どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

208

「ロアお前は……っ!」

少し身を乗り出して言う俺、ロアはそんな俺を見て驚く様子を見せた。
俺が次に言う言葉は、「ナハトなのか?」言ってる意味が分からないのは自分でも分かってる。

だが、他の言葉が見付からなかった。
だからこの言葉を言う、ロアがもし、ナハトだったら……何らかの反応をとる筈だ。

そう思いつつもその言葉を言う俺、だがその途中の事だった。

チリンチリン……。
鈴の音が鳴った、同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おぉ、魔王城の城下町の喫茶店……内装は普通のと変わらない」
「あぁもぅっ、いい加減降ろすですよ! 呑気に店内の感想なんか言ってんじゃねぇです」

その声で、俺の言葉が途中で途切れてしまう。
仕方ない、だってそいつ等は、ぎゃいぎゃい騒がしくここに入って来たからだ。
口を閉じてしまうのは当たり前だ。

と言うかこの声、見なくても分かる。
……アヤネとメェだ、こんな時になんで来るんだよ。
お陰で、大切な事を聞けなかった。

いや、待てよ? ここで言うのを止めなくても良いんじゃないか?
ほら、ロアはアヤネとメェの声を聞いて「くっ……タイミングの悪い奴等じゃ」と言って顔をしかめてはいるが、俺の次の言葉が気になるのか、表現を変えて。

「……で、わらわがなんじゃって?」

と聞いてくる。
向こうも聞きたがってる、ならば言おう。
ここで、止める理由にはならない、あいつ等だって、まさか俺とロアがここにいるとは思わないし、見付けると言うのは……無くは無いが……そっそんな本みたいな事にはならないだろう。

よしっ、ここはパパっと言ってしまおう。
そう考えた俺は、心を落ち着けてあの言葉の続きを言おうとした。

「ロア」
「なんじゃ?」
「お前は……」
「うっうむ」
「ナハ」

んだが、ある事が突然訪れた。

「っ!」
「うぇっ……めぎゃっ! 」

べしゃっ……。
何かを落とした音が聞こえる。
そして、メェの悲鳴が聞こえた。

「ちょっ、降ろすなら、ちゃんと降ろすですよ!」
「メェちゃん静かに」
「えっえぇ……」

あっ相変わらずフリーダムな物言いが聞こえる。
って、何を気にしているんだ、早く次の言葉を言わないと……。

「……シルクの匂いがする」

いけないのに、不吉な言葉が聞こえた。
俺の匂いがする、だと? ははは、いやいや、犬じゃあるまいし、人の匂いを感じる訳が……。

「……あ、やっぱりいた」

無いと思ったのに、アヤネはトコトコと歩いて俺の前に現れた。

「こらっ、ちょっと待つですよ……っ!」

遅れてメェも現れた。
アヤネに何かを言おうとしたが、俺とロアを見て顔付きが変わる。

「ろっロア様!? とシルク」

いるって思わないからそんな反応とるよな、でも……。

「シルク、なんでロアと一緒にいるの?」

腰に手を当てて、むっとした顔を見せてくる。

「え? なんでって……えと」

アヤネの言葉に答えようとすると、俺をソファの方に押し付けて、身を乗り出してアヤネに食って掛かる。

「そんなもん答える必要など無いわ!」

まるで、威嚇する犬みたいだ。
……ロア、胸が俺の胸に当たってる。
喋るなら身を乗り出さないでくれ。

ガタッ……。
その時だ、ロアとアヤネが騒がしい中で、前の席にメェが座ってくる。

かなり不満げな顔をしてる。

「……シルク、ちょっと寄って」

そんな事が気になっていると、アヤネが動きを見せた。
つかつか、と俺の近くに寄ってきて、両手で俺を押してくる。

「え? うおっ……おっ押すな! ごっ強引に座るな!」
「アヤネ! 何をシルクの隣に座ろうとしとるんじゃぁっ!」

アヤネの押す力は強い、俺の隣にはロアがいるのに、押されてしまってる。
俺やロアの声を無視して、押すのを続ける。
充分に座れるスペースがとれると、満足した顔で座わる。

「ふぅ……満足」
「そっそうか……」
「くっ、せっ狭いっのじゃ……」

なんだろう、ここは怒るところなんだろうが……アヤネの満足げな顔を見たら怒る気が無くなった。

相変わらず、マイペースな奴だなぁ。
って……俺、見事に大切な話を言い損ねてるじゃないか!
くっ……アヤネとメェがいたら話せない。

ここは話すのを先伸ばしにした方が良いのかも知れない。
そう考えた俺は、この状況に苦笑いした。

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