どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

329

「ね、見て。ここ良い所でしょ」
「あぁ……良い所だな」

手を繋いで暫くしたら、優しい音が聞こえてくる。
さわさわさわさわさわ……。
優しく流れる水の音が聞こえる、これは側ある水路の音だ。
俺とアヤネはその水路を見ながら歩いている。

「ここ、上の景色が写るんだよ。綺麗だね」
「そうだな、綺麗だな」

アヤネの言う通りだ、その水路には上の景色がうつってる。
そこに描かれるのは、ハロウィンチックな街並みの景色と、地上の光の木漏れ日……少し感動した。

「むぅ……。そこは君の方が綺麗だよって言うとこ」
「……そか」
「うん」

そんなカップル見たいな事……恥ずかしくていえない。
と言うか、アヤネはさっきから楽しそうだな。
それに、ずっと手を握ったままだ……何度も離そうとしたが、「離しちゃダメ」と言ってまた握ってくる。
それの繰り返しだから諦めた。

つまり何時もと同じ感じだな。

「シルクはロマンティクさが足りない」
「そうか?」
「うん、足りない」

ロマンティクか、アヤネよ、俺に何を求めてるんだよ……あれか? 今はそう言う事を言われたい気分なのか?

「今はそう言われたい気分」

あ、そうだったみたいだ。

「だから言っても良いよ」
「恥ずかしいから嫌だ」
「えぇ……」

口を尖らせて嫌な顔しても嫌な物は嫌だ。
なんで、そんな恥ずかしい事言わないとダメなんだよ……。

「別に良いもん、いじけるから」

拗ねた、そしていじけた……。
ぷくぅっと膨れるアヤネ、ぷいっとそっぽを向いた。
でも手は離さない。
なにこの仕草……凄く可愛い。

「アヤネ?」
「……」

そんな仕草にどきっとしながら話し掛けてみる。
むぅ、無視されてしまった。
あ、ふと思い出したが、こう言うの……俺がここに来る前にも何度もあったな。

その時もこんな感じにアヤネが拗ねて俺は困った覚えがある。

そんな思い出が浮かんでくると、くすりっと笑えてくる。

「えい」

そっぽを向いてるアヤネの頬を突っついてみる。
むにんっ、おぉ……柔らかい。
あ、こっち見た。

「……痛い」
「あ、悪い」
「嘘、実は痛くなかった」
「だったら痛いとか言うなよ」
「それはダメ、構ってほしいもん」
「そっそうか……」

なっなんか、このやり取り……ほんわかするな。
なんと言うか、懐かしい感じだ。

「……ねぇ」
「ん?」

ぴたっと立ち止まるアヤネ、そして真っ直ぐと俺を見てきた。
若干顔が赤い……その顔のままニッコリと笑った。

「楽しい?」
「……どうだろうな、正直分からないな。だけど……悪い気分じゃない」
「そう、良かった」
「良かった……のか?」
「うん、悪い気分じゃないならいいの」
「……そうか」
「うん」

にぃっと笑うアヤネは、再び歩き出す。
「行こ」と俺に言って引っ張る。

「いい加減離してくれないか?」
「ダメ」
「……どうしても?」
「うん」
「手汗でぬるぬるになってるの知ってるだろう?」

そう、俺の手は手汗でぬるぬる。
幾ら幼馴染みでも女性と手を繋ぐのは慣れてないし恥ずかしい。
ロアの時だってそうだ、手汗で直ぐぬるぬるになる。

それを気にならない筈はないよな?

「大丈夫、シルクのなら平気」

どやっ、と誇らしげに胸張られてもなぁ……。
気にならないのかぁ……やっぱりアヤネは変な奴だなぁ、まぁそれはロアも同じか。

「あ!」
「ん、どうした?」

またアヤネが立ち止まった。
焦ったような顔立ちで俺を見てきてる。

「お菓子食べてない……」

あ、そう言えばそうだな。
あの時、ヴァームが倒れてなんやかんやあってロアが急に飛び出したから食べそびれたんだよな……。

だからって、そんなに身体全身震わせて焦る事か? 

「ハロウィンと言えばお菓子、お菓子と言えばハロウィン。お菓子は食べないとダメ、ハロウィンにお菓子を食べないとハロウィンじゃない、昔から決まってる」
「いや……決まってないぞ?」

そんな決まり、今初めて聞いた。
呆れる俺を差し置いて、アヤネは、すんすん辺りの匂いを嗅ぎ始めた。

「あっち」

ビシッ! と指差した後、アヤネは身体を低い体制にする。
あ……これは走る体制だ。
そうはさせるか、これ以上走りたくないぞ!

「待て!」
「ひゃんっ」

がしっ! 
アヤネの頭を掴んだ、そしたら「むぅ……」って感じでジト目で睨んできた。

「走るな」
「走らなきゃ無くなっちゃう」

まぁ、その理屈はあってる。
だが、その理屈を通すわけにはいかない。

「無くならない保障なんてないだろ?」
「………」
「お菓子は大量に作られてる。だから焦る事なんて無いんじゃないか?」

苦笑いしながらそんな事を言うと、急にアヤネの目がうるうるし始めた。

「うぅぅ、でも……早く食べたい」

っ、なっ泣きそうな顔をするなよ!
そんな顔したって、俺は走らないからな! えっえと……そっそうだ!

「えと……おっ俺は、ゆっくりとハロウィンを楽しみたいな。ほら……良く言うだろ? ゆっくり街中を歩くのも……楽しいって」

くっ、吐き気が出るほどくっさい台詞をいってしまった! はっ恥ずかしい!
それと誰も過去に言ってない台詞を言ってしまった……それも+恥ずかしい!

「……ゆっくり歩けばシルクは楽しいの?」

目を拭って、かくっと首を傾げて聞いてきた。
俺はそれに対して首を縦に振る。

「あっあぁ、その方が一緒に長く歩けるからな」
「っ!」

目を見開くアヤネ、そしてがばぁっ! と抱きついてきた。
えっえぇえぇぇぇっ!? なっなんで? なんで抱きつくんだ?

「ちょっ、アヤネ!」
「その考えはなかった! シルクは天才っ、賢い!」

俺が文句を言う前に褒められてしまった。
めっちゃ頭なぜられるんだけど……なにこの状況。

「分かった、シルクの言う通りにする」
「そっそうか、ありがとな」

でもまぁ、これで走る事にならなくなった、良かった。

「じゃぁシルク、私と楽しもっか」

どくんっ……。
アヤネのその台詞に心が動いた。
こっこの感覚は……なんだ? 謎の感覚に疑問を覚えながら「あぁ」と答え、ゆっくりハロウィンチックな街並みを歩いていく。

……。
なんだろう、今日のアヤネは様子の方も変わってる気がするな。

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