どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

318

「クジ引きって……あのクジ引きか?」
「うむ、あのクジ引きじゃ」

箱をシャカシャカ振ってにまにま笑う。
中に何か入ってるのか、コツコツ音が鳴ってる。

「いやぁ、何事もワンパターンじゃつまらぬじゃろ? じゃから今回は、着る服をくじで決めて貰うのじゃ!」

なるほど、さっきは理解できなかったが、その説明を聞いて理解した。
つまり、その箱の中に紙か何かが入ってて、それに書かれてる服を着るって事か。
うん、言われてみれば確かにいつもと違うな。

しかしだ、むんっ! と胸を張って格好つけてる所悪いけどな……。
どのみちコスプレさせるんだから結局は同じだろう! と突っ込んでいいか?

「くじ引き……面白いかも」
「ほっ本気か? 何が出るか分からないんだぞ?」
「それがクジほ醍醐味」

むふんっ、と鼻息を鳴らし楽しげに笑うアヤネ。
俺の心配の声も聞かない。
すっごい乗り気……だな、不安とかないのか? 何かあるとか思わないのか? 俺は不安でなら無い、だから引く気にならない。
なのにアヤネは、ツカツカと箱を持ってるロアに向かって歩いていく。

「引いて良い?」
「むぅ、最初はシルクに引いて欲しかったのじゃが……まぁ良いじゃろう」

表情を曇らせはしたが、ロアは「ほれっ」と言ってくじ引きの箱を差し出す。

「当たり引くよ」
「あるのか? 当たり」

まぁ、あるんなら是非とも引いてほしい。
だって、このくじ引きロアが持ってきたんだろ? 確実に当たりはロクでもない物に決まってる。
その当たりとなると、想像したくないな……。

さて、アヤネがゴソゴソと箱の中を漁る。
むぅぅっと強く念じながら漁る。

「アヤネちゃん、がぁんばってぇ」
「ん、ママ……頑張るよ」
「どうでもよいが、早く引いてくれんかの?」

ゆるふな応援がとんで、アヤネは気合いを入れた。
そしてっ、シュバッ! と勢い良く箱から手を出す。

「ふぅ、やっと引きおったか……で? なんと書いてあるんじゃ? そこに書いてある服に着替えて貰うからの」
「うん、待って……」

カサカサッ……と紙を広げてまじまじと見つめる。
緊張の一瞬だ、さぁ……なんて書いてあるんだ?
あわよくば、恥ずかしい衣装が当たってくれ。

あ、勘違いするなよ? 別にやらしい気持ちなんて無いそ? ただ嫌なのが当たってくれたら嬉しいなぁって思っただけだ。
って、俺はなんで言い訳してるんだろう……。

「えとね……」

皆がアヤネに注目する。
目をパチクリさせながらアヤネは俺達に紙を見せながら言った。

「ストレイキャット……だって」

ん? ストレイ……なんだって?

「ちっ……貴様が当ておったか。まぁ当たりじゃないから良いか」

なんか良く分からないが、外れを引いたのか? ロアが舌打ちしたし……そうなんだよな?

「ほれっ、受け取れ」

ぽんっ……と何もない空間から紙袋を出現させるロア、それをアヤネに手渡した。

「それに着替えて外で待っておれ」
「うん」
「先に言っておくが……ここで着替えるでないぞ?」
「ダメなの?」
「ダメじゃ!」
「そう……」

アヤネは紙袋を持って部屋を出ていく。
しかし、ストレイキャットか、どんなのかラキュに聞いてみようか。

「なぁ、ラキュ」
「シルク君、君が聞きたい事は分かってるよ。ストレイキャットについてでしょ?」
「あぁ、そうだ」

流石はラキュ、分かってくれてたか。
って、んん? 顔色悪くなってないか?

「ストレイキャットはね……猫の魔物だよ。詳しく言うと猫と人間が合わさった様な魔物だね、あと普通の猫と違って尻尾が2本、毛の色は黒しかいない。そんな魔物さ」
「あぁ……なるほど」

猫の魔物か。
その感情を失った表情……苦手な魔物なんだな。
普通の猫も、猫の魔物も苦手……嫌いになったのは深い理由がありそうだ。

「その説明を聞く限りでは……俺とラキュ的には当たりじゃないか? サキュバスとオーガよりかは恥ずかしく無い衣装だと思うぞ」
「ははは……甘いよシルク君、ヴァームが恥ずかしく無い衣装を用意してないと思う?」

…………思わないな。
くそぅ、あのクジ全てが当たり無しって事が分かってしまった。

「ほれ、次は誰が引くんじゃ?」

……おっと、ロアが呼び掛けて来たな。
さて、どうする? 次は俺が引くか?

ラキュに目線を送ってみると苦笑いで返される。
ふむ、こっちもどうするか迷ってるみたいだな。

「ん、どうした? 早く引きにこんか」

はよはよって感じでロアが急かしてくる。
むむぅ……どうする? 先に引いておくか?
いやそうすると、ロアが言う当たりを引いてしまう可能性がある。

しかし……ここで引かないで後から引いても、その当たりが残ってて引いてしまうって事も考えられる。
さて、どうすべき……。

腕を組んで悩む、皆も悩んでるのか「うーん……」って声が聞こえてくる。

そしたらだ、誰も引きに来ないのがイライラしたのか……。

「うがぁぁっ、面倒じゃ! わらわが勝手に手渡しする!」
「え、それクジ作った意味無いんじゃ……」

俺の言葉を遮って、次々と半分に折った紙を「ほれっ」と言って手渡していく。

「さっさと中を確認して、さっさと着替えてくるのじゃ……あ、着替えが入っておる紙袋はここに置いておくぞ」
「いや、話を勝手に進めるな!」
「えぇと、わらわの衣装は……うむ、これじゃな。でわな」

ぱたぱた手を振ってロアは出ていってしまった。
あっ相変わらず話を聞かない奴だ……勝手に話を終わらせて出ていってしまった。

迷惑な置き土産を置いてな……。

「……相変わらずだねぇ、姉上は」

暫く沈黙が続いた後、ポツリとラキュが呟いた。

「どっどうするですか……これ」
「どうすも何も……ありません……その衣装を……着るんです」

困惑するメェに、ヴァームが細々と言ってきた。
衣装を着る……か、やはりそうなるよな。
と言うか、すっごい弱々しい呼吸だな。

そんな呼吸をしつつ、微笑みながら手を広げる。

「さぁ……着替えを、初めて……下さい」

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