どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

478

シルク君が部屋を出ていった後、僕は困り果てた。

うん、ほんと困ったね。
突然アヤネが割り込んで来たから最後まで話できたかったよ。
あぁ……もぅ、上手く行かないなぁ。

「らっ君」
「ん、なにさ?」

ふんすっ、と鼻息を鳴らして気合いが入った顔でこっちにやってくる。

「さ、話して」
「いや、唐突すぎない? あと、近いから離れてね」

こっちはシルク君に話そうと思ってたのに、なんでアヤネに話さないといけないのさ。
って、あ……さっきそう言う話ししてとき言えば良かったね。

「勝手に話を進めないでくれる?」って。
あぁ失敗したね、うん、失敗したよ。
なんて思いながら、アヤネの肩を掴んでぐいっと前に軽く突き放す。

「さ、話して」
「だから唐突過ぎるって。それに、なんで話さないといけないの?」

思った事を口に出したら、アヤネは不満げな顔をする。
そして、じぃっと睨んできた。

「実はね、お客さんを追っ払い終わってこっそり聞き耳たててたの」
「……中々酷いことをさらっと言うんだね」

ま、あいつ等は客と言うより変態だけどね。
て言うか、聞いてたんだ……それ盗み聞きじゃん。

「ロアの昔話してた。それって……海の時に話してくれたあの話だよね」
「あ、覚えてたんだ」

確かに話したね、姉上の過去の事を話したよ。

「ん。私記憶力は良いの」

ふふんって誇ってる所悪いけどさ、もしかして褒めて欲しいの?

「……じゃなくて。ロアの昔話されると困るの」

あ、違ったね。
さらっと訳を言ってくれたよ。
そっか、困るのか……。

「何が困るのさ」

察しはつくけど一応聞いてみよっか。

「その話されると、流石にシルクは気付いちゃう。そうなると……私と付き合うチャンスが無くなる、そんなのダメ」
「つまり、妨害するんだ」
「うん。妨害するの」
「うわ、悪びれもせずにさらっと言ったよ……」

堂々と妨害宣言するなんてね。
とうとうアヤネも本気出して来たか。

「らっ君だって、そうなんでしょ?」
「……なにが?」

突然の追求で、きょとんってなっちゃった。
一体なんの事?

「シルクにロアの昔話をして、ロアに告白させようとしてる。それって……私の恋を妨害してる。そうしたら、私と付き合うチャンスが来るもんね」
「…………」

あぁ、うん。
そうなるのか……いやぁ、あれだね、考えもしたかったね。
ただ僕は、今のシルク君に苛立って行動したんだけど……そうか、アヤネにとったらそうとらえられちゃうのか。

「なんで黙ってるの? なんとか言って」
「……うん。えと、正直その考えは無かったよ」
「……うそ」
「いや、ほんとだって。疑いの目で睨むの止めてくれるかな?」

ほんとなんだって、だから信じてよ。
と続けるけど、信じてくれない……ずいっと近付いてきて、これでもかって位に、じとぉっと見てくる。

「私に告白したのに、考え付かなかったんだ」
「え、ちょっ、いやいや、どういう理屈さ……」

そっそれとこれとは関係無くないかな? と言うか、それ言っちゃうんだね。
改めて言われると恥ずかしいから止めてくれないかな?

「……もうっ。良いから話してよ。ロアの昔話!」

赤面してたら、ばしっ! と胸を叩かれた。
その後、むぅぅっと唸ってほっぺたを膨らましてる。

どうしよ、正直、アヤネに話したく無いんだよね。
さっき「後で伝える」って言ってたけど、ほんとに伝えるかどうか怪しいもん。

「ちゃんとシルクに伝えるよ。多分……だから安心して」
「いや、今ちっさい声で聞き捨てならない事聞こえたんだけど?」
「気のせい」

いや、気のせいじゃないから! 完全に言ったよね、多分って! ほら、伝える気ないじゃんっ。

「伝える気がないんなら話さない。後で直接僕がシルク君に話すよ」
「ダメ」
「アヤネに止められる筋合いはないよ」
「むぅ」

そんなふくれたって知らないよ。
そう思って歩きだす、キッと睨んでくるアヤネを通り過ぎシルク君の所へ行こうっと思ったその時だ。

「好きな人の言う事は聞くべき……だよ」

アヤネがそんな事を言い出した。

「へぇ……。僕とは違う人の事好きなのにそんな事言うんだ」
「うん。言うよ……だって、話して欲しくないもん」
「…………」

話して欲しくない、ねぇ。
そんな事言われてもね、こっちだって色々考えが……って、わ!

「言わないならこっちにも考えがある」
「ちょっ! 腕に抱き付かないでくれる?」

腕にしがみついてくるアヤネ、それをペチペチ叩いて離れさそうとするけど、ダメだ! ぜんっぜん離してくれない!

「……ねぇ、話して? お願い」
「…………っ!?」

離してくれない事に困ってたら、上目使いしてきた! あっアヤネの奴。
とことんやってくれるね……でもさ、幾ら好きな人の上目使いだからって舐めないでくれるかな?

僕はそんなのに惑わされる魔物じゃないよ。
はっきりと言ってあげるよ、無駄だってね。

「ふっふん……そんな目されたって言わないよ。だっだからさ、そんな眼するの止めなよ」
「……とかいって紅くなってる。らっ君はむっつり」
「うるさいよ!」

むっつりじゃないから! って、なにさその顔は! 素直じゃないなぁって顔するんじゃないよ! 違うからっ、ほんとにときめいて無いからね? ほっほんとだからね?

でっでも。
かっ可愛い……とは思ったけど、ってちがぁぁうっ!

「らっ君。さっさと話して、前置きはもう良い」
「前置きとかしたつもりないから! ぜっったいに言わないから!」

顔が真っ赤になった僕はそう言い放って裏口から出ていった。
くっくっそぅ、完全に調子を狂わされた……こっこんな筈じゃ無かったのに。

ぐっ……好きな人の前にいると可笑しくなる、何処かで聞いた事があるけど、ほんとだね。
って、それよりも……アヤネって結構、人を弄んで喜ぶ感じがあるね……もっもしかしてS気があるのかな……。

って、なに考えてんだ僕は!
変な考えを振り払うかの様に全力で走る僕。
取り敢えず、魔王城へ帰ろう。
はぁぁ、きっと帰ったらヴァームか姉上に何処に行ったか聞かれるよね……。

なんて答えよっかな、ほんと困ったよ。

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