どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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地上は夜だから暗かった、だけどここは常に夜みたいな物だから暗い。
それが城下街地下と言う空間だ。

「くふふふぅ、着いたのじゃ。では早速……わらわの姿を見られぬ為に大魔法を使うかのぅ」

なにか物騒な事を口走っている。
大魔法……響きが不穏だ、一体なにをする気だ?

「ここにいる全員が突然寝てしまう魔法! っえい!」

ぽろろろん……。
青白い仄かな光を発した後、ハープの様な音が辺りに鳴り響いた。
軽やかな優しい音色、この音色を聴いた者は眠りについてしまう。

そんな魔法を城下街地下全域に響き渡る様に放った。
起きている魔物にとっては迷惑極まりない魔法だ。
しかし、ロアはそんなのお構い無しだ、自分のやりたい事の為なら何でもする……それがロアと言う魔物なのだから。
と、格好よく言ってはみたが……迷惑なのには変わりない。

「よぅし。暫く待てば家の中にいる者、外に出ている者は漏れ無く全員眠りにつくじゃろう……」

ニヤニヤ笑いながら魔法を発動し続ける。
それと同時に聞き耳を立てて見る、微かにだがロアの耳に「ぅ、急に……ねむ、け……が」と言った感じに呟く声が多数聞こえる。
それどころか、ばたっ……ぱたんっ……こてんっ……と、倒れる音までもが聞こえる。

ロアは魔族、こんな小さな音だって聞こうと思えばきちんと聞こえるのだ。

「くふふふ……。さぁ寝ろ、寝るのじゃ。わらわの計画の妨げにならん様にのぅ」

そう、ロアにとって目撃者があると困るのだ。
魔王の娘であるロアは知名度が高い、だから、夜城下街にロア様を見掛けたなんて目撃情報が出ようものなら問答無用で説教される。

特にヴァームには何されるか分かったものじゃない、それが怖いから慎重に行動する。
だったら、こんな危ない事しなければ良いのに……なんて事は思ってはいけない。

「……よし。これで全員寝たかの?」

そう呟き、光を放つのを止める。
魔法の効果が切れるまで長くは掛かるが、急いだ方が良い。
そう判断したロアは、直ぐ様魔物の通りの少ない場所を探す。

ここならそう言う場所は見つけやすい、だからいとも簡単に見つかった。

「よぅし、あとはちょちょいと移動用の魔方陣を描くだけじゃ」

そう言って、指をパチンッと鳴らす。
そしたら、何も無い所から杖が出てきた。
何気に魔王が持ってそうなアイテムが初登場した……。

それを手に取り、鼻歌交じりに魔方陣を描いていく。
丸かいて、その中に六芒星を描いて、後はよく分からない文字を描いていく。

「こればっかりは詠唱だけじゃダメじゃからのぅ。あぁ面倒くさい……じゃが、これもシルクと言う人間を観察する為! 手間は惜しまんのじゃ」

そう言って気合いを入れる。
気合いがあるのは良い事だが、してはいけないと言われてる事をやってるんだから、素直に応援できない。

と言うか、ロアは一体何をしているのか? 今まで一言もその事を口にはしていない。
ただただニヤつきながら魔方陣を描いていくロア。

その行為が終わりに近付いてきた時にポロっと口走る。

「よぅし、これで人間界に行けるのじゃ」

ふんすっ……。
鼻息を鳴らして胸を張る。
まさに、してやったわ! と言う顔である。
……と、ちょっと待ってほしい……今、人間界に行ける、そう言ってなかっただろうか?

「これでシルクに会えるぞ。くふふふふっ」

ほらっ、言ってる。
会うとか言ってる! 間違いなくロアは父親に行くなと言われてる人間界に行こうとしてる! まさか、こんなに堂々と行くとは思わなかった! 行動がアホだ……アホすぎて笑えて来るぐらいアホだ!

「誰が黙って情報を待つだけの日々を送ってやるものか。欲しい情報は自分で手に入れる……それがわらわと言う魔物の生き方じゃ!」

なんか格好良い事言ってるが、ようは誰にも内緒で悪い事をしているだけである。
誰にも誇れないし、威張れない。
と言うか、後の事は考えていないのだろうか?

「そもそもじゃなぁ……」

杖を消して、魔方陣の中に入るロア。
集中して目をつむり、ぼそっと呟いた。

「バレなければ禁止事項を破った事にはならんのじゃよ。くふふふ……それに気付くとは、わらわってば天才じゃな」

……もう何も言わないでおこう。
突っ込むだけ無駄である。
後でこってりと怒られてしまえ。

「では、行くぞ! ニンゲン・カァイ・リョッコォォヌゥ!!」

シュバッ! と両手を上げポーズを取った後、なにやら謎の詠唱を叫ぶと魔方陣もロアの身体が紫に光輝く。
やがてその光が弱まると同時に……魔方陣を残して、ロアは姿を消した、人間界へ行ったのである。

初の人間界への訪問。
そこでロアは何を経験するのか? そして、シルクを見て何を思うのか?
最後に……ロアはこってりと怒られてしまうのか?

全ては時間が経ってから分かる事。
なにはともあれ、ロアの人間界初訪問の時が今、やって来たのであった。

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