どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

72

 俺はまた黒い空間に居た、そこは少し暖かいその空間……不思議と居心地が良かった、周りを見る俺はある事に気が付いた。
少し遠く……上から光が射していた、その中に人がいて近付いて来る、誰だ? 俺と同じ髪型なのは確認出来る、あれ? こいつ見覚えがある様な。

『おーい、シルクぅ』

あっ、声が聞こえて来た、このやる気無さそうな声……滅茶苦茶聞いた事があるぞ。

『シルクぅ、私だよぉ』

手を振ってるな……俺も振っておこう、と言うか「私だよー」って言う適当な挨拶、まるであいつ見たいだ、大分近付いて来た……ん、あれ……こいつは!?

『シルクぅぅ!』
「アヤネ!?」

間違いない、幼馴染みのアヤネだ……軽装の鎧を着て黒髪ロングヘアー、久し振りに見たアヤネだ、夢の中なのに会って久し振りなのは可笑しい気がする……って、こいつ飛び掛かって来たぞ!

『久し振りにはぐしよ』
「それハグじゃな」

お前のそれは飛び掛かりって言うんだよ! 俺の言葉は遮られてアヤネに抱き付かれ支えきれずに俺は地面に倒れる、ぐはっ! 頭打った! こう言う事夢で体験するとは思わなかった……って! うおっ! 顔近い! 唇がくっつきそうだ。

『ね……シルク、私会いに来たよ』

あっ会いに来た、その言葉をアヤネが言った時だった、自分の身体が揺れる感じがした……すると視界が歪む。

「アヤネ……」

俺は声を掛けるが返事は無い……するとアヤネとの距離が遠退いて行く、なっ何だこの夢は……物凄く意味深じゃないか? 俺は服を手で叩きながら立ち上がる、その時だ……腕にチクッ! と傷みが走る。

「っ!?」

その衝撃で周りの景色が明るくなった、そりゃそうだ……寝てる時に傷みが走ったら誰だって飛び起きるだろう。

「うわぁっ! いきなり起きないで下さいですよっ!」

横で声が聞こえる、あっ! 俺上体起こしてるな……余程痛かったんだろうな……景色が見慣れない、あっそうだ! 俺は昨日色々あって鬼騎のベットに寝たんだったな、何時もと違う寝起きの光景……うっ腕痛いな、さっきの傷み何なんだ?

「なに、ぽーっとしてるですか!此方を向くですよ!」

誰かの手が俺の顔を掴み声のする方向に向けさせられる。

「いたたっ止めろっ!」

このふんわりした声音は……メェか! 向けられた方向に彼女はいた、ふわふわの天然ヘアーの天辺には今日もアホ毛が立っていた、あっ……またぶかぶかの白衣を着てるな、ちゃんとサイズのあった服着れば良いのに……と言うか心なしか今日のメェは大きく見える……気のせいか?

「全く、朝は早起きが基本なんですよ?」
「あっあぁ……って、何でメェがいるんだ?」

疑問が出て来たので早速ぶつけてみる、すると「にひひっ」と笑った後胸を張って答えて来る。

「それはですねぇ……」

メェは何胸を張ってるのかは不明だが……何か長くなりそうだな、まぁ聞くがな。

「昨日の夕方の事です……それは突然訪れたのです」

うっとりとした表情で話し出すメェ、そろそろ胸を張るの止めようか……目のやり場に困ってしまう。

「ヴァームが倒れたきぃ君をメェの診療室に持ってきたんです」

あぁ、あの後そこに行ったんだな、って持って来たって言うなよ……物じゃないんだから。

「そこでベットに寝かせた後、ヴァームは何か用があるみたいで何処かに行っちゃったです」

用か……あっ、心当たりがあるぞ、ラキュにコスプレがどうのって言ったあの事だろうな……けしかけたのは俺だがラキュは無事か? またトマトと話して無いだろうな。

「そこからはメェがきぃ君を看病したんです、したんですけど……」

ん? 何か悲しげに話し出したな、何かあったのか?

「朝きぃ君が起きて、めぇの顔を見たらビックリしたのか変な声上げてベットから落ちて床に強く頭を打って気絶したです」

……おっおぅ、何か目に浮かんでしまう、起きたら目の前に好きな人がいたら驚くよな。

「その後看病したです……ずっと見たかったんですが……お腹減ったので此所に来たです、冷蔵庫漁ろうと思ったですよ」

成る程……だからメェは此所にいる訳か、鬼騎の事だ、料理の作り置きがあると思ったんだな。

「で、シルクは何故きぃ君の部屋で寝てるですか?」

小首を傾げながら今度はメェが俺に質問をぶつけて来た……ざっくりと説明するか。

「色々あってロアが此処から出ていったから帰る手段が無くて仕方無いから此所で寝たんだ」
「あぁ、人間は50キロなんて速さ出せないですからねぇ」

ロアが廊下に掛けた時速50キロで走らないと迷い続ける魔法……本当迷惑な魔法だ。

「理解したか?」
「理解したです」

そりゃ良かった……さて、そろそろ起きるか、そう思ってベットから立ち上がろうと思った……あれ? 何か着てる服だぼだぼじゃないか? 昨日は色々あって仕立てられた俺の服を着て寝た……寝る前はピッタリなのに……丈が余っているだと? 不思議そうな顔をする俺、するとメェが前にやって来てニヤニヤ笑って来る……あっ、こいつ何かやりやがったな?

「おい、メェ……」
「やったですよ! このお薬をぷっすんしたです!」

俺が何かしたのか? と聞く前にメェが正直に言った、ここまで正直だと清々しい。
メェは悪戯っ娘の様に笑いながらこれ見よがしにピンク色の薬品が入った注射器を俺に見せ付けて来る、そうか……あの時腕に感じた傷みはそれか……ちくしょうっやりやがったな!

「まだ何も言って無いんだが……それを注射したんだな?」

眉をピクピクさせながら言う俺に対してメェは満面の笑み……これは早めに逃げようか、こいつがマッド化する前に! そう思ってベットから立ち上がり走り出す! だが身体に違和感が起きた……足が短くなってないか? それだけじゃない……腕も短いし手もちっちゃくなってる、と言うか背も縮んで無いか?

「にひひぃ……逃げちゃ駄目ですよぉ」

意図も簡単に俺を掴まえ抱っこするメェ、ぐっ! まさかとは思うが俺の身体は……。

「幼児化してる……のか?」
「いぐだくとりー、その通りです!」

ははは……どうりで身体が子供っぽい訳だ、ご丁寧に髪まで短くなってる……あと体力も今以上に低くなってるんだろうな。

「1度しか言わないから良く聞けよ?元に戻せ今すぐにだ!」
「のーのーのーっですよ!」

目の前でにこにこの笑みを見せてくる……くそっ腹立つ。

「いやぁ、ラッキーです! 何か食べに来たら丁度良い実験……もるも……シルク君が寝てたから新薬を試したんです!」
「お前……隠す気なかったよな?」

実験体、モルモット……何がラッキーだ、俺にとってはアンラッキーだよ! と言うかそろそろ降ろせよ…むっ胸が……って、何で口に出さないんだよ俺は!

「にひひぃ……因みに新薬の名前はショタローリナールDXって言うです!」
「相変わらずふざけたネーミングだな!」

抱かれた俺は抵抗して暴れる、だがメェがガッチリと抱いてるので脱出不可能……毎度毎度似た展開をどいつもこいつもやりやがって……知らないぞ? このままだと俺はストレスで胃に穴が空くからな!

「にひっ誉めても何も出ないですよ?」
「誉めてねぇよ!」

俺は心から叫んだ、願う事ならこの叫びが誰かに届いてくれ、そう願う俺は脳内で抵抗の術を必死に考えるのであった。

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