どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「有難うございました。店で騒がないのならまたのご来店を」
「「また来るねぇぇ、シルクたぁぁん」」

レジ打ちも終わって、やっと変態達まものどもは帰っていった。
うぁぁぁっ、疲れたぁぁ。
よしっ、決めた通り休憩しよう。

そう思って、スタッフルームへと向かう。
その時に一応ラムに「休憩するからスタッフルームに言ってるぞ」と言っておく。

そしたら「分かりましたわ」とうつ伏せの状態で言われた。
器用な奴だなぁ……そう思いながらスタッフルームへと入る。

その部屋に置いてある椅子の方に向かったあと、深く腰掛け背伸びする。

「んっんー……つっかれたぁぁ」

ギシッ……。
と、音が出るくらい椅子にもたれ掛かる。
行儀が悪いだろうが、今は誰もいないから見逃してくれると嬉しい。

「……ふぅ。暫く座ってるか」

身体を伸ばすのを止めて、楽な姿勢を取る。
疲れを取る為に静かにしてよう。
そう思って、テーブルにだらしなく、ぺたぁっと顔をつける。

ちょっと冷たい、だけどそれが気持ちいい。
て言うか俺、完全にだらけきってるな……。
だがそれも仕方ない、あの接客は物凄く疲れるんだ。

「……ロア、何してるかな」

なんて思いつつ、ぼそっと呟いてしまう。
朝食を食べたあと、何か用がある……そう言う風な事を言って何処かへ言ったが、何処へ言った?

まぁ、俺が気にしても仕方無いんだが……気になってしまう。

「………まっまさか、心配してるのか?」

そう思うとモヤモヤしてくる。
前までは心配とか、そんな感情は無かった筈だ。

いやまて、完全に無かった訳じゃない……。
少しは心配してる、主に突拍子もない行動をし過ぎてる件にだ。

だが今の俺はどうだ。
頭の中がロアでいっぱいだ、正しく言うのなら。
ロアの事を考えた瞬間、ロアの事でいっぱいになった。

「くっ……落ち着け俺っ、何を意識してるんだ!」

頭を抱えて悶える……あぁくそっ、全然休憩になってない!

こんなんじゃ疲れを取る所か、さっき以上に疲れるぞ!

ダンッ! 思い切り床を踏み鳴らす。
カタンッ、とテーブルが揺れた。

「……一旦外に出よう、外の空気を吸えば多少は落ち着くだろう」

と言うか、そうしないと色々考え過ぎて倒れてしまいそうだ。
なので、椅子から立ち上がる。

すたすたと歩いて、裏口の扉へと向かう。
ふぅ……ここから外へ出るのは、ラキュと一緒に魔物達まものどもと逃げ回った時以来だな。

……あれは酷い事件だった。
早く記憶から抹消しよう。

悪しき記憶が蘇り、それを振り払うかの様に首を振る。
そして、俺はドアノブに手を掛けた。

むにょんっ……。

「っ!?」

その瞬間、俺は後ろへ跳んだ。
いっ今、ドアノブを掴んだんだが……あっ明らかに感触が可笑しかった。
なっなんと言うか……えと、凄くむにむにしてた!

なっなんだ今の?
驚きで、呼吸を乱しながら自分の手を見る。
なんともなっていない……次にドアノブを見る。

……可笑しい、明らかに可笑しい。
ドアノブが……と言うか、扉全体がぶよぶよした物に覆われてる。

見た感じ、ゼリーみたいだ、そしてその色は薄い青。

それを認識した俺は察してしまう。

「なんで扉の前に立ってるんだよ……ラム」
「あら? もうばれましたの?」

ため息まじに言ってやると、ぶよぶよといつもみたいは人の形になる。
そして、不満げに俺を見てくる。

「ばれるよ、その身体を持ってるのは俺の知る限りお前しかいないからな」
「あら、良く観察されてますわね」

ぷにょんっぷにょんっ、と言う感じに近付いて俺の背後に立つラム、振り返ってみるとニヤニヤした顔をしてた。

「お話しません? 実は話したい事がありますの」
「……悪いが、俺は今から外に」
「お願いしますわ、今この場で話したい事ですの」

……。
真剣な目で俺を見てくる、ラムのこんな表情、見るのは初めてかもしれない。

「何を話すか分からないが……変な話しはするなよ?」
「うふふふ、変な話しではありませんわ。とても大事な話しですの」

くすくすと、気品良く笑うラムは椅子の方に指差して「さぁ、お座りになって」と言ってくる。
なので俺は、その椅子まで歩いていって座った。

さて、ラムは何を話すんだろうな。
俺は、正面の席に座ったラムの顔を見ながら思う。

……どうやら、この休憩時間はゆっくり出来そうにないな。

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