どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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 ……それは唐突に訪れた。
あまりに急に現れたそいつは、初めて会った時の様に強引に俺を連れ回していく。

そうらそれは部屋に引きこもっていた時だ、ぼぉっとしていたらロアがドアを蹴破って現れた。

正直戸惑った、そんな反応をとってる間にロアは俺を肩に担いで風呂場へと連れてかれた。
その後は身体洗われたりした……その間いっぱい話し掛けられた。

でも俺は何も喋らなかった。
いや……喋る気力が無かったんだ。
ただただ落ち込んでいた、何を落ち込んでるんだ? 本当に落ち込むべきなのはアヤネの方なのに……。

そんな暗い気持ちになりながらロアに色々されていく。
普段ならロアに身体を洗われたりしたら、ぎゃいぎゃい叫んでる事も黙って受け入れた。
理由は分からない、ただその時は何も考えられなくてされるがままになった。

そんな俺に愛想を尽かせずにロアは必死に色々してくれた。
そう、本当に色々してくれた。

ロアだけじゃない、ここに入った時、皆に励まされた。
嬉しかった、少しだが元気が出た……しかし、気を使わせてしまった。

そう思った矢先、食事が始まる。
そして、今も美味しい肉料理を食べさせて貰ってる、驚くべき事に、肉料理はロアが作ったらしい。

「どうじゃ、旨いか?」

あぁ、美味しいよ。
だからロアも食べると良いよ……そう言いたかったが言わなかった。
あぁ……こんなのじゃダメだ、ここまでされてるのに黙ったままじゃロアに申し訳ない。

と言うか……ロアよりも、今もニコニコ顔で肉を食べてるシズハさんにも悪い。
俺はアヤネを振った、その事実を知ったらシズハさんはどう思う? 俺になんと言う? きっと恨むだろう、怒るだろう。

普段見せない怒りの表情で俺を睨む、そうに違いない。
それが恐くて落ち込んでるのか? いいや、そうじゃない……ただ、あの時なんと言えばアヤネを傷付けずに済んだのか、それを出てれば傷付けずに済んだのに……後悔だ、しても無意味なのにしてしまう。

気が重い、周りは明るく振る舞ってるのに……俺だけが暗い。
ダメだ、この場に俺がいたら皆に悪い、一言言って出ていこう。

そう思った時、ロアが口元に肉を持ってくる。
さっきから肉ばかり……なんて突っ込みをせずに、俺はロアの手首を掴み、こう言った。

「ごちそうさま」

シンプルに言った、そしたらロアはきょとんとした顔を見せた。
よし、行くか……そう思った俺は立ち上がる。
だが、ロアに肩を押され座らされてしまう。

「待ていっ」

出ていこうと思ったのに……阻止された。
じぃっとロアを見て「離してくれ」と視線で訴える。

だが、離してくれない。
どうして離さないんだ? 俺がいたら空気が重くなるだろう?

「野菜も食え」

と思った矢先、にぃっと笑って今度はトマトをフォークで突き刺して俺の口元に持ってくる。

いや、俺は出ていくつもりなんだが……だからそんなこと言われても困る。

「ほれ、困った顔せんと食うのじゃ」
「っ、むぐっ……」

無理矢理押し込まれてしまった、くっ……相変わらず強引な奴だ。
もごもご口を動かしトマトを食べる、旨い……。

「どうじゃ? 旨いかえ?」
「……美味しい」

素直に答えた。
そしたら「そうじゃろそうじゃろ」と誇らしげに言ってきた。
なんか色々突っ込んでやりたいが、いいや……。
って、ん? なんか肩に手を置いてきた。

「旨いものは腹一杯食べねばならん。気持ちが病んでる時は余計にそうせねばならん」

…………。
普段はマイペースな癖に、そんな優しい事が言えるんだな。
ちょっと心がほっこりした……そして罪悪感が生まれた。

ロアにここまでさせてきちんとお礼を言ってない、それどころか此処から立ち去ろうとした。
ダメだな……俺は。
言うべき事は、ちゃんと言わないとな。

「ロア……ありがとな」

ぎこちないが、感謝の言葉を伝えた。
するとロアは背中を軽く叩いて「気にするでない」と言ってくる。

笑顔、さっき扉を蹴破って現れた時も笑顔だった。
思えば風呂の時も、俺を担いでる時もそうだった……。

落ち込む俺に、ロアは笑顔を絶やさない。
その笑顔に俺は癒された、癒されながら、食事を続けた。        

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