんっと咳払いをする。

「改めて紹介しますわっ、あたしは魔王ロア様の絶対なる下僕、名をラムと申しますわ」

……げっ下僕? この人いや人では無いな、って、そんな事はどうでも良い…今、自分で自分の事を下僕と言ったのか?

「魔物の中で最弱を誇るスライム……ですが、ロア様はあたしを拾って下さいましたの……」

……何? この話聞かないと駄目なのか? 俺はさっさと逃げたいんだが……。

「あの、美しい褐色肌! 麗しき紫の髪と紅き眼光っ、あぁっ、あたしには分かりますのっ、あの方こそあたしの王女様!」

何度も言うが、半透明で良く分からんが顔を赤くしてるのか? 非常に嬉しそうに語っているんだが……何だろう、彼女は別の意味でとんでも無い気がする。

「あたしがちょっかいを出したら殴る蹴るのご褒美! マッサージしてあげすわっと言って、おっぱいを揉んだら巨大な火炎球のご褒美! 暑いので水浴びしましょうと言ってハグしようとしたら……」
「止めてくれ、なんと言うか…その…もう良い……それ以上は言わなくていい、君と言う人物が良くわかった」

俺がラムの言葉を遮ると不満そうに……。

「そう、分かりましたわ……」

口ずさみ唇を尖らせる、いや驚いた……最後の最後に驚いた、何だこのドMは……。

「うふふふ、相変わらずのドMっぷりですね」
「ちょっちょっと! 興奮させないでくださいましっ」

ぐぐっ、本当に胃に穴が開く……此処にいたら必ず胃に大穴が開いて死んでしまう。

「なっなぁ……そろそろ降ろしてくれないか?」
「? あぁ……申し訳ありませんが、それは出来ません」
「そうよ! 言い方がなってませんわ! もっと、メス犬の様に懇願なさい!」
「出来るかあほっ!」

何なんだこいつ等は……いい加減にしてくれ!!

「うっ、はぁ……はぁ……流石、ロア様の愛した殿方ですわ、可愛らしい顔をして中々のご主人様気質ですの!」

ズキンっーー
いっ胃が痛い……今のラムの言葉で胃にダメージが来た様だ。

「あっ、ヴァームとラムではないか! シルクを捕まえてくれたのだな、ありがとう! 恩にきるのじゃ」

うおっ! ロアが追い付いて来た! あっ……棺桶持ち上げながら来てる。

「あっ、ロア様……また、天井を壊してしまいました」
「ん? あぁ、またか……仕方無いのぅ」

ヴァームの言葉を聞くやれやれと言いたげにロアがため息をはく、俺はこの隙に逃げてやりたいが……正直、このドラゴンから離れた瞬間、命が危ない気がするんだ、ロアは、棺桶を床に置く、ゴトンゴトンーーと中から音がするから誰かいたんだな……なら、俺は聞きたい、中に入った状態でどうやって動いたんだ?

「あぁん、愛しの魔王様ぁ、ラムに偉大なる愛の接吻ぶほぉぉぉっ!」

突然、ロアに勢い良く飛び付いたラムは右ストレートで吹っ飛ばされる、その時に彼女は恍惚な笑みを浮かべていたのを俺は見てしまった。

「さて、シルクよ」
「何だ、結婚ならしないぞ」

スタスタと俺に歩み寄りながら話を切り出してくるロア、俺ははっきりと答えを出しておく。

「ふふふ、そうじゃな……突然、あの様な事を言えば誰でも断るじゃろうて」

不適に笑うロア、俺が断るのを分かっていたのか? ……何か嫌な予感がする。

「だがわらわは自分の意思を押し通す!」
「……おい、勝手な事を言うな! 俺はっむぐっ…!」

突然、ロアに口を閉ざされる、きっキス……こっこいつ、これで2回目だぞ?

「わらわはのぅ、自分の欲求の為なら何でもするのじゃ……」

唇を離し耳元で囁いてくるロア、この言葉には深い執念を感じる。
本気で言ってる……ロアは、本気でこのとんでも無い事を言ってるんだ! ヴァームの言う通りだ、コイツは人の言う事を聞かない……。

「わらわに惚れさせてやるのじゃ! 覚悟しろ、シルク ハーベスト」

ぺろんっと頬を舐められた俺は乾いた笑いをするしか無かった、俺に拒否権は無いし逃げ場も無そうだ、唯一の希望は誰かが此処に来て俺を助け出してくれる事だ、頼む……誰か……誰かこの自分勝手な魔王から俺を助け出してくれ! 何でもするから……助けて下さいお願いしますぅぅ!!

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