どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

333

アヤネに引っ張られて数分後、一件目に辿り着いた。
確か一件目は、なんだったかな? んー……あ、思い出した、洋菓子店だ。
確かそうだったと思う。

「「トリックorトリートぉぉ」」
「ふふふ、元気ねぇ……はい、どうぞ」

元気良く、ハロウィンでお馴染みのあの言葉を全員で口にする。
そしたら洋菓子店のおばさんは、にっこり笑って1人にひとつクッキーを渡してくる。

「ありがとう」
「ありがと、美味しそう……」
「「いえぇい」」

口々に感謝する。
普通に頭を下げて感謝する俺、友達3人は普段のおちゃらけた感じは捨てて素直に感謝した。
で、アヤネは感謝した直後、よだれを足らした……ばっちぃなぁ。

「じゃぁ、遅いから気を付けるんだよ?」
「はい」
「はぁい」

そんな感じで、一件目のお宅訪問は終了。
てくてくてく、と数歩歩いた所で友達の1人がさっそくお菓子をぱくり。

「うまっ、これうまっ! まじやべぇ」

それを皮切りに後の二人がぱくり……。

「ほんとだ、うめぇぇ!」
「まじやべぇ、旨いわぁ。ほんと旨いわぁ」

見事に内容が無い食レポ、まぁ子供だから仕方ない。

「おい、帰ってから食べろよ。行儀悪いな」
「いやでもよぉ、落としたら勿体無いだろぉ?」
「「そうだそうだ」」

ごくんっ、とクッキーを飲み込んだ後、これでもかと文句言ってくる。

「……」

じとぉっと無言で睨んでやるが、「睨んでも怖くねぇよ」と半笑いで言ってくる。
イラッとしたが、それを押さえ込む。
こう言う奴って、何言っても聞かないんだよなぁ。

「シルク、食べないんなら私が食べるよ」

早々にクッキーを食べたアヤネが、ゆっくりと俺のクッキーに手を伸ばすが、ひょいっと上にあげる。

「いや、後で食べるから」
「今食べないの?」
「家に帰ってから食べるよ」

えぇ……と呟くアヤネ。
なんか睨まれてる……理由は分からないが何か責められてる気がする。
と言うか、この時の俺……物凄く堅い奴だなぁ、堅い事言わず今食べれば良いのに。

「今食べないと、運んでる内にボロボロになっちゃうよ。クッキーは固くないよ? 直ぐボロボロになるよ、ボロボロになったら食べ辛いよ」

やたらボロボロを連呼する。
言ってる事は正しいんだが、考えを変えない。
それに痺れを切らしたのかぴょんっと跳び跳ね、ひょいっと俺のクッキーを奪い取る。

「あ、こら! ……っ、むぐぐっ!」

口を開けて怒った。
そしたら、強引にクッキーを捩じ込まれた……一瞬息が止まった。

で、無理矢理入れられたから食べるしか無くなった。
だから、口をむぐむぐさせクッキーを噛む。

……美味しい、そう呟いた覚えがある。
あの時食べたクッキーは美味しかった、優しい甘さだったなぁ。

「どう、美味しい?」
「……美味しい」

路上で食べてしまった事を悔いながら言った台詞。
そしたら友達3人は「食べるなって言ったのに食べたぁ」などと言ってくる。
その瞬間、アヤネが睨みをきかせつつ「うるさい」と一言、3人は震えて黙ってしまった。

「じゃ、次行こ。あ……私とシルクは2人で行くから、3人は勝手にしてね。じゃぁ」
「はぁっ、なに言ってる……うぉっ、おまっ! だからっ! ひっぱるっなぁあぁぁぁっ!!」

アヤネの突然の言葉に口をポカァンとあける3人、それを構わず進んでいく。
相も変わらず勝手な事を言う奴め……。
まぁた引っ張りやがった、ここは、足で止めてやろうと思ったが、ずざざざざぁ……て引きずられる。
止められない止まらない。
このまま、ぎゃぁぎゃぁ叫びながら連れられていった。


と、言うわけでここから2人で行く事になる。
で、確かこの少し後、忘れられない事が起きたよな……。

その事を思い出したら、一気に顔が紅くなった。
今のアヤネに「どうしたの?」と聞かれたが「何でもない」と答えておいた。
良かった、誤魔化す事には成功したみたいだ。

安堵した俺は、アヤネに気付かれないように深く悩む。
8歳の時の俺、あの時は相当焦ったよな……と言うか、あれは誰もが焦る出来事だ。
幼い俺、あの時あんな事されてなんて言ったんだろ?

こっここまで思い出したんだ、じっくり考えながら思い返してみるのも……あっありかもしれない。
と言うか純粋に気になる、俺……あの時、何をしてどんな行動をとったのか。

妙な事をしてなければ良いが……と俺は恐れ半分で思い返していった。

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