どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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それは、ずぅっとずぅっとさかのぼる、人間にすれば凄く長くて、魔物からすれば短く感じるその位の時間を遡った時の話し……。
因みにその時は、まだ人間界には行っていない、この話は魔界での話だよ。

その時の僕は、悩んでなくて普通に暮らしてた。
別に不満と言う不満もない充実した日々だったのを覚えてる。

そんなとある日の朝、城下町地下に行った。
別に理由なんてない、適当に町中を歩いてたらそこに行ってたって感じだね。

「……相変わらずここに来ると不愉快な視線を感じるねぇ」

魔物が賑わう通り、そこを歩いてたら……舐め回す様な視線を感じる。
そんな視線を向けてる大半が男の魔物、僕も男だってのにそんな視線向けないでくれるかな?

あぁもう……ほんっとうっざいなぁ、そんな目で見るなよ。

キッ、と睨んでやるとそいつ等は「ぐぇひひひ」っていう非常に気持ち悪いこの上ない笑い声をあげて僕から視線を反らす。

はぁ……ここに来たらこれだからね、精神的にキツいよ。
でもここ……悪い所じゃないんだよね、だからこうして来てるんだ。
ここは何時も暗いからね、ドラキュラには落ち着くんだ。

それが無ければ来ないよ、どこ歩いても男の魔物から気持ち悪い視線を常時向けられる場所なんてね……。

あぁ、こんな事考えてたら気分が滅入ってきた……よしっ、この事考えるの止めよう。

考えるのを止めた僕は、どんどん歩いていく。
さて、今日はどの辺を歩こうかな?
……あまり歩いてない所を歩くってのも良いかも知れないね。

「んー……うん、そうしようかな」

ぽつりと呟いて、僕はその場所へと向かっていく……。


 暫く歩いてると、人通りが少なくなってきた。
景色も最高だね、地上からの光で照らされてる雰囲気の良いレンガ造りの裏通り……地上でも中々ないんじゃないかな? こう言う景色。

実を言うと僕はそう言う感じの通りは好きだ。
だって嫌な視線を感じないもん、いやぁ……今までこの辺り通ってなかったけど、良い所だなぁ。
今まで通らなかったのが勿体無いくらいだよ。

ツカッ……ツカッ……ツカッ……。
ゆったりとした靴音が鳴り響く、今は誰も通らないから誰かの話し声も聞こえない。
上を見上げれば夜の景色……こんなの見たら、翼を出して飛び回りたいね。

まっ、そんな事したら目立つからしないけどね。

「それに、今はこうやって歩きたい気分だからね……ん?」 

ふぅ、と一息ついた時……僕は何かを見付けた。
なんだろうあれ……あの曲がり角の所、誰かがチラチラ顔を出してる。

ひょこっと顔を出しては隠れ、ひょこっと顔を出しては隠れる。
なんだあれ……ものっすごい気になる。

「…………」

僕は立ち止まって、じぃっと良く見てみる。
顔は良く見えないけど、髪型は分かる。

オレンジの髪色で、毛が横巻きにくるくるしてる髪型、いわゆるソバージュヘアだね、どうやら女の子みたいだ。

みない魔物だけど、何者かな? ずぅっとあぁやってるけど……。
これ、近づいて良いのかな?

と、思いながら1歩進んでみる。

「っひゃぅわぁっ!?」
「っ」

そしたら、その娘が悲鳴……かな? そんな声をあげた。
そして、壁に隠れる。
あっ、でも髪のさきっちょが見えてる……完全に隠れてない。

えっえーと……なんだろうねこれ、変な魔物もいたものだね。
取り合えずここは構わず先に進もう、別に気にする事でもないしね。

という事で再び歩く。
そうすると、さっきの娘が隠れてる所に来た。

……いた、隠れてる娘がいた、その娘は黒いローブを着てる。
背は僕よりも低め、丁度僕の肩くらいの背丈だ。
なんか知らないけど僕に背を向けてうずくまってる。

「あっあぁ……近づいてくる、近づいてくるぅぅ。無理、顔合わせとか無理、あたいダメな娘だから無理。うぅ……こんな事なら家に引き籠れば良かった。あはっ、あはは……そのまま心も身体も腐るまで入れば良いんだ。あたいはダメな娘、あたいはダメな娘……日陰に一生暮らしてそうな魔物No1に輝く魔物……あはははぁ」

そして、自分を貶める事を言い続けてる。
あと、変な事も言ってるね……なに? 日陰に一生暮してそうな魔物って、初耳だよそんな事。

あぁ……これはあれだね、妙な所で、世界一変な娘に会ったなぁ。

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