どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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休憩が終り、仕事を再開して時間が経った。
窓からの景色を見てみると空は茜色に染まっていた。

それを見て、俺は「店仕舞いするか」と言って、作業を進めて、暫くしてそれが終わり……今いる場所は魔王城の食堂だ。

「ふんっふふんっふんっふんっふーん……」

トントントン……。
リズムよく包丁を使うのはアヤネ、その横には鬼騎がいる。
どうやらアヤネは早くに魔王城に帰って来て、料理の準備を始めたらしい。

「もう少し力抜いて……そう、そんな感じだ」
「ん、わかった」

こんな感じにアヤネにアドバイスをしている。
そんな2人を俺は見てる、見てるのは俺だけじゃない……ラキュとロアもいる。

「ふむ……あんなにもやる気に満ちて、アヤネは料理にでも目覚めたのかえ?」

頬に手をつきながら、じとぉっとアヤネを見てるロア、それは俺も思った。

「まぁ、やる気があるのは良い事なんじゃないか?」

これを気にアヤネが料理が得意になれば、今後役立つしな……何も悪い事は無い。
むしろ良い事しかないんじゃないか? しかしロアは渋い顔をする。

「うっうむ、そうなんじゃが……なーんか、その行動に秘めた何かがありそうじゃ」
「秘めた何か……か」

それが無くても料理をするって事は良い事だと思うぞ。
……味が良ければだが。
だが今回は初めから鬼騎が側にいる。
その心配は……あまりしなくていいだろう。

「むぅ、胸がざわざわするのぅ」
「いや……幾らなんでも身構え過ぎじゃないか?」
「そうは言ってものぅ……くっ、なんか胸の辺りがざわつくのじゃ」

そうか、ざわつくのか……。
そんなロアの気持ちを軽く受け流して、俺もアヤネの事をじぃっと見てみる。

……真剣な目をしてる、凄く集中してるのが分かる。
生地は元々、鬼騎が作ってた物。
アヤネは上に乗せる具材の調理をしてる。

凄いことにソースまで手作りと来た。
これを見ればアヤネの本気度が見てとれるだろう。
……凄いなアヤネは、その熱意、尊敬するよ。

ジュゥゥ……。
フライパンで玉ねぎを炒め始めた。
その時、俺はふとラキュの方を見た。

……まだあの体制でいるな。

「なぁ、ロア」
「ん、なんじゃ?」
「ラキュ……どうかしたのか? さっきからずっとあんな感じで黙ってるぞ」
「ん? あぁ……そうじゃのぅ、言われてみればそうかもしれぬ。何かあったのかのぅ」

肩肘をついて、ぽけぇ……とアヤネの方を見ている。
その事をロアに聞いてみたが、ロアも分からないらしい。

気になるのなら本人に聞けば良いんだが……なんだか話し掛けずらいオーラを出してるんだよな。
暫く放っておいてくれって感じの?  よく説明出来ないがそんな感じだ。

「あ、もしかしたらあれかも知らぬ」

ぽむっ、手を叩いたロアは俺に顔を向ける。
ほぉ……何か思い出したみたいだな。

「あれって?」
「うむ、実はの……今日、とある場所で偶然ラキュと会ったんじゃよ」
「ほっほぉ……そうなのか」

小さな声でロアは話す。
なので、俺も同じく小さな声で返す。
なんで小さな声で話したのか分からないが……まぁうん、別に良いか、深くは考えないでおこう。

「ある場合って?」
「それは秘密じゃ」

人差し指を口に当てにやっと笑う。
……なぜ秘密なんだ、と言う疑問が生まれたが、これはスルーだ。
こう言う時のロアは、無理に問い質した所で何も喋らないんだ。

「……で、その場所で何かあったのか?」

なので、話しを進める。

「いや、只雑談しただけじゃぞ? まぁ……その雑談でわらわの心は深く抉られたがの」

あ、物凄く暗い顔になったな。
何かあった方はラキュだけじゃなくて、ロアもだったらしい。

「まぁ、その雑談もわらわは色々と用事があった故に、直ぐに立ち去ったから長くはしなかったがの。ラキュに何かあったとしたら、その後じゃないかえ?」

ぱっ、と表情を切り替えて話を続けるロア。
ふむ……ロアの用事が何なのかは気になるが、その後に何があったのかも気になる。

「あ、そう言えば」
「ん?」

また、何かを思い出したかの様な顔をする。
まさか、ラキュがあんな感じでいる理由が分かったのか?

「ラキュの側にはアヤネが居たのじゃ」

あ、違った……って、えぇ!?

「あっアヤネがっ!」

つい大きな声を出してしまった。
そしたら、アヤネと鬼騎が何事だ! って顔付きで俺を見てくる。

「すっすまん、なんでもない」

ペコリと頭を下げて謝ると、2人は不思議そうに首を傾げて調理を再開した。

俺は声のボリュームを下げてロアに聞いてみる。

「なっなんで、ラキュとアヤネが一緒にいるんだ?」
「知らぬ。検討もつかぬのじゃ」

そうか……分からないか。
だったら分からないままでも良いかもしれない、別に今すぐ聞きたい訳じゃないからな。

そう考えた後、俺はアヤネが調理する姿を見ていた。

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