どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「なぁ、いい加減離れてくれないか?」
「やだ」
「……」

やだか、なるほど……いつもの返しだな。
こいつ、俺の事好きって言った割りには嫌われる事をし続けるんだな。
本人はそうは思ってないからやってるんだろう。

そんな事がありながら、食堂への扉前に辿り着いた。
はぁ……アヤネがひっついたまま歩いたから、いつも以上に時間が掛かってしまった。

ちょっぴり「疲れたなぁ」と思いながら、その扉を開けた。

そしたら……既にそこに先客がいた。

「やぁ。おはよ」
「あぁ、おはよ……ラキュ」

椅子に座って、笑顔でパタパタと手を振るラキュ。
後ろにいるアヤネに気づいたのか挨拶する。

「アヤネ、おはよ」
「うん、おはよ」

そんなごく普通の挨拶を終えて、席に座る。
取り合えず……ラキュの向かいの席に座る、そしたらアヤネは隣の席に座り、ピタッと密着してきた。

……あたってる、やらかいのが当たってる。

「アヤネ……当たってる」

だからチラッとアヤネを見た後、伝えた。
そしたらだ、アヤネの奴はくすりた笑って。

「なにが? ちゃんと言ってくんなきゃ分かんない」

と、言ってきた。
こいつ、分かってて言ってきてるな?
妖しい微笑み、舌をペロっと出して見つめてる。

だから咄嗟にラキュの方を見た。
頼むラキュ、何とかしてくれ! そんな感じに目で助けを求めた。

しかし……。

「くふっ……」

鼻で笑いやがった。
なんだその嘲笑した感じの笑いは!

「アヤネ」

お。
なんだ? 助けてくれないのかと思ったが、助けてくれる感じか?

「なに?」
「シルク、嫌がってるよ。離れたら?」
「知ってる。でもヤダ、今は側にいたい気分なの」
「気分……ねぇ」
「うん」

……あれ? ただ会話した、だけ? それだけ? 助けてくれないのか?

「まぁ……適度にしときなよ? あんまりくっついてると嫌われるよ」
「ん。言われてみればそうかも……じゃ、あと30分だけにしとく」
「うん。それで良いと思うよ」
「いや、良くないぞ」

笑いながらなんて事言うんだ、俺は今すぐに離れてほしいんだぞ。
察してくれよ、お前なら察っせれるだろ。
そう思って、思わず口に出した。

「ケチな事言っちゃダメ」
「いや、ケチとか関係無いから」

全部、自分の都合じゃないか。
俺の意思完全無視じゃないか! マイペースなのもいい加減にしろよ?

「朝から騒がしい奴等だな。まっ、いつも通りで安心するけどよ」

……ん? おぉ鬼騎だ。
苦笑しながら厨房から出てきた、良かった。
良いタイミングで出て来てくれた。

「やぁ、脳筋。おはよ」
「おぅ、シスコン。おはよう」

……って、早速これか。

開幕口喧嘩とか止めてくれよ? なんて思ってたらお互いクスッと笑った。

「……今日は何食べるんだ?」
「いつもので良いよ」

良かった。
和やかな雰囲気だ……一安心って奴だな。

「そうか、しぃ坊とアヤネは何が良いんだ?」
「あ。俺は……トーストと軽い物で頼む」
「私、シルクと同じので良いよ」
「おぅ分かった。んじゃぁ、ちと待ってくれや」

そう言って、鬼騎は厨房に戻って行った。
さて、じゃぁ少し待つか……食べた後は、店を開けよう、そんで今日も頑張ろう。

そうしようと決めた時、ふと気付く。

「ふふ。楽しみ」

アヤネがにこっ、と可愛らしく笑ってる。
ぴとっ、と俺に身体を預けてる。
……ん? あれ? アヤネが俺にくっついたままだ、結果的に解決してない?

くっ……鬼騎が来てもなんにも変わらなかった!
助かったと思ったのになぁ、はぁ……。

「どしたの?」

心配した様子で顔を覗き混んで来る。
いや、どしたのって……お前が原因でため息ついてるんだぞ? それを分かってくれ、頼むよ……。
まぁ、でも……それ言っても伝わらないんだろうなぁ。

「なんでもない……」

だからそう言った。
そしたら、「そか」と言って、また身体を寄せてくる。

……仕方無い、我慢だ。
朝食の間だけ我慢だ……そうする事にしよう。
ったく、少なからずとも意識するんだぞ? それを分かってくれよ。

……あぁ、そうか。
アヤネにとってはそれが目的か。
それにしても……他の方法をとって欲しいなぁ。
そんな事を考えながら……朝食が運ばれてくるのを待った。

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