どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

263

食事が終わった。
その後は後片付けを手伝い、風呂の時間だ。

「ねぇ、シルク」

皿洗いを終え、タオルで手を拭きながら俺に近寄ってくるアヤネ、それを見たロアは素早く俺の腕にしがみついてきた。

「……今日の私、頑張れてた?」

顔を赤くして、もじもじしながら言ってきた。
視線は下向き、指で髪の毛を弄りながら話してきてる。

その仕草にどきっと来てしまった。
可愛い……と口にしてしまいそうなのを押さえつつ、俺は、こほんっと咳をする。

「頑張れてたぞ」

こんなこと、面と向かって言うの……はっ恥ずかしい。
だからなのか、アヤネから視線を反らしてしまう。

「……ありがと」

にっ、白い歯を見せて笑うアヤネ、照れているのか若干顔が紅い。
そんな仕草を見せられたら余計に俺の心はどきっとしてしまう。
すると、横にいたロアはどんっと肘で俺を小突いた。

「っ、なっなんだよ……」
「別に……なんでもないのじゃ」
 
だったら小突かないでくれ……地味に痛いんだよ。

「じゃぁさ、次はお風呂行こ。からだ洗ったげる」

おっと、照れながら凄い事を言ってきたな、ここは丁重に断ろう。

「っ、そっそれは……」
「そうはさせんのじゃっ!」

遠慮する、と言おうとしたら……隣にいたロアが俺の前に出て来て言い放った。
そしたら、アヤネはむっとした表情を見せる。

「お主は1人で入っておれ! シルクと一緒に風呂に入るのはわらわじゃ!」
「……いや、勝手に何言ってるんだよ」

初めから俺は1人で入るつもりでいるんだ。
それを毎回毎回お前らは俺の意見を聞かない、人間話し合いが大切なんだぞ!

「そう……。だったら私は入らない、だってシルクは迷惑そうだもん。いつもなら強引に入ってくけど……我慢する」
「何をぬけぬけとふざけた事を言っておる……なんじゃと?」

……その時、場の空気が止まった。
アヤネは、何処か遠くを見ながら普段ならとても言わない事を言ったのだ。

あっアヤネが……我慢……だと!?
いやっいやいや……そんなに驚く事じゃない、アヤネだって我慢する時はする。

それより驚く事は……俺が迷惑そうだから、と言った所だ。
これは人として、当たり前の気配りだろう。
だがしかし! これまでのアヤネの行動を考えてみるとだ…………物凄く驚く言葉なのだ。

そのせいなのか、周りがざわついている。

「私は部屋で待ってる。お風呂から出たら教えてね」
「え、あっ……」

俺が何かを言う前にアヤネは出ていってしまった。
それをぽかーんとした顔で見送る。

……おっ可笑しい、今日のアヤネは何だか可笑しい。
何時もと違う!
心からそう思ってると、ガタッ……と椅子を引きずる音が聞こえる。

ラキュだ、ラキュが椅子から立ち上がった音だ。
ツカツカと歩いて扉の方に向かう、そして……。

「僕も部屋で待ってるよ、お風呂は皆が出た後に入るから……じゃぁね」

それだけを言い残してラキュも部屋から出ていってしまった。
……バタンッ。

扉が閉まる音、それと共に残されたメンバー達が焦りだす。

「とてつもなく変な事が起こったな」
「そっそうです……あの、マイペースでアホなアヤネが、ひっ人を気づかいするなんて、おっ可笑しいです!」
「ふふ、メェ……失礼ですよ。アヤネさんだって気配りは出来ます。ですが……今までの行動を見返して考えてみますと……驚きではありますね」
「いっ異変ですわ! これは何かが起きる異変ですわっ! こっ興奮してきましたのぅぅっ!」

口々に色んな事を話している。
普通に驚く者、失礼極まりない事を言う者、冷静に喋ってはいるが驚きを隠せない者、そして通常通り変な事を言う者……色んなリアクションをしていた。

「…………」

俺は何も言わず立ち尽くしていた。
本当に驚いてるからだ、ここに来て、アヤネにあんな事を言われたの初めてだからな。

驚き過ぎて手が震えてしまっている。
ガクガク震える手を見ていたその時……。

「ぐっぐぬぬぬっ、アヤネの奴めぇ……今ここでシルクと風呂に入ったら、なぁんかわらわが無様に負けた気になるのじゃぁぁっ」

悔しそうに地団駄を踏んでいた。
……ロア、いきなり変な事を言わないでくれ、アヤネに負ける? 一体どう言う事だよ。


ビシッ……!
うぉっ、ビックリした。
いきなり指を指してきた……と言うか、顔付きがなんか怖い……。

「シルクよ! こんな事を言うのは、ひじょぉぉぉぉに嫌なんじゃが言わせて貰うっ! 今日は1人で風呂に入れっ! 寂しさのあまり泣かない様に気を付けるんじゃぞぉぉぉっ!」

バタァァンッ!
捨て台詞の様な台詞を言った後、ロアは力強くドアを開け放ち部屋からでて廊下を走り去っていった。

なっなんだな良く分からないが、今日は1人で風呂に入る事になってしまった。
ここに来て初めての事態に、俺は焦りを隠せないでいた。

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