どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

299

辛い……もう一度言おう、辛い。 
何が悲しくてヴァームの部屋で強制コスプレを受けているのか、それは勿論ラキュのせいだ。

いやでも、これは俺が引き起こした事であってこれはその反省……いや、まてよ? ラキュは俺を生け贄にした可能性があるよな? だとしたら物申したい気分だ。

「うふふふふ……」

色々考えながら、さっきから笑ってるヴァームに睨みを効かせてやる。
だが、俺の睨みをみるやいなや「あら、可愛いですねぇ」と言う始末。

何時も通り、コスプレをされると何時もこうなる。
当然だ、されるのが嫌だからな。 

「はい、出来ましたよ」

ヴァームは俺の背中をぽんっと押した後、にこっと笑う。
俺は深くため息を吐いた後、無表情でこう言ってやった。

「そうか、じゃぁ脱ぐぞ」
「ダメです、まだ目に焼き付けてません」

目に焼き付けるな、俺を見るな、さっさと着替えさせろ! て感じの不満を心に抱きながら黙ってコスプレされる。

今回のコスプレはゴスロリ、いつどやに着たことがある服だ。
……くっ、ほんっと着心地だけは良いんだよなぁ。

「どうしたのです? そんな恨めしそうな目をして」
「その理由、分からないか?」
「はい」

はいと来たか、にっこにこの笑顔でさらっと言いやがって……腹立つなぁ。

「今のシルク様、お人形さんみたいですよ」

で、俺の今話した事はもう終わりか……少しは俺が恨めしい目をしてる理由を考えろ。

「……」
「あ、シルク様……まだ脱いではダメです」

そう思った後、しゅるりと服を脱ごうとしたが止められた、ちっ……。

「今舌打ちしませんでした?」
「気のせいじゃないか?」
「そうですか」

そう言ってヴァームは、俺の周りをあらゆる角度から見始める。
やけに鼻息が荒い……心なしかいつもより荒い気がする。

「んー……全体を見て良いとは思うんですが、何かもの足りませんね」

そうか、なにかが足りないのか……そんなの分かりきってる。
ここはバシッと言ってやろう。

「足りないのは常識だ、男が女の服を着てるのは可笑しいだろ?」
「何をいっているのです? シルク様は男の娘でしょう」

すっごい真面目に返された。
しかも「何言ってんだコイツ」的な顔をしてる。

「男の娘じゃない、極普通の男だ」
「いい加減認めませんか? 自分を偽るのは辛いですよ?」
「偽ってない! これが俺のありのままの姿だ!」

と言うか、偽る意味すら無い!
ぶんぶん腕を振って喋ると、ヴァームが慌てて俺の手首を掴んでくる。

「あぁ、そんな激しく動かないでください。ゴスロリの服を着てる時は静かな振る舞いを心掛けて下さい」

何が静かな振る舞いを心掛けろだ、してやるものか。
と言いたい所だが……無視して暴れて、この服に傷でも付けたら俺は酷い目に合う。
だから激しい動きはしないでおこう。

「なぁ……」
「はい、なんでしょう?」
「この服装……ハロウィンパーティで着るのか?」

その代わり口煩く喋ってやろう。

「はい、着ますよ? あ……その質問をすると言う事は、気に入りましたか? ゴスロリ」

嬉しそうなヴァーム、声を弾ませて俺に問ってくる。
うぉっといけない、この流れは完全に勘違いされたぞ。
さっさと否定しよう、じゃないとハロウィン当日にこの服を着る羽目になる。

「違う、勘違いするな」
「それ、ツンデレですか?でしてらもっとツンに意識を当てて下さい。そしてデレるならちゃんとデレて下さい。今のツンデレは0点です」
「お前は何を言ってるんだ」

否定したら、あらぬ誤解をされた。
何がツンデレだ、俺はそんな風になった覚えはない!

「ただ単に気になったんだよ」
「あら、そうですか……。残念です。気に入って貰えなくて」

はぁ……とため息をつくヴァーム、残念そうに目を細めて頬に手を当てる。
良かった、取り合えず誤解は解けたらしい……。

「でも、ある意味それで良かったかも知れません」
「……え?」

それで良かった? それってどう言う意味だ?

「実はですね……ロア様にいわれてシルク様とロア様専用の服を作っていたんです」

……やはりか、ハロウィンの為の服を作っていたんだな。
で、今それを俺が着ていると……。 

「ですが、何時もと同じなんです……聞けばハロウィンは大きなお祭りだと聞きました。そのお祭りに何時も通りの服装を着ても良いのでしょうか? 否、良くありません!」

……熱弁してる所悪いが、俺はいつも通りの服装で良いと思うぞ。
ハロウィンだからって着飾る必要はない、仮装するとは言ったが……やらない人も当然いる。

仮装と言うのは個人の意思でするもの、だから押し付けるのは良くない。

と言いたい所だったが、口を挟まないでおいた。
今挟んだら、きっと真顔で「それが何か?」と言われるからだ。

「だから私は今、悩んでいるんです!」
「そうか……」

至極どうでも良い悩みだが、一応心配はしておく。
形だけだ、形だけしておいてこの場を乗り切ろう。

「はぁ……ここまでコスプレの衣装を作るのに悩んだのは初めてです。ハロウィン恐るべきですね」

俺の場合、恐れてるのは完成される衣装の事だがな……。

憂鬱な気分になりつつ、ため息を吐いてヴァームを見る。
ヴァームもため息を吐いて頭を抱える、本当に悩んでるみたいだ。

「……シルク様」
「ん?」

そしたら、急に話し掛けて来た、何か名案でも思い付いた様な顔だ。

「ハロウィンでは、どんな仮装をしてたのですか?」
「俺は仮装してないぞ」
「あら、勿体ない……と、そうではなくて。皆様はどんな仮装をしていたかを聞いているのです」

げっ……。
聞かれた、薄々感じてはいたが……ついに聞かれてしまったか。
そんなん教える分けないだろ! そんな敵にヒントを与える様な行為誰がするか!

だから絶対に教えたくない……だが教えないと確実に何かをされてしまう、そんなの勿論嫌だ。

そんなどっちに転んでも痛手しかみない究極の2択に悩む俺は腕を組んで「んー、どうだったかなぁ」と思い出す振りをした……。

暫くこうして誤魔化しておこう。

暫くやってれば疑いの目を向けられるだろうが、構わず誤魔化してやる。

そして誰かが来てくれるのを願おう、そんな無駄な願いを抱いた俺はひたすら思い出す振りをする。

と、その時。
その願いが通じたのか、部屋の外でゴトッ! と物音がした。
まさか、本当に誰かが来てくれたのか? そう考え、俺は内心もの凄くほっとした。

助かった、ナイス物音! 心の中でガッツポーズをとる。

物音に気付いたヴァームは「あら、誰でしょうか?」と呟いた後、扉まで歩いていく、俺はそれを黙って見ている。

そしたら扉が、カチャリ……と開かれる。
いったい、誰が来てくれたんだ?

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