どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「さぁ、召し上がれ」
「おっおぅ……」

俺達は目の前に出された料理を見てどうすれば良いか迷ってしまう。

アヤネは胸を張って自信満々に料理を提供したのだが……ダメだ、俺達にはこの料理を手に付ける勇気が無い。

だって、全体的に真っ黒だから……あとなんか、ブスブスって変な音が出てるし、泡立ってる。
球体で、妙にテカテカしてる、こんな不気味な見た目のに何故か良い匂いがする。
それがかえって、この料理? の不穏さを掻き立てる。

その料理? を一言で言うのなら……食べたら死にそうだ。
いや、死ぬまでは行かないだろうが、必ずなんらかの影響は受けるだろう、間違いなくな!

「おっおい、早く食べんと覚めてしまうぞ」
「なら、ロアが先に食べれば良いだろう?」
「うぐっ……」

このまま食べずにいると、アヤネが「食べないの?」と言いたげに首を傾げてきた。

なので小声でのやりとりをする、そんな様子を苦笑いして見ているラキュ。
まるで他人事のようだ、まさか隙を見て逃げるんじゃ無いだろうな?

くっ……鬼騎がアドバイスしてたのに、どうしてこうなった!

「アヤネ」
「うん?」
「料理素人は、下手にアレンジせん方が良いぞ?」
「ん、分かった。でもなんで今それを言うの?」
「アレンジした結果がこれだからだ」
「んう?」

……なるほど、前にいる鬼騎とアヤネの会話で把握した。
アレンジか……アヤネの事だから「きっとこの方が美味しい」とか言って、鬼騎が止めるのも聞かずにやったんだろう。

それでこうなった訳だ。

「そっそんな顔せんでも良いぞ? アレンジはしたが、味はまともな筈だ」

ひきつった顔で語る鬼騎、そしたら、今まで静かにしてたメェがすくっと立ち上がり、目の前に置いてあるスプーンを手に持ち、料理? を掬い、鬼騎の前に持っていく。

「そう言うなら、きぃ君が先に食べるですよ」
「…………えっ!?」

ぶにょんっ。
料理からしてはならない音が鳴り、ふしゅぅ……と紫色の煙が上がる。
その匂いは、とても芳醇な物だった。
見た目が良ければ、食指も沸いただろう。

だがこれはダメだ、謎の黒い球体なんて誰も食べたくない!
鬼騎もそう思っていたんだろうが……まさかの事態になってしまった。

「きぃ君、メェが食べさせてあげるですよ」
「あ、いや……そっその、えぇと……」

目を白黒させる鬼騎。

「メェの言う通りじゃ、味はまともな筈なんじゃろ?」
「そうそう、だったら食べれるよね?」

それに追い討ちをかけるロアとラキュ。
鬼騎は冷や汗をかきながら俺を見てくる、俺を見たって状況は何も変わらないぞ……。

そんな事を思ってた時だ。
ぽんぽんっと肩を叩かれた、「なんだ?」と思ってそっちを見てみると……。

「はい、あーん」

アヤネがスプーンを構えて近くにいた。
勿論、スプーンの上には謎の料理? が乗っている。

「いや、あっアヤネ?」
「私、頑張った。だから食べて欲しい」

瞳をうるうるさせて俺を見てくる。
止めろ、そんな目で見るな! 断りにくいじゃないか!

くっ……どうする? 折角作って貰ってなんだが、俺はその料理? を食べたくない! 

「あれ? 身体震えてる……どうしたの?」
「あ、いや……なんでも……むぐぅっ」 

ない、そう言おうとしたんだが……無理矢理口にスプーンを入れられる。

その瞬間、口一杯に広がる甘味と酸味……これはなんだ? あと香ばしさと塩気さも感じる。
ホクホクした食感もあるし、とろっとした食感もある……。

なっなんだ、なんだこれは! 見た目不味そうなのに物凄く旨い!
思いっきり悲鳴をあげてのたうち回る物だと思っていたが………うん、意外だ。

「どう? 美味しかった?」
「あっあぁ……美味しかった」

以前チョコとチーズを入れて作ったゲテ物を作ってしまった人が作った物とは思えない……。
こっこれが、鬼騎のアドバイスとアヤネのアレンジによる料理の出来か。

「ほんとっ!」
「あぁ、本当だ」
「やたっ!」

アヤネはにこっと笑って抱き付いてくる。
それを見てたロアが、ガタッ! と席を立ったが……ラキュに止められた。

……うん、なんだろう。
料理が美味しかったのは良かったが、一体俺は何を食べさせられたのかが分からない。
少し怖い気もするが……聞いてみよう。

「なぁ、アヤネ……」
「ん?」

俺の問い掛けに首を傾げて応えてくれる。
そしたら、1つに括られた髪がふわりと揺れる。

「この料理はなんだ?」
「これ?」
「そうそれ」

アヤネはきょとんとした顔で俺を見てくる。
まるで「え? 分かんないの?」と言ってるみたいだ。

「シルク、此処に来る前にも食べた事あるものだよ」
「えっ、そうなのか?」

そっそうだとしたら、記憶にある筈だ。
こんな見た目のインパクトが大きすぎる物、一口食べれば忘れられない筈だ。

「忘れたなら教えるね」
「あぁ、頼む」

そう俺が言うと、一呼吸おいてアヤネが応えた。

「それ、オムレツだよ」
「うそつけ」

直ぐに言ってやった。
これがオムレツだと? バカを言え、そんな事ある筈がない!
オムレツは黒くないぞ! 泡立ちもしないし、紫色の煙だって出ないからな!

「嘘じゃない、これはオムレツ。ただ、私のアレンジで海苔とゴマとイカスミと変なお芋と変なキノコをいれたけど……美味しかったでしょ?」
「黒い食材入れすぎだろ! あと自分でも変と思う食材を入れるな!」
「あのねシルク、昔からこう言うことわざがある。美味しければ良かろうなのだぁ」

むんっ、と胸を張ってVサインしてくるアヤネ、その頭に軽くチョップしてやった。
そしたら「きゃんっ」と可愛い悲鳴をあげた。

そんなことわざは無い。
変なことわざを作るな! なんて文句を言ってやりたい所だが……そんな気分にもなれない。
だって、料理が旨かったのは本当の事なのだから……。

メェに食べさせられていた鬼騎も「うっ旨い!」と声を上げていた。
そうなると、以前よりかは成長している。
だが、今度は見た目の面で成長して欲しい所だ。

「わっわらわも食べるぞ! おいアヤネっ、もう離れるのじゃ! 今度はわらわが抱き付くのじゃ!」
「ダメ、シルクは私と抱き付くの」
「……2人共、離れて食べてくれよ」

こんな感じにぐだりながらも俺達は、世界一変なオムレツを食べた。
朝の朝食は、賑わったまま続くのであった。

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