どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「くふふぅ、朝から一線を越えてしまったのぅ」
「越えてない、勝手に話に尾ひれを付けるな。あと離れて歩け、歩き辛い」

俺とロアはあの後、着替えて、朝食を食べるために食堂まで歩いている。
因みに、最近寒くなってきたから着てる服は暖かくしてる。
ベージュの暖かい服だ、ズボンの方もふかふか、言わずもがなこれはヴァームが仕立てた服だ。
何時も通りなのは、頭にバンダナを巻いてるだけだ。

何時もの様に腕を絡ませて来てるくるロアも冬服だ。
いつものヘソだしの服から、暖かい黒の服に変わってる、ヘソもだしていない。
流石に寒くなってきたか……そう思いながらロアをみる。

顔が紅い。
起きてからずっと、俺は何もしていないと言ってるのに信じてくれない。
まぁ、これは冗談で言ってる事だろう。

それは分かるが……いい加減離れて欲しい。
お前に腕を組まれると、その……柔らかいのが当たるんだよ。

「ん? シルクよ……顔が紅くないかえ?」
「紅いのはお前もだろう」

ロアが不思議そうに俺を見てくる、顔をしかめる俺は、極力ロアの顔を見ないようにする。

あぁくそっ、それわざとやってるだろ! 俺じゃなきゃ襲われてるぞ! 少しは気を付けろっ。

……え? なんでこれを口に出して言わないのかって? 口に出したら「なんじゃ、襲いたいのかえ? 良いぞ、押し倒すが良い」って言われるからだよ!

「くふふ、そうじゃったのぅ。いやぁ……シルクは何時も可愛くて面白いのぅ」
「可愛いは余計だ」

なんて事を話しつつ、どんどん歩いていく。
あぁ、窓から光が射してる……今日は良く晴れている、見ていて気持ちが良い青空だが、外はもう涼しいんだよな。

はぁ……もう直ぐ秋か、1年って短いな。
あっと言う間に1年の終わりが近くなっている。

と、少し年寄臭い事を考える。
そして、不意に後ろを向いてみる。

……誰もいない。
いや、別に付けられてるのを察知した訳じゃない。
少し思う所があって、後ろを振り向いたんだ。

「ん、どうかしたのかえ?」

そんな俺を不思議がってロアが話し掛けて来た。

「いや、アヤネがいないからな……どうしたのかなって思っただけだ」
「ん? あぁ……そう言えばそうじゃのぅ」

ロアも同じ様に振り向いて、疑問に思う。
いつもなら朝食を食べに行く時はアヤネも一緒に行くのに……今日は一緒じゃない。

朝起きた時からいなかったし、少し心配だ。
もしかして、俺より早く起きて先に朝食を食べに行ったのか? だとしたら珍しい事もあるもんだと言いたい。

「ふむ、トイレにでも言っておるのか?」
「さぁ? どうだろうな……」

気になりつつも、前に進む。

「まぁ、アヤネが居ないのなら好都合、好きなだけいちゃつけるからの」

にっ。
嬉しそうに笑うロアは俺に寄り添ってくる。
俺はそれを手で押し返す。

「……そうか」
「むぅ、素っ気なく返しおって……」

じとぉっと睨んでくるロアを無視して、また後ろを見てみる。
……いないか。
ふむ、なんと言うか……いつも側にいる奴がいないと、変な気分になるんだな。

なんて事を考えてる内に、食堂の扉前まで辿り着いた。

「シルク! その微妙な表情っ、直ぐに微笑みに変えてやるからの!」

ロアは俺から離れて、びしっ! と指差してくる。
なんか凄い宣言をしたな……と言うか俺、微妙な表情してたのか? って、微妙な表情ってどんな顔だよ。

「くふふふふ、朝食で一気にシルクとの距離を今以上に縮めてやるのじゃ!」

そう言って、ロアは扉まで小走りして、扉を開け放つ。

ガチャッ……。

「鬼騎っ、食べに来たのじゃ! わらわは腹ぺ…………へあ?」

その瞬間、ロアは喋ったが……途中で止めてしまう。
俺はと言うと、扉の先にある景色を見て立ち尽くしてしまった。

えと……その、なんだろうこれは、なっなんて言うかその……気まずさを通りすぎて、別の何かを感じている。

そう思う程に何時もと違った景色がそこにあった。

その景色は、無言で料理を作る暖かそうな長袖の服を着たアヤネの姿。
包丁で野菜を切ったり、鍋で何かを煮ている。
あっアヤネが……料理だと? だっ誰がそんな危険な事をさせたんだ! いっいやそれよりも……カウンターの方を目に入ってしまう。

何故なら、どんな理由があるのか知らないが、お互い小声で暖かい服を着た鬼騎とメェが椅子に座って会話している。

「…………かっかっかっ」
「…………にひひ」

まっ全く聞こえない、話の最後に何故笑う? 
その2人の表情は真っ赤……そして、話の間間で軽く頭を下げあっている。
その光景、例えるならば……付き合いたてのカップルの様だ。

それを見てどうして良いか分からず立ち尽くす俺は、取り合えずゆっくりと歩いて、立ち尽くして口を開けっぱなしのロアに「とっ取り合えず座ろう」と言って席へと向かう。

ロアも「そっそうじゃな」と言って付いてくる。
その顔には戸惑いの顔が見てとれた。

俺も戸惑ってる。
だって、あまりにも何時もと違う光景がそこにあるから……この時、俺はある事を願った。

誰か……この状況の説明をしてくれ。

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