どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

298

俺はラキュにさっきの事を話し終わった。
すると腕を組ながらラキュは目を瞑る、そして目を開けて俺を見た後続けて話してきた。

「ふーん、なるほど。ラムに、はろうぃんの事を聞かれて知ってる事を全て話した訳だ」

俺は、黙って頷く。

「その結果、はろうぃんは人間が仮装する事もある……と言うのを教えたんだね」
「その通りだ」

そう、教えてしまったんだよ。
あの時俺はどうかしていた、いや……油断していたんだ。
相手はラム、ドMだしハロウィンの事を話すぐらい何の問題も無いだろうと言う油断……。

ラムはロアの従者でもあるのに、俺はまんまと油断してしまったんだ。

「で、ラムは姉上にその知識を教えたんだね」

ふぅ……。
ラキュは深く息を吐いた後、じとぉっと俺を見てくる。
うっ……いっ痛い、視線が痛い、そんな目で俺を見るのは止めてくれ。

「勿論、その知識……ヴァームにも伝わってるよね。仮装って言うあいつにとっても美味しいイベント、聞き逃す訳無いしね」
「……そっそうだな」

俺を睨み付けたまま淡々と話す、その表情に感情は無い。
無表情だ、おっ恐ろしい……それにラムははさっきから1秒足りとも俺から視線を反らしていない、それが更に恐ろしい。

「今頃はその為の衣装をバカみたいに作ってるんじゃないかな?」
「あっあぁ、そうだな……あっあははは、大変だなぁ」

ラキュの言う通りだな、ヴァームなら今そうしてるだろうな、だからこそラキュに伝えに来たんだ。

それにハロウィンと言うのは大きなお祭りみたいな物だ。
今まで以上に熱のこもった衣装を出してくるだろう。

それが恐ろしくて思わず笑ってしまう。
いやぁ参ったなぁ……って感じで 頭もかいた、そしたら。

「それ、言われなくても分かってるから。て言うか何笑ってるの?」
「あっはい、すいません……」

明らか怒りの感情を乗せた視線を向けて来たから、姿勢を正して顔を引き締める。

だっダメだ、笑って許して貰おうと思ったけど……ダメだった。
今はそんな冗談はラキュには通じない、こっここはふざけずに対応していこう。

「はぁ……。シルク君はさ、過去に起きた経験を元に行動するって事、知らないのかな?」
「あ……えと、そっそれは……知ってる」
「知ってるなら、こんな危機的状況になってないよね?」
「あ……そっその、まだ危機的状況って事はないんじゃ……」
「危機的状況だよ、いままでの経験からしてもう逃げられないよ、それが分からないの?」
「……うっ」

冷たい、言葉も冷たいし視線も冷たい。
何もかもが冷たすぎて俺のメンタルは悲鳴をあげている。

「それって、過去の経験を元に行動するって事……出来てないよね?」
「はい、全くその通りです……」
「でしょ? もう詰んでるの分かって貰えた?」

っ!
つっ詰み……だと。
そんなさらっと終わりを告げるような事を言わないでくれ! 俺は、悲痛な視線をラキュに向ける。

それを見たラキュは苦笑いし……止めを刺すかの様にこう言ってきた。

「と言うかシルク君がラムに、はろうぃんは仮装するって事を伝えた時点で詰んでるんだよ。シルク君は僕に今の事を伝えて逃げる策を考えようとしてたんだろうけどさ……手遅れだよね」
「うぐぅっ」

グサァァッ! って感じに俺の心に今の言葉が突き刺さった。
あ……あぁぁ……コスプレ、コスプレされる、今までのがお遊びに思える位ドキツいコスプレをされる! そう考えて俺は頭を抱える。

すると、肩に誰かが触れて来た。
なんだ? と思って目を開けると……ラキュがいた。

「ごめん、少し強く当たりすぎたよ」
「ラキュ……」

優しく笑うラキュ、さっきまで怒っていたのに今は笑っている、そんな表情の変化に戸惑っていると……。

「誰しも油断はするよね」

ラキュは俺の隣に座ってきた、え? なっなんで隣に……って、あれ? 身体が動かない……そっそれに、しゃっ喋る事が……出来ない!?

「僕だってするよ、だからあまり言えないよね……」

っ!!
かっ感じる、ラキュから良からぬオーラを感じる。
なっ何かする気だ、恐ろしい何かを俺にする気だ!

「っ!……っ!!」

だっダメだ! やっぱり喋れない!
やっやばい、すっごい恐いっ……ラキュ、俺に何をするつもりだ?

「だから、その件はもう言わないようにするよ。その代わり……反省はして貰うよ」

はっ反省? それはもう充分してる。
いや、これからもするつもりだ、頭を床に強く打ち付けて土下座するつもりだ。

「と言う訳で、シルク君には生け贄になって貰うよ」

…………なんかすっごい笑顔で、すっごい恐ろしい事をすっごいサラッと言ってきたぞ。

「今から君をヴァームの部屋に転送させる」

っ!!
いっいやだ! そんなのはいやだ! らっラキュ……お前は何を言ってるんだ!

俺は、目を見開いて必死に訴える。
あぁくそっ! 動けない、喋れない! これっ、確実にラキュの魔法の性だよな? お陰で抵抗できない!

ラキュは笑顔のまま俺の額に指を当ててこう告げてくる。

「安心しなよ……こう言う事するのは今回だけだよ。だからきちんと反省してくるんだよ」

っ! やっやめろ! はやまるーー
心の中でそう叫んだんだが、それはブツリと途切れてしまう。

途切れたのは思考だけではなく視界もだ。
ブツリと途切れた視界は黒に染まり、別の視界が目にうつる。

「……あら? 誰か入ってきましたね……って、シルク様? どうしてここに?」

そこは確認するまでもなく直ぐに分かった。
ここはヴァームの部屋、数々の衣装タンス、服を作る為のミシン、それらが部屋に置かれていた。

「……ははは」

俺が今置かれている状況に思わず笑ってしまった。
目の前には、いつものメイド服を着たヴァームが立っている。

俺は、その足元に仰向けで倒れている……にこにこ笑うヴァームは俺をじっくり見た後、手を差し出してくる。

「突然の訪問ですが、歓迎しますよ。今丁度シルク様に用がありましたからね……うふふふふ」 

笑い方はまるで天使だ。
だが、俺はヴァームの姿が悪魔に見えて仕方無い。

……ラキュよ、反省してきてねとは言ったがコレは酷くないか?
そう考えた時、一筋の涙が俺の頬を伝う……そして、地獄の時間が始まる事を告げたのだった。

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