どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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ハロウィンチックな街並みになった城下町地下を歩いて、ふと幼い日の事を思い出した。

あの頃は、お菓子を貰えるのが嬉しくてアヤネと近所の子供と一緒に沢山の家を訪問したなぁ。

でも今は……。

「うぉぉぉっ、きたぉぁっ、シルクたんがきたぁぁ!!」

どの家を回っても、こうやって興奮するばかりだ。
トリックオアトリートって言う暇もない、俺を見て声をあげる。
こんなのハロウィンとは認めない。

「すまんのぅ、流石に住民全員の家にお菓子の方は用意できんかった」

申し訳なさそうに謝ってくるロア、そろそろ腕の方を離してくれると嬉しいんだが……ダメだ、引き抜こうとしても、ぎゅっと力を入れられて抜け出せ無い。

「あっちからお菓子の匂いするよ」

クンクン、と匂いを嗅ぐアヤネはある方向を指差す。
こっちも俺の腕をがっしり組んできてる。
歩き辛くてしかたない、それと恥ずかしい……。

だがしかし、こうされる事によって、左右からの視線がブロックされるから有り難い。
道行く魔物達に「うぉっシルクたんが裸になってる!?」と言う風な事を言われ鼻血だして倒れられると言う事も減るのだ。
だからここは文句は言わないでおこう。

「相変わらず人間離れしておるのぉ、まぁアヤネの言う通りお菓子は無いわけではない。きちんと用意してあるのじゃ」

ふっふっふっ、と笑ったあと俺を見てくる。
眼で語っている……褒めろってな。

仕方無い、ブロックしてくれてるから褒めてやろう。

「そうか、用意してくれてありがとな」
「うぇへへへへ……。てっ照れるのぅ」

顔を真っ赤にしたロアは笑顔になる。
……いつもと違う服だと、笑ったロアはこうも違って見えるのか。

いつも以上に、可愛い……そして心が揺らいだ。
ドスッ……。
いっ! なっなんだ? アヤネが肘うちしてきたぞ……。

なんだよって感じで睨んでやると、アヤネは怒ってるのか俺を睨んでいた。

「ずるい」
「え?」

いや、ずるいって言われてもな……何がずるいのか分からないんだが?

「ロアの事褒めたなら、私も褒めて」
「えぇ……」

褒めてって言われてもなぁ、何を褒めろって言うんだよ……。

「褒めて」

ずいっと顔を寄せてくる。
ちょっとムッとしてる……あぁ、これは何かしら褒めないとダメな気がする。

「えと……。似合ってるよ……その服」

だから言った、良く考えて今思ってる事を正直に言った。
……顔を見て言ってないけどな、こんな事言うのは恥ずかしいんだよ。

だから……その、勘弁してくれ。

「っ、……ありがと」

きゅっと抱き付いてきた。
ちらっとアヤネの顔を見て見ると……紅くなってた、機嫌治ったようだな。

って、ん? なんか……直ぐ近くから異様な雰囲気を……っ!?

「シルクぅ……わらわも褒めるのじゃぁ」

うっ恨めしそうにロアが睨んで来てる。
あぁ、これ……ループする感じか?
アヤネを褒める→ロア怒る→ロア褒める→アヤネ怒る→と言う感じのエンドレスってやつだ……。
うわぁ、そうなったらメチャクチャ面倒くさい。

「あぁ、んー……取り合えずお菓子貰いに行くか」
「なっ! スルーじゃと……わらわ放置プレイは好きでは無いのじゃ!」

うるさいロアを放っておいて歩き出す。
あ、貰える場所知らないな……よし、聞いてみるか。

「なぁ、そのお菓子って何処にあるんだ?」
「むっ無視……じゃと。おっおのれシルク……おっ覚えておれよ? わらわを無視した罪は重いぞ!」

げしっ! げしっ! と蹴ってくるけど我慢だ。
ここで怒って相手にしてはいけない、スルーを貫くんだ。
でも後が恐いから適度に話し掛けてやろう……。

「えとね、待って」

ん? アヤネが周りの匂いを嗅ぎ始めた。
まさか匂いで場所を突き止める気か? いやいや、そんな犬みたいな事出来る訳……。

「あっち」

びしっと指差したアヤネは引っ張る。
まぁ、ここは付き合ってやるか……暫くしたら膨れてそっぽ向いてるロアに聞いてみよう。


てくてくてく……。
ゆっくり歩いてると、見覚えのある家の前に着いた。
そう……クータンの家だ。
家の前には看板が立て掛けてあり。

"お菓子は家の中にあります、ご自由にお取りください"と書いてある。
かなり不用心だが、人見知りが激しい彼女にとっては最善策かもな。

「ここだよ」

ぴょんっと軽く跳ねて、にこぉっと笑うアヤネ。
とっても嬉しそうだ、あっ……よだれ垂れてるな。

でも、よだれが垂れるのは仕方無いだろう。
俺も唾をゴクリとのんでいるのだ、理由は簡単……美味しそうな匂いがするからだ。

匂いを嗅いだだけで分かる、クータンの家で貰えるお菓子は美味しいって事がな。

と、ここで気付いた。
さっきそんな匂いなんか感じなかったが、流石にここまでくれば俺でも匂いを感じ取れる。
だがアヤネは遠くから匂いを感じ取ってた……すごい奴だよ、お前は。

「さ、食べよっか」
「あっあぁ」

そんなアヤネの凄さに戸惑いつつ、俺達は家の中に入っていった。

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