どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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ペコリと頭を下げるクータン、本当に深々と頭を下げてる。
ふと遠くを見てみると、テーブルにお茶とかお菓子とか置いてある。
凄く美味しそうだ、ついゴクリと唾をのんでしまう。

恐らくだけど……これ、全部作ったんだろうね。

「頭あげなよ」

とりあえず今はそれは置いといてだ。
先ずは今だ頭を下げてるクータンをどうにかしよう。

「え、あっ……はっはい!」

ぎこちない動きで頭を上げたクータン。
すっごいカクカク震えてる、視線は僕を見たり目を反らしたりと忙しい。

見るからに可哀想な位緊張してる様だけど……ここは容赦はしない。

僕は無言でクータンに1歩近付く。
そして、手を開いて腕を上に振り上げる。
それを見てクータンは「え? え?」と言ってる……突然手を上げたから戸惑ってるね。

まっ……戸惑ってようが関係ない。
僕は振り上げた手を、そのままクータンの頭目掛けてズビシッ! とぶち当てる。

「ひゃんっ!」

可愛い声を上げて頭を押さえる。

「クータン……。ちょっと話したい事あるんだけど、良いかな?」
「ふぇ!? あっ……その、えと……」

何故叩かれた分からないクータンは目をまぁるくする。

「取り合えず、座ろっか……」
「え、あの……えと……」
「座ろっか」
「はっはひっ!」

身体をビクつかせ、クータンは素早くソファーへ座る、僕もソファーに座る。

さて、少し強引過ぎるけどお説教開始だ。

「手紙貰ったんだけどさ、これ……どういう事?」

僕がそう言うと、クータンは目を見開いて話し出す。

「あっ、えと……そっそそっそれは……でっですね。その……おっ恩返しを……その……したくて……はい」
「それは、昨日充分返して貰ったよ……少ししつこすぎないかな?」

相変わらずの話し方、視線は下を向いてる。
そんな事は気にせずに思った事を言った、すると驚いた様に僕を見てきた。

「え……その、すっすいませんっ! あっあたい、そっそう言うの……わっわか、分かんなくて……」

喋り終わった後、うぅぅ……と口ずさむクータン。
また下を向いて手をぎゅっと握る。

………ふむ。
すっごいあたふたしてる、僕がこんな事言うなんて思っても見なかった、そう言う感じの反応だ。

まぁ、恩返しで色々してくれるのは有り難いけど……何度もされるのは嫌だ。
あぁ言うのは1回きりで良いんだ。

「あっあぅ……うぅぅぅ。ごっごめっごめんな……さぃぃ」

あ、うずくまった……って、あれ? なんかすすり声が聞こえない、ひくっ……ひくっ……て。
気になって、前のめりになって確認してみる。

「っ!?」

そしたら、クータンは泣いていた。
え、ちょっ、泣かせた? いっ言い過ぎた? どうしよう、なっ泣かせるつもりは無かったんだけど……とっ取り合えず説教は一旦終了だ。

「くっクータン?」
「……ごっごめ……ごめん……なっなしゃいぃぃ、ひぐぅ……うぅぅぅ」

あぁ、うずくまって良くわかんないけど、これ絶対涙流してるよ……。
うぁぁ、どうしよ、ほんとどうしよ……。

と、困ってると……クータンはすすり泣きながらも話しを続けた。

「あっあたい、あたい……こっこう言う……せっせい、性格……だっだからぁ。うっうぅぅ、うぷっ」
「おっ落ち着きなよ、いっ言い過ぎた! ちょっと言い過ぎただけだからさ……ね? 落ち着いて、ね?」

クータンの側に座わり直して背中を擦る。
泣きすぎてえずいてる……兎に角今はクータンを落ち着かせよう。
それと……クータンの話、聞いた方が良いかもしれない。

「ねっ根暗で……話すのが……にっ苦手……で、つっ付き合い方もわっ分からない……。うぅ……いっいつもから回って、へっ変な事して……めっ迷惑かける……ダメな娘……なん……ですぅぅ」

……。
なるほど、クータンは自分なりに考えて行動してたのか……話が苦手、コミュニケーションの取り方も分からない。

だから自分なりに考えて、僕に色々してくれるんだ。
クータン自身納得できてないから、こうやって何度も恩返しをしてくる。

正直言えば……露骨に恩返ししてるだけとか思ってたよ。
どうやら、それは勘違いだったみたいだね……。

「はっ!? ごっごめん……なしゃい! こっこんな事……はっ話して、めっ迷惑……でした……よね?」

ばっ! と顔を上げて僕をじぃっと見てくる。
……目が真っ赤だ、それに頬も紅い。
普段なら目を反らしたりしてたのに……今この瞬間だけは真っ直ぐ僕を見てた。見てた。

だが、我慢してるのがわかる、身体が震えてる……確実に横を向きたいって思ってる筈だ。

クータン……君は自分なりに自分を変えようとしてるんだね。
僕は勝手にそう思ったよ……凄く頑張ってるね。

「くふふ……」
「ふぇ!? なっなんで……わっ笑うん……ですか? あっあたい、変なこっ事、いっ言いました……か?」
「あ、いやそうじゃないよ……ごめんね。気にしないで」
「はっはひっ!」

つい、笑いが込み上げた。
頑張る、努力する……僕はそう言う人や魔物を見るのが大好きだ。
僕の好きなタイプでもある……だから僕は今、クータンを見て綺麗だって思った。

頑張る人は美しい……。
面と向かって言うのは恥ずかしいから言わないけど、僕は今そう思ったよ。

「クータン、唐突だけど……いっ言って良いかな?」
「え! あっはひっ、どっどうぞ!!」

ただ、変わりに僕は……この言葉を言う事にした。
顔を真っ赤にしてるクータンを真っ直ぐ見て、僕は……。

「僕と友達になってくれないかな?」
「………………ほえ?」

そう言った。
それを聞いたクータンは、ポカーンと間の抜けた声を上げる。
くふふふ、ほんと唐突だよね……。

コチッ……コチッ……と時を紡ぐ時計が鳴り響く。
その中、1つのソファーに向かい合う2人。
この妙な雰囲気はクータンが「ふぇぇぇっ!? なっなななななっなにっ何をいっ言うんでっですかぁぁぁっ」と驚きながら大声で言うまで続いた。

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