どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

267

訳の分からぬ事が起きた、もう一度言う。
訳の分からぬ事が起きたのじゃ……。
いやもう、うん……何て言って良いのか分からぬ。
そう言う事が今しがた起きおった。

「……シルク、風呂上がりと言うのに汗をかいておったの」

そう、汗をかいていた点も気になる。
今日はあれじゃな、気になる事が多く起きる日じゃな。

なんて事を思いつつ、わらわは頭を洗う。
長い髪の毛は洗いにくくて仕方無い、何度も何度も手でわしゃわしゃ洗う、ふむ……こんなんじゃと毛が傷みそうじゃが、その点は大丈夫じゃ。
わらわは魔物、人と違ってキューティクルの方も丈夫なのじゃ! じゃから髪は毎日洗わなくとも10年間放置してても何の問題も無いのじゃ!

と、言いたい所じゃが……それはそれで女として大問題じゃからきちんと洗う。
髪の毛は毎日洗っておる、これもシルクに愛して貰うため……髪を綺麗にすれば、シルクはわらわに惚れるに違いないのじゃ、くふふふ。

目を瞑って、色々考えるわらわ。
髪の毛を洗い終わったので、泡を落とす。

シャァァァ……。
「……ふぅ、後は身体を洗ってゆっくり風呂に入るかの」

そう呟きながら下を向いてみる。
………自分の胸が邪魔で良く見えぬが、わらわ……太っておらんかの?
たっ体系的には平均的じゃと思う、そう思うのじゃが……自分の身体を見る度にそう言う事を思ってしまうのじゃ。
皆はそんな事無いかえ?

わらわはそうじゃ、気になってしまうのじゃ!

「まっまぁ、例え太ったにせよ……頑張って痩せれば良い。そう言う事にしておくのじゃ」

そう言う事にしておくのじゃ、頷きながら自分の横腹を掴んでみる。

むにんっ。

「…………」

少しだけ、ほんっの少しだけじゃが掴めてしまった、わらわは真顔になって虚空を見る。

「……ダイエットするかの」

わらわは堅く決意した。
まだ大丈夫じゃと思うのじゃが、火は大きくなると消すのが大変なのと同じように……脂肪も増えると消化するのも大変。

苦しいダイエットでひぃひぃ言うくらいなら、今から気を付けつつ軽めのダイエットをしよう、そうしよう。

キュッ……キュッ……。
ノズルを閉めて、わらわはふぁさっと手で髪の毛を靡かせる。
そして風呂の方にゆっくりと近づいて、とぷんっ……と浸かった。

「はふぅぅ……」

気持ちいいのじゃぁぁ……。
全身の疲れが取れるのぅ、今日は城下町地下へ言ったからのぅ。

あそこは遠いから軽いダイエットになったのじゃ。
ん……じゃったら今からせんでも良く無いかえ?
って、いやいや何を考えておる! 落ち着けわらわ! その甘い考えがデブへの道に繋がるのじゃ!

ぶんぶんっ、顔を振った後、きりっと顔を引き締める。
これ以上太らない、太らないぞ!

「……と、折角のバスタイムと言うに気負いすぎてるのぅ、いかんいかん」

くしくしと髪の毛をかきつつ、お湯を肩にかける。
ふぅ……やはり風呂は良いのぅ。

側にシルクがいれば、もっと良かったのに。
それもこれもアヤネのあの発言のせいじゃ!
あれさえなければ、シルクが何を言おうともお姫様抱っこで強制的にでも一緒に風呂に入れたのにぃぃっ!

うがぁぁっ、腹立つのじゃぁぁぁ!

「……っは!」

わっわらわ、大変な事に気が付いてしまったのじゃ!
わらわは今、風呂におる。
シルクは今、部屋に一人じゃ。

わらわが此処に来る前は部屋にヴァームが居たが、わらわが風呂に行くのにヴァームも一緒に部屋を出た。
つまり、シルクは部屋に1人で居るという事になる。

その状況は……。
無防備! 体力最弱のシルクが萌え萌えのエロエロな状況になってくれと言ってる様な状況になってるのじゃ!

いっいかん! その状況で、アヤネが、わらわの部屋に来たら、おっ襲われてしまうのじゃ!
今日のアヤネは色々と変じゃったからのぅ……部屋に来たら確実にシルクを襲うのじゃ!

わらわは冷や汗をかいて、表情を曇らせる。

「こっこれはいかんっ! のんびり風呂に入ってる場合では無いのじゃぁぁっ!」

ざばぁぁっ!
水飛沫を上げて風呂を出て脱衣場に行く。
ぎりっ……。
強く歯を噛み締め思う、シルクよ……無事でいてくれ!

アヤネよ、もしシルクに何かしようものなら許さぬからな!

全裸で脱衣場を出て、今すぐにでもわらわの部屋に行きたかったが、堪える。
服は着ていこう、なるべく早く身体を拭いて、なるべく早く服を着なければな……。

しゅばばばばっ! って感じに身体を拭いて、すぽっしゅぽんっしゅぱんって感じに服を着る。
なに? 擬音が謎過ぎてどうなってるか伝わらないじゃと?
煩い! 今それ所ではないわ! 分からなければ考えるなっ、感じるのじゃ!

バタァァンッ!!
わらわは扉を開け放つ。

「わっ! ビックリしましたわ……」

そしたらラムがいた。
なんでこんな所におるのじゃ? いや、今そんな事は至極どうでもよい!

走れわらわ! 超スピードでわらわの部屋に行くのじゃぁぁぁっ!!


「……ひぃ……ひぃ……つゅ、つゅかれた……もう、はっ走れぬ」

ぜぃ……ぜぃ……。
軽く汗をかいてしまったが、全力で走ったお陰でわらわの部屋に辿り着いたぞ。

「しっシルク……どっどうか、ぶっ無事で……いてくれ……なのじゃ」

風呂で綺麗になった髪は乱れている。
わらわはそれを手で軽く直しつつ、途切れ途切れで喋りながら、わらわは扉を開ける。

ガチャ……。
開けてみると、部屋は暗かった。
見回してみると……うむ、誰もいないようじゃ。

物音を立てない様にゆっくりと扉を閉める。
……。
そして、そろりそろりと部屋を見渡しながら歩く。

なぜこんな忍び足になってるか分からぬ。
じゃが、無意識にこんな歩き方になってしまっている。

「……んー、シルクは何処に……あ」

きょろきょろ見渡してみると、シルクはいた。

「おっおぉ……」

そして、つい小さな声を上げてしまった。
慌てて口を抑える、危ない危ない……無意識ではあるが、ゆっくり歩いて正解じゃな。

安堵するわらわは、シルクを見つめる。

「全く……パジャマに着替えずにねおって」

そうなのじゃ、シルクは今、可愛い寝息を立てて眠っておる。
くふふふ……いつもなら寝る前はぎゃぁぎゃぁ言うのに、今日はわらわのベットで眠ったのぅ。

相当疲れてたんじゃな……。
でなければ、こんなに無防備に眠る筈もない。

くすっ……。
軽く笑ったわらわは、シルクの方に屈む。

「全く、わらわは心配したんじゃぞ? それなのにこんなに可愛い顔をしおって……」

小さな声で呟いた後、わらわはシルクの唇にキスをした。

ちゅっ……。
今回は長くはしない、短いキスにしておく。
その後、わらわはベットから離れ部屋を出ていく。

「……ヴァーム」

そして、奴を呼んだ。
そしたら何もない筈の空間が、ぐにゃっと歪んでそこからヴァームが現れた。

「お呼びでしょうか? 今回はお早い呼び出しですね」
「うむ、色々と事情があってな……」
「そうですか」

あいかわらず、にっこり顔のまま話すヴァーム。
こやつ、基本笑顔じゃよな? まぁ……それは昔からじゃから今更思うのも変な話か。

「まぁ、そんな事よりも……今日もよろしく頼むのじゃ」
「はい、畏まりました」

ぺこりっ……。
深々と頭を下げるヴァーム……。
それを見た後、わらわは歩く。
すると、ヴァームは頭を上げ着いてきた。

アヤネが色々と行動を仕掛けて来た様じゃが……ぶっちゃけ、わらわには何の問題もない。
焦りはしたが、慌てはせんよ。
さて、わらわはいつもの様に行動するかの……。
 
不適に笑うわらわは長い廊下を歩き、とある場所へと向かう。
その場所は、まだ秘密じゃよ……くふふふふ。

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