どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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食堂に変な匂いが漂ってきた。
俺はそれを感じて顔をしかめる、ロアはと言うとアヤネを凝視している。

「私は知っている、カレー粉を入れれば、どんな料理も美味しくなると」

違う、それは場合による。
肉と魚と野菜と多種多様の調味料を入れて、最後にカレー粉を入れたら不味くなるに決まってる。

「おい、シルクよ。構うことはない、早く止めるのじゃ」
「いや、さっき止めようとしてダメだっただろう」
「ぐっ……そうじゃったな」

頭を抱える俺にロアがそう話し掛けて来た、だがそれを断った。
そうあの後、もう一度ロアを止めたんだ、あまりにも料理の手際があれだし、使う食材があれだったからな。

座ってて、と言われたから、もう場の雰囲気なんて関係無しに喋ってしまえと思い立って「あっアヤネ、俺も手伝いたい」と言ったんだ。

それで返ってきた答えが「シルク、これは私が乗り越えやきゃいけない試練だから、気持ちだけ受け取っとくね」と優しい顔をしながら返された。

それでも俺は口を閉じなかった。
何故なら、鍋から異臭と同等の臭いが放っているからだ。

まずい、思い立つのが遅すぎた。
あの鍋の中身はもう食べれない、だがその他の食材の命を守らなければいけない! そんな思いからか続けて言ったんだ。

「よっ良くわからないが、俺もずっと座ってるのはなんだし手伝いたいんだ」ってな。
その言葉にロアも「そっそうじゃ、わらわもたまには料理をしたいのじゃ」と言って賛同する。

すると、アヤネは調理器具から手を離して、俺とロアに頭を下げてきた。

「ありがと、でもごめんね。私1人でやりたいの」と物凄く真剣な声音で言われた、その言葉に揺るぎない信念の様なものを感じてしまった。

その結果、俺とロアは黙ってしまった。
つまり、アヤネの料理は続行していると言う事だ。

「くっ……幾らわらわが魔族でも、あれを食べれば確実に胃がやられてしまう」

険しい表情になり、拳を握るロア。
そうだな、その通りかもしれない。
だって今、あの鍋から黒い煙がたっているからな。
それに、食材の怨念が見えそうだ……と言うかもう見えてるんじゃないか?

異臭もキツくなってきた。
くぅっ……目に染みる。
あぁ、ダメだ……あの時の記憶が甦ってきた。
ロアとアヤネが料理勝負をした時……俺はアヤネの料理を……うっ、きっ気分が悪くなってきた。

とっと言うか、なにがどうしてアヤネが料理を作っている? 鬼騎は止めなかったのか?
鬼騎だって、アヤネの料理の凄まじさは分かっているだろうに。

「シルクよ、わらわはアヤネを押し倒してでも止めるぞ」

ロアはそう言って立ち上がる。
すると、直ぐ様反応するアヤネ、口を開いて何かを言おうとした瞬間……。

扉が開いた。
そこから現れたのはラキュだった。
いつもの服を着て、にこにこしながらやってきた。

「やぁ、皆おは……くさぁっ! えっ、なにこの臭い!?」

元気に挨拶をしたのだが、その途中で表情を歪め鼻を押さえる。
そして、辺りを見渡し、臭いの元は厨房からだと察する。

「ちょっ、なんで鬼騎が料理してないのさ」

そう言って、鬼騎の方を見る。
それを目にして、「え、なにこの気まずい雰囲気……」と口にする。

あぁ、やはりそう思うか。
そりゃそうだよな、あんなたどたどしく会話してる様をみればそう思うよな。

そう言えば、鬼騎とメェはこの臭いに気がついてないのか? 平然と顔を紅くして話し合っている、俺はそれが不思議でならない。

「おい、脳筋っ!」

ずんずんと大きな足取りで鬼騎に近づいていくラキュ、しかし鬼騎はそれに気がついていない。

「いやぁ……その、なんと言うか、その……あっれですね、かっかっかっ……」
「にひひ、そっそうですね……にひひひ」

それどころか、会話が意味不明になってきている。
その様子を見て、ラキュは何とも言えない表情をして俺を見てきて「……これ、どうするの?」と口を動かす。

それが分からないから困ってるんだ。
そう思った俺は苦笑して返した。

どうやら、この場が解決するのはもう少し後になりそうだ。

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