どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

414

「我の思ってる事と言っても、ただの我の昔話だ。そんなに堅くならずに聞いてくれ」
「……分かりました」

何処か遠い眼をしたフドウさん、そんな様子を見てシズハさんは静かに笑う。
俺は背筋を伸ばして、しっかり聞こうとした。

「あれは確か……そうだ、アヤネが8歳の頃だ」
「8歳……ですか」
「うむ。可愛かったぞ、今も可愛いが」

にへらっと笑うフドウさん、厳つい顔の人が笑うと……なんか恐い。
しかし……意外とフドウさんって親バカなのかも知れない。
だって、この表情を見ればそう思うのは当然だ、今凄くニヤけてるからな。

「ふぅちゃん、話しそれてますよぉ」
「むっ、いかん。話しを戻す」
「あっ……はい」

シズハさんが笑顔のままフドウさんを睨む、その瞬間びくっ! として表情をキリッ! と整える。
すごい変わり身だ、こんな厳つい顔の人でも妻が恐いのか。

「アヤネが8歳の頃、急になんの脈拍もなく言ってきたんだ。あれは今でもハッキリと覚えている」
「なにを言ったんですか?」
「シルク君、君の事が好き……そう言ったのだ」
「……え」
「驚いたかね? 我もその時は驚いたよ」

ほっほんとうに驚いた。
そらを聞いて、ドキッとなったよ……そうか、アヤネはその時に俺を好きになったのか。

「しかし、我はな……君を好きになったのはもっと前だと思っている」
「もっと前、ですか?」
「そうだ。今ここで考えてみてくれ、それらしい感じはなかったか?」

いや、そう言われても……そんな幼い時の記憶、思い出せないんだが? だが……駄目元で思い返してみるか。

えと、8歳より前のアヤネか。
昔一緒に遊んだのは覚えてる……だけどそれだけだ、深くは思い出せない。
だがアヤネは俺に告白した、覚えてないだけでそれらしい行動や話しは……していたんだと思う。

「ふむ、その様子だと思い付かんみたいだな」
「すいません……」
「謝らんで良い、話しを続けるぞ」

はいと返事すると、うむとフドウさんは頷いた。

「まぁ、アヤネがシルク君をいつ好きになったかは今は置いておく。話したいのは8歳の時に、その事を伝えられたと言う事だ」
「8歳の時に……ですか」

顔が険しい、その時に何かあったみたいだ。
顔がそれを語ってる、ふとシズハさんの方を見ると「あの時ですかぁ、懐かしいですねぇ」とのほほんとしながら呟いていた。

「我らブレイブ家はな、代々から剣を極め、国に仕える家計なのだ」
「……え!? そっそうなんですか!」

しっ知らなかった。
剣を扱う家計だとは知ってたが、国に仕えるって結構……いや、かなり大きな家庭じゃないか! 初耳だ。

「そうなのだ。で……8歳、アヤネに剣を教えてる最中、それを言われた。我は驚き思わず尻餅をつきかけた」

まっまぁ……そりゃ驚く、娘からそんな事言われればな。

「しかしだ、驚くのは早かったらしい。アヤネはな……その事を上回る事を言ってきたのだ」

喋り終えた後、苦笑し髭を擦る。
そして辛そうな顔をした、なっなんだ? 娘が好きな人がいると報告されて、それを上回るくらい驚く事ってなんだ?

ごくりっと唾を飲み込み、それがなんなのか答えを待つ。

「驚いた我に、アヤネは……シルクが好きだから剣は継がない、私はシルクと結婚したい気分。反対するなら……もう少し成長してから家出する、とな」

…………。
うっうん、えと……え?

「驚きすぎて声も出んか。そりゃそうだろう、8歳の娘が堂々と家出宣言した。しかも代々からの伝統である剣を継がないと言ってきた。我はな……それを聞いて、尻餅をついた」

……そっそりゃつく、つかない方が可笑しい。

「そんな我に、家出する時、お金に困るから家宝を頂戴、家出資金にすると言いおった」
「うふふぅ、幼いのに先の事考えてるでしょ? アヤネちゃんは賢いですねぇ、今でもそう思いますよぉ」

まっ待ってくれ、驚きの言葉を聞かされ過ぎて、頭が混乱してきた。
家出するから家宝の剣をくれ? とんでも無い事を言うな……。

それとシズハさん、笑ってる場合じゃないと思う。

「まぁ……その時は冗談だろうとおもった。アヤネはたまにそう言う冗談を言う時があるからな」

あっあるのか、迷惑な奴だな。

「だが、冗談じゃなかった……アヤネは本気だった。本当に家出をした、家出して君に会いに行ったのだ」

確かに会いに来た。
笑顔で俺に会いに来て、他愛の無い話しをした。
そうか……あの時、俺に会いに来てたのは、俺の事が好きだったからか。

「さて、ここまで話しておいて1つ質問しよう」

っ、鋭い目付きをして睨まれた、とっさに身体が固まってしまう。

「ここまでの我の話しを聞いて……アヤネの気持ちを知り、アヤネの事が好きになったか? 正直に答えて欲しい……どんな答えが来ようとも、我は特に何もしないと約束しよう」
「あっアヤネの、事……ですか」
「そうだ」

フドウさんの話しを……聞いて、アヤネが好きになったか? まっまさか父親本人がそんな事を聞いてくるなんて……どういう事だ?
そう思ったが、考えてみる、いや……俺が考えてるのは、どう言えばフドウさんが怒らないかだ……そんな事を考えろとは言われてない。

だけど、考えてしまう。
……だが、言うしかないだろ。
これは俺の本心だ、言うのは辛いが……言わなきゃいけない。
じゃないと、俺の好きな人まで傷付けてしまう。

すぅ……はぁ……。

深く呼吸し、強く高鳴る心臓を落ち着かせる。
何度も何度も繰り返し……だいぶ落ち着いた。
よし、言うぞ……恐る恐るフドウさんの方を向き、奮わせながら口を開く。

「俺は、今の話しを聞いても……気持ちは変わりません」

怖がりながら言った性か、片言になってしまったが言った。
その時、フドウさんの眉がピクリと動いた。

「そうか……変わらんか。なるほどな、ふむ」

むぅ……、と眉間にシワを寄せた後。

「家出娘と言えど、我の娘……娘には幸せになって欲しくて親が出過ぎた真似をしたが、ダメだったか。娘に悪い事をしてしまったな……」

こんな事を言い出した。
もちろん、また混乱したのは言うまでもない。
フドウさん……貴方が話す殆どの事が俺を驚かせてばかりなの、分かってますか?

一体、俺になにをしてるんだ? 俺は今、重苦しい気持ちが消し飛んで訳の分からなさで可笑しくなりそうだ。

はっはは……と苦笑する俺。
そんな俺に向けてシズハさんが「困ってますねぇ」と笑顔で話してきた。

いや、もう……なにがなんだか分からないぞ……これ。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品