どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

266

火照るからだ冷ます為に、俺はゆっくりと廊下を歩いてる。
その横にはヴァームがいる。

「どうかなさいましたか、シルク様」
「………」

ヴァームの問い掛けに答えず俺は歩く、どんどん歩く。
気が付けば早足になっていた。

「あらあら、どうしたのです? そんなに急ぎ足ですと転びますよ?」
「大丈夫だ、その点には気を付けてる」

転ばない様には気を付けてる、だから安心しろ。
……というか俺が早足になってる原因を作ったのはヴァーム、お前だ。

そう、それは俺とヴァームが風呂で話を初めて少し経った時の事だ。
その前までは、仕事はどうでしたか? とか、魔物の皆さんは元気でしたか? と言った、他愛の無い世間話をしていた。

だが突然、ヴァームがにやにやしながらこんな事を言ってきたんだ。

"シルク様、ロア様の事を愛してますか?"

それを聞いた瞬間、ばしゃんっ! と盛大に水飛沫を上げて身を引いたよ。
いきなり何を言い出すんだ、本当に突然過ぎるぞ!
あっ焦った、あの時は本当に焦ってしまった。

で、その焦る様子を見た瞬間、更にヴァームが言ったんだ。

"あら? 図星ですか?"

そう言われたから、俺はこう返してやったよ。
「ちっ違う! おっおれっおれれっ、俺が好きなのは……なっナハトだ!」

もう、目をきょろきょろさせながらビシッと言ったよ。
そしたらな、またヴァームがニヤニヤするんだよ。
なんだよ、ニヤニヤするなよ、俺は真剣に言ったんだよ!
それをニヤニヤしながら見るなんて、失礼だぞ!

……と言う風な事があった。
だから俺は早足になってるのだ、これ以上何かを言われないようにな。

ロアの部屋に言ってしまえば、ヴァームは何も言わないだろう。
だから早く行こう、風呂上がりで汗をかいても良い、さっさと辿り着くぞ。

「シルク様、そんなに急ぐと汗をかきますよ?」
「知ってる」
「でしたら歩きませんか?」
「それは断る!」
「あら、どうしてでしょう?」
「お前が変な事聞くからだよ!」

お前が黙っていれば、俺は早足を止めて普通に歩いてたよ。
ヴァームが悪いんだからな!

「あらあら、私は変な事は申してませんよ?」

どの口が言うんだよ……あぁそうか、その自覚がないんだな。
……いつもの事だな。

「はぁ……」
「ため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ?」
「煩い……」

だったら、俺を悪戯にからかったりするな!

「ふふふ……」
「おい、いつまでそうやって笑ってるんだよ」

いい加減泣くぞ!

「あぁ、すいません……少し思う所がありましてね」
「思う……所だと?」

何を思う所があるんだよ、どうせ、くだらない事なんだろうな。

「聞きたいですか?」
「別に……」

嫌だ、とか言っても話すだろうから曖昧な返事をしてやる。
話したければ勝手に話せばいいさ。

「では話しますね」

にっこりしたヴァームは話をし始めた。
まっ、話し半分で聞いておくか。

「あのですね……。シルク様って人の好意に関する質問はハッキリと答える人でした。なのに今はどうでしょう。妙に焦りを感じてますね……どうしてでしょうか?」

俺は足に力を加えた、そして思い切り床をドンッ! 蹴った!

「あっ、シルク様待ってください!」
「うっうるさい! まっままっ、待てるかアホ!」

くっ、身体が熱い……ヴァームガがあんな事聞くからだ!

ダッダッダッ!
走る、ヴァームに続けて何かを言われない為に、大きな音を立てて走る。
立ち止まったら確実に次から次へと、ドキッとくる質問を投げ掛けてくるに違いない! だから走れ俺!

……って、さっきから走ってたから目的地には辿り着く筈なんだが……ん、あれは!
あれは……ロアの部屋だ! やっとついたぞ!

俺は素早くその扉に走り寄り、蹴破る様に扉を開けた。

バタァァンッ!

「うひゃぁっ! なっなんじゃ、何事じゃっ!」

驚いた顔をしたロアが俺を見て来た。
俺は、ぜぃぜぃ息を切らしてる。
その隣では、ヴァームが「ふふふ、やっと立ち止まりましたね」と優しく問い掛けてくる。

はぁ……はぁ……ぜぃ……ぜぃ……。
くっ、風呂から上がったと言うのに、汗をかいてしまった。
心臓もバクバク言ってる、俺は胸を手で押さえ、口をポカーンと空けて呆けているロアに言う。

「風呂……空いたぞ……」

ひゅぅ……ひゅぅ……。
息を乱しながらではあるが、ロアに伝え終わった、そしたらロアが「うっうむ……」と、疑問に満ちた声で答える。

ひぃ……ふぅ……はぁ……。
あぁ、つっ疲れた、とっ取り合えずあれだ。
俺は今、無償に水を飲みたい気分だ……そして、その水を飲んだら……もう寝よう。

ヴァームに何を聞かれようが寝てしまおう。
腕を組んで、俺をじとぉっと見てくるロアを苦笑いで見た後、俺は空いている椅子に座り一言……。

「ゆっくり……入って……こい……よ」

俺はそれを言ったあと、ゆっくりと目を閉じた。
その後ロアが、「え? なんじゃこれ、何が起きているのじゃ?」と言ったのは言うまでも無い……。

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