どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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アヤネとロアが料理をしてる。
こうやって、じぃ……と見つめてるのは暇だ。
いや、色々とやらされるのは嫌だから暇で良い、この状態が続くと良いな。
なんて思いながら方膝をついて見守っていると……なにやら、ヴァーム達が騒がしくなった。

「さぁ、まずロア様……お米をボールに入れ研いでいます」
「まぁ、米は炊く前に洗うっつぅのは当たり前だからな」

……なんか、ヴァームと鬼騎が実況と解説をし始めた。
あ、そう言えばそう言う風な事言ってたな。

で、ロアは……ドヤ顔で米を洗ってる。
そんな誰もが簡単に出来る事をドヤ顔されてもなぁ。

「ロア様、余裕の表情です。これについてラキュ様はどう思いですか?」
「ただ単に、こんな事も出来るんだぞ! って事を顔で伝えてるんだと思うよ?」

そっそうなのか? だとしたら、なんて安いアピールなんだ、なんか見てて健気に見えてくるよ。

「あ。アヤネちゃんが何かし始めたですよ!」

と、その時だ。
メェが急に声を上げて、アヤネを指差した。
そうか、アヤネもロアと同じくまずは米を研いで……って、えぇぇっ!!

「あっあらあら……アヤネ様、米を研がずにフライパンに入れましたね」
「あ、あぁ……そうみてぇだな」

ななっ、なにを……なにをやってるんだアヤネ! 明らかに間違ってるのが分からないのか?
ほら、ロアの顔を見てみろ分かりやすく鼻で笑ってるぞ。
それを見て気付け、間違っていると!

「アヤネさん、余裕のある笑いをしてますわね」
「たっ確かにそうだが、なんでそんなに笑ってられるんだよ」

ラムの言う通り、得意気に笑っている。

「おっと、アヤネ様。フライパンに入れた米を放置して、ここで卵を取り出しました」
「アヤネはよぉ、おにぎりつぅのを知っとるんか?」

いや、知ってると思うぞ。
それっぽい事聞いた事あるし……でもあれは知らない人の作り方だ。

あ、ボールに卵を割ったな。
それを泡たて機で混ぜた、今度はそれに塩コショウを振った。
うっうん…… 絶対におにぎりとは違う物を作ってるな。

「ねぇ、姉上が米を研ぎ終わったみたいだよ」

そんなラキュの声に、皆はロアに注目する。
おぉほんとだ、研ぎ終わってる。

ロアはその米を鍋に入れていく。

「ほぉ。ロア嬢は鍋で米を炊くみたいだな」

うん。
こっちは正しい、見てて安心する。
そういやロアは、料理を勉強してたんだよな……その成果が現れたって事か。

「あら。アヤネ様……今度はベーコンを手に取りましたね」

こっちはこっちで可笑しな事になっている。
卵にベーコンって……なにするつもりだよ。
って、あ……ベーコンを薄く切って……更に細かく切ったな。

まぁここまで見てると、以前と比べれば遥かに成長した。
しかし、お題完全無視の調理をしている。
アヤネはまだまだって事だな……。

「ねぇ。今度はネギに手を出したんだけど?」
「へっ変です。おにぎりにあんなの使わないです!」

ラキュは苦笑し、チラリと鬼騎を見てそう言った。
メェは……目をパチクリさせている。
もう……あれだ、食べれそうなの出来そうだから文句は無い。
アヤネ……がんばれ。

「あっアヤネ嬢、その具材のチョイスは……」

ん? 鬼騎が急に震えだしたな……あの食材がどうかしたのか? 別にどこも可笑しな所はないぞ。
お題を考えれば、あの食材は変だけどな……。

「炒飯だな、ちと作り方は違うがな……」
「ちゃぁ……はん?」

なんだそれ、知らない言葉が出てきた。
俺の生まれた所はパンが主食だからな……米料理には詳しくないんだ。

「ちゃぁはん? なにさ……それ」

怪訝な顔のラキュがそう聞くと……鬼騎は静かに答えてくれた。

「人間界のある場所の料理の一種だ。ご飯を炒めて、主に卵とハム、ネギを加えた食べ物だ」

ほぉ……そんな料理があるのか。
聞けば聞くほど、おにぎりとは程遠いな。

「なっなるほど……アヤネ様はそれを作ろうとしてるのですね」
「まっまぁ……そうだろうな。多分」

ヴァームの問い掛けに難しい顔をする鬼騎。
鬼騎の炒飯の説明を聞くと、偶然……にしては、出来すぎてる位に料理の手順は完璧っぽい。

まさか……アヤネは知っててそれをやったのか? いや……知っててやってても可笑しな話だけどな。
だってこれ、おにぎり作る勝負だもん。

「皆のものっ! アヤネばかりを見るでないっ」

そんな事を考え呆れてると、突然ロアが大きな声を出した。
何事だ? と思って皆はロアに注目する。

「今しがた鍋に米を入れ、水を入れ、火に掛けた! 勿論水の入れ加減は完璧じゃ! 多分じゃがの……」

ほぉ。
もうそこまで準備が出来たのか……て、多分か。
そこだけ自信ないんだな。

「後は無事炊けるのを待つだけじゃ!わらわはその間、具の準備に取り掛かるっ」

具? そうか……そう言えば、おにぎりには中に何かを入れたりするって聞いた事がある。

「普通の具じゃつまらんからな。じゃからわらわなりの知識を元に考え、選んだ具は……これじゃ!!」

意味深な顔をして、しゅばっ! と勢い良く"それ"を手に持ち上にあげる。
その瞬間、皆は度肝を抜いた。
高らかに喋ってるロアの手にあるのは、透明の袋に粒アンと表記された、黒いのがぎっしり入ってる物を持ってたからだ。

「これを米に包んでシルクに食べて貰うのじゃっ。くふふふ……楽しみにするのじゃぞ」

くふふふふ、と嬉しそうに笑うロア。
鬼騎が小声でぼそっと「それは、お萩つぅんだよ」と呟いたのが聞こえた。
その瞬間、俺は直ぐに察した。

2人共、料理の腕は上がったが食べ物の知識が足り無ないと。
だがしかしだ……この際料理勝負がどうこうなんて忘れて暖かく見守るのが良いんじゃないか? ロアとアヤネが真剣な顔で料理をする姿を見てたら、そう思ってしまう。

がんばれ二人とも、俺はしっかり見守ってるぞ。

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