どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「シルクよ暫し離れておれ……わらわはこの女が気に食わん」
「ちょっ何を……」

俺の言葉を遮る様に後ろに突き飛ばす。

「喧嘩売ってるのって聞いた? うん……かなり売ってるかも」

塗れた髪を撫でながら真っ直ぐとロアを見つめるアヤネ……ん? 何時も着ている鎧を着ていないな、替わりに黒い服を着ているし、何時も持っている剣も無くなってしまっている……と言うか何で此所にアヤネがいるんだよ!?

「ほぉ?やけに素直な奴じゃ……なぁ!」

と俺が驚いてる時だった……ロアが天に拳を上げた、その刹那ごうごうと突風が吹き荒れる、俺はあまりの風の強さで持っていた傘を離してしまう、そしてそのまま地面に尻餅をつく。
あっあの2人、突風が吹いているのに関わらず何事も無い様に立っている、ロアの方は兎も角……なんでアヤネは平気なんだよ! この風強すぎて今にも竜巻が起きそうなんだぞ? びゅゅっーーって凄い音鳴ってるし本当に凄いんだぞ?

「不思議な力を使うね」
「くふふふ……わらわは魔王じゃからな」

アヤネの髪の毛が風で靡かれる……表情1つ変えず何時ものやる気無さげな声で語る、ロアは不適に笑いながら今度はその手をアヤネに向ける……これ本当にこれからバトルが起きそうじゃないか? だって……アヤネも何か構え取ってるもん。

「そう……でも、それがシルクと一緒にいて良い理由にはならない」

今までで見た事がないアヤネの睨み……おっ怒ってるのか?

「ほう……ならばそなたはどうするつもりじゃ?」
「簡単……殴って倒せば万事解決」

さらっと危ない事を言うんじゃない……くっ、雨と風が強すぎて止めようにも止められない! 雷もゴロゴロなってる……てっ何だよこのラスボス戦みたいな雰囲気は!

「……野蛮じゃの」
「好きに言えば良い」

お互いに睨み、ロアは指先から閃光の様に輝く光を出現させる、対してアヤネは軽く息を吐き拳に力を加える、やっやばい……これ最終奥義繰り出し合う流れだ!俺は咄嗟に頭を押さえ屈む。

「……ほとばしれっ魔王ビームっ!」

凄まじい程のダサい名前に反して激しい衝撃を発してず太い閃光がアヤネに向かって放たれる、それを見たアヤネは視線を反らす事なくその閃光をじっと見つめる、交わす様子なんて見えない……俺は思わず「危ない」って叫ぼうとした。
だがその必要は無かった……何故ならアヤネは既にそこにはいなかった、つまり……「ふっ馬鹿め……それは残像だ」と言う奴だ。
では何処にいたのか? それは……上だ、空高くジャンプしてロアの魔王ビームを避けていた、アヤネよ、お前結構高く跳んでるが……残像残すってどんな身体能力してるんだよ!

「ブレイブ家直伝……幻影ファントム飛翔フライ

キメ顔で答えるアヤネは空中なのにも関わらず体制を取る、こっちは無駄に格好良い名前だな……。

「ふっ馬鹿め……今のは跳ぶように仕掛ける為の陽動じゃ!」

そんなアヤネを見て今度はロアは六芒星を空中に書いていく……空中には怪しく紫に光六芒星が浮かび上がる、そこから禍々しい何かを感じる、そしてカッ! と目を見開いて叫びだす。

「食らうがよい……スーパー魔王」
「させない」

だがロアの言葉を遮りアヤネが何かを仕掛ける、アヤネは何故か服を脱ぎ捨てそれをロアに投げつける! 俺は直ぐに視線を反らした、近くに俺がいるのに何で服を脱ぐんだ? 戦法としては有りだけど女としてはアウトだよ!

「くはぁっまっ前が見えぬぅ!」

で、その服がロアの顔に被さる、空中から地上に降り立ったアヤネは上半身裸のままロアに走り向かって行く! 拳を振り上げ「かはぁ……」と言う息使いをする、因みにちらりと見たアヤネの胸は壁の様にまっ平らだった……その思いを振り払うかの様に俺は頭を振るう。

「シルクを取った人…倒れろっ」
「くっ……何を言っているのじゃ!」

魔王に充分に近付いた時そのまま拳を放つ、その瞬間、顔に被さった服を取り払いその拳を見てロアも殴る動作を取る!

「……」 

だっ駄目だ、このままだとお互い傷付いてしまう……いやそれだけじゃない、街が崩壊してしまう!

「ふんっ」
「喰らうのじゃぁぁっ」

お互いの拳が2人の顔面に当たる……その瞬間だった。

「イケメン鉄の掟っ!!」

空から執事服を着た緑髪の丸く整った髪型の男が降ってきた、何か格好良くポーズを決めてる、あのポーズには見覚えがある……いや、俺は見たぞ? あの甘い声音とあの執事服で角と翼と尻尾……間違いないあいつだ。

「美女の喧嘩はイケメンが命をとして仲裁する!」

しゅたんっと華麗にロアとアヤネの前に着地してしゅばっと両手を広げてそれぞれの頭を掴む。

「ぬおっ!?」
「……んっ」

そして「すぅ……」と息を吐いて高らかに叫ぶ!

「はっはっはぁぁっ、実にクールじゃないか!」

この台詞、久々に聞いたな……それに会うのも久しぶりだな、まさかヘッグが喧嘩を止めてくれるとは思わなかった、ヘッグは華麗に笑いながら2人を押し返し自分の着ている上着を軽やかに脱ぎアヤネに投げる、その下には白いシャツを着ていた。

「濡れているがそれを着ると良い」

そうした後パチンっ! と指を鳴らす、相変わらず1つ1つの行動に格好をつけるんだな……と思っていたらヘッグが、しゅばっと俺の方に振り向いてくる。

「姿や声が変わっていても俺には分かる……君は男の娘さんだね?」
「その呼び方は止めろ……」

ばちこーんっーーとウインクしてくるヘッグを睨んでやる、こんな状況でもキャラはぶれないんだな……と言うかあれだけ暴れていたロアとアヤネが空気になってないか?

「むぅ……邪魔しないでよ」
「まぁそう言わないでくれたまえ……レディが傷つくのはクールじゃないからね」

渡された執事服はぶかぶか、ちゃんと隠していないと前が見えてしまう、それを着たアヤネはじと目でヘッグを睨む、なんだこの2人面識があるのか?何か親しげだな。

「おいヘッグっそろそろ手を離さんか!」
「おっと失礼……」

ロアに言われ掴んだ手を離すヘッグ、その後ロアが睨みを効かす。

「くっ突然現れおってぇ……」
「はっはっはっ!実にクールだっただろ?」

そんなロアの睨みを持ち前のニヒルな笑顔で乗り切る、ほんっとぶれないな。

「まぁ……それは今はおいておくとして魔王様、城に行かないかい? このままだと全員風邪を引いてしまう……」
「うっ……そっそれもそうじゃな」

ふに落ちないが上を見上げてヘッグの言葉に同意する、するとアヤネが服で胸を隠しながら真っ直ぐ手を上げて話してくる。

「私も行く」
「貴様は来んで良いのじゃ!」

そんなアヤネの言葉に直ぐ様反応して俺の方に近付いてくる、それに続いてアヤネも俺に近付いて来た、そしてロアとアヤネは俺の腕を右にロア左にアヤネといった感じに掴んでくる……なっなんだこの状況、軽く胃が痛んで来たぞ? これはあれか……あれなのか?また騒がしくなる予兆とでも言うのか? だとしたらもう勘弁してくれ、そろそろ本当に色々有り過ぎて倒れてしまうぞ! 俺は表情を歪ませため息を吐き、何の辺鉄も無い平穏を夢見るかの様に遠い目をするのであった。

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