どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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今日の夕食は賑やかだ。
なにせ、魔王城のメンバーが揃っているからな。

普段は俺とロア、アヤネにラキュ、あとは鬼騎といった感じだ。
あっ、後からメェが乱入して騒がしくなる……と言うのも忘れちゃダメだな。

だが、今回メェは最初からいる。
そんな何時もと違った夕食を楽しんでいる中、皆の会話が聞こえてくる。

「ふふふ……一体誰なんでしょうね。私の服を盗んだ人は……見付けたら只じゃ置きませんよ」
「まったく、ヴァームの服を盗むだなんて、なんて命知らずなんでしょう。まさな、犯人はドMの変態ですの?」

ヴァームとラムの会話だ。
どうやら、服を盗んだ犯人の話をしているらしいな。
まだ見つかってないんだな。

今更思ったが、結構な人数で探しているのに……その捜査網を掻い潜る犯人は凄い奴かもしれない。

ん? ラムが言った事への突っ込み? あぁ……あれは彼女にとっては普通だから可笑しな所は何もない。
だから突っ込みは無しだ。

さて、この2人の会話はそこそこに……今度は別の会話を聞いてみる。

「で、いつやるのさ?」
「うるさい」
「ねぇ、いつやるの?」
「聞こえなかったか? うるせぇって言ったんだ」

……ラキュと鬼騎は相変わらずか。
そして、ラキュは告白の話を引っ張ってると……。
やめてやれよ、鬼騎、本当に困ってるじゃないか。

まぁ、困ってる割りには凄く良い手際で料理を作っているがな……流石は料理上手だ。
そこは見習わないといけないな。

でだ……そろそろ、俺の両隣の奴等の事に触れるか。

「シルク、あーん」
「むっ、ロアずるい! 私もするっ」

まぁ何時もの事ながら、俺が「自分で食べれる」と言ってるのにも関わらず、食べさせた様としてくるロアとアヤネ。

「アヤネ、邪魔をするな!」
「ロアこそ、邪魔しないで」

2人で睨み合う中、俺は静かに箸を進める。
そのまま両隣で言い合っててくれ、俺は自分でご飯を食べるよ。


……と、こんな感じに騒がしい事がありつつも食事は進む。
皆がいたら賑やかさも倍になる、それが嫌かと言われれば嫌じゃない。

不思議な物だな、ここに来たばかりの俺だったら、こんな気持ちになってなかっただろうに。


……と、それは置いといてだ。
1つだけ気掛かりなことがあるんだ。

俺はその方向を見てみる。

「…………」

それは、カウンターの端の席に座るメェの事だ。
さっきから黙って黙々と食べている。

……可笑しい、普段なら「きぃくぅん」って感じで鬼騎に抱き付いて、鬼騎が挙動不審になると言う一連の流れがあるんだが……今回はまだ見ていない。

一体どうした? 今日は調子が悪いのか?
何時ものあれはやらなくて良いのか?

いや、俺が色々と考えても仕方無いか。
心配だが、今はそっとしてとこう、何か思い詰めてる様にも見えるからな……。

そう考えて、俺は何時もと違った夕食を楽しんでいく……。


「ごちそうさま」
「おぅ、お粗末さん」

あぁ、食べたなぁ……今日の鬼騎の飯も旨かった。
満腹感に浸ってると、皆も口々に「ごちそうさま」と言っていく。

「さて、シルクよ……行くかえ?」
「……風呂なら1人で入るぞ?」
「おぉ、はっきり口に出しておらんのに、わらわの言う事が分かったのかえ? 嬉しいのぅ」

にやにやしながら肘で俺の横腹を小突いてくる。
そりゃ、毎回似たような事を言われればな……予想はつく。

「お風呂なら私も着いてく」
「お前は着いて来んで良いわ!」

あ、また始まったな……。
2人が喧嘩している隙に出ていくとするか。

そう思って席を立つと、各々が席を立ち始めた。

「さて、私は犯人探しをしましょう……皆様はゆっくりして頂いてよろしいですよ?」
「……昼間とは違って随分と優しいね、何かあったの?」
「あら、心外ですわねラキュ様……私は優しいですよ?」

ヴァームとラキュはそんな話をしながら出ていく。
ラキュの言う通り、昼間とは違った言葉を言ったな。
昼間もあんな感じでいれば良かったのに。

「さぁ、あたしも出ていきますわっ、今日も素晴らしい1日になりましたわ」

ぷるんぷるん、身体を震わせながら言うのはラムだ。
……お前にとっての素晴らしい1日と言うのは、きっと常人には理解できない事なんだろうな。

……おっと、失礼な事を思ったな。
そう思ってると、ラムは鼻唄混じりに出ていった。

……さて、俺も出ていくか。
そう思って扉の方を向いて歩こうとした時だ、両肩を誰かに掴まれた。

「どさくさに紛れて何処へ行くのじゃ?」
「逃げるのは良くないと思う」

……皆を見てないで、さっさと出ていけば良かった。
苦笑しながら振り替えると、笑顔のロアとアヤネがいた。

「あぁ……えと、話し合いは済んだのか?」

俺がそう聞くと、2人同時にニヤリと不気味に笑い応えてくる。

「シルクを風呂場に連れていってから話を付けるとするのじゃ」
「そゆことだから、行こっか」
「いや……行けない、うぉっ!?」

後退りしようにも、肩を掴まれてるから出来ない。
今だ不気味に笑う2人は俺を持ち上げる。

「いっくのじゃぁぁ」
「ごーごー」

俺は悲鳴を上げなかった、何故なら慣れてしまったからだ。
慣れて……怖いな。

やはり最後にはこんな感じになるのか……。
そう感じた俺は、騒がしく連れ出されて行く。


……騒がしく終わった食事。
皆が出ていき、残っているのは鬼騎だけかと思ったが、1人だけ部屋を出ていかなかった人がいた。

「……きぃ君」
「なっなな、なんですかい?」

ぽつりと席に座るメェは、今日の夕食で初めて喋った。

「ちょっと、お話しないですか?」

何時もと違う雰囲気を持ったメェ。
潤んだ瞳で鬼騎を見つめるメェ……今宵何か起きるのは、言うまでも無い。

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