どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

405

いつのまにアヤネの事が、好きになってたんだろう。

いつから? そんな事を考えてたら、頭に軽い衝撃が僕を襲った。
そのお陰で、僕は正気に戻った。

「おっ、気が付いたか」
「……」

そこには、か細く笑った鬼騎がいた。
もしかして今のって、鬼騎が僕の頭を叩いた衝撃?

「……今まで見たことねぇくらいに放心してたな、まだ信じられないか?」
「……」

そんな鬼騎の表情に、僕はなんの反応も取れなかった。
頭の中が真っ白で、何が何だか分からなかった。
今まで僕が抱いてた気持ちを知らされてショックを受けている。
そして、今頭の中で思ってるのは「違う、違う……そんな事は、無い」そんな否定的な気持ちだった。
だって、認める訳にはいかない。

僕は……アヤネの事が、好きなんて……思ってない。
たぶんこの気持ちは……そう、考え過ぎって奴だよ。
そうだよ、そうに違いない、鬼騎も大袈裟に何か言ってるけど……全部勘違いなんだ。

でも、こんな事を考えてなんだけど。
思わず手を当ててしまうほどに胸がモヤモヤする、この感じは……ずっと感じてきた覚えがある。
そのモヤモヤが今この瞬間、強くなってきている。

まるで、僕の否定的な気持ちを否定するかのように……苦しい、何かに縛られたみたいに苦しい……。

なにさ、この気持ちは、そう思いながら顔をしかめると……。

「黙りか。お前らしくねぇな、いつもの軽いノリはどうした? こんな事言われ続けてイライラしねぇのか? 俺に何か言う事はないのか?」

挑発してきた。
悪いけど、今その挑発に乗れる気分じゃない。
……ダメだ、色々思いすぎて苦しすぎて辛くなってきた。
もう帰ろうか……そんな事を考えた時、それを見透かし引き留めるかの様に喋ってきた。

「今、好きなわけないって感じに色々考えてんだろ。どんだけ自分の気持ちに否定的なんだ。そう言う所、お前の姉貴とそっくりだな」

そっくり……か。
勝手に言ってるといいさ、僕はもう何を言われても部屋に戻るから。

「つぅかよぉ。今、気持ちがモヤモヤしたりしたんだろ? それがアヤネを好いてる動かぬ証拠だ。いい加減認めろや」

ピクッーー
思わず身体が反応してしまった。
まただ、また鬼騎の言葉が正しいと思ってしまった。
今の気持ちが……動かぬ、証拠? そんな……そんな事って……。

「……っ。そんな事……無い」
「お。やっと喋ったな」

戸惑いながら絞り出した言葉を、ニッと笑って返してくる。
そして、シュビッと指をさされた。

「そんな事はねぇって言うけどよ、なんでそんなに頑なに否定する? 別に好きなら好きで良いだろう」

くふふ、軽く言ってくれるね。
良いよ、この際だから教えるよ……そしたら君も納得するだろう。
そしたらもう、何も言わなくなるだろう。

「簡単な事だよ。僕は姉上の恋を応援してる。そんな奴が恋敵のアヤネの事を好きになるなんて……可笑しいでしょ?」

さぁ、どうだい? もっともな理由だろう? クーはこれを聞いた時、納得してくれなかったけど……鬼騎ならどうなる? いや、考えるまでも無い。
鬼騎は同じ男、男なら僕の気持ちを……。

パシッ!

…………え?
突如、乾いた音が響いた。
鬼騎が無表情で僕の頬を叩いたからだ。
え? え? なっなんで? なんで今叩かれたの? と言うか、スッゴい痛いんだけど……。

「はぁ? それで好きになっちゃいけねぇと思ったのか?」

あまりの痛さに頬を押さえてると、心底幻滅した様な表情を僕に向けてきた。

「バカじゃねぇのか? もう一度言うぞ。バッカじゃねぇのか?」

バカって言われた、しかも2回も。

「お前、普段嬉々として他人をからかいつくす癖に、そんな風な事を思ったりするんだな」

なんか心外な事を言われてる。
そしたら、イライラが募ってきた。
なんでそこまで言われなきゃいけないんだ!

「ねぇ、何様の……」
「うるせぇ、俺の話しを聞かんかい!」
「っ!!」

凄い気迫を発しながら、僕の話しを途切れさせた。
僕がその事に戸惑ってるのを無視して、続けて鬼騎は話た。

「あのよぉ、面倒だから簡潔にお前が俺に言った事そのままをお前に伝えるぞ。面倒な事、考えてないでさっさと告白してこい、このヘタレ!」

力強い言葉……。
そんな言葉を投げ掛けられた、僕……そんな事、言ってた?

「なぁラキュ」

うつ向いて考え込んでいると優しく話し掛けてきた、だから鬼騎の方を向いて……。

「……なにさ」

返事をした。

「お前、このままアヤネが家に帰っても良いのか?」
「っ!!」

それを聞いた瞬間。
頭の中で僕……いや、魔王城に住む全員に悲しさを隠すように笑いながら手を振るアヤネの姿が思い浮かんだ。

足取りはゆっくりで、だんだん僕達から離れていく。
アヤネは前を向いた、背中を見せた。
その姿は、とっても悲しそうだった。
本当はここに居たい、そんな気持ちが伝わってきた。

今の全部、僕の妄想なんだけど……そう思うんだろうな、と勝手に思ってしまった。
そんな事を思った瞬間、思わず……。

「嫌だ! 僕は……アヤネと一緒に居たい!」

叫んでいた。
腹の底から、真剣な顔で、鬼騎を真っ直ぐ見据えて言いはなった。
それを聞いて鬼騎はニヤリと笑った。

「カッカッカッ……。今ので認めたな。分かったろ? お前はアヤネの事がいつの間にか好きになっちまったんだよ」

っ!
そして、急に恥ずかしくなった。
なっなにを言ってるんだ僕は! 口を手で塞いで赤面する。

でも……今のが切っ掛けか分からないけど。
今までの否定的な考えが何処かに言ってしまった。
そして、妙に清々しい気持ちになった。

あぁ、こうなると実感するね。
鬼騎が言った通り、僕はアヤネの事が……好きみたいだ。

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